AHA新ガイドライン

第7部(5)蘇生後の治療
(Part 7.5: Postresuscitation Support)
目次
はじめに(Introduction)
蘇生後転帰の改善
心拍再開
体温の調節
血糖値のコントロール
臓器ごとの評価と治療法
予後を規定する因子
まとめ
参考文献


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■はじめに

心停止後の心肺脳蘇生(CPCR)に引き続いて行われる治療手段について、特別に扱った無作為対照研究はほとんどない。それにもかかわらず、蘇生後の治療手段には、循環動態の不安定や多臓器不全による初期の死亡率や、脳障害による後期の死亡率/有病率を改善できる、重要な潜在的可能性がある。この章では、現在研究が進められている、心停止から蘇生された患者において直面する循環動態異常、神経学的異常、代謝学的異常に対する諸説を総括する。

 蘇生後の治療の当初の目的は以下を達成することである。


■蘇生後転帰の改善

 蘇生後の治療は二次救命処置の重要な構成要素である。心拍が再開し(ROSC)、当初状態が安定した後も、患者の死亡率は依然として高い。当初の72時間以内に最終的な転帰を決定する事は困難2であるかもしれないが、心停止からの生還者には、なお、通常の生活を営める可能性がある3-5。蘇生後の治療において、治療者は以下の事を行なうべきである。(1)循環動態、呼吸、中枢神経系に対する最適な治療を行う。 (2)心停止の改善可能な原因を同定し治療する(3)体温をモニターし、体温調節傷害と代謝障害の治療を考慮する。以下の初めの章では、特に重篤な生存者において、蘇生後の転帰改善をもたらし得る初期の状態安定化と体温/代謝因子に関して考察する。その後の章では、臓器特異的な評価と治療に焦点をしぼった。


■心拍再開

 蘇生後の治療の第一の目的は、臓器と組織の有効な灌流を確立することである。病院外、病院内での心拍再開(ROSC)の後、治療者は心停止の原因と低酸素/虚血/再灌流傷害の結果すべてを考慮し治療しなければならない。多くの場合、心停止に合併したアシドーシスは適切な換気と灌流が回復すると自然に改善する。しかし、血圧が回復してガス交換が改善したとしても、生存と機能的回復が保証されるわけではない。重篤な気絶心筋状態(myocardial stunning)と循環動態の不安定化が生じ、昇圧剤の投与が必要になる可能性がある。蘇生後死亡のほとんどは24時間以内に生じる6,7

 理想的には、患者は覚醒しており、反応があり、自発呼吸できる。あるいは、患者は当初昏睡状態かもしれないが、蘇生後の治療の結果完全回復する可能性があるかもしれない3。実際、心停止から回復したが当初昏睡であった患者の最大約20%は1年後の神経学的転帰が良好であったと報告されている8。初期生存者に対する病院での最良の蘇生後治療の手順がどのようなものであるかは完全には解明されていないが、転帰を改善する可能性のある治療を識別し最適化することに関して関心が高まっている9。患者の初期の状態如何にかかわらず、治療者は気道と呼吸を適切に維持し、酸素を投与し、患者のバイタルサインをモニターし、とられてきた静脈ラインを確認するか新たに静脈ラインをとり、また全ての留置カテーテル類について確認をすべきである。

 担当医は頻回を患者を診察・評価し、バイタルサインの異常や不整脈を治療し、患者の評価にさらに役に立つ検査を指示する必要がある。どのようなものであっても、心停止の増悪因子となり得る心臓、電解質、中毒、肺、神経学的な因子を同定し治療することが重要である。臨床医は心停止の原因となったり蘇生中や蘇生後の治療の増悪因子となる要因を思い起こすための、「5つのHと5つのT」記憶法を復習しておくと役立つだろう。すなわち、hypovolemia 循環血液量減少, hypoxia 低酸素, hydrogen ion アシドーシス, hyper-/hypokalemia カリウム異常, hypoglycemia 低血糖, hypothermia 低体温; toxins 中毒, tamponade 心タンポナーデ, tension pneumothrax 緊張性気胸, thrombosis 心肺血栓症, trauma 外傷である。詳細については、第10章「特殊な蘇生の状況」を参照されたい。

 気道、呼吸と循環の初期評価し安定させた後に、患者の観察、継続的なモニターを行い、さらなる治療のために患者を集中治療室に搬送する。移送中、適切な訓練を受け蘇生資器材をもった人員が患者についていなければならない。


■体温の調節

低体温療法

 低体温を許容(心停止後にしばしば生じる33℃[91.5°F]までの軽度低体温)したり、積極的に低体温療法を導入したりすることは、ともに蘇生後の治療に有用かも知れない。 二つの無作為化比較試験(LOE13;LOE24)において、低体温療法(心拍再開(ROSC)後数分〜数時間以内に冷却)を行った結果、病院外での心室細動(VF)による心停止からの蘇生後初期に、昏睡が持続している成人患者の転帰が改善した。この研究においては、患者は33℃(91.5°F)3または32℃〜34℃(89.6°F〜93.2°F)4の範囲に12時間〜24時間の間冷却された。心停止後低体温療法(HACA)研究3では、少数の院内心停止の患者も含まれていた。

 3番目の研究(LOE2)10では、病院外での初期調律が無脈性電気活動(PEA)/心静止による心停止からの心拍再開(ROSC)後に、昏睡の成人患者を冷却した場合に、代謝性の指標(エンドポイント)が改善したことが示された。

 HACA3やBernard4の研究では、低体温療法に適合すると選択された患者(即ち、循環動態は安定しており、かつ心原性と推測される目撃下心停止で、昏睡が続く患者)は、心停止患者のうちの約8%にすぎなかった。このことは、低体温療法が最も有効であると考えられる患者群を診断、選択することが、重要であることを明示している。現在のところ、低体温療法導入で利益を得られる患者の数には限りがあるが、より迅速で調節性にとんだ低体温療法が導入され、至適体温、導入時期、持続期間、作用機序における知識が深まれば、将来的には、より広い範囲で低体温療法が有効であると証明されることになるだろう。新生児での窒息/低酸素についての、最近の多施設共同研究では、上記以外の患者群においても、低体温療法が有効である可能性が示された。  HACA3やBernard4の研究では、低体温療法に選択された患者(すなわち、循環動態の安定した、心原性と推測される目撃された心停止後に昏睡の患者)は心停止患者の約8%にすぎなかった。このことは、低体温療法が最も有効であると考えられる患者群を診断、選択することが、重要であることを明示している。 現在のところ、低体温療法導入で利益を得られる患者の数には限りがあるが、より迅速で調節性にとんだ低体温療法が導入され、至適体温、導入時期、持続期間、作用機序における知識が深まれば、将来的には、より広い範囲で低体温療法が有効であると証明されるされるかもしれない11。新生児での窒息/低酸素についての、最近の多施設共同研究では、上記以外の患者群においても、低体温療法が有効である可能性が示された12。  低体温療法に伴う合併症には、凝固系障害と不整脈があるが、これらは、目標体温以下に下がりすぎてしまった場合に特に生じやすい。有意に多いというわけではないが、低体温療法群では肺炎や敗血症になる例が多かった3,4。低体温群ではまた、高血糖になる例を増加させる可能性がある4

 低体温療法の研究のほとんどでは、体外冷却法(例えば、冷却ブランケットと氷嚢の頻回使用など)を用いているが、この方法では目標体温に達するまでに数時間かかる可能性がある。もっと最近の報告では13、体内からの冷却(例えば、冷却生理食塩水、冷却用血管内留置カテーテルなど)もまた、低体温療法に使用できる可能性が示されている。治療者は、低体温療法の間、患者体温のモニターを継続すべきである3,4

 総括すると、治療者は、心停止後蘇生して循環動態が安定している患者が、自然に軽度低体温(33℃以上の)に陥った際には、積極的に復温すべきでない。軽度低体温療法は、神経学的転帰にとっては有利に働き、特に合併症の危険なしに、十分遂行できるであろう。目撃者のあるVF(心室細動)での心停止後で、心原性と推定される患者のうち、治療当初に昏睡であっても循環動態が落ち着いている場合、積極的な低体温療法の導入が有益であった。従って、病院外心停止で心拍再開した昏睡状態の成人患者には、初期調律がVFなら、32から34℃に12から24時間で冷却すべきである(ClassIIa)。病院外VF以外の心停止や、院内心停止の患者においても、同様の治療が有益であろう(ClassIIb)。  要約すれば、心肺蘇生後に自然に軽度低体温(>33℃[91.5°F])になっているが循環動態が安定している患者を、積極的に復温するべきではない。軽度低体温は神経学的転帰に対して有利に働き、特に合併症の危険なしに、十分遂行できるであろう。心原性と推定される目撃された心室細動による心停止後に当初昏睡であるが循環動態が安定している場合、積極的に低体温療法を導入することは有益であった3,4,13。従って、 従って、病院外心停止で心拍再開した昏睡状態の成人患者で、初期調律が心室細動であった場合には、病院外の心停止後心拍再開したが意識のない患者は、12〜24時間は32℃〜34℃(89.6°F〜93.2°F)に冷却するべきである(Class IIa)。病院外の心室細動によらない心停止や、院内での心停止の場合にも同様の治療が有益であろう(Class IIb)。

過高熱

 蘇生後、体温が平温以上に上昇すると、酸素供給と需要に重大な不均衡が生じ、脳機能回復を損なうことがある。解熱剤を頻回に使用するとか、冷却技術による”平温維持制御療法”といった方法を用いて、蘇生直後における体温制御の影響を扱った研究は、ほとんどない。発熱は、脳障害の一つの徴候でもあり、通常の解熱剤投与では、調節が困難かも知れない。しかしながら、動物実験による脳障害の多数の研究によると、心停止からの蘇生中やその後で、体温/脳温が上昇すると、脳障害が増悪することわかっている14-17。さらに、いくつかの研究では、心停止後(LOE8)18や、虚血性脳障害で発熱(LOE7脳卒中患者からの推定18で)があったヒトでは、神経学的転帰が悪化することが報告されている。それゆえ、治療者は、蘇生後患者の体温を監視し、過高熱を避けるようにすべきである。


■血糖値のコントロール

 蘇生後の患者は回復に有害な可能性のある電解質異常をきたしやすい。多くの研究で高血糖と神経学的な転帰不良には強い相関があると証明されているが(LOE421,22;LOE59,22-26;LOE627)、血糖値をコントロールすることで転帰が改善するかどうかは示されていない。

 van den Berge(LOE1)28による前向き無作為研究では、人工呼吸を要する重症患者において血糖値をインスリンを使って厳重にコントロールすると院内での死亡率が低下することが示された。この研究は心停止後の患者に焦点を当てたものではないが、血糖値のコントロールが転帰に及ぼす効果には説得力がある。この研究では生存率が改善するばかりでなく、蘇生後の状況でよく遭遇する問題である感染合併症による死亡率をも、低下させることが示された。

 昏睡の患者では、低血糖の徴候が顕在化しにくいので、治療担当医は、高血糖の治療をする場合、低血糖にならないよう血糖値をモニターしなくてはならない。重症患者の血糖値を正常範囲に維持すると転帰が改善するという研究結果に基づき、蘇生後の治療期においても、血糖値の厳格なコントロールを続けることは、合理的である。しかし、インスリン治療を必要とする血糖値、血糖値の目標範囲、心停止後の患者における厳格な血糖値のコントロールの効果に関しては更なる研究の追加が必要ではある。


■臓器ごとの評価と治療法

 心拍再開(ROSC)後のさまざまな期間、患者は昏睡が持続したり、覚醒度の低下が見られる。自発呼吸がないか不十分であった場合には、気管挿管や、高度気道確保器具?を用いて人工呼吸することが必要となる。心拍、心調律、体循環血圧、臓器潅流などの異常により、循環動態は不安定となり得る。

 脳障害を増悪させる可能性があるため、治療医は、低酸素血症と低血圧を予防し、検知し、治療しなければならない。治療担当医は、蘇生後の基準(ベースライン)となる各臓器系の状態を判断し、必要に応じて臓器機能を補助しなければならない。

 この章の残りの部分では、蘇生直後に提供すべき、臓器ごとの治療手段に焦点を当てる。

呼吸器系

 心拍再開後(ROSC)、患者は呼吸不全となっている可能性がある。一部の患者では、人工呼吸が継続されていたり、吸入酸素濃度を上げる必要があったりする。治療者は、理学所見所見を十分にとり、胸部X線で気管チューブの深さを確認し、蘇生時の心肺合併症がないかどうかを確認すべきである。治療者は、患者の血液ガス分析の結果、呼吸数、自発呼吸努力に基づき、人工呼吸の条件を調節すべきである。 患者の自発呼吸がより有効となれば、完全自発呼吸となるまで、補助呼吸レベルを下げることができる。高い吸入酸素濃度が必要な状態が続いているときには、原因が肺なのか、心臓なのかを診断し、それに応じて、直接的な治療をしなくてはならない。

 人工呼吸が必要な患者をどのくらいの期間鎮静しておくかということには議論がある。現在まで治療の指針はほとんどない。ひとつの観察研究(LOE3)29では、挿管された患者では、治療開始後の48時間の間の鎮静剤の使用と肺炎に相関があったことが示された。しかし、この研究は鎮静を心停止後の患者における肺炎と死亡の危険因子として調査するように計画されたものではなかった。現時点では、心停止後に一定の期間鎮静薬や筋弛緩薬を使うことに関しては、支持するデータも反対するデータも不十分である(Class Indeterminate)。筋弛緩薬は、心拍再開(ROSC)後12-72時間の間は、完全に神経学的評価を妨げてしまうので、その使用は、最小限度にとどめるべきである2

 低体温療法の間は、震え(shivering)をコントロールするために鎮静が必要かもしれない。十分鎮静しているのに震え(shivering)が続く場合には、鎮静レベルを深めることに加えて筋弛緩剤治療が必要かも知れない。

換気の条件

 低炭酸ガス状態(低PCO2)が持続すると脳血流量が減少する可能性がある30-31。心停止後血流が回復すると、その結果10〜30分持続する初期の脳の過剰血流反応を生じ、次いでさらに長時間にわたる脳血流量減少を来たす32,33。この遅発性脳血流低下の間、血流(酸素供給)と酸素需要の間に不均衡が生じる可能性がある。もし患者がこの時期に過換気の状態になっていると、脳血管の収縮により脳血流量がさらに減少し、脳虚血や虚血性障害が増悪する可能性がある。

 心停止後に過換気が脳や重要臓器をさらなる虚血から保護するというエビデンスは存在しない。実際に、Saferら34は過換気を行うと神経学的な転帰が悪化する可能性があることを証明した。過換気はまた、気道内圧を上昇させるとともに内因性の終末呼気陽圧(“auto PEEP”)を増大させ、その結果、脳静脈圧と頭蓋内圧の上昇の 原因となる35,36。脳静脈圧の上昇は脳血流量を減少させ、脳虚血を増悪させる。

 要約すれば、心停止からの蘇生後に、ある特定の動脈血PaCO2のレベルを目標とすることを支持するデータは存在しない。しかし、脳外傷の患者から推測されるデータは正常炭酸ガスレベルになるよう換気することを支持している。ルーチンに過換気を行うことは有害である(Class III)。

心血管系

 心停止での虚血/再潅流と、電気的除細動はともに、一過性気絶心筋状態態(myocardial stunning)と、何時間も続く37の原因となるが、血管収縮薬投与により改善し得る。心筋酵素値は、心停止やCPR中の冠血流途絶や低下による広範囲心筋虚血のために上昇することがある。上昇した酵素値は、心停止の原因が心筋梗塞であることを示唆する場合もある。

 心停止後、循環動態が不安定となることは、しばしばみられることでり、多臓器不全による早期の死亡は、蘇生後24時間の持続的心係数低下状態と関連している(LOE5)6,39。従って、治療担当医は、蘇生後に患者の心電図、X線写真、血清電解質、心筋酵素検査値を評価すべきである。蘇生後24時間以内に行われる心エコー検査は有用で、進むべき治療の方向性を示す5,40

 病院外の心停止から蘇生された多数例を集めたひとつの症例集積研究(LOE5)6では、治療早期にはまず、可逆的に、重篤心筋機能不全と心係数低下状態が起こり、引き続いて血管拡張が起こることが明らかになった。循 循環動態の不安定性は輸液と血管作動薬の投与に反応する6。血圧を正確に計測し、血流と血液分布を最適にするために最も適切な薬剤の組み合わせを決定するには、侵襲的なモニタリングが必要になるかもしれない。治療者は血圧、心係数、体循環維持のため、必要に応じて、輸液量、血管作動薬(例えばノルアドレナリン)、血管変力薬(例えばドブタミン)、陽性変力性血管拡張薬(例えばミルリノン)の量を調節するべきである。生存率を高くするような、至適血圧目標や、循環動態のパラメータは、まだ確立されていない。

 心停止と敗血症の両者は、多臓器の虚血障害や微小循環不全に関係していると考えられる。輸液と血管作動薬を用いた目標設定型治療は、敗血症の患者の生存率を改善するのに有効であった41。生存率改善に最も寄与したのは、急性の循環虚脱の頻度が減少したことによるものであり、蘇生後の状況でも課題となっている。敗血症における目標設定型治療の研究から推定されるデータ (敗血症ではLOE141;心停止ではLOE7[推定])によれば、治療者は酸素含有量と酸素運搬を正常化するように努めるべきである。

 心停止のストレス後に相対的な副腎不全が発生する可能性があるが、そのような患者に早期から副腎皮質ステロイドの補充を行うと循環動態や転帰が改善するとは証明されておらず、さらに研究が必要である42

 突然の心停止は、不整脈によって急に引き起こされることがあるが、蘇生後の時期に、抗不整脈剤が有効であるのか、有害であるのかは不明である。従って、どんな理由であれ、心停止から蘇生された患者に予防的に抗不整脈剤を使用することの可否に関するエビデンスは、不足している。しかし、心拍再開(ROSC)に寄与した抗不整脈剤を、投与継続することは妥当であろう(Class未定)。また、虚血性心疾患において、βブロッカーに心保護作用があることを考えると、蘇生後の状況で、βブロッカーを使用することは、禁忌となる事情でなければ、賢明なことと考えられる。  突然の心停止は不整脈によって引き起こされる可能性があるが、蘇生後の時期に、抗不整脈剤が有効であるのか有害であるのかは不明である。従って、原因にかかわらず心停止から蘇生された患者に予防的に抗不整脈薬を使用することの可否に関してはエビデンスが不足している。しかし、心拍再開(ROSC)に関与した抗不整脈薬の投与を継続することは妥当であるかもしれない(Class Indeterminate)。また、虚血性心疾患において、βブロッカーに心保護作用があることを考えると、蘇生後の状況でβブロッカーを使用することは、禁忌となる事情でなければ、賢明なことと考えられる9

中枢神経系

 心肺脳蘇生の目指すものは、健康な脳と、必要な機能を果たしている患者である。心拍再開(ROSC)後、初めに短時間は脳血流過剰が起こり、次いで微小循環障害(”無血流no-reflow現象")の結果として脳血流は減少する。この脳血流の減少は、脳潅流圧が正常であっても生じる43,44

 意識障害の患者に対する神経学的な治療としては、平均血圧を正常若しくは高めに維持することで頭蓋内圧を、高い場合には下げ、その結果として脳潅流圧を最適化する必要量がある。過高熱や痙攣は、脳の酸素消費量を増大させるので、治療者は過高熱を治療したり、低体温療法導入を考慮すべきである。痙攣発作が目撃されれば、直ちにこれを抑止し、抗てんかん薬の維持投与療法を開始すべきである(Class IIa)。データが不十分なため、ルーチンに痙攣予防を行うかどうかは現在のところClass Indeterminateの推奨である。


■予後を規定する因子

予後を規定する因子  蘇生後の時期には、患者の最終的な転帰がどうなるかという疑念が生じ易く、医療従事者や家族にとって、しばしば精神的重圧を感じる期間となる。理想的には、臨床的診断、臨床検査、血液化学データなどから、心停止の最中や直後に、信頼性できる転帰予測ができれば良いのだが、そうではない。初期の身体的検査所見に基づいた転帰の予測は、困難である。昏睡スコアは心停止後12〜72時間以内に認められる個々の運動、脳幹反射にくらべて転帰予測能力は低い2

 メタ分析(LOE1)44では、正中神経刺激による体性感覚誘発電位(SEP)の皮質反応が両側性に消失している場合には、低酸素ー虚血障害で最低72時間昏睡状態にあった正常体温患者は予後不良であると、予測できた。 この評価法の有用性を示している症例報告46も存在する。したがって、低酸素―虚血障害の患者においては、心停止72時間後に計測された正中神経刺激SEPは神経学的な転帰を予測するのに使える可能性がある。

 最近の1914例の症例を含む11の研究のメタ分析(LOE1)2では、蘇生後24時間以内にそのうちの4つがあると死亡または転帰不良と強い相関のあることがわかった5つの臨床徴候が明らかになった:

 蘇生後24〜48時間以後に行われた脳波検査の結果からも転帰に関する有用な情報(LOE547-50)が得られることが示され、転帰を予測するのに役立つ可能性がある。

その他の合併症

 敗血症はしばしば致死的となる蘇生後の合併症である51。敗血症の患者は目標設定型治療が有効である可能性がある。しばしば一過性ではあるが、腎不全52、膵炎を診断し評価すべきである3,53


■まとめ

 蘇生後の時期では、しばしば不安定な循環動態がみられたり、臨床検査値の異常がみられることが特徴的である。この時期はまた、よくコントロールされた低体温療法のような、期待されるべき治療手技の有効性が評価されるべき時期でもある。この時期には、どの器官系も不安定であり、患者は、最終的に多臓器不全に進行してしまう恐れがある。この問題を全て議論することは、この章で扱う範囲を超えている。蘇生後の時期の到達目標としては、患者のバイタルサイン、臨床検査の異常をうまく管理することにより、器官系機能を補助して、神経学的に正常な状態に戻す可能性を高めるという点が挙げられる。


参考文献
(省略)


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