AHA新ガイドライン

第2部 倫理上の問題
(Part 2: Ethical Issues)

目次
はじめに
(蘇生)倫理における原則
CPRの保留と中断
院外蘇生術に関する問題
家族への感情的支援の提供
組織と臓器提供の倫理
研究と訓練の問題
参考文献


[現在の翻訳レベル=一次チェック後 060607]

■はじめに(Introduction)

 緊急心血管治療が目指すものは、生命を維持し、健康を回復し、苦痛を 軽減し、障害を限定し、臨床的な死を覆す(reverse clinical death) ことである。(しかし)患者のことや事前指示(an advance directive)の有無について 知らない救助者が(患者との接触後)直ちに、CPRを行なうかどうかを決 定することがしばしばある。 その結果、CPRを行なうことが患者の願望や(彼らの) 最善の利益と食い違うことがある1。この章では、医療従事者が緊急心血 管治療を行なうのか、差し控えるのかの困難な決断を下す為のガイドラ インを提示する。


■(蘇生)倫理における原則(Ethical Principles)

 蘇生行為(a resuscitation attempt)を開始したり終了したりする場合には、 倫理規範や文化的規範を考慮しなければならな い。医師は蘇生における意志決定の役割を果たさなければならないが、 (その際には)科学的に証明されたデータや患者の選択に従うべきである。

患者の自己決定権(Patient Autonomy)の原則

 一般に患者の自己決定権は倫理的にも、法的にも尊重されている。 者は(必要な)医療行為の内容(what an intervention involves) について理解し、これに対し同意あるいは拒否できるとみなされている。 成人の患者は、裁判所で禁治産者または責任能力がないと宣告された場 合を除いて、意志決定能力があるとみなされている。 (患者が)真に情報が与えられた上での決定(truly informed decisions)をするためには、 患者が自分の病状と予後、提示された医 療行為の内容、替わりに選びうる治療(alternatives)、およびそれら の治療の危険性と利点などについての正確な情報を受け取りまた理解する必要がある。 患者は提示された選択肢の中から自分が受ける治療を選び取る (deliberate and choose)ことができるべきであり、その決断が(自分や 世間の)安定した価値体系と結びつくようでなければならない(relate the decision to a stable framework of values)。 病気や投薬や抑欝などの因子によって一時的に意志決定能力が損なわれ ている場合には、これらの状況を治療すれば意志決定能力が回復するか もしれない。患者の選択(preferences)がはっきりと わからない場合には、患者の選択が明らかになるまでは、 緊急の病状を改善することを治療の主眼と するべきである。

事前指示(Advance Directives)、リビングウイル(Living Wills)、患者の自己決定(Patient Self-Determination)

 事前指示とは、終末期医療に対する患者の考え、希望、選択(preferences)に関する(様々な形での)意思表示である。 事前指示の内容は本人の口述、書面での指示、リビングウイル、あるいは患者が受ける医療に関する永続的な委任状(durable powers of attorney for health care、訳者註)などが基になる。 色々な型式の事前指示の法的妥当性は、管轄区域ごとに様々(varies from jurisdiction to jurisdiction) である。裁判所は書面での事前指示のほうが会話の回想より信頼に足るとみなす。

訳者註:「durable powers of attorney」。辞書によると「power of attorney」は「代行権限」とあり、「委任状」は「a letter[a warrant]of attorney」となっている。一方で「power of attorney」が「委任状」を表すこともあり、そのうち作成者が意思表示不能に陥った後にも法的効果が持続するものを「durable powers of attorney」と言うようだ。参考ウェブ(http://www.junglecity.com/pro/estate/7.htm)。

 リビングウイルとは、終末期になり意思決定が出来なくなったときに自 身が受けるであろう医療(medical care the patient would approve) についての、患者の医師に対する書面での指示である。 リビングウィルは患者の希望に関する明確な根拠となり(constitutes clear evidence)、 (その内容は)大部分の地域で合法的に実施されている。

 患者の要望や病状は経時的に変わる可能性があるので、リビングウィルと 事前指示は定期的に見直されるべきである。 1991年の患者の自己決定権法(Patient Self-Determination Act)では、 医療施設と管理医療組織(managed-care organizations) では患者が事前指示を持っているかどうか尋ねるように求めている。 (上記法律により)医療施設では、患者が事前指示の作成を要望する場合、それを完 成することを(the completion of advance directives)を手助けするよ うに求められている。

意志決定代理人(Surrogate Decision Makers)

 患者が医療上の意志決定能力を喪失した時には、近親血縁者(a close relative)や友人が意志決定代理人になることができる。ほとんどの州には、責任能力のない(incompetent)患者で、(自ら)医療に関する 永続的代理人(訳者註)を指名していなかった者の ために、法的な意志決定代理人(後見人)を任命する法律がある。 事前に任命された意志決定人がいない場合には、法律では後見人の職務   の優先順位を次のように認めている:(1)配偶者、(2)子(成人であること)、(3)親、(4)親戚、(5)責任能力の無い患者の世話をしている人から指名された人、(6)法律で定められた介護の専門家。 代理人は患者が前もって表明した選択肢(previously expressed preferences)が分 かっていれば、それに基づいて意志決定をするべきである。 そうでない場合は、代理人は患者にとって の最大利益に基いて(on the basis of the patient's best interest)意志決定をするべきである。

 小児はその成長度にふさわしい度合いで(at a level appropriate for their maturity) 意志決定に関わるべきであり、可能な場合には医療上の決定に対する同意を求められるべきである。 18歳未満の患者が、法的に明示された特殊な状況(例え ば、親権を放棄された未成年、性感染症や妊娠のような特定の健康状態)以外の場合に、自分が受ける医療に関して同意する法的権限を有している事はほとんどない。しかし、年長児における意見の相違 は真剣に受け止められるべきである。もし両親と年長児の間で治療方針に対する意見の不一致がある場合には、 これを解消するようにあらゆる努力をするべきである。青少年に対する医療行為にお いて強要が妥当である事はほとんどない。

無益(futility)に関する原則

 治療の目的が達成されなければ、その治療 は無益であったとみなされる。医学的に無益であることの主要な決定要因は、命の長さと質である。これらが改 善された(establish any increase)と立証できない治療行為は無益ということになる。

 患者や家族が適切とは言えない医療を行うよう、医師に求める かもしれない。しかし、その治療が無効であるとの科学的および社会的コンセ ンサスがあれば、医師にはそのような治療を行なう義務はない2 。一つの例として、不可逆的な死の徴候(signs of irreversible death)のある患者へのCPRが挙げられる。 さらに、医療従事者は、もしCPRや二次救命処置(ACLS)が無益であると 予想された時(すなわち、CPRにより有効な循環が回復しそうもない場合) には、CPRを行なう義務はない。臨床的状況が上記にあてはまらない場合(beyond these clinical circumstances)、また事前指示やリビングウィルが無い場合には、全 ての患者に蘇生を行なうべきある。

 命の長さと質についての患者予後の注意深い評価によって、 CPRを行うことが適切かどうかが決まる。 生存が望めない場合にはCPRは不適切である。 生存のチャンスがボーダーライン上にあり、 (予想される)死亡率が比較的高く、患者への負担が重い状況の場合には、 蘇生開始に関する患者の要望(またはそれが不 明な時には)法的権限のある意志決定代理人の選択を支持するべきである。 蘇生を開始しないことと蘇生中及び蘇生後に生命維持治療を中断する 事は倫理的に同等であり、予後が不明確な状況においては、生存の可 能性や予期される臨床経過を判断する助けとなるより多くの情報を収集 しつつ、治療の努力を考慮(a trial of treatment should be considered) するべきである。


■CPRの保留と中止
(Withholding and Withdrawing CPR)

CPRを開始しない基準

 CPRが無益であることを正確に予測できる基準はほとんど無いことが科学 的評価で示されている(Part 7.5:「蘇生後の治療」参照)。 このような不確実性を考慮に入れると、以下のような状況が無い場合には、心停止に陥った 全ての患者に蘇生を行うべきである。

 ほぼ確実に早期に死亡するような在胎周数、出生時体重、先天奇形であ った場合や稀に生存したとしても許容しがたい病的状態になりそうな場 合には、分娩室で新生児に対して蘇生行為を差し控える事は適切である。 刊行された文献からそのような事例として、極小未熟児(23週未満ま たは出生時体重400g未満)と無脳症の2つが挙げられる。

蘇生努力の終了(Terminating Resuscitative Efforts)

 蘇生行為を終了するかどうかの決断は病院で治療にあたる医師に委ね られており、次のような多くの因子を考慮して決められる。すなわち、 CPR開始までの時間、除細動までの時間、合併疾患、心停止前の患者の状態、心停止 当初の心電図波形などである。これらの因子どれ一つをとっても、それだけで、 または色々と組み合わせても転帰を明確に予測することはできない。

 倒れるところが目撃されている場合、その場に居合わせた人がCPRを行な った場合、ならびに倒れてから専門家の到着までの時間が短い場合には蘇生が成 功するチャンスは高くなる。

 小児蘇生の転帰に関する多くの報告では、蘇生時間が長くなるにつれ て生存率は低下する3。蘇生の転帰に関する多くの報告では、神経学的後 遺症なしに生存して退院するチャンスは蘇生時間が長くなるにつれて少 なくなる4-7。ACLSを継続しても患者が蘇生できないことが確かである 場合には(if there is a high degree of certainty that the patient will not respond to further ACLS)、主治医は蘇生行為を中止すべきである。

 新生児では、継続的なまた適切な蘇生努力を10分以上行なって も生命徴候が認められない場合、蘇生を中止する事は許容されうる。 10分以上の徹底した蘇生努力を行なっても反応が無い場合には、生存する見込み や障害なく生存する見込み(the prognosis for survival or survival without disability)はきわめて低い8-11

 これまで(in the past)、小児においては蘇生が長時間にわたり2回のアドレナリン投与 によっても自己心拍の再開(ROSC)が得られなかった場合には、生存の 見込みはないと考えられていたが12、院内で非常に長時間にわたる蘇生 を行なった後に神経学的に異常なく生存した例が報告されてきている13-15。 再発性あるいは難治性のVFやVT、薬物中毒、低体温による 心肺停止などの乳児や小児に対しては長時間にわたり蘇生が行なわれる べきである。

 転帰不良を軽減する因子がない場合(in the absence of mitigating factors)には、 長時間にわたる蘇生を行なっても蘇生される見込みはない16。しかし、どの ような時間であれ心拍再開(ROSC)が認 められた場合には、蘇生努力をさらに続けることは適切であるかもしれ ない。蘇生努力をさらに続けるかどうかを判断する場合には、薬物中毒、 心停止前の著明な低体温(例えば、氷水中への水没 submersion)などの他の問題も考 慮すべきである。

DNAR指示(DNAR Orders)

 CPRは、他の医療行為と異なって、緊急治療に関する暗黙の合意に 基づいて医師の指示がなくとも開始される。CPRを差し控える(withhold CPR)ためには医師の指 示が必要である。医師は内科的、外科的治療の為に入院した全ての成人 患者またはその代理人とCPRを行なうかどうかの協議をしなくてはなら ない。末期の患者は死よりも切り捨てられること(abandonment) や疼痛を恐れるので、医師は蘇生を行なわない場合であっても、痛みの コントロールや蘇生以外の内科的治療は継続すると患者や家族を安心さ せる(reassure that)べきである。

 主治医は患者のカルテにDNAR指示をその理由とともに記載すべきである し、その他の特定の治療上の制限があればどのようなものであっても記 載すべきである。治療制限指示は生じる可能性のある特定の緊急治療に 関する指針(例えば、昇圧剤、血液製剤、抗生剤の使用など)を含むべ きである。DNAR指示の範囲はどの治療を差し控えるのかに関して具体的 でなければならない。その指示内容に含まれていない場合には、DNAR指 示が点滴、栄養、酸素、鎮痛、鎮静、抗不整脈剤、昇圧剤などの治療を 自動的に除外するものではない。除細動と胸骨圧迫は受 け入れるが、気管挿管と人工呼吸は受け入れないことを選択する患者も いる。

 DNARの口頭指示は受け入れられない。主治医がその場にいない場合には、 看護師は主治医が遅滞なく指示に署名するつもりであることを了解して (with the understanding that the physician will sign the order promptly) 電話でのDNAR指示を受けることが出来る。DNAR 指示は定期的に、患者の状態が変わった場合には殊に見直されるべきで ある。

 主治医は看護師、コンサルタント医師、病棟医、患者またはその代理人 にDNAR指示と今後のケアの計画の両者を明確にしておかなければならな い、また、意見の不一致(conflicts)に関して協議し解 決する機会を設けなければならない。基本的な看護と鎮痛ケア(例えば、 口腔衛生、スキンケア、体位管理、疼痛と症状緩和対策など)は常に継 続されなければならない。DNAR指示は蘇生以外の治療に影響を及ぼすも のではなく、蘇生以外の様々な治療計画はDNAR指示とは別個に記載され、 スタッフに伝えられなければならない。

 DNAR指示は手術の前に、麻酔科医師、担当外科医(attending surgeon)、 患者やその代理人によって見直され、手術室や術後回復室 においても適用されるかどうか決定すべきである。

DNAR指示のある患者へのCPRの開始

 非可逆的な死の徴候(以下に列挙)がない心停止または呼吸停止の患者 に対応する医療従事者は、法的に正当な不治療の指示(理解可能な事前指示、 DNAR指示、正当な代理人の指示)がない場 合、もしくはそれらの指示を入手するまでは、即座に全力で蘇生行為を 行なうべきであることが、DNAR指示に関する研究で示唆されている。院 外でのDNAR指示は生命徴候のない患者に適応される17,18

救命治療の中止(Withdrawal of Life Support)

 救命治療の中止は家族にとっても、スタッフにとっても感情的に複雑な 決断(emotionally complex decision)である。救命治 療を開始しないことと中止する事は倫理的に同様のことである。患者が 死亡したと確定した場合、(また)治療の目標を達成できないと医師と 患者または患者の代理人が合意した場合、(あるいは)患者にとって治 療を継続する負担がどのような治療効果をも上回ると思われる場合には、 救命治療の中止の決断は正当と認められる。

 心停止から心拍再開(ROSC)し、その後に意識が回復しない患者も存在する。ほとんどの 場合、心停止後深昏睡(GCS<5)のままである成人の予後は、2〜3日後 には正確に予測することができる19。特定の身体所見や臨床検査は こうした予後予測の作業に役立つ(helpful to assist with this process)可能性がある。 無酸素―虚血による昏睡の転機に関する33の研究のメタ分析においては、次の3つ の因子が予後不良と関連することが示された。

 1914例の患者に対する11の研究に対して実施した最近のメタ分 析21は、うち4項目が該当すれば死亡や神経学的転帰不良が高率に予測 される蘇生後24〜72時間の間の5つの臨床徴候(下記)について記載し ている。 :

 このような状況では救命処置の中止は倫理的に許 容される。

 不治の病の末期の患者では、意識の有無にかかわらず、癒しと尊厳を保 障するケアを受けるべきである。痛み、呼吸困難、譫妄、痙攣やその他 の末期の合併症に関連した苦痛を最小限に抑えるためにケアが行なわれ る。そのような患者に対しては、痛みや他の症状を軽減する為に麻薬や 鎮静剤の投与量をだんだんと増やす事は、たとえそれに伴って患者の生 命を短縮する可能性がある投与量に達し ても、倫理的に許容される。


■院外での蘇生に関する問題
(Issues Related to Out-of-Hospital Resuscitation)

CPRを差し控えることとCPRの中止

 BLSトレーニングでは心肺停止の場面に最初に到着した市民救助者に CPRを開始するよう強く要請している。医療従事者は応召義務の一部と してBLSとACLSを行なうことを期待されている。この規則にはいくつか の例外がある。

 市民救助者であっても専門家であっても、現在のあるいは予測される神 経学的な状態に基づいて心肺停止者の現在あるいは将来の生活の質に関し て判断を下すべきではない。そのような即座の判断はしばしば不正確であ る。非可逆的脳損傷や脳死のような状態を確実に見極めたり予見したりす ることはできないので、(蘇生後に予想される)生命の質(quality of life)をCPRを 差し控えることの判断基準として用いることは決してあるべきでない22-37

 院外での DNAR指示は関係者全員(例えば、医師、患者、家族、最愛の人、 病院外の医療従事者)に対して明白でなければならない。事前指示(advance directives) は様々な形で表すことができる(例えば、医師による文書化された臨床指示、財布に入れる 証明カード、証明ブレスレット、地域の救急医療サービス当局により承認されたその他の手段)。

 救急医療サービス(EMS)に対する理想的なDNAR指示書(the ideal EMS DNAR form)は患者 搬送時に携行できるものでなければならず、(心停止時の)病院外DNAR 指示に加えて、(重篤ではあるが)脈があり呼吸がある状態において生 命維持治療を開始または継続するかどうかについても救急医療サービス (EMS)に指示できる様式でなければならない。

院外における事前指示

 心肺停止で911へ連絡されたかなりの数の患者は、慢性疾患を患っ ていたり、末期状態であったり、事前指示書(DNAR指示)を持っていた りする。州やその他の自治体には院外DNARや事前指示に関する様々な法 律がある38。DNAR指示を有する患者の一部では、とりわけ家族の間で意見 の相違がある場合には、蘇生を開始するべきかどうかを決定するのが困難 な場合がある。救急医療サービス(EMS)従事者は以下に該当すると信 じる理由がある時にはCPRとACLSを開始するべきである。

 蘇生が開始されて数分以内に親戚あるいは他の医療関係者が到 着し、患者が蘇生を開始しないでという希望(a wish that resuscitation not be attempted)をはっきりと表明していたことが確認されることがある。 より確かな情報が得られた段階で、指導医師の了承・指示によりCPRやそ の他の生命維持の治療は中止されるかも知れない(may be discontinued with the approval of medical direction)。

 EMS従事者が患者の希望に関するはっきりした情報を入手することができない場合には、蘇生を開始 するべきである。

 患者家族は、院外で心肺停止に陥った時に、EMS従事者が院内 で記載された事前指示に従わないのではと心配するかもしれない。 この問題に対しては、患者が救急医療サービスの世話になる可能性のあ る自治体で使われている適切な書式で院外DNAR指示を記載するように、医 師に依頼することで対処するべきである。DNAR指示は、EM S従事者が緊急事態の現場に到着した時すぐに彼等に提示できる ようになっていなければならない。EMS従事者にDNAR指 示が提示されない場合には、心肺蘇生が行なわれるべきである。そのよ うなジレンマを避ける鍵は、心肺停止となる以前から治療を行なってい た、患者のかかりつけ医にある。

院外BLSシステムにおける蘇生の終了

 BLSを開始した救助者は次のいずれかが起こるまでBLSを継続するべき である。

 多くの州では除細動器は救急車の必須の標準装備であるので、適切に BLSが行なわれた後に除細動器で「ショック適応」のリズムでない場合に は、ACLSチームが適切な時期に到着しければ、BLSを終了する重要な基準 となり得る(can be the key criterion for)。州または地域の救急医療サー ビス当局は迅速なACLS対応ができない、または対応が極端に遅れる可能性 のある地域でのBLSの開始と終了のプロトコルを作成しなければならない。 (また)地域の事情、(救急医療に関する医療)資源、救助者のリスクを考慮すべきである。

心停止患者の搬送

 もし救急医療サービス(EMS)システムが死亡を宣告し心肺蘇生を終了 することを医師以外に許可しなかった場合には、適切なBLS/ACLSに反応 しない心停止による死亡者を病院へ搬送せざるを得ないかもしれない。 そのような行為は非倫理的である。

 このような状況は次のようなジレンマを作り出す:BLS/ACLSプロトコ ルを慎重に行なった病院外での蘇生が不成功だった場合に、どうして救 急外来での同様の治療が成功することがあり得るだろ う? 多くの研究では、CPRを続けながら病院に搬送された患者のうち生存退院 に至る者は1%未満であることが、一貫して観察されている。

 CPRやACLSを行なっているように見える、いわゆる「slow-code」 (無効な処置を行なっていると自覚しつつ実施する蘇生)と言われる遅 延した、または形だけの蘇生は不適切である。このような行為は医療従事者の倫理 的な品位を傷つけ、医師―患者/看護師―患者関係を台無しにする。

 多くの救急医療サービス(EMS)システムは院外で心肺蘇生 を終了する権限を与えている。死亡を宣告し遺体を救急車両以外の輸送 手段で適切に搬送するプロトコルが制定されるべきである。 救急医療従事者は(このような状況で、死亡した傷病者の)家族 や友人に共感的(sensitive)な態度で対応することに重点を置けるよう に訓練されなければならない。


■家族への精神的支援の提供
(Providing Emotional Support to the Family)

 最善の努力をしても、ほとんどの心肺蘇生は不成功に終わる。家族に最愛の人が 死亡したと知らせる事は、家族の文化的、宗教的な信念 やしきたりに配慮し(with care taken to accommodate)、 思いやりを持って行なわれるべき蘇生行為の重要な一面である39,40

 小児の蘇生中、あるいは傷病者を小児に限らずとも(during the attempted resuscitation of a child or other relative)、蘇生が行 なわれている間、家族はしばしばその場からはずされてきた。 調査によれば医療従事者は蘇生時に家族が同席 することに関して色々な意見を持っていることが示唆されている41-51。 いくつかの評論解説では、家族がその場を混乱させたり蘇生行為を妨げ たりする可能性、家族が失神する可能性、法的責任にさらされる危険 が高まる可能性を指摘している。

 しかし、蘇生行為を目にする前に行なわれたいくつかの調査では、大 多数の家族は蘇生の間にその場にいたいと望んでいることが明らかとな った45-49。医学的背景のない家族にとって、人生最後の瞬間に最愛の 人の傍にいて別れを言える事は慰めになると報告されてい る45,46,50。家族が蘇生に立ち会うことは最愛の人の死を乗り越える(adjust)助けに なるとも報告されており50,51、ほとんどの家族は同じ場面ではまた同 じように(立ち会いを)するだろうと示唆している50。いくつかの後ろ向き研究では家 族からの肯定的反応が示されており41-43、彼らの 多くが最愛の人の力になれたという気持ち(a sense of having helped their loved one)になり、また自分の悲しみが和げ られたと述べた44。調査を受けたほとんどの親は、わが子の蘇生の場へ の立ち会いを望むかどうかを(自ら)決定する選択肢を与えて欲しいと 願っていた43,52

 したがって、有害であることを示すデータがなく有益である可能性を 示すデータを考慮に入れると、選択された家族に蘇生の間に同席する機 会を与えることは理にかなっており望ましいことであると思われる(成人 の患者が前もって同席に反対の意思を表示していなかった場合)。両親 や他の家族は、医療従事者に同席するよう勧められなければ、同席が可 能かどうか尋ねることはほとんどない。蘇生チーム員は蘇生中の家族の同 席に気遣うべき(should be sensitive to the presence)で あり、家族の質問に答えたり、事情を説明したり(clarify information)、あるいは 慰めたり(offer comfort)するために、チーム員を1人割り当 てるべきである49


■臓器と組織の提供の倫理
(Ethics of Organ and Tissue Donation)

 緊急心臓血管治療協議会は臓器と組織の提供に応じるべく努力すること を支持する。救急医療サービス(EMS)機関のメディ カルディレクターはその地域での臓器斡旋プログラムと以下の問題を検 討するべきである。


■研究と訓練の問題
(Research and Training Issues)

 死亡直後の患者を訓練に利用することは重要な倫理的および法的問題 を惹起する。家族の同意を得ることは理想的で亡くなったばかりの傷 病者にも敬意をこめた方法(respectful of the newly dead)であるが、 心停止の際に同意を得ることは可能とは限らず、また実際的でもない。 研究を擁護する者は、このような状況で同意があると推定する事が生存者 のためになるであろう「より良い価値(greater good)」 として役に立つと主張している。死体は「人格」がなく、自己決定権や 利害(interest)もないため、同意は不要であるとする他の 主張もある。しかし、これらの主張は死亡して間もない最愛の人を訓練 や研究のために使うことに反対するかもしれない遺族を傷つける可能性 があることを考慮していない。この考えは、死体を利用することを許容 あるいは拒否することの土台にある重大な文化的な相違(significant cultural differences in the acceptance or nonacceptance of the use of cadavers)をも無視するも のである。

 心肺停止の患者の臨床的研究はやりがいのあることである。一般的に、 人間を対象とした研究は対象者の同意や、時には法的に認可された代理 人の同意が必要である。このことが心停止の患者を対象とした研究にと って課題となっていることが判明している。なぜなら同意を得ることが 困難かもしれない時にしばしば研究としての介入を実施しなければなら ないからである。十分な国民による議論の後、この種の人間を対象とし た研究の価値を認めて、政府は FDA(Food and Drug Administration) と NIH(National Institutes of health)を通じて、ある種の限られた状 況においては例外的に説明と同意(informed consent)を省略することを 許可(allow an exception for the need to obtain informed consent)する 規定を承認した。研究前の厳しい勧告(stringent preresearch directives)により、研究者は専門家に加 えて研究患者になる可能性のある一般人の代表者と協議することが要求 されており、研究方法の詳細に関して全て国民に情報開示することが要 求されている。研究者は蘇生研究の必要性に関する包み隠しのない公開 の討論に参加し、現在の多くの蘇生行為には科学的根拠が欠けているこ とを認め、研究には多くの利点が見込まれることを説明しなければなら ない。

 1996年にアメリカ議会は一般にHIPAAと呼ばれる医療保険の相互運用性 と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act) を可決した。その名前が示唆するように、HIPAA法制定の主要な目 標の一つは医療保険の供給安定性と継続性を保証することであるが、過 去数年にわたり患者の医療情報と医療記録のプライバシーを保護する条 項を盛り込むように修正されてきた。詳細は http://www.hhs.gov/ocr/hipaa/finalreg.htmlを参照のこと。 訓練と研究にかかわる医療従事者は患者のプライバ シーと患者データの機密性の保護に注意を払わなければならない。


Footnotes
 この「Circulation」特別増刊号は
http://www.circulationaha.orgから無料で参照できる。


参考文献(省略)


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