AHA新ガイドライン

第13部 新生児蘇生ガイドライン
(Part 13: Neonatal Resuscitation Guidelines)

目次

はじめに(Introduction)
蘇生の必要性の予測(Anticipation of Resuscitation Need)
最初のステップ(Initial Steps)
胸骨圧迫(Chest Compressions)
薬物療法(Medications)
蘇生後の患者管理(Postresuscitation Care)
蘇生を控えることと途中で中止することに関するガイドライン
(Guidelines for Withholding and Discontinuing Resuscitation)
脚注(Footnotes)
参考文献



[現在の翻訳レベル=一次チェック済み 060805] [原文

■はじめに(Introduction)

 以下のガイドラインは新生児蘇生に関与する医療従事者向けであり、子宮内 環境から子宮外環境に移行しつつある生まれたばかりの新生児が主な対象で ある。勧告内容はまた、周産期の移行が完了した乳児(訳者註)で、 生後数週間から数ヶ月までに蘇生が必要な者にも適用することができる。 出生時をはじめ、入院時初療で乳児蘇生を担当する医療従事者は、以下のガ イドラインを考慮すべきである。 用語として、「新生児(newborn と neonate)」は、入院時初療における、 すべての乳児を指す。 「出生直後(newly born)」という用語は、特に生まれたばかりの乳児 (新生児)を指す場合に使用した。

訳者註:原文は以下のようになっており、ここで「neonates」が使われ ているが、「新生児」でなく「乳児」と訳するのが適切と思われる。
 原文:The recommendations are also applicable to neonates who have completed perinatal transition and require resuscitation during the first few weeks to months following birth.

約10%の新生児が生まれて初めて呼吸をする際に、何らかの支援を必要 とする。およそ1%には本格的な蘇生治療が必要となる。 娩出直後の乳児の大部分は、子宮の中から子宮の外への移行の ための医学的介入は不要である。しかし、出生数が膨大であるがゆえに、かな りの数の新生児が何らかの程度の蘇生を必要とすることになる(will require some degree of resuscitation)。

蘇生を必要としない娩出直後の乳児は、一般に次の4項目を手早く評価することで判定できる。

この4項目に対する答えが、すべて「はい」であれば、その新生児には蘇生の必要がなく、母から引き離すべきではない。新生児の身体を拭いて母の胸にそのまま抱かせて、乾いた布で覆って保温する。呼吸や活動性、皮膚の色を引き続き観察する。

もし4項目の評価のいずれかが「いいえ」であれば、次の4つの 一連の処置カテゴリーのうちの1つ以上の処置を受けるべきであるという ことが一般に合意されている。

A. 容態安定のための初期対応(保温、体位、気道の吸引、濡れた皮膚を拭く(dry)、刺激、体位交換
B. 換気
C. 胸骨圧迫
D. アドレナリン(エピネフリン、訳者註)投与および/または容量負荷

上記A〜Dの、一つの項目から次の項目に手順を進める判断は、呼吸、心拍数、皮膚色の3つのバイタルサインの同時評価で行う。およそ30秒間かけて、それぞれのステップを完了し再評価を経 て次のステップに進むかどうかを判断する (を参照のこと)。

Neonatal Flow Algorithm(原図)
図. 新生児蘇生のアルゴリズム


■蘇生の必要性の予測(Anticipation of Resuscitation Need)

予測、十分な準備、正しい評価および迅速な支援の開始、これらが、新生 児蘇生の成功の鍵である。 すべての出産で、娩出直後の新生児に専従できる人を少なくとも1名つ けるべきである。 この担当者は陽圧換気と胸骨圧迫実施などの蘇生術に着手できなくては ならない。 (また)この担当者に限る必要はないが、直ちに対応可能な人が、気管挿管や薬剤 投与を含む一通りの蘇生処置をできなくてはならない1

危険因子に十分注意することで、蘇生を必要とする新生児の大部分は出生前に判定できる。蘇生が必要となるかもしれないと予測したら、蘇生に手慣れた人に応援を頼んで必要物品の準備をする。判明している危険因子と蘇生の必要物品は新生児蘇生プログラムのウェブサイトに掲載されている。早期産(在胎37週未満)の場合は、特別な準備が必要である。早期産児は肺が未成熟なために換気が少し難しい可能性があり、陽圧換気による傷害も受けやすい。また、早期産児(preterm babies)には脳血管が未熟で出血し やすい、皮膚が薄く体表面積が大きいため体温が下がりやすい、感染し やすい、そして少量の出血でも容量不足性ショック(hypovolemic shock) に陥りやすいなどの特徴がある。


■最初のステップ(Initial Steps)

蘇生の最初のステップは、以下の4つである。放射加温装置の下に新生児を置いて保温すること、気道を開通 させるために頭の位置を「においを嗅ぐ位置」(sniffing position) にすること、そして身体を拭くことにより身体を乾かしまた呼吸を促す 刺激とすることである。 最近の研究はこの最初のステップのいくつかの問題点を検 討した。これらの研究は以下に要約される。

体温管理

生下時体重が非常に低い(1500 g未満)早期産児は、 体温喪失を来さないための昔からの処置 を行っても、低体温になってしまう傾向がある(LOE 5)2。 このため、プラスチック製の覆い(食品用の耐熱性のプラスチック) で覆った上で放射加温装置の下に置く(Class IIa; LOE 23,4; LOE 45,6; LOE 57)などの加温処置を行うべきである。 この処置により高体温来たす危険性がわずかで はあるが報告(LOE 2)4されているので、体温を注意深くモニター しなければならない。分娩室での新生 児の状態安定を図っている間、体温を維持する他の方法(例えば、身体 を乾かしたり、身体をくるんだり、保温用パッド(warming pads)を当てた り、周囲温度を上げたり、母親に直接抱かせてブランケットで母子ともに覆ったり) も、行われて来た(LOE 8)8,9。しかし、そうした方法に関し て、未熟児に対してのプラスチック被覆法との比較対照試験は全く行わ れていない。 気管挿管や、胸骨圧迫、静脈ラインの確保などを含 むあらゆる蘇生技術は、この適切な体温管理のもとで実施することができる。

発熱している母親から生まれた新生児は、周産期呼吸抑制や、新生児痙攣、 脳性麻痺の出現率が高く、死亡率が高いと報告(LOE 4)10-12 されている。 動物実験(LOE 6)13,14では、虚血中あるいは虚血後の高体温は脳損傷の進 行と関連することが示唆された。高体温は避けるべ きである(クラスIIb)。目標は正常体温であり、医原性の高体温は避けるべきである。

気道からの胎便除去(Clearing the Airway of Meconium)

分娩前、分娩中あるいは、蘇生中の胎便の肺への吸引は、重篤な吸飲性肺炎(aspiration pneumonia、 訳者註) を引き起こす可能性がある。児頭部が娩出されれば、まだ肩が娩出される前にも児の気道か ら胎便を吸引すること(分娩中吸引)は吸引症候群を減少させるための 産科技術の1つである。 いくつかの研究(LOE 315; 416,17)は、分娩中の吸引が吸引症候群 (aspiration syndrome)の危険性を低下させるのに効果的であることを 示唆していたが、その後の大規模多施設無作為化臨床試験(LOE 1)18で はそのような効果を示さなかった。従って、胎便による羊水混濁母体から生まれた胎児 に対し、分娩中に口咽頭と鼻咽頭をルーチンに吸引すること (routine intrapartum oropharyngeal and nasopharyngeal suctioning)はもはや推奨しない(クラスI)。

訳者註:「aspiration pneumonia」について、 日本麻酔科学会の用語集では「吸引性肺炎/誤嚥性肺炎」とあり、日本救急医学会は「嚥下性肺炎、吸引性肺炎」 を用いている。産科的には「meconium aspiration:胎便吸引」、「meconium aspiration syndrome:胎便吸引症候群」 という用語が一般的であり、今回の場合は「吸飲性肺炎」を用いることとした。

これまでの教育(LOE 5)19-21では、胎便により汚染された児は、娩出後直 ちに気管挿管し、抜管の際に気管内吸引をすることが 推奨された。無作為化臨床試験(LOE 1)15,22では、 活気がある児の場合には(if the infant is vigorous)、こ の処置がなんらの利点もないことが示された(クラスI)。 活気がある児とは呼吸の力が強く、筋緊張がよく、心拍数が毎分100回以上 ある場合をいう。活気のない児に対する気管内吸引は、分娩 後すぐに行われなければならない(クラス未確定)。

30秒おきの周期的な評価

娩出直後の状態評価と初期ステップの導入後、引き続き、呼吸、心拍、 および身体の色を一緒に評価しながら(should be guided by simultaneous assessment of)蘇生努力がなされていかなければならな い。最初の呼吸の後、新生児は規則正しい呼吸となり、 それによって身体の色調が首尾よく改善し、心拍が毎分100回 を越えるようにならなければならない。あえぎ呼吸や無呼吸は、補助換気 が必要であることを示す23。心拍数の増加 や減少は、状態が改善したか悪化したかを示す。

正常に出生した(uncompromised)新生児は酸素投与な しで粘膜がピンク色になり、それが維持されるだろう。 しかし、継続的な酸素飽和度測定によって得られたエビデンス は、新生児における移行(neonatal transition)がゆるや かな過程であることを示した。満期出産の健康な児は、動脈管中枢側の酸素 飽和度が95%を越えるまでに10分以上かかり、動脈管末梢側では約1時間 かかる(LOE 5)24-26。(末梢に 対して)中枢のチアノーゼは、顔面、躯幹、および粘 膜を観察することによって判断される。身体末端のチアノーゼ(手と足だ けが青い色)は通常生下時では正常所見であり、低酸素血症の信頼できる指 標ではないけれども、寒冷ストレスなどの他の条件を示す可能性もある。 蒼白または斑点形成(pallor or mottling)は心拍出量減少、 重症貧血、血液量減少、低体温、またはアシドーシスの 徴候であるかもしれない。

酸素投与

訳者註:新生児に対する酸素投与に関して)100%酸素が呼 吸生理と脳循環に対して有害である可能性があるとの、また酸素フリー ラジカルが組織損傷を来たすかも知れないとの懸念がある。 逆に、仮死時またはその後(during and after asphyxia)の 酸素結合から来る組織損傷についての懸念もある。 低酸素にした動物を、100%酸素と 21%酸素(大気)それぞれを用いて蘇生し、血圧、脳の灌流、および細胞障 害の様々な生化学的測定をして得られた研究(LOE 6)27-31の結果は、相 矛盾したものであった。早期産児(妊娠33週未満)の1研究(LOE 2)32で は、21%酸素を使ったときに比較して80%酸素下での脳血流は低下していた。いくつかの動物実 験データ(LOE 6)27は反対の効果を示した。すなわち、100%酸素に対して 21%酸素(大気)では、血圧および脳血流が低下した。4つの臨床研究 (LOE 1)33,34のメタ解析によると、100%酸素下での蘇生に対して大気下 での乳児の蘇生では死亡率が低下し、この方法が 危険であるととのエビデンスは認められなかった。ただし(この研究には)、重大な方 法論的問題があるので、この結果は慎重に検討されるべきで ある。

蘇生のために陽圧換気が必要であるときは、すべて酸素の投与が 推奨される。一方、自発呼吸のある児でも中枢性チアノーゼがある場合は 吹き流しの酸素吸入(free-flow oxygen should be administered)を行うべきである。 蘇生の標準的アプローチは、100%の酸素を用いることである。 100%未満の酸素濃度で蘇生を開始する臨床医がいるであろうし、 酸素を加えずに(すなわちルームエアで) 治療を開始する臨床医もいるであろう。 新生児の蘇生に際し、そのどちらを用いてもそれ相当の合理性を示すエビデンスがある。 大気下で蘇生を開始していても、 娩出後90秒以内にはっきりした改善が認められないならば、酸素を使うこ とが推奨される。酸素が用意されていない状況ではル ームエアで陽圧換気を行うべきである(クラス未確定)。

パルスオキシメトリーの値を斟酌しながら適切な濃度の酸素を投 与すれば、より早く低酸素症を脱する(achieve normoxia)」 ことができる可能性がある。 過剰な酸素の使用については、特に未熟児において、酸素中毒 (oxidant injury)の危険性があり、臨床医は注意すべきである。

陽圧換気

(新生児が)無呼吸またはあえぎ呼吸を呈していた り、初期処置を行って30秒たったあと も心拍数が毎分100回未満のままであったり、酸素を投与しているにもかか わらず中枢性のチアノーゼが持続しているならば、陽圧換気を開始する。

最初の呼吸と補助換気

 満期出産児では、最初の吸気(自発呼吸か補助換気、いずれでも) が機能的残気量を形成する(LOE 5)35-41。効果 的な機能的残気量を得るために必要な至適吸気圧、吸気時間、吸気流速 については明らかにされていない。 最初の平均最高吸気圧を30〜40 cmH2Oとした場合(吸気時 間は不確定)、反応のない満期出産児を通常、適切に換気することが できる(usually successfully ventilate)(LOE 5)36,38,40-43。通 常、毎分40〜60回の補助換気がなされているが、いろいろな換気回数で 効果を比較した研究はなされていない。

最初の換気が十分であったかを推し量る 第1の手段は、心拍数が即座に改善(prompt improvement) するかどうかをみることである。 心拍数が改善しないならば、胸壁の動き (chest wall movement)を評価するべきである。必要とされる最初の 最高吸気圧はいろいろであり、予測できない。(それゆえ)心拍数が増え、かつ/また は1呼吸ごとに胸が持ち上がるよう、個別の患児ごとに最初の最高吸 気圧を調節する必要がある(should be individualized to achieve)。 吸気圧をモニターしている場合、最初の最高吸気圧(peak inflating pressures、訳者註)を 20 cmH2Oとするのが 効果的かも知れない。しかし、自発呼吸のない満期出生児の 中には 30〜40 cm H2Oの圧が必要となる児もいる(クラスIIb)。 圧をモニターしていない場合、心拍数が増加する最小限の 最高気道内圧で換気を行うべきである。 最適吸気時間について推奨するにはエビデンスは十分ではな い。 要約すると、毎分100回を越える心拍数に直ちに回復させるに は、あるいはそれを維持するためには、補助換気は毎分40〜60回 の換気回数で実施すべきである(クラス未確定;LOE 8)。

訳者註:「peak inflating pressure」の訳について訳者間で論議があった。 この語は要するに「peak inspiratory pressure: PIP」のこととかんがえられ、「最大吸気圧」または「最高 吸気圧」と訳するのが適切であろう(さらに、圧は高低で表すものであり「最高」がベターかも知れない)。 ただし、日本呼吸療法医学会の機関誌「人工呼吸」の投稿規定では「PIP(最大吸気気道内圧)」が用いられてい る。

器具・装置

有効な換気は流量膨張式蘇生バッグ(flow-inflating bag)、自己膨張式蘇生バッグ(self-inflating bag)、あるい はTピースを用いて達成できる(LOE 444,45; LOE 546)。 Tピースは、流量および吸気圧を調節するための、バルブ付き の呼吸器具(a valved mechanical device designed to control flow and limit pressure)である。 自己膨張式蘇生バッグのポップオフバルブは、流量依存性で、発生する圧は、 メーカによって決められている値を超える可能性もある(LOE 6)47。 器械的モデルで、Tピース装置が使われるときにはバッグが使 われるよりも、目標吸気圧および長い吸気時間がより一貫して達成され る(LOE 6)48。ただし、そのことに臨床的意味があるかどうかは不明 である。 ヘルスケア・プロバイダーが新生児に対して用いて望ましい圧 を提供する上で、流量膨張式蘇生バッグは「自己膨 張式蘇生バッグよりも訓練が必要である(LOE 6)49。 新生児の換気のためには自己膨張式蘇生バッグ、流量膨張式蘇生バッグ、 またはTピースを用いることができる(クラスIIb)。

喉頭入口部にフィットさせるラリンゲアルマスク(LMA) は、満期または満期に近い出生児を換気するのに効果的であることが 示されてきた(LOE 250; LOE 551)。 低体重早期産児に対してのこれらの器具の使用に関しては 限られたデータしかない(LOE 5)52,53。 3つの症例研究(LOE 5)51,54,55からのデータでは、研究対象となった 新生児は蘇生されなかったけれども、LMAの使用が現在の蘇生ガイドライン と一致している時間枠の中で有効換気量を提供することができたというこ とを示している。 無作為化比較試験(LOE 2)50によると、バッグマスク換気が うまくいかなかったときの換気方法として、LMAは気管挿管と比較して 臨床的になんらの有意差も認めなかった。 この研究ではLMAが経験豊富な実施者によって挿入されたので、 その結果を一般化することができるかどうかは明らかではない。 症例報告(LOE 5)56-58は、バッグマスク換気が不成功で、 しかも気管挿管が実現可能でないか不成功な時に、 LMAを用いて有効な換気を実施できるかもしれないこ とを示唆している。 以下のような状況において、LMAををルーチンに使用すること を支持するエビデンスは不十分である(クラス未確定)。すなわち羊水の胎便 汚染、超低体重産児、胸骨圧迫が必要な場合、あるいはまたは緊急の気 管内への薬剤投与を要する場合などである。

早期産児に対する補助呼吸

動物実験(LOE 6)59からの知見によると、 早期産児の肺は生下時直後の一回換気量が大きすぎると、 容易に傷害される(easily injured by large-volume inflations)。 追加された動物実験(LOE 6)60,61では、生下時直後、陽圧換気が行なわれ るとき、呼気終末期陽圧(PEEP)を加えると肺損傷が防止さ れ、肺コンプライアンスとガス交換が改善することを示している(LOE 6)60,61。 ヒト新生児に対する臨床研究から得られたエビデンスでは、ほとんどの無呼吸の早期産児は 20〜25 cmH2O の最初の最高吸気圧で換気できることを示している。ただし、この圧で改善しない児に対してはも っと高い圧が必要となる。

分娩後に早期産児を換気するとき、胸壁が大きく動き過ぎる (excessive chest wall movement)場合は、避けられるべき肺への大 量送気(large-volume lung inflations)を示している可能性がある。 圧のモニタリングは、肺を持続的に拡張させなおかつ過大な 圧を避けるのに役立つであろう(クラスIIb)。 陽圧換気が必要であるならば、初期最高吸気圧 20〜25cmH2O で行うのがほとんどの早期産児において適切である(クラス未確定)。心拍数 または胸部の動きが直ちに良くなるということがなければ、さらに高い圧が 必要であるかもしれない。持続的な陽圧換気が必要であるならば、PEEPが 有益であるかもしれない(クラス未確定)。蘇生後、自発呼吸をしている 早期産児には、持続的気道内陽圧(Continuous positive airway pressure, CPAP)もまた有用であろう63(クラス未確定)。

気管挿管

新生児蘇生のいくつかの場面で(at several points during neonatal 気管挿管(訳者註)が適応となる可能性がある。

気管挿管のタイミングもまたそのとき対応できる医療関係者(the available providers)の技術と経験に依存するかもしれない。

気管挿管を行い、間歇的陽圧呼吸を行った後に心拍数が直ちに 増加することは、チューブが気管気管支樹 (tracheobronchial tree)中にあり、適切な換気をしていることを示す最 も良い指標である(LOE 5)64。 呼気のCO2検出は、極小低体重児を含めた新生児の気管チューブの位置確認 に有効である(LOE 5)65-68。心拍出量が十分にある患児における陽性反応(呼気CO2検知) は気管チューブが気管内にあること を示し、他方、陰性の結果(すなわちCO2が検出されない)は食道挿管が 強く疑われる(LOE 5)65,67。 肺血流量が減少しているか、停止している場合には、偽陰性(すなわち、 チューブが気管にあるにもかかわらずCO2が検知されない)となるが、 (実際のところ(訳者による追加)) 心停止でない患者のほとんどすべてで気管内にチュ−ブが挿入さ れていることを正確に識別できる(LOE 7)69。偽陰性は、心拍出量が 低下している重篤な状態にある新生児における、不必要な抜管に繋がる可能性がある。

気管チューブの位置が正しいかどうかを示す他の臨床的指標は、呼気 中に認められる霧と、胸郭の動きが あるか否かの評価である。しかし新生児では、手順を追ってこれらを評価することは (these have not been systematically evaluated)行われて来なかった。 気管チューブの位置は挿管中に視覚的に確認する。そして挿管 後に心拍数が低いままで上がってこないならばいくつかの確認法 (confirmatory methods)で評価しなければならない。胎便を取り除 くために行う挿管の場合を除いて、呼気CO2の検知は、気管チューブの 位置の確認方法として推奨される(クラスIIa)。


■胸骨圧迫(Chest Compressions)

 胸骨圧迫は、酸素投与の下で十分な換気を30秒間行ったにもかかわらず 心拍数が毎分60回未満である場合に適応となる。人工呼吸には 新生児の蘇生において最も効果的な作用があり、一方、胸骨圧迫が効果的となるべき換気と拮抗する 可能性がある。それゆえ、救助者は胸骨圧迫を開始する前に補助換気が適切に行われているこ とを確認すべきである。

胸骨圧迫は、胸骨の下1/3の部位で、胸部の前後径の約1/3の深さまで圧迫 するべきである70,71。2つの方法が説明されて いる 。それらは両手で胸を包み込み、背中を支え、両親指で圧 迫する方法(2 thumb-encircling hands technique)72-74と、一 方の手で背中を支え、他方の手の2本の指で圧迫する方法(2-finger technique)である。 胸郭を包み込んでの胸郭包込み両母指圧迫法は、二本指による胸骨圧迫法(LOE 575; LOE 676) よりも高い収縮期圧と冠灌流圧が得られるので、新生児の胸骨圧迫法では 胸郭包込み両母指圧迫法が推奨される。しかしながら、臍血管確保でカテー テルを挿入する場合 は、二本指による胸骨圧迫法が好ましいかもしれない。

 非常に低い児齢の新生児では、圧迫時間が弛緩時間よりも やや少ない方が、血流に関しては理論的 に有利である77。また、胸骨圧迫と換気は、同時に行わ れることを避けるべきである(LOE 6)78。弛緩期には、胸は完全に元の 状態まで膨らむべきであるが、救助者の親指は胸から離れてはならない。圧 迫・換気の比は3:1で、毎分90回の圧迫と30回の呼吸、それを合計する と約120回となり、この割合の中で換気を最大にすべきである(クラス未確 定)。このようにして、毎回の換気の後の最初の圧迫のときに呼気が起こり、 各々の単位は、およそ1/2秒で行なわれるであろう。

呼吸、心拍、および身体の色調を30秒ごとに再評価し、協調した胸骨圧迫と 換気を、心拍が毎分60回以上にもどるまで続けるべきである(クラスIIa; LOE 8)。


■薬剤投与(Medications)

 新生児の蘇生で、薬剤が必要となることはまれである79。 新生児の徐脈は通常、肺の膨張が不十分であるか著しい低酸 素血症のためにおこり、十分な換気をすることがそれ(徐脈)を是正するための 最も重要なステップとなる。 しかしながら、100%酸素での十分な換気と胸骨圧迫にもかかわらず、心拍数が 毎分60回未満のままである場合には、アドレナリンまたは容量負荷(volume expansion)、あ るいはその両方が適応になる可能性がある。 まれにではあるが、蘇生後に緩衝液または麻薬拮抗薬、昇圧薬を投与することが役立つかも知れない。

アドレナリンの投与経路と用量

過去のガイドラインは、アドレナリンの初回量を気管チューブから投与することを推奨したが、 それは静脈路が確保されていなければまずその処置が必要であり(when an intravenous route must be established)、それよりも経気管経路の方が早く投与することができ るという理由のためであった。 しかし、経気管アドレナリン投与が効果を示した複数の動物実験(LOE 6)80-82 では現在の推奨量をはるかに上回る量が用いられており、他方、 気管内への現在の推奨量を用いた1つの動物実験(LOE 6)83では全く効果がなかった。 経気管アドレナリン投与に関するデータ(訳者註) が不足しているので、静脈確保がなされたならばすぐに静脈ルートを用いるべきである。

訳者註:原文は以下の通りであるが、「気管内アドレナリン投与に関す るデータ」が不足しているというより「気管内アドレナリン投与の有効性を示すデータ」が不足している と書くべきであったろう。
Given the lack of data on endotracheal epinephrine, the IV route should be used as soon as venous access is established.

 推奨される静注投与量は1回あたり 0.01〜0.03 mg/kgである。 静脈内への高用量投与は推奨されない(Class III)。な ぜなら、動物実験(LOE 6)84,85および小児症例研究 (LOE 7)86 によると0.1 mg/kgまでの範囲での静注後、過度の高血圧と心筋機能低下を示 しているからだ。 経気管ルートが使われる場合、0.01または0.03mg/kgの用量ではおそらく無効であろう。 従って、1回用量0.01〜0.03mg/kgの経静脈投与が、望ましい投与法である (クラスIIa)。 気管挿管されているなら、高用量(0.1 mg/kgまで)の経気管投与を考慮してもよいが (クラス未確定)、この投与法の安全性も効果も評価されてはいない(have not been evaluated)。 どちらの投与ルートを用いるにしろ、アドレナリン濃度は10,000倍(0.1 mg/mL)希釈とする。

容量負荷(Volume Expansion)

失血が疑われたり児がショック症状(皮膚蒼白、灌流不良、脈拍微弱) を呈する場合で、しかも他の蘇生処置に十分に反応しないときには、 容量負荷を考慮する。 アルブミンよりもむしろ等張の晶質液が、分娩室における容量負荷のために 選択すべき溶液である(クラスIIb; LOE 7)87-89。 推奨される量は10mL/kgであり、同量を反復投与する必要があるかもしれない。 未熟児蘇生の場合は容量負荷が急速になり過ぎないように注意するべきである。 急速大量投与が脳室内出血をもたらした例があるからである。

ナロキソン(Naloxone)

ナロキソンの投与は、呼吸抑制のある新生児に対する分娩室で の最初の蘇生努力の手段としては、推奨されない。 ナロキソンの投与が考慮される状況では、まず換気補助により心拍数と 皮膚色を改善させなければならない。 望ましい投与ルートは、静注か筋注である。 新生児での臨床データが不足しているので、ナロキソンの経気管投与は推奨さ れない(クラス未確定)。 推奨される投与量は 0.1mg/kgであるが、新生児でこの投与量の効果を検討した 研究はない。 1例報告であるが、オピオイド常習の母親から生まれた児にナ ロキソンを投与したところ、痙攣が誘発された(LOE8)90。 従って、長期間にわたってオピオイドを常習してきたと疑われる母親から生ま れた児には、ナロキソン投与を避けるべきである(クラス未確定)。 ナロキソンは母体に投与されたオピオイドよりも半減期が短い 可能性がある。そのため、児が無呼吸や低換気を繰り返さないか厳重 に観察するべきで、ナロキソンの追加投与が必要となるかもしれない。


■蘇生後の患者管理(Postresuscitation Care)

蘇生を必要とする児は、バイタルサインが正常に回復した後も状態が悪化 する恐れがある。 蘇生後の児は、いったん十分な換気と循環が確保されたら、 その部署で、あるいは転送の上、適切な病棟などで厳重なモニタリング と必要な治療(anticipatory care)を実施するべきである。

グルコース(Glucose)

窒息後に蘇生された動物の新生児のモデル(LOE 6)91では、 低血糖によって神経学的転帰が悪化した。 無酸素性または低酸素・虚血性の傷害時に低血糖であった 動物の新生児(LOE 6)92,93では、対照群と比較して、 脳梗塞の範囲が広いか生存率が低い、あるいはその両方が認められた。 1つの臨床研究(LOE 4)94は、周産期における窒息後の低血 糖が神経学的転帰が不良であることと相関していることを示した。

成人では高血糖はより悪い転帰と相関している(LOE 7 [外挿法 による研究]95)が、新生児においては高血糖と神経学的転帰の関連性を調 査した臨床研究はない。 窒息から蘇生した後脳傷害が最小となる血糖値の範囲を、 現在得られているエビデンスによって規定することはできない。 積極的な蘇生を必要とする児は血糖値が正常範囲内に維持 されるように、監視し治療するべきである(クラス未確定)。

治療的低体温(Induced Hypothermia)

仮死(asphyxia)の疑い(出産時に蘇生が必要、代謝性アシドーシスおよび 早期脳障害で示される)のある新生児についての 多施設試験(LOE 2)96において、選択的頭部冷却 (<34〜35℃)は、18ヵ月の時点で重度の障害をもつ全生存者数の減少とは 相関しなかったが、中等度の脳障害をもつサブグループにおける 有意な有効性が認められた。 重度の低振幅脳波と痙攣を伴う乳児には、中等度低体温療法 は有効ではなかった(LOE 2)96。 新生児仮死に陥った児(出産時の蘇生の 必要性または代謝性脳症の存在によって示される)に関する2つ目の大規模 多施設試験(LOE 2)97では、中等度から重度の脳障害に対して33.5℃ (92.3 °F)までの全身低体温療法が行われた。 (そして)低体温により、18ヶ月の時点での死亡または中等度の障害が有 意に(18%)減少した。 仮死新生児に対して早期に全身低体温を導入した3 つ目の小規模対照パイロット研究(LOE 2)98,99によると、12ヶ月の時点での 死亡と障害はより少なかった。

中等度低体温は徐脈や血圧上昇を伴うが、それは通常治療を必 要としない。しかし急激な体温上昇は低血圧をもたらす可能性がある (LOE 5)100。 核心温を33℃未満まで冷却すると不整脈や出血、血栓症、 セプシスが起こる可能性があるが、今までのところでは中等度(例えば、 33〜34.5℃ [91.4 〜 94.1°F])の低体温療法をうけた乳児で、これらの合 併症を報告した研究はない(LOE 2)96,101

新生児仮死が疑われる児の蘇生後に、中等度の全身性または 選択的脳低体温をルーチンに適用することを推奨する十分なデータは ない(クラス未確定)。 どのような乳児に最も役立ち、どのような冷却法が最も有効であるかを決 定するためには、さらに多くの臨床試験が必要である。 高体温(体温上昇)を回避することは低酸素・虚血性疾患が疑われる児では特に重 要である。


■蘇生を控えることと途中で中止することに関するガイドライン
(Guidelines for Withholding and Discontinuing Resuscitation)

新生児の疾病罹患率と死亡率は、地域によりまた医療資源がどの程度利用可 能かによって左右される(LOE 5)102。 社会科学的研究103によると、両親は重度の障害をもつ新生児に対して蘇生を 開始するかどうか、そして生命維持治療を継続するかどうかを決定する際に、 もっと関わりを持ちたいと望んでいる。 そのような新生児に対する積極的治療の利点と欠点については、新生児医療に従事する人たちの間でも様々な意見がある(LOE 5)104

蘇生を差し控えること(Withholding Resuscitation)

蘇生を差し控えることが妥当と考えられるような、高い死亡率と不良な転帰 につながる状態であると判定することは可能である。そのことは 両親に同意の機会があればなおさらである(LOE 5)2,105

産科および新生児科チームと児の両親が、一貫性と協調性をもって個々の 症例に取り組むことが重要な目標である。 蘇生を開始しないことと、蘇生中や蘇生後の生命維持治療の中止は、 倫理的に同義であり、臨床家は児が十分な身体機能を期待できる状態で生存できること (functional survival)がほとんど見込めない場合に、 治療中止を躊躇すべきでない。 以下の指針は、その時点の地域での転帰の成績に基づいて解釈する必要が ある。

蘇生努力の中止(Discontinuing Resuscitative Efforts)

蘇生を10分間行っても生命兆候が認められない(心拍と呼吸努力がない) 児は、死亡率が高いか重度の神経発達障害を来たすかのいずれかで ある(LOE 5)106,107。 継続的かつ適切な蘇生努力を10分間行った後も、生命兆候が認められない ならば、蘇生中止が妥当かもしれない(クラスIIb)。


■脚注(Footnotes)

この「Circulation」誌・特別増刊号は、http://www.circulationaha.orgで、無料で閲覧可能である。


■参考文献(References)

参考文献リスト(「Circulation」誌・web資料へのリンク)


訳者註:AHA関連資料に関する用語の問題

(1)「epinephrine」の訳

ERC G2005では「adrenaline」が用いられているのに対し、AHA G2005をはじめAHAの関連文書では 「epinephrine」が用いられている。CoSTRについては、「Resuscitation」誌上のCoSTRでは「adrenaline」、 「Circulation」誌上のCoSTRでは「epinephrine」が用いられている。われわれ翻訳ボランティアの間では以下の点で意見が一致した。

しかし、AHA G2005で「epinephrine」と表記しているものを「アドレナリン」と訳するかどうかについては意見が分かれた。

われわれのグループでは意見1の者が多く、CoSTRと関連文書の翻訳においては原文の表記にかかわらず「エピネフリン」と統一して訳することとした。同時に、「adrenaline/epinephrine」の表記については「adrenaline」を用いるのが妥当と考えられ、国際的な論議がなされ、この語に統一されることを希望する。

(2)「気管(tracheal)」か「気管内(endotracheal)」か

AHA G2005で出てきた「endotracheal (tubeなど)」を「気管内」 と訳するか「気管(チュ−ブなど)」とするかについても論議があった。

この語に関する経過として、AHA G1992までは「endotracheal tube」、「endotracheal intubation」と 記載されていたが、G2000で「tracheal tube」、「tracheal intubation」 に変更された。ところがこのG2000ですら、 小児篇では「endotracheal intubation」と「tracheal tube」が用いられている。 という使い分けになっております。恐らく、小児篇の著者にこの用語に関する方針が十分に伝わっていなかっ たのであろう。そして今回、AHA G2005の「endotracheal tube」という記載になってきたものと思われる。

AHA G2005に出てくる「endotracheal (tubeなど)」の訳についても、われわれの論議は「epinephrine」 の場合と同様の決着をみた。すなわち、CoSTRと関連文書における原文の用語不統一をあえてそのままにするの ではなく、臨床上問題がなければ日本語表記を統一するのがよいという意見が多く、「気管(チュ−ブなど)」 と訳することになった。われわれの訳ではAHA G2005に「endotracheal (tubeなど)」という古い表現が用いられて いることが隠されてしまうことになる。しかし、私共の翻訳の利用者におかれては、AHA自身の方針として、また世界的な 流れとして、「tracheal (tubeなど)=気管(チュ−ブなど)」を用いることが妥当であることに留意いただきたい。 さらに、当然ながら、日本の新しいCPR指針においても、「気管(チュ−ブなど)」の表現で統一していただくことを希望している。


CoSTR粗訳(フロントペ−ジへ)