(愛媛大学医学部救急医学 越智元郎、eml-9:1774)
【スライド1】
私は日本の広域・災害救急医療情報システムとその新しい展開についてご紹介します。はじめにこのシステムの英語名称ですが、スライドに示した名称から Emergency をはずして、「Disaster Medical Information System」とさせていただきたいと思います。
このシステムは阪神・淡路大震災の反省をもとに、1996年から厚生省とNTTデータ通信株式会社が整備しはじめました。その構想では、地域の日常的な救急医療情報センターを兼ねるサーバーを全都道府県に設置し、自治体、消防、病院などもこれに接続します。地域の情報センターに蓄積された情報は千葉市にあるバックアップセンターへ送られます。バックアップセンターは、災害時に破壊された地域センターの機能を代行することができます。
このシステムはバックアップセンターを介してインターネットに接続され、政府の他のネットワーク、医師会、NGOなどのネットワーク、そして一般市民に対しても情報が提供されます。
【スライド2】
広域・災害救急医療情報システムの地域センターは5カ年計画で整備されつつあり、2001年には全都道府県に導入が終了することが期待されています。このシステムでは、災害時にはスライドに示すような様々な組織や市民を結びつけます。一方、日常的には、病院の端末から救急収容できる患者数や対応できる診療科などを入力することができ、救急医療情報ネットワークとして機能しています。本システムの災害時の通信を円滑に行うために、専用線、優先的な公衆回線および衛星回線が確保されています。
【スライド3】
スライドはこのネットワークを介する、災害時の情報の流れを示しています。被災地域の病院、救急医療システム、医師会、保健所、自治体などは、各施設の被災状況や収容患者数、転送したい患者数、受け入れたい医療チーム、ボランティアなどに関する要請情報を、システムを介して送信します。
【スライド4】
スライドに示すように、専用線やNTT、日本電信電話株式会社(Nippon Telegraph and Telephone Corporation)の電話回線が使えない場合は、衛星通信などを用いた通信経路が確保されています。
ここで、実際の運用担当者でいらっしゃる株式会社NTTデータの社員により、具体的な入力方法などについて、ご紹介いただきます。
【スライド5】
私は救急医療関係者の1人として、広域・災害救急医療情報システムのこれまでの運営状況を、外部から見せていただいて来ましたが、現段階における問題点をまとめてみました。
1) 同システムの地域センターは全47都道府県のうち22府県にしか導入されておらず、また当初の地域センター導入に関する5カ年計画についても、遅れ気味であるとお聞きしています。現状においては、地域センターが導入されていない地域からは、災害時においてほとんど被災情報や救援要請に関する情報が発信されず、また届かないことを意味しています。
2) このシステムについては救急医療関係者や国民の間で余り知られておらず、またそのホームページも、災害医療関係者がしばしばアクセスする魅力的なwebとは言えないと思います。
3) 自治省や国土省などは、厚生省による災害医療ネットワークとは別の経路の災害情報システムを構築しており、これらのネットワーク間の横のつながりは乏しいと思われます。
4) 災害時に広域・災害救急医療情報システムを円滑に運用する上で、災害時を想定した訓練は必須でありますが、広域での通信訓練はほとんど行われていません。
【スライド6】
株式会社NTTデータの担当者から、システムのバージョンアップについてご紹介いただきました。私は大学の救急部門に属する立場ではありますが、次の3つのプロジェクトに参加させていただく予定です。
【スライド7】
それは広域・災害救急医療情報システムのサーバーを用いたメーリングリスト、ホームページ、ニュースボードの3つの活動です。
【スライド8】
広域・災害救急医療情報システムが運用するメーリングリストの目的は、
1) 地域の情報センター運用におけるノウハウを共有すること、
2) 政府や自治体などの災害準備に関する情報を共有すること、
3) 本システムを用いて、多くの自治体が参加する災害通信訓練を行うための意見交換を行うこと、
そして、4)災害時に災害情報を共有すること、であります。
【スライド9】
広域・災害救急医療情報システム・ホームページを充実させる目的は、
1) 政府や自治体、災害基幹病院などの災害準備に関する情報を共有すること、
2) 政府の補助による救急・災害医学に関する研究を、広く国民に還元する、
3) 様々な機関が計画する、災害医療セミナーや訓練に関する情報や記録を収載する、
4) 進行中の災害に関するニュースや報告を収載する、などであります。
【スライド10】
ニュースボード運用の目的は、
1) わが国や海外の進行中の災害に関する情報を掲示すること、
2) その情報に対して、事前登録済みの専門家による意見や情報を掲示する、
3) 専門家間での情報解析や論議を掲示、
4) 進行中の災害訓練に関する情報を掲示する、などであります。
以上、わが国の災害医療情報伝達の背骨となるべき、広域・災害救急医療情報システムの現状と課題、そして展望についてご紹介申し上げました。ご静聴有難うございました。