序
耳の不自由な教育者は教室での環境整備が必要となろう。 次に示す環境整備のアイデアは職場における環境整備の選択肢を検討する際に役に立つと思われる。 但し、情報は包括的なものではない。 環境整備案に関する追加情報については、JANまでご連絡ください。
環境因子
背景騒音は耳の不自由な教師や生徒にとって障壁となる。 背景騒音は、効果的なコミュニケーションをスムーズに運ばせるための教室の設計と建設を通じて軽減することができる。 暖房、換気、空調(HVAC)システムの騒音、塗装面に反響する音、生徒のおしゃべり、廊下や隣接した部屋の騒音といった要素は、すべて、生徒のみならず、教師の聞く能力にも影響を与える。
米国アクセス委員会(U.S. Access Board)(http://www.access-board.gov)は、生徒のための教室音響効果指針を策定している最中である。 同じ指針は耳の不自由な教師が利用できる教室を設計する上でも役立つだろう。 教室音響効果規則制定の請願(Petition for Rulemaking on Classroom Acoustics)に対するアクセス委員会の回答は(連邦規則集36編、第XI章)、以下の通り、将来指針で扱われることになる教室設計の諸要素を明らかにした:
「優れた傾聴環境と学習環境のために、施設および部屋の音響設計は次の項目を考慮する:
立地、空間的余裕、ならびに教室の環境、設備および居住騒音への曝露を最小限に抑える教室の隣接物;
部屋の大きさ、適切な音の反響と吸収の比率;
騒音に適した防壁となるスラブ、天井、屋根、壁の建設(ドアと窓を含む);
HVAC設備の選定、システム設計、ならびに構造、配管および動作雑音を最小限に抑える据付け;
適切な残響音調節のために選択され設置される仕上げ、支援用具を妨害するラジオ周波数」
さらに広範な情報については、教室音響効果規則制定の請願(http://www.access-board.gov/publications/acoustic.htm)まで、または以下にご連絡ください:
Office of Technical and Information Service
Architectural and Transportation Barriers Compliance Board
(202)272-5434X132(音声)または(202)272-5449(テレタイプライター)
教室の環境因子に取り組むにあたって、教育者は以下の基本的な環境整備を検討することができる:
教室のドアと窓を閉めることによって、背景騒音を減らして音響効果を改善する;
音を吸収するために、カーペットや防音壁/吸音天井張りを追加する;
空気ダクトや暖房用配管で空気が急激に流れる音を減らす;
カフェテリア、体育館、管理事務室など、出入りの激しい区域近くに位置していない教室を占有する;
教室の備品からでる音を減らすために、生徒の机と椅子の脚にテニスボールをはかせる。
生徒とのコミュニケーション
コミュニケーションの方法は、生徒の年齢や技能に応じて変わる。 指導形式は表情やボディランゲージをモニターする、唇を読む、1対1でコミュニケートする必要に対応するものとすべきである。 位置決めも効果的なコミュニケーションのひとつの要素である。
教室の配置を変える
生徒の表情や反応を見る能力、ボディランゲージを評価する能力、唇を読む能力を支援するような形に教室を配置する。 明確な視野方向を確保すること。 教室の大きさが許せば、馬蹄型の配置が有益である。 教室が狭い場合、同じ構成にするにはこの配置では二重になり、生徒が2列に並ぶ形になってしまうかもしれない。 教室での一定の活動について、小さなグループを作るとよい。
教室管理を維持する
教室を統制すること。 相互交流は重要だが、ルールがあって初めて達成することができる。 一度に一人に対して話すよう生徒に求めること。 生徒に手を挙げ、話すことが認められてから立ち上がるように指導する。
補聴技術を利用する
もし便利ならば、補聴システムやサウンドフィールド・システムを使うこと。 さらに詳しい情報は、JANの検索機能付き環境整備(SOAR)を参照してください: ../cgi-win/Sol420
生徒を参加させる
生徒に質問、答え、意見をノートカード、黒板、携帯用ホワイトボード、メモ帳に書くよう頼む。 この種のコミュニケーションは相互交流を促進して、生徒の書く技能を高めることもある。
基本的な手話を学ぶ
もし適用可能ならば、基本的な手話の指導を授業計画に組み込むこと。 生徒は教室内での基本的コミュニケーションとして、アメリカ手話(ASL)などの手話を学習することで利益を得ることができる。
コミュニケーション拡張用具を利用する
高学年を教える教育者は、教室でコミュニケーション拡張用具を使うとよい。 小型のバッテリー式コミュニケーション装置を学生に手渡し質問を打ち込んでもらうことができる。 詳しい情報については、JANのSOARサイトをご覧ください: ../cgi-win/Sol267
コンピュータ技術を利用する
コンピュータが設置されている教室では、学生が教育者に迅速にメッセージを送信する選択肢として、e-メールやインスタント・メッセージが可能になる。
同僚とのグループ会議
耳の不自由な人にとって、集団でのコミュニケーションは難しくなりがちである。 スタッフ会議やグループでのイベントに様々な選択肢が考えられる。
補聴技術を利用する
マイクロフォンの利用に効果がある場合、会議、セミナー、研修など、グループでのコミュニケーションにおいて、聴覚支援機器の利用に効果が見込めます。 聴覚支援機器には、主に3タイプがあります: FM電波信号、赤外線、誘導ループの3タイプです.FMタイプの機器は音声を電波で伝えます。 FM帯(周波数72MHzから76MHz)を利用する設計になっています。赤外線タイプは、光線を利用して電気信号を受信機(光線を電気エネルギーに戻した後音声に復元する)に送ります。 誘導ループは、電磁気を利用して、座席の周りにめぐらせたループワイヤを通して音声を送ります。 個人用の増幅システムは、1対1会話のもうひとつのALD選択肢である。 個人用のシステムは非常に小さく持ち運び可能で、小型のマイクとレシーバーを使用する。補聴用具に関する詳しい情報については、JANのSOARサイトをご覧ください: ../cgi-win/Sol420
コミュニケーション・アクセス・リアルタイム・トランスレーション(CART)サービスを提供する
聴覚障害を持つ人がコミュニケーションへ参加する場合で、リアルタイムでの会話が必要なときは、会議の規模の大小に関わらず、コミュニケーション参加同時通訳(CART)サービスの利用に効果が見込めます。 National Court Reporters Association(NCRA)によれば、「コミュニケーション参加同時通訳とは、速記タイプライター、ノートパソコン、同時通訳ソフトウェアなどによって、会話内容を英文にリアルタイムで置き換えることです。 英文はコンピュータ画面などのディスプレイに表示されます。 この技術は、主に、聴覚障害を持つ人や外国語として英語を学んでいる人が利用するものである。」と定義している CARTとは、話し言葉を文字に置き換えるもので、速記の技術を持った専門技術者がこの変換を行います。
多くの字幕サービス業者は、速記者がその場にいなくても、電話回線を通して通訳を行う、遠隔CARTサービスやインターネット経由字幕サービスを提供しています。 職員会議、組合の会合、ワークショップ、授賞式のような場面で、CARTはその様なイベント時に話を聞くことのできない人も参加できるようにするため、効果的なコミュニケーションの解決法となりうる。
CARTのサービスは前もって予定を組まなければならないため、一般にその様な環境整備は事前に要請し計画する必要がある。 CARTの有効性を判断するために、患者とのコミュニケーションを常に欠かさないようにします。 状況によっては、CARTよりも手話通訳者の方が有効なコミュニケーション手段となる場合があります。 CARTサービスに関する詳しい情報は、JANのSOARサイトをご覧ください: ../cgi-win/Sol491
コンピュータ支援記録作成を提供する
コンピュータを利用した議事録作成によって、グループでのコミュニケーションの効率化が可能です。 コンピュータを利用した議事録作成には、ノートパソコン、一般的なワープロソフト、可能であればPCプロジェクタなどを用います。 入力担当者が、会議と同時進行で議事録を作成します。 記録係は展開されているコミュニケーションの要約をタイプする一方、耳の不自由な人は彼女が打ち込んでいるときに、コンピュータ画面を見る、またはPCプロジェクターが使用される場合は、壁やスクリーンに拡大されたテキストを見る。 コンピュータを利用した議事録作成は、比較的安価な環境整備ですが、リアルタイムの情報は伝わりません。
集団の環境因子に対応する
グループでのコミュニケーションでは、環境要因も考慮に入れる必要があります。 周囲の雑音、照明、位置関係や姿勢に注意してください。 耳の不自由な人は、話し手の近くに座ることを希望するかもしれない。 唇を読む人向けに視野方向を開けために、四角や長方形のテーブルではなく、円形テーブルを使うこと。 会議は、雑音の発生を抑えるため、カーペットを敷いた、オフィス機器のない、交通(人も車両も)の多い通路から離れた部屋で行います。
手話通訳者か、口頭通訳者を提供する
グループの場面では、資格をもった手話通訳者をつけなければならない。 アメリカ障害者法によると、手話通訳者は十分な能力を備えている必要がありますが、免許は必要ありません。 会話内容を正確に、効果的に、公正なやり方で伝えなければなりません。 手話通訳士は会話内容に含まれる専門用語に精通している必要があります。
手話通訳者の手配にかかる費用は、州によって違います。 ほとんどの通訳サービスは事前通知を必要とし、費用は時間決めとなっている。 2時間を超えた利用をする場合は、手話通訳者の派遣人数を2人にするよう求められることが多いでしょう。 通訳会社によっては、通訳者がビデオ会議の形で参加できる場合は、ひとつの選択肢として遠隔通訳を提供する。 さらに詳しい情報については、それぞれの地域の手話通訳サービス事業者に問い合わせてください。
オンライン会議を試してみる
会議や研修は、インターネットやインターネットのチャット環境、NetMeetingのようなダウンロード可能なプログラムを介して行うこともできる。 NetMeetingはマイクロソフト社のリアルタイムのコミュニケーション・ツールで、インターネットやオーディオ、ビデオ、データ通信を使いイントラネット上で、2人またはグループで通信することが可能になる。 NetMeetingは、参加者全員が通信文を打ち込まれたときに、又は送信されると同時に読むことができる場合は、リアルタイムのフォーマットでのテキスト通信を使用する。 インターネットやイントラネットのインスタント・メッセージ(IM)は、少人数グループでもこの状況で使うことができる。
記録作成支援&その他のテキスト情報を提供する
会議ごとに、予定表などを作成することにも環境整備効果があります。 会議や講習の前に、予定表や参考資料を用意しておけば、話し合いの内容を事前に理解しておく時間を作ることができます。 必要であれば、会議終了後に、会議に参加した上司や同僚から、疑問点について説明を受けるのもよいでしょう。 予定表をただ配布するだけでは、効果的なコミュニケーションを実現するのに十分ではない場合があります。 こうした形では会議に能動的に参加したとはいえないからです。 効果的なコミュニケーションを実現するには、患者との相談が必要です。
会議をテープに録音して転記する
耳の不自由な人は、会議内容をテープに録音することが有益だと判断するかもしれない。 会議後にテープを聞くことによって、個人は管理されたリスニング環境でテープを聞くことができ、理解できない会話を巻き戻して再生する機会を得るという利益を手にする。 テープは転記することもできるため、転記したものは会議出席者全員の利益となる。
教室で電話を使う困難
教育者は電話やPAシステムなど、教室内で音に反応しなければならないことがある。 耳の不自由な人は電話の音が聞こえなかったり、電話を使っているときに聞き取りが困難だったり、PAシステムでのコミュニケーションを理解できない場合がある。
電話呼出信号機を提供する
電話が鳴ったときに個人に注意を喚起する道具として、電話呼出信号機(telephone ring signaler)や呼出増幅信号機を使うことができる。 注意を喚起する道具に関して、さらに詳しい情報は、JANのSOARサイトをご覧ください: ../cgi-win/Sol419
電話を増幅する
難聴の人であれば、補聴器で音声を拡大することで、会話が可能になることもあります。 拡声器の種類としては、ハンドセット、ヘッドセット、インラインアンプ、携帯用アンプあるいは電話内蔵アンプなどを用いたものがあります。 聴覚支援機器を電話の音声の拡大に利用できる場合もあります。 一部の補聴用具も電話を増幅するのに使うことができる。
さらに、音声周波数の調整を行うことで電話が利用しやすくなることもあります。 人によっては増幅より明瞭さが問題となる。 明瞭さの特徴とともに増幅器を通じて電話を聞く場合、明瞭さは入ってくる音声の周波数やトーンを調整することによって達成できる。 増幅器の製品に関する詳しい情報については、JANのSOARサイトをご覧ください: ../cgi-win/Sol449
場内放送(PA)システムを理解する困難
教育者は朝と一日を通じて、PAシステム(Public Address、場内放送)のメッセージを聞かなければならない。 耳の不自由な個人はこれらのメッセージを理解することに困難を感じる場合がある。
原稿の写しを提供する
アナウンスの前に、毎朝PAのアナウンスを含め、原稿の写しやメモを教育者に提供することが可能であろう。
TTYを利用する
PAアナウンス中に、TTYを通じてテキストの形でPAアナウンスを受け取ることができる電話を教育者の部屋に設置することが可能であろう。 このことは別のTTYを通じて情報を送ることによって、あるいは地方の遠距離通信中継サービスを呼ぶことによって、達成されなければならない。
インスタント・メッセージやE-メールを利用する
コンピュータが設置されている教室はPA放送をe-メール、添付原稿、インスタント・メッセージで受け取ることができる。
ポケットベルを利用する
教育者が一日を通じて割り込みを受ける必要がある場合は、振動ポケットベルを介してテキスト・メッセージを送信する。
情報資源
(完全なリストではありません)
【参照:】
聴覚障害者への職場環境整備案
http://www.jan.wvu.edu/media/Hearing.html
SOAR、聴覚障害: 聴覚障害
http://www.jan.wvu.edu/soar/hear.html
SOAR傾聴用製品
http://www.jan.wvu.edu/soar/hearing/hearingprod.html
耳の聞こえない人や耳の不自由な人のための職場環境整備としてのコミュニケーション・アクセス・リアルタイム・トランスレーション(CAET)http://www.jan.wvu.edu/corner/vol01ss07.htm