ナースのためのコンピュ−タ通信講座

  目 次
序言(白川洋一)   1、パソコン通信(冨岡譲二)
2、LAN(美代賢吾)  3、インターネット(新田賢治)
4、救急医療とコンピュ−タ通信(伊藤成治)
5、災害医療とコンピュ−タ通信(越智元郎)


2 LAN

東京大学医学部附属病院中央医療情報部 美代賢吾
(エマージェンシー・ナーシング9 (11): 992-9, 1996)


目 次

はじめに
LANとは
LANの目的
LANの仕組み
LANを使った病院情報システム
病院内(LAN)から病院間(WAN)へ
今後の医療情報ネットワーク
引用・参考文献

はじめに

 医療の現場でも最近LAN(Local Area Network,ラン)という言葉が,身近に聞かれるようになりました.LANとは,コンピュータを互いに通信ケーブルで結んだコンピュータ・ネットワークの一種です.ここでは,このLANの特徴,仕組み,医療現場での役割について説明します.このなかで,LANの仕組みについては,LANを使う側である医療現場のスタッフは深く知る必要はありません.しかし,以前は一部の専門家の仕事だったLANの設定も,MacintoshやWindows95の普及によって,使う人が自分で設定する機会も増えてきました.したがって大ざっぱではありますが,簡単にLANの仕組みについても説明します.

LANとは

 複数のコンピュータを通信ケーブルで結んだコンピュータどうしの通信網をコンピュータ・ネットワークといいます.この中でも,とくにある施設内や,ある敷地内に限定されたコンピュータ・ネットワークをLANといい,さらに,ある施設・地域のLANと他の地域・施設のLANを互いに結んだような広い地域にまたがるコンピュータネットワークをWAN(Wide Area Network,ワン)と呼びます.逆に,ネットワークに接続せず,コンピュータを一台だけで使う状態は,スタンドアローン(stand alone)と呼ばれています.

 LANは,その規模について明確な定義はありません.病棟にあるコンピュータどうしを結んだネットワークもLANで,これら病棟のLANをお互いに結び病院全体に拡張したものもまたLANです.これらを区別するために,通常それぞれ,病棟LAN,院内LANと呼ばれています.一方でいくつかの病院のLANどうしを結んだネットワークは,LANではなく,WANと呼ばれます.東京築地の国立がんセンターと愛媛の四国がんセンターを結ぶコンピュータ・ネットワークは,このWANの1つです(図1).

LANの目的

 コンピュータどうしを通信ケーブルで結んでLANを引く大きな目的は,「情報の共有」にあります.情報の共有とは,どういうことでしょうか? 看護婦の仕事を例に説明してみましょう.

 看護婦の勤務は,そのほとんどが3交代勤務ですね.一人の患者に対して複数の看護婦がケアを行っています.看護婦は,申し送りまたは,以前の看護記録をみることによってそれまでの患者の状態を知り,現在の患者の状態を把握します.次に自分の申し送りや記録の時に,いままでの情報で不要になったものを削って,新たに重要と思われる情報を付け加えます.つまり,一人の患者の情報が,複数の看護婦の中を流れていきます.これによって複数の看護婦が一人の患者の情報を知ることができ,日勤,準夜,深夜にまたがって継続して看護できるようになります.これが,情報の共有です.

 LANを使うとこのような「情報の共有」がコンピュータで実現できます.1つのコンピュータの中だけに入っている情報を,LANでつながった他のコンピュータからも見たり,変更したりできるようになります.しかも,コンピュータは,この情報の交換・共有を非常に高速に行うことができるので,誰かが情報を変更してもその変更は即座に反映されます.したがって,コンピュータ上の情報は常に最新のものが提供されるのです.

 そのほかにも,プリンタなどのコンピュータ機器の共有というのもLANの目的の1つです.3台のコンピュータがあり,それぞれのコンピュータで印刷する機能が必要だとします.スタンドアローンであれば,コンピュータの台数分,つまり3台のプリンタが必要となります.しかし,3台のコンピュータをつなげてLANにしてしまえば,印刷して欲しいという情報はネットワーク上を流れるので,プリンタは1台ですみます.プリンタだけでなくそのほかの高価な機器を共有できるのはLANのメリットの1つでしょう.

LANの仕組み

 では,どのようにしてコンピュータどうしをつないで,どのように情報のやり取りをするのでしょうか? 現在では,比較的小規模なネットワーク(コンピュータの台数が20台くらいまでのネットワーク)では主に10BASE-T(テンベースティー)というケーブルでつなぎます.これは,皆さんの自宅にある電話線の親玉みたいなもので,コンピュータの裏側にあるLANカード(ネットワークの機能を持ったコンピュータ部品)のコネクタにカチッと差し込むだけで使えます(図2).このケーブルの中を,日本語にすると最大で毎秒約500万文字もの情報が電気信号となって流れます.

 しかしケーブルをつなげただけでは,コンピュータは情報のやり取りはできません.AというコンピュータとBというコンピュータがお互いに理解できる言葉で通信しなければなりません.これを通信プロトコールといいます.たとえていうなら,日本の看護婦がアメリカの看護婦に日本語で申し送りをしても通じないのと同じです.通信プロトコールにはさまざまなものがありますが,現在,WANでは,TCP/IP(ティーシーピー・アイピー)というプロトコールが主流で,LANでもTCP/IPが主流になりつつあります.TCP/IPを使うと,Windows95,Mac OS,UNIXなどの多くのオペレーティングシステムが対応しているため,さまざまなコンピュータでLANを組むことができ,またインターネットとの接続も容易になります.

LANを使った病院情報システム

 以前の病院情報システムは,主に保健点数の計算など,医事会計業務を中心に扱ってきました.しかし近年,検査情報や薬剤情報など診療に直接役立つ情報を扱うシステムが増えてきました.ここでは,病院の中でLANが実際にどのように役立つのかみてみましょう.  たとえば,看護室と医師勤務室と薬剤部にそれぞれコンピュータがあったとします.看護室のコンピュータには,看護計画の情報が,医師勤務室のコンピュータには検査情報や感染情報が,薬剤部のコンピュータには薬剤情報が入っているとしましょう.さて,患者のケアをしようと思った時に,看護計画だけで十分でしょうか?やはり,HBやHCVなどの感染情報,CRPやGPTなどの検査情報,それからどんな薬を服用しているのかというのも気になりますよね.その時に,感染・検査情報はわざわざ医師勤務室まで行かないとみられない,薬剤情報は薬剤部まで行かないとみられないのでは非常に不便で,いったりきたりで仕事になりません(図3).そこで,LANの登場です.それぞれのコンピュータをつないで,どこのコンピュータでも看護計画,検査・感染,薬剤のすべての情報をみれるようにするわけです(図4).そうすれば,看護室にあるコンピュータで患者のすべての情報がみれるので動線も短くなり,また患者の状態を総合的に把握できるので,非常に効率的で質の高いケアを可能にします.

 このように,最新の情報を共有できるというLANの特徴を生かした病院情報システムが現在さまざまな病院で実際に運用されています.

病院内(LAN)から病院間(WAN)へ

 それぞれの病院で情報システムが整備されてくると,病院独自で情報を持っているより他のさまざまな病院と共有すると便利な情報が出てきます.たとえば,薬剤の副作用情報や医薬品添付文書などがあります.また,看護の分野では,標準看護計画などもそうですね.たとえ,用語の問題や分類方法の問題で自分の病院ではそのまま使うことはできなくても,他の病院ではどのような計画を立てているのかを簡単に知ることができるということは有益でしょう.

 このような考え方から,1989年大学医療情報ネットワーク,通称UMINがスタートしました.UMIN設立の目的は,5つありますが,その第1番目に「大学病院の医療関係者のみならず,すべての医療関係者が共通に必要としている最新情報や知識を提供し,日本の医療の向上に貢献します.」となっています.この目的に添って,現在厚生省の提供する医薬品副作用情報や,香川医大の提供する標準看護計画(図5),金沢大学の提供する服薬指導などのデータがUMINのデータベースに収まっています.また,地下鉄サリン事件の時には,すぐさま聖路加病院よりサリン中毒の症状,治療法などが提供され全国に公開されたのは記憶に新しいことです.現在では,国立42大学病院すべてがUMINに接続され,また1995年よりTCP/IPによるサービスも開始しインターネットにも接続されています.会員も国立大学病院関係者だけでなく,私立大学や一般の医療関係者を含め,約10,000人(看護婦約2,000人,医師約5,000人)が登録され,日常の看護や治療にUMINのデータを役立てています.

 UMINは,国立大学関係者だけでなく,医学関係の学会に加入している人すべてに対して門戸を開いています.看護婦であれば,たとえば日本看護学会などに入っていれば今のところ無料でUMINを利用することができます.詳しくは,UMIN事務局(電話 03-5689-0729.住所 東京都文京区本郷7-3-1、東大病院中央医療情報部内 UMIN事務局)に資料を請求してください.

今後の医療情報ネットワーク

 医療施設間での「情報の共有」は,現在,「患者情報の共有」へと向かっています.これまで,他の医療機関での患者の検査結果や治療歴は,紹介状や退院サマリーから得るか,あるいは電話で問い合わせるしか方法はありませんでした.しかし,患者情報をコンピュータネットワークを使い多施設間で共有することができれば,自分の病院の手元にあるコンピュータで,他の病院での患者の治療歴,投薬状況やどんなケアを行ったかなどが簡単にわかるようになります.これは,救急車が到着する前に,過去の患者データをみて万全の準備で患者を受けることができるようになるなど,とくに一刻を争う救急医療で威力を発揮するでしょう.

 患者情報を共有する医療情報ネットワークには,患者のあらゆる情報をコンピュータに入れ,医師だけでなく看護婦やPT,OTなどさまざまな医療関係者が利用できる,電子カルテと呼ばれているものが不可欠です.現在さまざまな研究機関,医療機関で電子カルテの研究が進められています.厚生省も1995年10月,(財)医療情報システム開発センターに対して電子カルテの研究開発事業を委託し,近い将来実用化される見込みです4),5).実際には,セキュリティ(情報の安全性)やプライバシーの問題,患者情報のデータ構造の問題など解決すべき問題が残されてはいますが,この電子カルテを使った新しい医療情報ネットワークは着実に実現に向けて進んでいます.


引用・参考文献

1)加藤佐一著:Windows95+NTサーバによるはじめてのLAN導入実践ガイド,技術評論社,東京,1996.

2)大江和彦編:医師・医療関係者のためのインターネット改訂第2版,中山書店,東京,1996.

3)電子カルテ研究会編:電子カルテってどんなもの?,中山書店,東京,1996.

4)国立がんセンター:厚生省報道発表資料. <ホームページ・アドレス>

http://www.ncc.go.jp/mhw/mhwinfo/0sj/9510/95102338.txt

5)財団法人医療情報システム開発センター:電子カルテ開発事業.

http://www.medis.or.jp/proj/ehr/ehrhome.htm


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