6月24日 シンポジウム 「対話が拓く医療」III 「患者の声と対話型ADR」
早稲田大学紛争交渉研究所所長の和田仁孝氏が司会を務め、ご遺族の佐々木孝子さんと村上博子さんのお話の後、黒岩祐治氏(フジテレビキャスター)、土屋了介氏(国立がんセンター中央病院長)、中村芳彦氏(法政大学教授、弁護士)、鴨下一郎氏(衆議院議員・医師)、鈴木寛(すずき・かん)氏(参議院議員、早稲田大学客員准教授)を加えてパネルディスカッションとなりました。パネリストのプロフィール を許可をいただいて転載します。
ここでは、印象的だった発言だけを順不同でご紹介しますが、とても濃い内容でしたので、ぜひロハスメディカルブログもご覧ください。その1、その2、その3
佐々木孝子さん
「事実を知りたかった。」
「対話は、顔と顔が合うので心が通じる。対話型ADRに期待している。」
「許しあうことによって平和が訪れる。対立的な裁判では実現しない。」
「対話すれば、家族もまたその病院に行ける。そうすれば医療不信はなくなる。」
村上博子さん
「事実を知りたかった。」
「2度と繰り返さない固い決意を話してくれれば、それで済んだと思う。」
「医療というのは違う評価もある。事実を知りたいという思いは、 裁判してもかなえられないと思った。」
「医療者が対話してほしい。」
「感情的にパンパンになっているから、話し合うには準備が必要。 被害者感情を捨てないと話し合いはできない。」
和田仁孝氏
「被害者と加害者という構図では前向きに話し合いができない。相手のせいだと思ってしまう感情を取り除いていくという、 メディエーターの役割を、村上さんは自分でやってきた。」
土屋了介氏
ご自身の病院での対応の経験を紹介。「患者さんは、感情がパンパンの状態でやってくるから、1時間半から2時間くらいは しっかりお話を聞かなければいけない。患者さんの話の途中で、医者の論理で説明を始めたら、患者さんは納得できない。 まず話を聞くことから始めなければ。」「外来予約は1時間6人までとなっていて、1人10分あるはずなのに、これまではオーバーブックで1時間10〜20人の予約が入っていた。普段の診療そのもので十分対話できるように、完全予約制にした。」
黒岩祐治氏
「院内メディエーターの役割が、この人に会ってわかったというすごい人がいるので紹介する。市立豊中病院 医療安全 管理室長の水摩さん。 取材したケースでは、感情がパンパンになっている患者さんのご主人が、『お前らぶっ殺してやる』『お前ら仕事できないように してやる』と暴れまわっていた。院内メディエーターは、医療者の話も、患者さんの話も全部聞く。暴れまわっていたご主人が、最後には、『本当に水摩さんに感謝している』『水摩さんが自分たちにもわかる言葉でしっかり説明してくれて、納得した』と言っていた。」
土屋了介氏
「医者と患者の間に専門知識のずれがある。メディエーターは専門知識のある翻訳者。そういう人がいないと対話にならない。」
中村芳彦氏
「院内の安全部門が、医療現場と少し距離をおいて、 院内初期対応できるシステム作りが重要。」 「医療者や弁護士等による、患者さんのサポートが重要。ADRの窓口で相談を受けるというサポート体制をつくりたい。」
黒岩祐治氏
フロリダの病院で、事故で男の子が亡くなったとき、早期に家族と話し合いを開始し、徹底的に調査した、良い対応の例とされている事例を紹介。「最後に家族が言ったことは、これからも私たちはこの病院にお世話になってもいいのでしょうか、という言葉だった。」
土屋了介氏
「欧米と今の日本の対応の違いを表わしている。今の日本ではまず罰しようとか、裁判や行政罰を強化すれば良くなるだろうと考える。」
黒岩祐治氏
「ミスを隠したいのは人間の本能。対話したら逮捕されると思っていれば、対話しろと言われても無理。だから、クリントンは刑事罰を問わないと言った。責任を問わないという前提がなければ対話は無理。」 「メディアは患者側に立ちやすい。エモーショナルに、医者の対応が悪いと追及していく。視聴者はとんでもない医者だと納得する。その結果、どうなるか。福島県立大野病院の産科医が逮捕 された結果、どうなったか。産科から医師が消えていった。メディアは医療を叩きつぶすことに加担していいのか。」 「日本では下手をすると殺人罪にされる。あまりにひどい、重すぎる言葉ではないか。」
和田仁孝氏
「日本以外の国では、刑事罰はあまりやらない。免責もひとつの方法だと思うが、遺族としてはどうか。」
佐々木孝子さん
「裁判の後、反省していないと思ったので刑事告発した。罰金刑になって、3か月医業停止の行政処分になった。でも、刑事罰はないほうがよいとは思う。」
村上博子さん
「刑事罰がどういうものか知らないが、それで遺族の気持ちの整理がつくのか?もっと苦しんでほしい。遺族の気持ちのほうが大事。刑事罰そのものにあまり意味はない。」
和田仁孝氏
「苦しんでほしいというのは、共に苦しみ、向き合っていくエネルギーに変えてほしいということですね。それがメディエーターの役割。」
佐々木孝子さん
「記者会見で、申し訳ありませんと謝罪するのは誰に向ってか。まず被害者に向かうべきではないか。」
土屋了介氏
「極論すれば、記者会見はいらないと思っている。まず当事者に謝罪すべきだ。何か起きた直後に、記者会見している暇はないはず。マスコミに迫られて仕方なく記者会見の場を設けているのが実情。」
メンバーが交代し、政治家2人が加わってパネルディスカッションが続きます。
鴨下一郎氏
「対話型ADRを構築すべきというお話だった。その通りと思う。」
「福島県立大野病院の件はショックを受けた。政治も取り組まなければならない。厚労省も取り組んでいる。動きを報告していきたい。」
「医療紛争の件については 行政監視委員会で質問 するなど、これまでも取り組んできた。」
「福島県立大野病院の件にも関わらせていただき、党派を超えて鴨下先生にも来ていただき、川崎厚生労働大臣へ署名を届けた。」
「今の医療は制度疲労を起こしており、個人の責任を糾弾しても良くならない。」
「この半年、霞ヶ関の議論は、我々の意図した所と違う方向へ行きつつある。」
和田仁孝氏
「第三者機関を作って、死因を究明する制度ができるようだが、遺族としてはどうか。」
佐々木孝子さん
「第三者ができると、行政任せになってしまう。原因がわかっても、医療者の顔が見えない。それで納得できるのか?」
村上博子さん
「死亡原因を幅広くとって、その背景にある医療行政まで変えてほしい。話を聞くことに診療報酬点数をつけることなど含めて反映されなければならない。」
「患者の申し立てで調査してほしい。対話の場を作ってほしい。」
鴨下一郎氏
「まだ議論は始まったばかり。この意見を反映しなければならない。(厚労省に)うまく伝えたいと思う。」
鈴木寛氏
「村上さんの死亡原因を広くとるべき、というのはその通りだ。医者が10倍時間をとって患者さんと話しても、診療報酬は変わらない。家族への説明は、診療報酬の対象にならない。これでは、善意で頑張る医師ほど燃え尽きてしまう。」
「外科学会の調査で、7割の医師が徹夜明けに手術を経験している。このような状態で、命にかかわる重大な判断をしろという制度が酷だ。」
メンバーが交代し、政治家2人が加わってパネルディスカッションが続きます。
鈴木寛(すずき・かん)氏の短い講演で締めくくりとなりました。
「我が国は法治国家だが、あまりに法律で解決しようとし過ぎることのひずみが出ている。法というのは、責任者を決めたがる。責任者に権限を与えると同時に、無限の責任を負わせる。」
「結果責任ということで、業務上過失致死傷罪に問われるのでは、誰も責任者になりたくない。責任ある立場、責任ある手術といったことを避けるようになってきた。」
「インターネット世界では、『ベストエフォート』という概念がある。インターネットが出たての頃はすぐ切れるシステムだった。それまでの通信システムでは、切れたらNTTの責任を問う世界だった。だが、インターネットを運営している人はいない。それぞれの知恵を持ち寄って成り立っている。そこで、『切れたことを責めない』概念ができた。それぞれが『ベストエフォート』を誓い合うことによってインターネット世界は今日まで来た。医療においても、医療にかかわるすべての人が最善を尽くすという世の中を、どう作るか。」
「法や制度の可能性と限界を、よく知る必要がある。私も立法者ではあるが、法の限界をよく知っている。」
「対話型ADRは、実は法律家であればあるほど反対する傾向がある。法が万能でありたいから、法の限界を認めたがらない。」
「立場をわきまえてではなく、立場を超えて、一組織人ではなく一個人として議論する必要がある。」
「我々が幸せになるために組織を作ったのに、組織の目的のために動かなければならず、個人の幸せがむしろ損なわれていないか。」
「政策の作り方、病院のマネジメント、現場・ベッドサイドの取り組みなど、すべてを同時に変えないと、改革はうまくいかない。」
「良いことをしようとしている人を応援し、ポジティブフィードバックになるような社会を。」
6月6日 YouTube すずかん 対談集「現代医療問題に関する対談」
YouTube に 鈴木寛(すずき・かん) 現場からの医療改革推進協議会事務総長の「現代医療問題に関する対談」が掲載されました。
その他の出演者は、以下の方々です。
海野信也 北里大学産婦人科教授
佐藤章 福島県立医科大学産婦人科教授
和田仁孝 早稲田大学法科大学院教授・紛争交渉研究所所長
すずかん対談集「現代医療問題に関する対談」
その1
その2
その3
6月4日 AERA 「医療事故の究明」
早稲田大学紛争交渉研究所所長の和田仁孝先生のインタビュー記事がアエラに掲載されました。
「厚労省は、第三者機関に・・法律家も加えて・・刑事事件に該当するかどうかを評価し、警察へ振り分ける機能を持たせる意向」のようですが、和田先生はこれには反対で、第三者機関は、純粋に科学的・客観的な臨床経過を解明する機能に特化するべきと主張しています。
「厚労省は、該当する死亡すべてを届け出る義務を課す意向」のようですが、和田先生はこれにも反対です。というのも、必ずしもすべての患者・家族が第三者機関への届け出を希望するとは限らないからです。
また、「患者・家族のニーズに即した解決を創造していく対話型の紛争解決の場が必要」と書かれています。
5月14日 すずかん 国会質問「医療紛争処理」
鈴木寛(すずき・かん)現場からの医療改革推進協議会事務総長が、5月14日、医師法21条・医療事案解明・裁判外紛争処理を中心に国会質問しました。重要なポイントをしっかり述べたうえで、厚生労働大臣にも釘を刺しました。(ロハスメディカルブログ傍聴記録)
「医師法21条は法律ができたときの趣旨と現在の運用とが乖離している。いわゆる医療関連死亡は異状死に含めるべきでないと考えるが、このようなことを検討会 で議論してもらえるのか。」
「専門的な調査機関を作ることは結構だが、それは一体誰のためのものなのか。ぜひ患者のためという本旨に基づいて制度設計を行ってほしい。誰のためという部分を間違えると、医師法21条の警察への届け出義務も残って、仮に第三者機関への届出義務なんかかけてしまうと、そんなことは考えていないと思うが、警察からも第三者機関からも立ち入り検査を受けることになり、手続き上の落ち度があった場合に両方から訴追リスクがあっては、何のためにこういう議論をしていただいているのか全く分からない。検討会で行政処分のありかたについても検討するとなっているが、民事訴訟、刑事訴追がある中で、さらに行政処分が強化されたら、結局、萎縮医療・保身医療がひどくなってしまう。結果として一番困るのは患者さんだ。」要するに、「医師法21条を現状のまま、行政処分を強化するのではあるまいな。」という念押しです。
「医療従事者と患者・家族との間に濃厚な信頼関係が必要。その意味で対話型ADRについては検討会で議論されるのか。」厚労大臣にもきちんと取り組むよう念を押した、見事な論理展開の質疑でした。
国会質問の様子を参議院ビデオライブラリから見ることができます。下記サイトから「5月14日」「行政監視委員会」の「参照」をクリックし、「鈴木寛(民主)」を選択して下さい。
→ 参議院TV
6月24日 シンポジウム「対話が拓く医療」III 「患者の声と対話型ADR」
6月6日 YouTube すずかん 対談集「現代医療問題に関する対談」
6月4日 AERA 「医療事故の究明」
5月14日 すずかん国会質問「医療紛争処理」