障害のプラスの面?

ICFの特徴は「障害」という否定的側面だけに偏った視点ではなく、「生活機能」という中立的で普遍的な視点に立った分類だということです。でも、時々、気になるのが「障害のプラスの面」という変な言い方です・・・。

正しい意味1:「障害がある人の障害以外の生活機能の面」

障害がある人とは言っても、生活機能で低下している側面は全体のほんの一部にしかすぎません。例えば、全盲といっても、機能障害は視覚機能だけ、活動制限・参加制約はもっと広範囲に及ぶ可能性はありますが、実際には普段の生活でそれほどの活動制限・参加制約がない場合も多いものです。

職業場面の例では顕著ですが、できないことを直すよりも、できることに注目した方がリハビリテーションが効果的なことは多いものです。

また、全盲者で、聴覚による空間認知力が高まるなどの、代償的な機能向上もまた注目すべき生活機能のプラスの側面です。

正しい意味2:「障害がある人の個人因子のプラスの面」

職業場面の例を引くと、車椅子の人がコンピューター関係の在宅勤務をする場合など、障害はほとんど問題となりません。障害というマイナス面に対する支援をしても就職にはつながりません。この場合、コンピュータの仕事の技能や、日常生活管理のプラスの能力を伸ばすことが必要です。これは、ICFでは、「個人因子」に分類される要因によって、職業生活という参加の面が影響されるという例です。

また、あるビデオでソニーの人事担当者が話していましたが、「障害がある人は、障害がない人とは違った人生体験をしてきている。それがその人の強み、また、雇用した企業の強みになる。」という観点もまた、明らかに、障害がある人の個人因子のプラスの面のよい例でしょう。

誤った意味:「障害はさておき、プラス思考でいこう」

「障害者だからといって、悪いことばかりではない。」という意味で、支援者の現状肯定の趣旨で使われているのではないか?という疑いを起こさせられることが何度かありました。ICFでは社会側の取り組みによって、まだまだ障害がある人の社会参加の可能性には大きな可能性があるのに、「そんなにマイナス面に注目しないで、今の状態でも十分幸せなんだから。」という内容を、「ICFでもいわれているように・・・」と使われると、それはICFの精神とは正反対だといわざるを得ません。

ICFはむしろ、今まで「障害」とは考えられていないようなことも、厳しく「障害」は「障害」と社会に環境整備の要求を突きつけるものではないでしょうか。例えば、妊娠中、産後の女性の社会参加の問題など、通常は「妊娠はおめでたいことだし、一時的なことなんだから、多少の不便についてはわがまま言わない。」と済まされてしまうことについても、そのマイナス面を明確にし、対策を考えていく、というための強力な武器として使うことこそ、ICFの正しい使い方だと思います。「妊娠で不便があっても仕方ない、むしろプラスの面に注目すべき」というよりは・・・。


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Yuichiro Haruna
yharuna-tky@umin.ac.jp