第17回日本救急医学会中国四国地方会
抄録集1

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【第一会場】(抄録集1

9:00〜9:10  開会のご挨拶

9:10〜10:10  一般演題「看護1」  座長 村上早苗,立川 妃
10:10〜11:00  一般演題「看護2」  座長 松永ちづ子,豊嶋克美
11:00〜12:00  一般演題「救急隊員」  座長 牟禮里義
                    コメンテータ 小倉真治

13:10〜13:30  総会

13:30〜14:30  特別講演  演者 山本五十年

14:30〜15:20  一般演題「外傷1」  座長 佐々木 潮
15:20〜16:00  一般演題「外傷ほか」  座長 福田充宏

16:20〜17:05  緊急企画「芸予地震報告会」  司会 越智元郎

17:05〜17:10  閉会のご挨拶


【第二会場】(抄録集2

9:10〜10:10  一般演題「救急医療体制」  座長 吉田 哲
10:10〜11:10  一般演題「循環」  座長 西山謹吾
11:10〜11:50  一般演題「感染,神経」  座長 定光大海
14:30〜15:30  一般演題「呼吸」  座長 斉藤憲輝
15:30〜16:20  一般演題「中毒」  座長 神山有史


【第一会場】


一般演題 看護1(9:10〜10:10) 抄録

  座長 愛媛大学医学部附属病院看護部 村上早苗
     愛媛県立中央病院救命救急センターICU 立川 妃

1 三次救急患者来院時におけるナースの役割分担の分析
   鳥取大学医学部附属病院高次集中治療部集中治療室
   前川敦美,藤野香代,星山恵美子,小村裕美子,大草智子

2 当院ICUにおける再入室患者の検討
   津山中央病院救命救急センター
   高森千絵,白石裕子,森山志保,山本恭子,松永ちづ子

3 救命救急センター外来における電話対応マニュアル作成の効果
   島根県立中央病院救命救急センター外来
   西村絵理,石飛美智江,城元優子,中尾恵里,川本光子,今岡純子,
   三成富美江

4 人工呼吸器回路の取り扱い方法の検討-感染防止を目指して-
   愛媛県立中央病院救命救急センターHCU病棟
   若松麗香,山本佳代,宮谷奈美

5 有効な体圧分散ができる除圧用具の選択と使用方法の検討
   愛媛大学医学部附属病院4階西病棟1,同集中治療部2
   地久里公美1,杉本吉美1,寺田みどり1,藤原光子1,菊池 幸2

6 カフ付き気管カニューレ装着患者の食事摂取継続への取り組み
  ―誤嚥性肺炎をおこさないために―
   愛媛県立中央病院救命センターHCU
   濱 和美,小野直美,中村修子


一般演題 看護2(10:10〜11:00)  抄録

   座長 津山中央病院救命救急センター 松永ちづ子
      香川医科大学附属病院西病棟5階 豊嶋克美

7 救急患者の回復期における心理状態の検討
   香川医科大学医学部附属病院看護部1,救急部2
   新居恭代1,三木尚美1,豊嶋克美1,小倉真治2

8 集中治療室入室患者家族への援助家族と看護婦の関わりの充実をめざして
   三豊総合病院集中治療室
   楠瀬 恭 ,平野昌子 ,高島美代子

9 救急重症患者の家族が示した危機プロセスの分析
   愛媛大学医学部附属病院看護部 救急・集中治療部
   中井基容子,三澤理恵,大内千帆,平田優子,山本倫子,坂本ゆり,
   伊藤芙美子

10 救命救急センターに緊急入院した患者の家族の思い
   社会保険広島市民病院救命救急センター
   神崎陽子,後藤英子,田中志をり

11 看護記録開示に向けてフローチャートの問題点を探る─記録監査より─
   山口大学医学部付属病院総合治療センター
   西野満江,竹岡正江,大野美里,裾分裕子,相馬亜紀子,藤野淑子

                                


一般演題 救急隊員(11:00〜12:00)  抄録

   座長 松山市消防局南消防署 牟禮里義
   コメンテータ 香川医科大学附属病院救急部 小倉真治

12 ハムスター咬傷によるアナフィラキシーショックの症例
   広島市消防局1,広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科2
   杉本幸生1,木下博之2

13 PTCJを取り入れた救急活動により救命することができた一例
   江津市外7町村消防組合1,済生会江津総合病院2
   川由祥一1,木村博章1,川口 勲1,上岡一樹1,三浦義昭1,日高武英1,
   林 裕文1,森下憲安1,百田 靖2

14 日本におけるショックパンツ使用の現状と検討
   プレホスピタル研究会 出雲市外4町広域消防組合出雲消防署1,
   島根医科大学救急医学2
   安田康晴1,石原諭2

15 鳥取県西部地震における二次医療機関の避難状況と課題について
   鳥取県西部広域行政管理組合消防局1,西伯町国民健康保険西伯病院外科2,
   日野病院組合日野病院外科3
   前川哲夫1,渡辺勝也1,橋本健治1,村田裕彦2, 岡野一広3

16 医師の災害現場搬送を想定した消防防災ヘリコプターの合同訓練
   上浮穴郡生活環境事務組合消防本部1,愛媛大学医学部附属病院救急部2
   織川真二1,白川洋一2                   


特別講演(13:30〜14:30) 司会 愛媛大学医学部救急医学 白川洋一
「東海大学ドクターヘリコプター試行的事業の結果と教訓」
  東海大学医学部附属病院救命救急センター 山本五十年
                             


一般演題 外傷1(14:30〜15:20)  抄録

   座長 愛媛県立中央病院救急救命センター 佐々木 潮

17 遅発性肝内出血を来たした墜落外傷の一例
   広島大学医学部附属病院救急部・集中治療部
   井上 健,飯田幸治,岡林清司,山野上敬夫,和田誠之,大谷美奈子

18 TAEをおこなった肝損傷・b型の3例
   川崎医科大学救急医学・高度救命救急センター
   頴原 隆,小林良三,荻野隆光,岡本定久,川出尚史,田邉真一,
   青木光 広,福田充宏,鈴木幸一郎,藤井千穂,小濱啓次

19 ダメージコントロールにより救命し得た腹部多臓器損傷の1例
   鳥取県立中央病院救急科1,同外科2
   橋口尚幸1,村尾和良1,宮加谷靖介1,清水 哲2,岸 清志2

20 当院救命救急センターにおける腹部外傷症例の検討
   愛媛県立中央病院外科
   山元英資,西蔭三郎,西浦三郎,長堀順二,吉冨聰一,平谷勝彦,
   河崎秀樹,大畑佳裕,牧野一郎

21 二度にわたり受傷したハンドル外傷による膵損傷の一例
   香川医科大学麻酔・救急医学講座1,同付属病院救急部2,
   同付属病院集中治療部3
   西山 隆1,小倉真治2,関 啓輔2,相引眞幸3,川口秀二3,高橋英幸1,
   前川信博1


一般演題 外傷ほか(15:20〜16:00)  抄録

   座長 川崎医科大学救急医学 福田充宏

22 愛媛県立中央病院救急救命センターにおける胸部外傷症例の検討
   愛媛県立中央病院外科
   中田哲夫,西蔭三郎,遠山啓亮,母里正敏,河崎秀樹,長堀順二,
   西浦三 郎,佐川庸,上田重春

23 3D-CTが有用であった頸椎脱臼の一例
   田岡病院脳神経外科
   櫻間一秀,佐藤泰仁,村山佳久

53 生木による咽頭外傷の診断、経過観察にCTが有用であった一症例
   香川医科大学麻酔・救急医学講座
   遠藤玲子、中條浩介、小倉真治、西山 隆、関 啓輔、前川信博

24 Abdominal compartment syndrome(ACS)を来した1乳児例
   徳島大学医学部救急部・集中治療部1,同麻酔科2
   飯富貴之1,黒田泰弘1,阿部 正1,福田 靖1,岸 史子1,佐藤由美子1,
   羽野公隆2,山田博英2,大下修造2

25 腸管気腫性嚢胞症と門脈ガス血症を併発した2例
   川崎医科大学救急医学・高度救命救急センター1,同病理学2
   諸隈 琢1,小林良三1,岡本定久1,川出尚史1,青木光広1,荻野隆光1,
   福田充宏1,鈴木幸一郎1,藤井千穂1,小濱啓次1,福屋 崇2,三上芳喜2


緊急企画 芸予地震報告会(16:10〜16:55)

   司会   愛媛大学医学部救急医学  越智元郎
   話題提供 加茂広域行政組合中央消防署  刺田桂二
        松山市消防局警防課  竹村武士
        松山赤十字病院救急部  岩崎泰昌
        中国労災病院救急部  吉田 哲


抄 録


1 三次救急患者来院時におけるナースの役割分担の分析

   鳥取大学医学部附属病院高次集中治療部集中治療室
   前川敦美,藤野香代,星山恵美子,小村裕美子,大草智子

 【はじめに】当救急部では,三次救急患者来院時の業務の効率化と患者家族ケアの充 実を目的として「三次救急マニュアル」のなかで,ナース2名の役割分担を定めてい る.しかし実際は,三次救急患者来院時に他の救急患者の診療が重なること,また当 救急部の看護体制はICU病棟と内科系4病棟からのローテーションナースにより構成さ れており経験不足のナースが多いこと,などの理由によりマニュアルを活かした対応 ができていないのではないかと感じた.そこで「三次救急看護チェックリスト」を用 いて調査した現状を報告する.
 【研究方法】三次救急患者16症例の担当ナースが記 入した三次救急看護チェックリストを分析.他救急患者への対応ありをI群,なしを II群,ICUナース2名での対応をIII群,ICUナース1名と内科系ナース1名での対応を IV群として,I群とII群, III群とIV群の比較検討を行う.
 【結果及び考察】ナース1名で三次救急患者に対応する傾向があるのは,I群とIV群で あった.三次救急患者と他の救急患者が重なった場合,ナース1名は三次救急患者の 診療を優先しながらも他患者の対応にもあたらなければならない.また内科系ナース は三次救急患者対応の経験が少ないため,ICUナースが三次救急患者の対応を行いが ちである.以上の2つの現状から,ナース2名による役割分担の検討と,内科系ナース に対する教育強化が必要であるという課題を得た.


2 当院ICUにおける再入室患者の検討

   津山中央病院救命救急センター
   高森千絵,白石裕子,森山志保,山本恭子,松永ちづ子

 当院救命救急センターは平成12年2月に認可され診療を開始したが,地域人口の 高齢 化に伴い合併症をもつ重症患者が多く,その治療・看護に難渋することも多 い.ま た救命救急センターの性格上,より重傷者の診療を優先するため,人工呼吸管理から 離脱した後の患者管理が十分に行えず,その後の管理を一般病棟にて行わざるをえな いこともある.今回,救命救急病棟ICUで人工呼吸管理を受け, ICUから退室したも のの2週間以内に再入室した患者についてその原因・改善点を検討したので報告す る.2000年2月から2001年1月までの1年間に,当院ICUに入室した1498人中, 2週間以 内に再入室した患者は23人であった.そのうち入室時人工呼吸管理を 受けていた患 者は18人であり,その原因は肺炎5人,CO2 ナルコーシス3人, 痰の喀出困難2人,心 不全の増悪2人,その他7人であった.ICU入室期間中の看護の状況を再度見直し,原 疾患,合併症などと再入室に 至った原因の関連を調べ,看護上の問題点を検討し た.再入室に至った原因の 多くは,ICU退室前後の呼吸管理を改善すれば減少すると 考えられた.その 改善の一助としてICUで行っている肺理学療法と吸引の間隔・方法 を他病棟 の看護婦がより把握実施できるように退室サマリーの充実を試みたので報 告する.


3 救命救急センター外来における電話対応マニュアル作成の効果

   島根県立中央病院救命救急センター外来

   西村絵理,石飛美智江,城元優子,中尾恵里,川本光子,今岡純子,
   三成富美江

 【目的】電話対応マニュアルの活用は看護婦の電話対応時における不安の軽減に有効 であるかを検討する。
 【対象・方法】1. 救命救急センター外来看護婦19名に電話対応 時の不安に関するアンケート調査を実施する.2. 1ヶ月間の電話件数・内容調査とア ンケート調査の結果に基づき電話対応マニュアルを作成する.3. マニュアル使用 後,同看護婦19名に同様のアンケート調査を実施し比較する.
 【結果・考察】電話対 応マニュアル使用前のアンケート調査によると,配属当初は看護婦全員が電話対応に 不安を感じており19名中16名がかなり不安だったと回答している.電話対応における 不安の原因は情報収集面,知識不足,指導面に大きく分けられた.マニュアル活用 後,特に情報収集面においては質問事項の明示により不安と回答した人数が半減し効 果が高かった.知識不足,指導面においてはかなり不安との回答が半減した.活用状 況は電話対応時が8名で,その他11名は知識を補うためや自分の対応が正しかったか を確認するために活用していた.また18名の看護婦が今後もマニュアルを活用したい と回答した.電話では状態把握に限界があり,様子観察が可能と思える場合でも受診 を勧めることを前提としている.当院は第3次救命救急センターとしての重大な役割 を担っており,看護婦はより豊富な知識と対応能力を身につける必要がある.そのた め定期的に開いている勉強会に加え,今後はさらにマニュアルを一つのツールとして 充実させていく必要がある.
 【結語】1. 救命救急センター外来看護婦の電話対応に おける不安の原因は情報収集面,知識不足,指導面に関するものが多かった.2. 電 話対応マニュアル作成・活用は看護婦の不安の軽減に有効であった.3. 救命救急セ ンターとしての機能を高めるため,電話対応マニュアルの充実を図っていく必要があ る.


4 人工呼吸器回路の取り扱い方法の検討-感染防止を目指して-

   愛媛県立中央病院救命救急センターHCU病棟
   若松麗香,山本佳代,宮谷奈美

 HCUでは,人工呼吸管理をしている患者が多い.日々の業務の中で1週間装着した人工 呼吸器回路が清潔かどうか,どの部位が細菌により汚染されやすいのかに興味を持っ た.そこで,人工呼吸器回路5ヶ所・付属物品(テストラング・ジャクソンリース 他)・喀痰の細菌検査を行った.その結果,テストラング・カテーテルマウントより 喀痰と同じ緑膿菌が増殖した.その他,常在菌が一時的に検出されたが,増殖はみら れなかった.人工呼吸器回路から緑膿菌以外の病原菌の検出はなく,この事から1週 間装着した人工呼吸器回路の2次感染は防止できていたと思われた.しかし,テスト ラング・カテーテルマウントから緑膿菌の増殖がみられた.そのため,人工呼吸器回 路の取り扱い方法を検討し,感染防止に取り組む指標を見い出せた.


5 有効な体圧分散ができる除圧用具の選択と使用方法の検討

   愛媛大学医学部附属病院4階西病棟1,同集中治療部2
   地久里公美1,杉本吉美1,寺田みどり1,藤原光子1,菊池 幸2

 当病棟では,上敷きマットレス式静止型体圧分散寝具(以下,体圧分散寝具)や,枕 やスポンジなどの安楽用具を併用し褥創予防に努めている.しかし,その体圧分散寝 具と安楽用具の選択は,各看護婦の判断に委ねられており,どのような除圧用具の選 択がより体圧分散効果が高いのか,その用具の特性を活かした方法で使用されている のか疑問をもった.そこで,体圧分散効果の高い除圧用具の選択と使用方法を検討し た.
 【方法】健康な成人女性8名を対象に,4種のベッド条件(A:標準ベッド, B:標準ベッド+安楽用具,C:体圧分散寝具使用ベッド,D:体圧分散寝具使用ベ ッド+安楽用具)及び4種の体位(仰臥位・側臥位30°45°90°)で,褥創好発部位 (仙骨部・大転子部・腸骨部)とその周囲(臀部・大腿部)の体圧を測定し,平均値 を分散分析及びT検定にて比較検討した.
 【結果】すべての体位において,最も体圧 分散効果が高いのはCベッドであった.しかし,Dベッドでは測定部位によって体圧 分散寝具の効果を減少させてしまうことがあった.ベッド条件に関わらず,どの測定 部位でも30°が最も低かった.
 【考察】側臥位30°でCベッドに次いで,Bベッドで 安楽用具は腸骨部にのみ使用する方法が体圧分散効果が高いと考える.今後は圧以外 の発生要因についても考慮し,患者の状態に合わせた,より体圧分散効果の高い除圧 用具の選択と使用方法を検討していきたい.


6 カフ付き気管カニューレ装着患者の食事摂取継続への取り組み
 −誤嚥性肺 炎をおこさないために−

   愛媛県立中央病院救命センターHCU
   濱 和美,小野直美,中村修子

 カフ付き気管カニューレ(以下気管カニューレと略す)のカフは,誤嚥性肺炎をおこ す可能性が高いとされている.しかし,口から食べるということはさまざまな利点が ある.気管カニューレを装着して誤嚥をしていた患者に,誤嚥性肺炎をおこさず食事 摂取ができないか(1)嚥下反射を強くする(2)摂食パターンの変更と嚥下に対する 意識づけ(3)安全性を高める(4)食事形態の工夫をもとにケアを行った.結果,食 後2時間の間に痰の量は多かったこと,食物残渣が吸引されたことから,誤嚥の量は 減らせるが消失はできなかった.しかし,誤嚥性肺炎はおこさなかったため,ケアは 有効であった.


7 救急患者の回復期における心理状態の検討

   香川医科大学医学部附属病院看護部1,救急部2
   新居恭代1,三木尚美1,豊嶋克美1,小倉真治2

 はじめに 当病棟では様々な事故・災害・犯罪などで突然に発症した疾病や外傷を負 った患者様に対応している.今回,救急病棟入院中の回復期の患者様15名に対して心 の後遺症について,不安・健康調査を実施し日々の看護への示唆が得られたのでここ に報告する.・研究方法・対象 1. 調査期間および対象・方法:2000年7月〜11月に 事故・外傷にて西5階病棟に入院された患者様15名 2. 調査方法:退院や転院が決定 した回復期の患者様にSTAI不安テスト・GHQ健康調査・アンケートを実施.
 結果  1.STAI不安テストの結果,特性不安が高値を示した患者様は20%で,状態不安が高値 を示した患者様は66%と半数以上を示していた.状態・特性不安ともに高値を示して いた患者様は13%であった. 2. GHQ健康調査の結果,身体症状に異常を感じてい た患者様は60%で,不眠・不安を感じていた患者様は73%であった.社会的活動障害を 感じていた患者様は93%で,うつ状態を示す患者様は14%であった.3. アンケートの 結果,事故の記憶があった患者は56%・無し44%で,事故の捉え方は,恐いが46%・苦 しくなる40%・何も思わない14%であった.入院中不安な事は,家庭の事46%・仕事の 事40%・身体の不自由26%・経済面20%であった.退院後の不安は,無しが33%・仕事に 戻れるか46%・体が元に戻るか24%・車が恐いが20%また事故にあわないかが20%であっ た.
 結語 今回の調査で,外傷後不安定症候群の症状である,不眠・不安・等の初期 段階を示す患者様が殆どであり,身体の回復よりも心の回復が遅れるという結果を得 られた.


8 集中治療室入室患者家族への援助家族と看護婦の関わりの充実をめざして

   三豊総合病院集中治療室
   楠瀬 恭 ,平野昌子 ,高島美代子

 【目的】当院集中治療室では,面会は,時間・人数・回数が制限されている.入室さ れる患者と家族,家族と看護婦がコミュニケーションを図れるのは殆どが面会時とな っている.しかし,看護婦は家族の事はあまり重要視しておらず,看護婦の家族への 関わりは不足している状況である.そのため,家族への関わり方の改善が必要である と感じていた.
 【方法】家族への援助方法についてのマニュアルを作成し,マニュア ル使用前後で看護婦(士)へアンケートを行い,アンケート結果を使用前後で比較検討 した.
 【結果及び考察】「面会時の対応」「患者と家族の関わり」についての項目は 使用後「している」との回答の増加が見られ,看護婦の家族への関わりについての意 識改善が図れたが,「ムンテラ時の対応」「家族への配慮」の項目では使用後も少数 であった.看護婦の家族を気遣う意識は低いと考えられた.今後,家族への援助を日 常的な看護として確立していく必要がある.


9 救急重症患者の家族が示した危機プロセスの分析

   愛媛大学医学部附属病院看護部 救急・集中治療部

   中井基容子,三澤理恵,大内千帆,平田優子,山本倫子,坂本ゆり,    伊藤芙美子

 救急医療の現場では,突然発症する疾病や不慮の事故によって,生命の危機的状況に 陥る患者の家族に接する機会が多い.当院では看護婦1名で医師とともに救命処置に 携わっている.その状況下で,突然の衝撃と不安に襲われ待合室で待機している家族 に,初期的対応ができないまま入院後も関わりを持ってきた.看護婦には危機的状況 にある救急重症患者の家族に対して,早期にその心理状態を理解し,有効な看護介入 を行うことが求められている.私達は今まで,家族一人一人の背景や個別性を考えな いで同等に関わってきたが,最近になり,それぞれの対象に合った看護介入が,適切 な時期に行えているかどうか疑問に思うようになった.今回,危機的状況にある家族 の看護介入を考える目的で,交通外傷により搬送された15歳の患者の家族に参加観察 法を用いて関わった.そこで得られた家族の心理プロセスをFinkの危機モデルを用い て分析すると,特にキーパーソンである父親と母親とで危機的状況の過程に大きな相 違があることが分かった.母親は第3病日には承認の段階に入り,第7病日からは積極 的に患者ケアに参加できたが,父親は10日以上経過しても防衛的退行の段階で,見守 る姿勢での介入を続けた.この結果から,危機状態の始まりから短い時間でも,家族 個々と密接に関わり合い,段階に応じた看護介入をスタッフが同じレベルで行うこと の重要性を見い出した.


10 救命救急センターに緊急入院した患者の家族の思い

   社会保険広島市民病院救命救急センター
   神崎陽子,後藤英子,田中志をり

 【研究目的】緊急入院では救命処置が最優先され,家族への看護介入が不十分になり やすい.しかし,家族の抱く思いは計り知れないものである.そこで,緊急入院をし た患者の家族の思いを明らかにし,看護介入の方向性を導き出す.
 【研究方法】当セ ンターに緊急入院をした患者の家族4名に半構成的面接調査を行った.
 【結果】面接 調査より53件の思いが抽出され,23のサブカテゴリーに分けられ,さらに「患者へ向 けられる思い」「医療従事者へ向けられる思い」「施設へ向けられる思い」「家族自 身への思い」「今後の生活に対する思い」の5つのカテゴリーに分類できた.
 【総 括】1)緊急入院した患者の家族は,患者の情報提供を強く求めていた.そして,そ れは看護者ではなく医師に強く求めていることが多かった.2)家族自身へ向けられ る思いは多々あるが,表出されなければ他人には分からないことであり,本人でない と乗り越えられない.3)医療従事者の言動や態度は非常に家族に影響を与える.


11 看護記録開示に向けてフローチャートの問題点を探る─記録監査より─

   山口大学医学部付属病院総合治療センター
   西野満江,竹岡正江,大野美里,裾分裕子,相馬亜紀子,藤野淑子

 はじめに:医療に関する情報開示の社会的ニーズは日増しに強まり,当センターでも 患者の家族から記録開示を求める声が聞かれるようになってきた.当センターでは記 録の定期的監査や,固定チーム一部受け持ち制・看護支援システムの導入により看護 計画を充実させてきた.しかし,フローチャートについては十分な監査・検討がなさ れていなかった.フローチャートは医療者間の情報交換の手段であると共に,家族が 患者の状態や経過を知る手段ともなり,記録開示においても重要な位置を占める記録 と考える.そこで,現在のフローチャートの問題点を知るために記録監査を行った.
 方法:院内の監査表ではフローチャートに関する項目が少ないため,新たに独自の監 査表を作成した.監査項目は大きく書式,共同問題,看護診断,検査・処置・与薬に 関するものとした.対象記録は当センターにH13年2月以降に入室した患者40名の記 録で,各患者から1日分のフローチャートを無作為に抽出し,各勤務帯毎に監査し た.評価はできている・不十分・できていないの3段階で行い,できていない・不十 分の場合は具体的にコメントを記載し内容を分析,問題点及び課題を明らかにした.
 結果:共同問題,看護診断とも計画されたプランの記載やアセスメントが不十分であ った.略語も多く使われており,今後,医療情報としての質,量を低下させることな く家族にも理解しやすい記録であるための検討が課題である.


12 ハムスター咬傷によるアナフィラキシーショックの症例

   広島市消防局1,広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科2
   杉本幸生1,木下博之2

 我々はハムスター咬傷によるアナフィラキシーショックの症例を体験した.稀な症例 と思われるので報告する.
 【症例】25歳男性.家族歴,既往歴:無し.現病歴:家族 で飼育していたハムスターに咬まれ,8分後に呼吸困難を発症.
 【観察内容】意識清明であるが言葉が発せられない.喘鳴,狭窄音,気管牽引を認め呼吸数45回/分,心 拍数130回/分,SPO2 83%.全身の紅潮,両上肢に蕁麻疹様の発疹.
 【車内での経 過】O2 3L/分でSpO2 87%,O2 5L/分でSpO2 98%.心拍数,呼吸数は改善せず高値を 推移.
 【病院到着時身体所見・経過】意識清明,O2 3L/分でSpO2 91%.全身の皮膚 紅潮,両上肢に膨隆疹,消化器症状として異味感を訴え,Hb17.1g/dl,Ht 49.8%と高値を示していた.来院後処置としてラクテック,ボスミン,ネオフィリ ン,ソルコーテフの点滴などが行われ,呼吸状態,心拍数,皮膚症状が改善し2時間 後に帰宅となった.医師よりハムスターを処分するよう勧められたが聞き入れず, 4ヶ月後,再度ハムスターに咬まれショックとなり救急搬送されている.
 【考察・結 語】ハムスター咬傷によるアナフィラキシーショックの症例を体験した.医師,救急 隊員はハムスターがアナフィラキシーショックを起こしうる動物としての認識を持つ べきである.ペットとして大変人気があるので今後症例の増加が推察される.


13 PTCJを取り入れた救急活動により救命することができた一例

   江津市外7町村消防組合1,済生会江津総合病院2

   川由祥一1,木村博章1,川口 勲1,上岡一樹1,三浦義昭1,日高武英1,
   林 裕文1,森下憲安1,百田 靖2

 我が国のプレホスピタルケアにおいては,重症外傷患者のアプローチ方法に明確な指 針が無く,処置方法・資器材もまちまちであるため,昨年来,救急医・救急救命士の 有志が「外傷現場の観察処置のスタンダード」(PTCJ:Prehospital Trauma Care Japan)をつくり,全国で普及啓発活動をおこなっている.我々は,このPTCJ実践セ ミナーに参加し,当消防本部の救急研修会に取り入れ,実践トレーニングを経て,日 々の救急活動を行っている.そうしたなかPTCJが功を奏し,第2頸椎歯突起骨折 (Anderson Type3)患者の救命事例を経験したので報告する.
 【症例】平成12年10月 8日走行中の2tトラックの荷台より21才の男性が転落したとの通報により出動した. 現場到着時,患者は仰臥位で意識は清明.主訴は頸部痛であった.顔面及び全身に及 ぶ擦過傷から,患者が路面を激しく転がりながら受傷した事が容易に判断できたが, 四肢に運動,知覚麻痺等は認められなかった.しかし,頸部損傷を疑い直ちにネック カラーにて頸部固定をすると共に,バックボードで全身固定を行い直近の2次救急病 院へ搬送した.診察の結果,患者は第2頸椎歯突起骨折であった.
 【考察】英国での 調査によれば頸椎損傷の約1/4は,プレホスピタルにおける不十分な頸椎固定が原因 であると言われているなど,外傷患者の救命率・社会復帰率の向上には,救急隊員に よる厳重な脊柱固定が不可欠と考察する.
 【結語】・鎖骨より上の鈍的外傷患者にお いては,いかなる場合も脊柱固定が必要である.・外傷患者の救命率・社会復帰率向 上には,我が国の実状に適合した「外傷現場の観察処置のスタンダード」とも言える PTCJの普及が必要である.・PTCJのプロトコールに従って厳重な脊柱固定をしたこと により,第2頸椎歯突起骨折患者救命の一助となった.


14 日本におけるショックパンツ使用の現状と検討

   プレホスピタル研究会 出雲市外4町広域消防組合出雲消防署1,
   島根医科大学救急医学2

   安田康晴1,石原 諭2

 ショックパンツは1903年にその原理が記載され,ベトナム戦争で外傷性出血患者に使 用,救急医療現場では1977年American College of Surgeons’ Committee on Traumaで救急器材の必須とされた.日本では平成3年(1991年)救急隊員の行う応急 処置等に基準の改正に伴い血圧の保持並びに骨折に対する処置としてとり入れられ た.しかし,平成10年消防白書救急隊員の行った応急処置等の状況では総応急処置対 象搬送人員2,945,248人に対し,ショックパンツにより処置搬送されたのはわずか 548人と拡大9項目の中で最も使用頻度が低い.この理由には,ショックパンツ使用に 対する処置の基準が現状の救急体制に合致していないことや,処置に伴う有効性の検 証がされていないことなどが要因であると推測される.今回,日本におけるショック パンツの使用の現状を調査しその使用について検討した.調査対象353症例のうち骨 盤骨折など外傷性ショックの絶対的volume低下に225件(64%)使用され,下肢の固定 目的に73件(21%),アナフィラキシーショックの相対的volume低下に14件(4%)使 用されていた.アナフィラキシーショックの症例は全て軽快退院であり,装着前より 装着後の血圧は有意に上昇していた.欧米諸国と処置内容が異なる日本においてはそ の有効性を検証する必要がある.なお,この研究は平成12年度(財)救急振興財団救 急に関する調査研究事業の助成を受けて行った.


15 鳥取県西部地震における二次医療機関の避難状況と課題について

   鳥取県西部広域行政管理組合消防局1,西伯町国民健康保険西伯病院外科2,
   日野病院組合日野病院外科3

   前川哲夫1,渡辺勝也1,橋本健治1,村田裕彦2, 岡野一広3

 (はじめに)平成12年10月6日,13時30分頃,鳥取県西部を震源とするM7.3,震度 6強の地震が発生.震源に近い二次救急病院のうち2施設で停電,断水,漏水等により 病院機能が低下し,被害の少ない他の医療機関への患者搬送を行った.今回,被災医 療機関における入院患者の避難状況,避難場所からの重傷者の転院搬送に至る経過及 び問題を検討したので報告する.
 (結果)震災発生後10日間の西部消防管内の救急搬 送166人のうち135人が被災病院の搬送患者であった.被災病院では被災直後より職員 による入院患者の避難誘導が行われ,地震発生後45分以内には屋外への全患者の一時 避難を終えていた.次いで近隣の体育館等への二次避難を開始すると共に,西部消防 局への患者搬送依頼があり,患者トリアージならびに避難所から他の医療機関への救 急搬送を開始した.2日間で延べ87台の救急車により110人を7医療機関へ搬送し,7日 午後には,避難所から復旧した被災病院へ25人の搬送を行った.地震規模の割に火災 発生もなく人的被害が軽微であったため,被災病院への人員派遣が可能で搬送業務に 集中できた.しかしながら被災直後の現場の混乱もあって一次避難までのゴールデン タイムの避難誘導にかかわることが出来なかったことは今後の課題であり,より一層 円滑な災害救助協力体制の整備が必要と思われた.


16 医師の災害現場搬送を想定した消防防災ヘリコプターの合同訓練

   上浮穴郡生活環境事務組合消防本部1,愛媛大学医学部附属病院救急部2
   織川真二1,白川洋一2

 【はじめに】各県に消防防災ヘリが導入され,徐々に救急活動に利用されつつある. 今回,医師がヘリに搭乗し救急事故現場に出場し,災害現場から医療を開始するシス テムを確立するための実証訓練を実施したので報告する.
 【背景】都市部では,ヘリ を利用するまでもなく医師の現場要請は容易であり,消防力も充実している.しか し,過疎地においては消防力・医療とも通常を超える災害に対して十分とはいえず, 初期の関係機関への応援要請が重要となる.集団救急など多人数災害を想定した場 合,医師の災害現場医療は有効な手段であるが,当管内は四国山脈にあり過疎・高齢 化の著しい地域であり,医療の充実した松山圏域からは遠隔地にあるため,通常の交 通手段では効果は期待できにくい.本訓練は,消防機関,消防防災航空隊,医療機関 が合同して,防災ヘリを活用して医師の災害現場出場,及び傷病者緊急輸送のシステ ムを構築することを目的としている.
 【訓練概要】平成13年4月23日,大川嶺観光中 の観光バスがハンドル操作を誤り谷底に転落し多数の負傷者が発生した.通報を受け た上浮穴消防署は,救急・救助隊を出動させるとともに愛媛県消防防災航空隊に出動 を要請し,さらに愛媛大学医学部附属病院に医師の現場出場を要請した.医師のヘリ 搭乗と負傷者の搬送に備え,東温消防等事務組合消防本部に医師の輸送とヘリポート の確保,及び負傷者救急搬送を依頼した.
 【結果】訓練は,すべての関係機関で通常 業務体制からの立ち上げを重視し,細部のシナリオは作成せずに行った.要請手順や 通信連絡網を簡略化したことにより,ヘリ出動の目的はほぼ達成できることが確認さ れた.


17 遅発性肝内出血を来たした墜落外傷の一例

   広島大学医学部附属病院救急部・集中治療部
   井上 健,飯田幸治,岡林清司,山野上敬夫,和田誠之,大谷美奈子

 墜落外傷の第3病日に突然出血性ショックに陥った遅発性肝内出血の一例を経験した ので報告する.症例は66才,男性.5mの高さから舗装道路へ墜落し受傷し直ちに当院 ICUへ搬送された.来院時,意識はGCS 14 (E3V5M6),血圧170/70 mmHg,心拍数 76/minであった.頭部CTにて前頭葉に軽度の脳挫傷,胸部CTにて左血気胸,肺挫傷を 認めたが腹部CTでは異常を認めなかった.循環・呼吸状態は安定していたため保存的 加療を行なった.第3病日早朝から右背部痛を訴え,受傷38時間後に突然ショックと なった.Hgb値は急激に低下しており,大動脈解離を疑い緊急CTを行なった.大動脈 には異常は認めず,肝右外側区に楕円球状の不均一な吸収域と腹腔内の液体貯留を認 め,肝破裂と診断した.緊急動脈造影にて右肝動脈分枝から造影剤の漏出像が認めら れ,これに対し選択的動脈塞栓術を施行した.塞栓術後,血行動態は安定した.病変 部は嚢包化したが,以後再出血は認められてない.


18 TAEをおこなった肝損傷・b型の3例

   川崎医科大学救急医学・高度救命救急センター

   頴原 隆,小林良三,荻野隆光,岡本定久,川出尚史,田邉真一,青木光広,
   福田充宏,鈴木幸一郎,藤井千穂,小濱啓次

 肝損傷・b型は肝切除術の適応とされるが,近年TAEが有用であった報告例も見られ, 治療法の選択には議論のあるところである.我々は急速輸液で循環が維持できるなら ば,可能な限りTAEを施行している.今回,再出血防止および止血を目的としてTAEを 施行した・b型肝損傷3例で多様な経過を経験した.
 [症例1]28歳女性.右2肋骨骨折, 血気胸,肝S5-6損傷.造影CTではextravasationを認めなかったが再出血の可能性を 考えTAEを施行し,合併症なく57病日退院した.
 [症例2]53歳男性.両側第1・右第5肋 骨骨折,左橈骨骨折,肝S7-8損傷.TAE後に血圧は安定したが,第14病日に胆汁性腹 膜炎を併発し開腹した.腹腔内洗浄・ドレナージ後,肝膿瘍を形成し長期間のドレナ ージ・洗浄を必要とし,退院まで第140病日を要した.
 [症例3]34歳女性.肝S4-2損 傷.TAE後,血圧が不安定なため引き続き開腹し,肝静脈からの出血に対し肝周囲ガ ーゼパッキングを施行した.第5病日に再開腹し,パッキング除去・ドレナージを施 行した.術後,肝膿瘍を形成したが第99病日に退院した.
 [まとめ] TAEを前提とした 血管造影で・b型の損傷形態を把握することは有用であり,TAEによる止血効果の評価 とともに,常に開腹術を念頭において経過を見る必要がある.3例をもとに・b型損傷 に対するTAEの選択について,文献的考察を加え報告する.


19 ダメージコントロールにより救命し得た腹部多臓器損傷の1例

   鳥取県立中央病院救急科1,同外科2
   橋口尚幸1,村尾和良1,宮加谷靖介1,清水 哲2,岸 清志2

 【はじめに】重度外傷に対するダメージコントロールを念頭においた治療戦略で救命 した腹部多臓器損傷の1例を報告する.
 【症例】74歳,女性.乗用車助手席に乗車 中,中央分離帯に衝突し受傷した.
 【経過】来院時,不穏状態で顔面蒼白,血圧は 94/48 mmHg,脈拍78回/分であった.胸部X-Pで右横隔膜挙上と右血胸を認めた.輸液 負荷にもかかわらず循環動態は不安定であり,X-P,CT所見から右横隔膜破裂,肝損 傷,腹腔内出血と診断し手術を施行した.開腹すると,1,500mlの腹腔内出血を認 め,両側横隔膜の破裂,肝損傷,2ヵ所の小腸破裂,広範囲の腸間膜損傷,中結腸静 脈損傷と診断した.術中出血傾向を認め,さらなる大量出血が予想されたため,中結 腸静脈損傷部の縫合止血,小腸穿孔部の単純縫合,両側横隔膜損傷部の縫合後,肝損 傷部からの出血はガーゼパッキングを施行し手術を終了した.術中出血量は集計分だ けで4,550mlに達した.受傷から術後8時間までの輸血量は約15,000ml,輸液量は約 13,000mlを必要とした.全身状態の改善を待って,受傷8日目にセカンドルックオペ レーションを施行し,ガーゼ除去と腸間膜損傷によると思われる小腸虚血壊死を認め たので切除吻合術を施行した.その後の経過は順調である.
 【まとめ】初回の手術で 患者の危機的状況に合わせた最小限の止血操作と,腹腔内汚染の制御を行ない,集学 的治療で全身状態の改善を図った.その後セカンドルックオペレーションにて損傷臓 器の修復を施行した.致死的外傷に対してダメージコントロールの概念に沿った治療 を行ない良好な結果が得られた.


20 当院救命救急センターにおける腹部外傷症例の検討

   愛媛県立中央病院外科

   山元英資,西蔭三郎,西浦三郎,長堀順二,吉冨聰一,
   平谷勝彦,河崎秀樹,大畑佳裕,牧野一郎

 【目的】愛媛県立中央病院救命救急センターにおける腹部外傷症例につき,救命救急 診療録の記載をもとに検討し報告する.
 【方法】平成元年1月から平成12年12月まで の12年間に,愛媛県立中央病院救命救急センターの三次救急を受診した全症例中,外 傷症例は2,500例,そのうち腹部外傷を認めた症例323例につき検討した.
 【結果】年 齢は1〜86才で平均41.6才,男女比は7:3であった.受傷原因としては交通事故が 202例(62.5%)と多く,また死亡例は63人(19.5%)であった.複数の部位あるいは 臓器の損傷を認めたものは212例(65.6%)であった.
 【まとめ】当院救命救急センタ ーにおける腹部外傷症例につき検討した.常に多発外傷の可能性を念頭に置き診療に 当たることが必要と考えられた.


21 二度にわたり受傷したハンドル外傷による膵損傷の一例

   香川医科大学麻酔・救急医学講座1,同付属病院救急部2,
   同付属病院集中治療部3

   西山 隆1,小倉真治2,関 啓輔2,相引眞幸3,川口秀二3,    高橋英幸1,前川信博1

 今回,我々は2度の交通事故で繰返し受傷した膵損傷の症例を経験したので報告す る.症例は(2001年6月現在)24歳,女性.1999年4月15日普通乗用者運転中の自損事 故で腹部を強打.来院時バイタルサインは問題なく上腹部正中付近に痛みを訴え,画 像検査にて膵頭部血腫を認め外傷性膵損傷 と診断され入院となった.症状は入院直 後がピークで絶食と蛋白分解酵素阻害剤投与のみの保存的治療を行った.受傷後2週 間経過し血液検査デー タも改善し経口摂取開始したところ腹痛と黄疸が出現.US, CTで膵内血腫は縮小しているものの胆管拡張,胆嚢腫大を認めMRCP,ERCPで膵内胆管 の 狭窄が確認された.ENDBチューブ挿入しドレナージを開始,その後症状は改善し 7週目内科転科となり9週目に軽快退院となった.退院前ERCPでは膵内胆管は軽度狭窄 をみとめるものの胆管の拡張はなく問題なかった.2000年11月22日対向車と正面衝突 し再度腹部を強打し画像検査で肝十二指腸靭帯付近と後腹膜に血腫を認め膵十二指腸 損傷が疑われ2回目の入院となった.上腹部正中やや左に圧痛を伴う約5cmの腫瘤を触 知し,強い嘔気・嘔吐 のため胃管挿入したところ1000ml/日以上の排液を認めた. 同27日のCTでも血腫の大きさに変化は見られずMRCPで膵頭部の総胆管狭窄と総胆管〜 両側肝管は最大径1.2cmの拡張が確認された.受傷後3週間経過した頃より胃管からの 排液は減少し水分からの経口摂取を開始し同26日のCTで膵頭部前方の血腫はほぼ吸収 されており翌日退院となった.


22 愛媛県立中央病院救急救命センターにおける胸部外傷症例の検討

   愛媛県立中央病院外科

   中田哲夫,西蔭三郎,遠山啓亮,母里正敏,河崎秀樹,
   長堀順二,西浦三郎,佐川 庸,上田重春

 【はじめに】愛媛県立中央病院救急救命センターにおける胸部外傷症例について検討 をおこなったので若干の文献的考察を加え報告する.
 【対象および方法】1981年2月 より2000年12月までの20年間における当院救急救命センターを受診した外傷症例のう ち,胸部外傷を認めた症例について検討を行った.
 【結果】年齢別患者数は,10〜 69歳まではほぼ平均していた.外傷の種類は打撲によるものが87.0%と最も多かっ た.胸部以外の合併外傷を伴ったものは81.8%であった.死亡率は33.2%であり,この うち胸部外傷が主死因となっていたものは21%であった.
 【考察】胸部外傷による年 間の死亡者数は人口100,000人あたり8人,あるいは全外傷死亡者数の20%といわれて おり,当院のそれと明らかな差はなかった.


23 3D-CTが有用であった頸椎脱臼の一例

   田岡病院脳神経外科
   櫻間一秀,佐藤泰仁,村山佳久

 宙返りをした際に,頭部から落下し,四肢不全麻痺となった17才高校生男子例を経験 した.うつぶせとなり顔を左に向けた姿勢のまま搬送された.前腕内側,胸部以下の 感覚鈍麻,両上肢の不全麻痺,両下肢の完全麻痺を認めた.肛門部感覚は保たれてい た.直ちに単純X線写真,続いて3D-CTを行い左C5-C6関節突起脱臼と診断した.直ち に直達牽引をおこなった,数時間後には両下肢のわずかな麻痺,感覚鈍麻を認めるの みとなった.10Kgの牽引で脱臼は整復された.1ヶ月後前方除圧固定術,後方固定術 をおこなった.術中所見として棘上靱帯及び棘間靱帯の断裂C5/C6でのヘルニア脱出 を認めた.40日のリハビリの後特に後遺症無く退院した.このような例の場合搬送時 の注意が極めて重要である.また,正確な診断には3D-CTが有用であった.若干の考 察を加え報告する.


53 生木による咽頭外傷の診断、経過観察にCTが有用であった一症例

   香川医科大学麻酔・救急医学講座
   遠藤玲子、中條浩介、小倉真治、西山 隆、関 啓輔、前川信博

[序]ガス形成性深頚部感染症は化学療法の発達した現在においても、しばしば重篤 になることが多く、その診断と治療には充分な注意が必要である。小児の場合、殆ど が歯ブラシによる咽頭外傷が原因とされている。今回、生木による咽頭外傷をきたし た小児患者で診断、経過観察にCTが有用であった症例を経験したので報告する。[症 例]3歳1ヶ月、男児。2000年10月7日神社の回廊から転落、口腔内から出血する。当 院救急部に搬送された際、先端に血液が付着した生木の枝を救急隊員が持参。左軟口 蓋に幅約1cmの傷口を認めたが自然止血していた。頭部CTにて、左傍咽頭間隙に約 4cmの深さまで空気の存在を確認、明らかな残遺物や頭蓋内の異常は認めなかった。 以上より生木の枝が患児の左上咽頭後壁の、少なくとも約4cmの深さまで突き刺さっ たものと診断した。翌日には局所の発赤、腫脹をきたしたが、FMOX、CLDMの全身投与 +AMKの吸入療法を連日行い、白血球数、CRPなどの炎症反応は沈静化していった。第 4病日のCTでは左傍咽頭間隙に蜂窩織炎、中咽頭左壁の右方への圧排を認めたが、第 7病日のCTでは一部LDA領域が残存するものの、炎症所見は改善していた。第11病日に 治癒退院した。[考察]Lazorらは、咽後膿瘍の診断にCTが有用(sensitivity:87.9%) と報告している。咽頭外傷では続発する深頚部感染症を念頭に置く必要がある。


24 Abdominal compartment syndrome(ACS)を来した1乳児例

   徳島大学医学部救急部・集中治療部1,同麻酔科2

   飯富貴之1,黒田泰弘1,阿部 正1,福田 靖1,岸 史子1,
   佐藤由美子1, 羽野公隆2,山田博英2,大下修造2

 【症例】4ヶ月,女児.
 【現病歴】4ヶ月健診にて肝脾腫を指摘された.近医を受診 し,肝脾腫,貧血,血小板減少,白血球増多を指摘され,精査加療目的にて当院小児 科に紹介入院となり,骨髄検査により骨髄線維症と診断された.
 【既往歴】2ヶ月時 よりアトピー性皮膚炎,3ヶ月健診にて発育不良.
 【現症及び血液検査】表情苦悶 様,腹部膨隆によるdyspnea,肝脾腫,下腿浮腫,白血球増多,貧血,血小板減少, 凝固系異常,末梢血にてleukoerythroblastosisを認めた.
 【入院後経過】肝脾腫 は,髄外造血によるものであり,徐々に増大し,胸郭の圧排による呼吸不全が進行し た.ICUに入室し人工呼吸を開始するも,FiO2 1.0にてもSpO2 は,90%前後と著明に 低下していた.また,原疾患に対し,化学療法および同種造血幹細胞移植を施行し た.化学療法にても,肝脾腫は縮小せず,腹腔内圧の軽減のため,腹水穿刺を数回施 行した.尿量が徐々に減少し,腎機能障害をきたしたため持続血液透析も開始した. 多臓器不全に対し,交換輸血を施行するも,経過中,敗血症を発症し,また腹腔穿刺 部からの出血傾向が顕著となり,血圧の低下が進行し死亡した.
 【考察】ACSは,腹 腔内圧の上昇に伴い,腹腔内の圧迫,横隔膜の挙上,腹腔内臓器の直接的圧迫により 種々の臓器不全が発症する病態である.乳児の骨髄線維症は稀であり,また,ACSに 対する文献的考察を加え報告する.


25 腸管気腫性嚢胞症と門脈ガス血症を併発した2例

   川崎医科大学救急医学・高度救命救急センター1,同病理学2

   諸隈 琢1,小林良三1,岡本定久1,川出尚史1,青木光広1,荻野隆光1,
   福田充宏1,鈴木幸一郎1,藤井千穂1,小濱啓次1,福屋 崇2,三上芳喜2

 腸管気腫性嚢胞症は,腸管壁の一部にガスを満たした多発性嚢胞が存在する病態を言 う.消化管のいずれの部位にも発生するが,特に回腸末端近くに多いとされる.今 回,腸管気腫性嚢胞と門脈ガス血症を伴った2例を経験した.
 [症例1] 78歳女性.夕 食後に突然の腹痛と嘔吐があり搬入された.腹部全体に腹膜刺激症状を呈し,腹部単 純X線で上行〜横行結腸の拡張を認め,腹部CTで回腸壁ガス像と肝内門脈に著明なガ ス像を認めた.緊急開腹術施行し,回腸末端漿膜面に黒色調変化と同部の握雪感およ びガスによる小嚢胞を散在性に確認した.結腸脾ワン曲部の癒着・屈曲による腸閉塞 に伴った腸管気腫性嚢胞症と診断し,回腸末端約80cmを切除,結腸脾ワン曲部の癒着 剥離をおこなった.
 [症例2]87歳男性.開腹術の既往があり,腹痛で搬入された.腹 部単純X線で前回術創に一致し無ガス像を認め,腹部CTで同部腸管壁および腸管膜静 脈内ガス像と肝内門脈に著明なガス像を認めた.絞扼性イレウスの診断で緊急開腹術 を施行し,絞扼腸管約150cmを切除した.
 [まとめ]成人に見られる腸管気腫性嚢胞の 多くは特に外科的治療を要さないとされ,最近では高圧酸素療法を行う報告も多い. しかし,気腫性嚢胞に門脈ガス血症を伴う所見は腸管壊死が疑われ,とくにイレウス 症状を呈するものは速やかに外科的対応が必要と思われる.2例をもとに文献的考察 を加え報告する.