3,使用航空機と運航クルーの対応
  表3-1:使用した航空機の概要比較
  図3-1:各機体の外観
 A.運航クルー待機室
 B.運航管理者
 C.待機用ヘリポート(東海大臨時ヘリポート)
 D.燃料貯蔵所
 E.ランデブー・ヘリポート(飛行場外離着陸場)
 F.消防機関に対する「要請手順」と「到着時の対応」について
  図3-2:ハンドブック抜粋
4. 看護部の対応、搭載医療用資材・薬品管理
 A.事業への看護部の取り組み
 B.看護部に対するドクターヘリの効果
 C.今後の課題
  表4-1:ヘリ搭載物品(資材、薬品セット)リスト
 表3-1:使用した航空機の概要比較
 図3-1:各機体の外観
MD902ドクターヘリ 川崎BK117ドクターヘリ
ユーロコプターEC135ドクターヘリ アグスタAK109K2ドクターヘリ
飛行中の機内

 A.運航クルー待機室
 運航待機室には、操縦士1名、整備士1名が待機して救急出動要請に備えた。待機室の主な備品類は下記の通りである。
・気象端末用コンピューター ・航空無線レシーバー
・ホットライン専用電話 ・トランシーバー
・電話及びFAX (受話用fax兼1回線、送話用1回線) ・管轄消防本部連絡先資料             
・携帯電話 ・ヘリポート詳細情報図書類              
・パソコン、カラープリンター ・テレビ         
・運航及び整備図書類 ・事務机、事務椅子、ソファー 
・ヘリポート全地点位置図(縮尺1:200,000) ・冷蔵庫、加湿器、茶器類
・航空機無線機(10W)1台 ・時計
・日没時間及び受付締切時刻告示ボード
・航空法関連図書

 B.運航管理者
 運航管理者は、救命救急センター医師控え室の一角に席を置き、常にホットライン受付者の横で要請に対応し待機室へ出動指令を行った。また、常に医師及び看護婦とのコミュニケーションを図り、随時気象情報や航空情報を確認し、医療スタッフと運航スタッフとの調整を行った。運航管理者席には主に下記の備品を置き従事した。

 C.待機用ヘリポート(東海大臨時ヘリポート)
 ドクターヘリは2号館裏の駐車場及び病院北側のグランドを利用し、航空法第79条但し書きに規定される基準に沿って「飛行場外離着陸場」として航空法の許可を取得し待機用へリポートとして運用を行った。1999年10月〜2000年3月迄の間はグランドにて実施し、以降は2号館裏にて運用を行った。運用に伴う主な設備は次の内容である。
・着陸帯 1面 ・燃料貯蔵所(ドラム缶による貯蔵形式)
・消火器一式 ・吹流し
・水道蛇口 ・100V電源コンセント
・機材保管用簡易倉庫 ・敷地境界にはチェーンを張り立ち入りを遮断

 D.燃料貯蔵所
 ドクターヘリ待機ヘリポート内には燃料貯蔵所を設置した。当貯蔵所は消防法規定に従い「少量危険物貯蔵所」として伊勢原消防本部より許可を取得し設置運用を行った。
仕様は次の通りである。
・ 貯蔵施設区分:少量危険物貯蔵所
・ 貯蔵内容:乙種第四類第二石油類の貯蔵
・ 危険物名:航空機燃料(灯油類)
・ 貯蔵方法:200リットルドラム缶による貯蔵
・ 貯蔵数量:1,000リットル以下(ドラム缶4本以下)
・ 鋼管、鋼板で柵を設置し、油分の流失防止のため集水枡を設置した。

 E.ランデブー・ヘリポート(飛行場外離着陸場)
 救急車とのドッキングするための臨時ヘリポート(飛行場外離着陸場)は、各消防本部が候補地として上げた場所を対象に、全て運航会社の調査員が現地調査を行い、航空法第79条但し書きに規定された面積や進入進出勾配、転移表面を確認し設定・運用を行った。尚、設定したヘリポート(飛行場外離着陸場)数は下記の通りである。

 F.消防機関に対する「要請手順」と「到着時の対応」について
消防機関に対して、ドクターヘリを要請する際の「要請手順」とヘリポート上空に飛来し着陸する際の協力及び注意事項を「ハンドブック」を作成し配布を行った。当該事項(ハンドブックより抜粋)を図3-2に示す。
 図3-2:ハンドブック抜粋
1. ドクターヘリの要請の流れについて
ドクターヘリは、救命救急センターのヘリポートで待機しております。
□ 待機時間は、午前8:30〜日没前約30分前までの間  
※通報の都度運航の可否を消防・病院・運航間で確認する要請を受けたドクターヘリは、直ちにドクターとナースを乗せ、要請から約5分以内には離陸します。
ドクターヘリ要請の際は次の順序で進みます
 
● 救急車とドッキングするヘリポートの指示は、
● 例「T―12・伊勢原34・○○○グランド」と通報してください。
● ヘリポートの使用承諾の有無に係わらず、ドクターヘリは離陸します。使用承諾が得られれば再度、救命救急センター連絡して下さい。ドクターヘリは病院内に設置している航空無線にて情報をキャッチします。
●指定されたヘリポートに直ちに向かいます
※救急車の赤色灯を回転させて、グランドの隅で待ってください。
※ ヘリポートに人が居る場合は、避難させて下さい。また、近隣の住宅等にもドクターヘリが離着陸することを伝えて、注意を促して下さい。
※ 砂埃が予想される場所では、民家の窓を閉めるてもらい洗濯物が有れば一時撤去してもらうなどの要請もお願いします。
※ ヘリポートに飛散物(ビニールシート等の飛び易いもの)があれば撤去して下さい。
 2. 上空にドクターヘリが到着したら
ドクターヘリは要請後、約10分〜15分で上空に飛来します
●救急車は、上空から見えやすいヘリポートの隅で、赤色灯を回したまま待機して下さい。なお、ドクターヘリが先に到着した場合は、地上の安全を機長が目視で確認後着陸して救急車の到着を待つ場合もあります。
● ドクターヘリが着陸し、乗組員の合図に従い救急車を近づけて下さい。
● ドクターヘリからは最低20m以上離れた場所で駐車してください。
● パイロットが見える場所に止めて下さい。
●ドクターとナースが患者を救急車内部で診察しますので、指示があるまでは下ろさないで下さい。
●ドクターヘリへ患者を乗せるお手伝いをお願いします。
ドクターヘリが着陸してからの地上の安全解説図をご参照ください。

4.看護部の対応、搭載医療用資材・薬品管理

 A.事業への看護部の取り組み
 ドクターヘリ事業を開始するにあたり、ヘリ運用に関する看護活動を分類してマニュアルを、また必要資材、薬品等のセット・リスト(表4-1)を作成し出動用バックを準備した。以下に、看護活動の概要を述べる。
 (1) 看護活動
  1)出動前の準備
@ ヘリ機内の点検・物品補充 
A 出動用バッグの点検補充
B ヘリ搭乗担当ナースの決定
 出動前の準備として、ヘリ機内の点検と物品補充を行う。ヘリの要請は午前8時30分からであるが、その前に夜勤の救命救急センター外来担当看護婦がヘリの中を点検に行く。前日の最終飛行後にも機内の清掃や物品の補充を行うが、当日の朝は物品補充リストを用いて不足のないことを確認し、補充および点検をする。
 ヘリ担当看護婦はその日の日勤看護婦の中から3年以上の経験を積んだ看護婦が1名選ばれる。担当となった看護婦は8時30分までに出動用バッグの点検と補充を行う。出動用バッグは基本セット、外傷セット、緊急薬品、チェストチューブ、簡易縫合セット、小児セットに分類されており、各物品のリストに基づいて補充を行う。ヘリ担当看護婦はポケットベルを携帯して出動に備える。ポケットベルの使用により要請から平均6分以内で出動できるようになった。
   2)出動要請受理から現場到着
@ 出動要請内容にあわせた物品や薬品の準備・確認
A ヘリ機内の患者収容準備
B 医師、ヘリクルーとの事前カンファレンス
 消防機関から要請があり、出動指示があると看護婦は患者の病態に合わせた出動用バッグを選択する。患者情報に基づいて、バッグにない薬品や物品を補充する。また現場の環境を考慮し、ジャンパーやゴーグルの着用など自分自身の準備を行う。準備が終了したら病院のヘリポートへ移動し、ヘリに搭乗する。機内では患者を収容後にすぐ対応できるよう、予めモニター類の電源をいれ、患者の状況に合わせて点滴のセットなど使用が予測される薬品などを準備する。また現場までの短い時間内に、機内で医師やヘリのクルーと事前カンファレンスを行う。
  3)現場において
@ 患者の安全と安楽の確保
A 全身状態の観察、バイタルサイン測定
B 患者にヘリで搬送することの説明
C 患者への介入
D 救急隊からの引継(プレホスピタル・レコード、私物)
E 患者プライバシーの保護
F 医師の診察・処置に対する介助
 現場において看護婦は患者の安全安楽を保持する事が第一に優先される。処置や診察が狭い救急車内で行われる際、患者の状態変化、苦痛への配慮は看護婦に求められる最も重要な役割となる。短時間で患者の全身状態を観察し、バイタルサインの測定を行う。患者や家族にはヘリで病院までいくことを十分に説明する。突然の発病や事故などで動揺していると同時に、慣れないヘリに対する戸惑い・不安などが大きいため、不安軽減させるための関わりが必要である。救急隊からプレホスピタル・レコードをいただき、患者私物の引き渡し、身元の確認や家族との連絡の有無などについて引継を行う。通常救急外来で行われている救急隊との引継を現場で短時間に行うため、簡潔にポイントを絞ることが大切である。救急車とのドッキングが行われるヘリポートはグランドなどが多いため、患者プライバシーの配慮に努める。
  4)患者収容から救命救急センター到着まで
@ 全身状態の観察
A 点滴の管理
B 使用する薬剤の準備、使用時間の記録 
C 患者の不安の軽減
D 環境の配慮
 機内に患者を収容したらモニターを装着し、バイタルサイン測定を定期的に行う。搬送中は点滴の高さや気圧が不安定になるため確実に落ちているかどうか滴下を確認し、また行われた処置や観察事項の記録を行う。患者収容後の機内は非常に緊迫した状況であるため、患者の不安を軽減できるように精神面を考慮した声かけを行っていく。また環境面でも気温の変化や騒音、乗り物酔いなどへの対応も行う。

 B.看護部に対するドクターヘリの効果
 ドクターヘリの導入により看護婦として院外活動の重要性を十分に理解できたと思われる。日常救急処置室で急変に対応している看護婦も院外に出てしまうと物資の限界、マンパワー不足、環境の変化ととまどう場面が多い。しかし、患者を目の前にして、最大限に自分の知識、技術を発揮し、更に創意工夫をする、という災害時に充分応用できる経験を積むことができた。院外では日常の看護業務に加え、臨機応変に対応することの大切さ、各スタッフの協力がいかに大切かを痛感した。

 C.今後の課題
@フライトナースの育成
Aヘリ活動に関しての看護面以外での勉強
 表4-1:ヘリ搭載物品(資材、薬品セット)リスト


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