第17回日本救急医学会中国四国地方会
抄録集2

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【第一会場】(抄録集1

9:00〜9:10  開会のご挨拶

9:10〜10:10  一般演題「看護1」  座長 村上早苗,立川 妃
10:10〜11:00  一般演題「看護2」  座長 松永ちづ子,豊嶋克美
11:00〜12:00  一般演題「救急隊員」  座長 牟禮里義
                    コメンテータ 小倉真治

13:10〜13:30  総会

13:30〜14:30  特別講演  演者 山本五十年

14:30〜15:20  一般演題「外傷1」  座長 佐々木 潮
15:20〜16:00  一般演題「外傷ほか」  座長 福田充宏

16:20〜17:05  緊急企画「芸予地震報告会」  司会 越智元郎

17:05〜17:10  閉会のご挨拶


【第二会場】(抄録集2

9:10〜10:10  一般演題「救急医療体制」  座長 吉田 哲
10:10〜11:10  一般演題「循環」  座長 西山謹吾
11:10〜11:50  一般演題「感染,神経」  座長 定光大海
14:30〜15:30  一般演題「呼吸」  座長 斉藤憲輝
15:30〜16:20  一般演題「中毒」  座長 神山有史


【第二会場】


一般演題 救急医療体制(9:10〜10:10)  抄録

   座長 中国労災病院救急部  吉田 哲

26 当院における救急搬送の実態について
   国立療養所香川小児病院外科1,小児科2
   日野昌雄1,大塩猛人1,大下正晃1,檜 友也1,古川正強2

27 定期民間航空機を用いた国際患者搬送
   愛媛県立中央病院救命救急センター
   渡辺敏光,玉井伴範,立川妃都美,大西満美子,佐々木 潮

28 ヘリコプター搬送が救命に有効であった心肺停止の1例
   労働福祉事業団中国労災病院救急部
   勝矢千代,吉田 哲

29 救急自動車医師同乗出場制度の運用
   島根県立中央病院救命救急科
   松原康博,佐々木 晃,豊嶋浩之,仲田純也

30 救急救命士の特定行為に対する医療体制と中核病院の役割
   綜合病院社会保険徳山中央病院麻酔・集中治療科
   宮内善豊

31 大学病院衛星医療情報ネットワーク遠隔講義を用いた,新しいCPR の普及活動
   愛媛大学救急医学1,同医療情報部2,同機器センター3, 救急救命九州研修所4,
   九州大学救急災害医学5,同医学教育学6,市立秋田総合病院7,長岡技術科学大学8
   越智元郎1,畑中哲生4,漢那朝雄5,吉田素文6,円山啓司7, 齋藤秀俊8,
   白川洋一1,立石憲彦2,田中盛重3


一般演題 循環(10:10〜11:10)  抄録

   座長 高知赤十字病院救命救急センター  西山謹吾

32 心停止をきたした脚気衝心の1症例
   広島市立安佐市民病院麻酔・ 集中治療科
   森田善仁,世良昭彦,木下博之

33 Stanford A型大動脈解離に対する手術成績の検討
   愛媛県立中央病院心臓血管外科1,同救命救急センター2
   岡本佳樹1,富野哲夫1,佐藤晴瑞1,北條禎久1,長嶋光樹1,中島光貴1,
   佐々木 潮2

34 精神症状,脳血管障害を初発症状とした急性大動脈解離の2例
   津山中央病院救命救急センター1,同麻酔科2
   石井智子1,梶原秀年1,實金 健1,森本直樹1,杉山雅俊2

35 心破裂により循環動態が破錠したにも関わらず救命し得た急性心筋梗塞の一例
   愛媛県立中央病院循環器内科1,同心臓血管外科2,同救命救急センター3
   羽原宏和1,風谷幸男1,阿部充伯1,鈴木 誠1,立野博也1,永井啓行1,
   高木弥栄美1,富野哲夫2,佐藤晴瑞2,長嶋光樹2,北条禎久2,中島光貴2,
   岡本佳樹2,佐々木 潮3

36 当院におけるカテーテルアブレーションの検討−準緊急施行患者を中心として−
   愛媛県立中央病院循環器内科1,同救命救急センター2
   立野博也1,風谷幸男1,阿部充伯1,鈴木誠1,羽原宏和1,野本良一1,
   濱田範子1,永井啓行1,佐々木 潮2

37 喘息発作に併発したタコツボ型心筋症の1例
   高知赤十字病院救急部1,高知医科大学麻酔蘇生学教室2
   島津友一1,片岡由紀子1,山崎浩史1,岡本 健1,西山謹吾1,真鍋雅信2


一般演題 感染,神経(11:10〜11:50)  抄録

   座長 山口大学医学部救急医学  定光大海

38 脾摘後重症感染症(OPSI : Overwhelming Post Splenectomy Syndrome)の一例
   山口大学医学部附属病院先進救急医療センター
   山下 進,吉富 郁,鶴田良介,藤田 基,山下久幾,小田泰崇,原田一樹,
   河村宜克,若月 準,今井一彰,井上健,笠岡俊志,定光大海,前川剛志

39 劇症型溶連菌感染症(TSLS)の1救命例
   徳島大学医学部付属病院救急部・集中治療部1,同麻酔科2
   佐藤由美子1,黒田泰弘1,山田博英2,高田 香2,羽野公隆2,片山俊子2,
   岸  史子1,飯富貴之1,福田 靖1,阿部 正1,大下修造2

40 画像所見にて特異な像を呈した蘇生後脳の2例
   川崎医科大学救急医学
   熊田恵介,福田充宏,山根一和,青木光広,荻野隆光,小濱啓次

41 激烈な頭痛と視力障害で発症したRathke's cleft cystの一例
   愛媛県立中央病院脳神経外科
   篠原直樹,大田正博,佐々木潮,武田哲二,河野兼久,武智昭彦,藤原 聡


一般演題 呼吸(14:30〜15:30)  抄録

   座長 鳥取大学医学部附属病院高次集中治療部  斉藤憲輝

42 重症破傷風において呼吸管理に難渋した1症例
   広島市立舟入病院麻酔科
   木村美葉,佐々木 宏

43 右心不全急性増悪をきたした睡眠時無呼吸症候群の2例
   愛媛県立中央病院呼吸器内科
   中西徳彦,絹川真英,喜多嶋拓士,森高智典,上田暢男

44 輸血関連急性肺傷害-Transfusion related acute lung injury(TRALI)と
  考えられた1症例
   山口大学医学部総合治療センター1,産婦人科2,輸血部3
   瀬口雅人1,國廣 充1,立石彰男1,副島由行1,河岡 徹1,村上不二夫1,
   福本陽平1,尾懸秀信2,藤井康彦3

45 気道粘膜病変を合併した中毒性表皮壊死症(TEN)の一例
   山口大学医学部附属病院総合治療センター1,同小児科2
   国広 充1,副島由行1,立石彰男1,瀬口雅人1,河岡 徹1,村上不二夫1,
   福本陽平1,松島 寛2,松原知代2,古川 漸2

46 局所麻酔薬により呼吸停止をきたした一症例
   鳥取大学医学部附属病院麻酔科1,同手術部2,同高次集中治療部3
   山崎和雅1,坪倉秀幸1,坂本誠司2,広沢寿一3,斉藤憲輝3,石部裕一1

52 潜在性誤嚥から急激に発症した膿胸・ARDSの一例
   山口大学医学部先進救急医療センター
   原田一樹、鶴田良介、小田泰崇、井上健、山下進、河村宜克、若月準、
   笠岡俊志、定光大海、前川剛志


一般演題 中毒(15:30〜16:20)  抄録

   座長 徳島赤十字病院麻酔科  神山有史

47 血液透析にて改善した醤油大量飲用による食塩中毒の一例
   徳島赤十字病院麻酔科
   酒井陽子,加藤道久,神山有史,岡田 剛,郷 律子

48 狭い空間で発生した一酸化炭素中毒の2例
   愛媛県立中央病院麻酔科
   越智朋子,坪田信三,濱見 原,渡辺敏光

49 テオフィリン中毒の一例
   倉敷中央病院
   増田直樹,小泉有美馨,米井昭智

50 致死量のアニリン系除草剤を服用したが救命できた一症例
   鳥取大学医学部附属病院麻酔科1,同高次集中治療部2
   岩下智之,森山直樹1,渡辺倫子1,永井小夜2,南ゆかり1,稲垣喜三1

51 非定型的に発症したセロトニン症候群の一症例
   社会保険広島市民病院麻酔・集中治療科
   清水一好,西江宏行,多田恵一


抄 録


26 当院における救急搬送の実態について

   国立療養所香川小児病院外科1,同小児科2
   日野昌雄1,大塩猛人1,大下正晃1,檜 友也1,古川正強2

 目的:近年,小児の救急医療体制について多くの問題点が指摘されているが,救急車 による搬送についての報告は少ない.今回我々は,当院での救急車搬送について実態 を調査し,小児救急医療の問題点について検討した.
 対象と方法:対象は,1998年1月から2000年3月までの3年間に当院に搬送された救急患者である.救急車の搬送記録をもとに,搬送時刻,現住所,性,年齢,推定治療期間,疾患名,傷病の原因等に ついて集計した.
 結果:総数は1238例で,1998年465例,1999年330例,2000年 432例.性別では男765例(61.8%),女460例,不明13例.年齢分布では,1歳が221例と最も多く,5歳以下で全体の52.4%を占めた.搬送時刻では,18時台の92例が最も多く,午後から夕方にかけて多い傾向があった.入院しなかったのは603例で,入院ありが552例,死亡が5例, 不明73例であった.内科系686例,外科系534例,不明 18例.疾患別では,痙攣(熱性 痙攣と痙攣発作)が最も多く,415例(33.5%),頭部打撲180例,その他の打撲112 例,腹痛29例,熱傷19例であった.交通事故に関係した搬送は全体の16.6%,外科系 の約4割を占めた
 考察:各疾患ごとに年齢,性差,入院の有無等について検討した.小児救急の問題点について考察を加えた.


27 定期民間航空機を用いた国際患者搬送

   愛媛県立中央病院救命救急センター
   渡辺敏光,玉井伴範,立川妃都美,大西満美子,佐々木 潮

 定期民間航空機を用いた国際患者搬送を経験した.その搬送方法,搬送時の問題点に ついて報告する.
 【症例】患者は脳幹出血(手術適応なし)のため呼吸停止に至った 41歳,韓国人男性で,発症4日目に松山からソウルまで搬送された.原疾患のほかに 肝機能障害,血小板減少が認められた.呼吸は気管内挿管下に調節呼吸で管理され, 尿道カテーテル,大腿静脈からトリプルルーメンカテーテルが挿入されていた.空港 では,空港職員誘導のもと一般客の搭乗前に救急車で駐機場まで移動し,機内では, 患者をストレッチャーから担架に移し簡易寝台まで移動させた.簡易寝台は航空機 (ボーイング737)前部搭乗口近くの6席(縦3席×窓側2列)の上に設置され,通路側 1列の席に医師が座り,ジャクソンリース回路を用いて用手人工呼吸を行った.酸素 ボンベは,流量が2L/分あるいは4L/分で,4時間使用可能なものが用意されていた. 飛行中のモニターにはパルスオキシメーター,簡易自動血圧計を使用した.飛行時間 は約1.5時間,総搬送時間は約4時間であった.搬送中に著しい異常所見は認められな かった.
 【考察】航空機内環境の特殊性(酸素分圧の低下,加速・減速,振動・揺れ など)を考慮した患者管理のほかに,航空機輸送に対応した医療器材の用意,機内設 備(簡易ベッドの高さ・設置場所等)に関する航空会社との事前の交渉が重要であ る.


28 ヘリコプター搬送が救命に有効であった心肺停止の1例

   労働福祉事業団中国労災病院救急部
   勝矢千代,吉田 哲

 ヘリ搬送が救命に極めて有効であった心肺停止の1例を報告する.症例は芸予諸島在 住の65才女性で,手足と口のしびれ,嘔気を訴え,直線距離で22km離れた当院に紹介 入院となった.搬送準備中,意識レベルが急激に低下したため,往診医が地元消防を 通じて広島市消防局にヘリコプター出動を要請.ヘリは基地離陸から15分後に, 43km離れた現地に到着した.患者は機内収容直後に心肺停止となったが,同乗医らに よる心肺蘇生下に,8分間の飛行で当院屋上ヘリポートに着陸.当院到着時,患者は 無呼吸,心静止,両側散瞳固定状態であったが,気管内挿管,アドレナリン静注等で 心拍再開し,ICUに入室した.初診時,頭部CTを含む諸検査では意識障害や心肺停止 を来す原因を特定できなかったが,翌日,家族から「フグを食べた疑いがある」と情 報が寄せられ,保存検体を分析したところ,尿から0.57MU/mLのフグ毒が検出され た.患者は,発症から3日目にJCS=20に改善し,瞳孔も3mmに縮小して対光反射が出 現.4日目に抜管可能となり,7日目に意識清明でICUを退室した.広島県では現在, 2機の消防・防災ヘリコプターによる救急搬送システムが運用されている.今回の症 例は,海路・陸路なら搬送に約1時間を要したケースであり,救急ヘリの有効性が実 証された.今後も,県と医師会の推進事業に協力して,救急ヘリ搬送システムの更な る充実に努めたい.


29 救急自動車医師同乗出場制度の運用

   島根県立中央病院救命救急科
   松原康博,佐々木 晃,豊嶋浩之,仲田純也

 救命率の向上,救急隊員の生涯教育,Medical Control(以下,MC)の確立等を目的 に救急自動車医師同乗出場制度(以下,ドクターカー制度)を立ち上げ,平成13年 1,2月の2ヶ月間運用した.ドクターカー制度は,出雲地区救急業務連絡協議会(以 下,協議会)が中心となって運用され,出雲消防本部の救急車1台と協議会に属する 4消防本部から派遣された救急隊員3名が1週間(日勤帯のみ)交代で当院に常駐す る.病院では実習や事例検討を行い,重症傷病者の発生した救急事例に対して救命救 急科スタッフ1名と共に現場出場する.ドクターカー制度に基づく出場は心肺停止 2例,漂白剤服用1例であった.病院前,病院内での継続観察ができる,医師の同乗に より現場での時間的余裕ができる,他の消防本部職員との現場研修は手技等も参考に なる等の意見があった一方,出場事例が少なく出場基準や時間帯の見直しが必要,現 場活動のシュミレーションを繰り返す必要がある,病院での研修内容の再検討が必要 等の意見があった.ドクターカー制度は,MCの実践や,救急隊員の生涯教育の場とし て有用であると思われる.今後反省と改善を加えながら現在の4消防本部に限らず, 将来的には島根県全消防本部が対象になるように協議会を中心に調整していきたい. また,地方におけるドクターカー制度の一つの雛形になればと考えている.


30 救急救命士の特定行為に対する医療体制と中核病院の役割

   綜合病院社会保険徳山中央病院麻酔・集中治療科
   宮内善豊

 本院は徳山市(人口約11万人)および隣接した市の救急医療の中核病院である.本地 区では救急救命士の特定行為に対する指示病院(3病院)と患者の受け入れ病院は必 ずしも同一ではない.救急救命士は救急車内から独自に連絡を取り指示を受ける.一 方,消防署司令室は同時進行で受け入れ病院を探す.救急車内では円滑かつ迅速に救 命処置に専念でき,受け入れ病院の決定と搬送は早く行なえる.昨年1年間では,特 定行為を行った患者の収容病院は6病院であり,33例中11例,心肺蘇生に成功した3例 中2例は指示病院と異なる病院に搬送された.本院では主に集中治療部勤務医師が指 示をし,患者の収容は救急室で行っている.患者の収容と治療に際しては病院内連携 を十分に行っている.現時点では救命率は高いとは言えないが,救命の輪および病院 内治療協力がうまく作動し救命できた症例もある.本院は消防署員の教育や実習に協 力するとともに,特定行為に対して主たる指示病院となっている.また救急車による 搬送件数の約半数を収容するだけでなく,原則として患者受け入れを拒否せず最終的 受け入れ病院であることから他院からの信頼もある.このことが本方式を維持する重 要な因子ではあるが,病院間の理解と協力が得られれば,現場や患者の選別による搬 送ができることで,各病院の負担を減少し,広範な地域を網羅し,適切な救急医療体 制を構築する良い方式と思われる.


31 大学病院衛星医療情報ネットワーク遠隔講義を用いた,新しいCPR の普及活動

   愛媛大学医学部救急医学1,同医療情報部2,同機器センター3,
   救急救命九 州研修所4,九州大学救急災害医学5,同医学教育学6,
   市立秋田総合病院7,長岡技術 科学大学8

   越智元郎1,畑中哲生4,漢那朝雄5,吉田素文6,円山啓司7,
   齋藤秀俊8,白川洋一1,立石憲彦2,田中盛重3

 大学病院衛星医療情報ネットワーク(MINCS-UH) はデジタルハイビジョンを使用し た高品質画像の放送であり,2系統のテレビ回線を使用した双方向通信を実現し,暗 号を利用したセキュリティ保護などの高度な機能を有する衛星医療情報ネットワーク である.本システムは阪神・淡路大震災を経て整備されたもので, 災害救急医療に 関する情報伝達(大災害時のマルチメデイア通信を含む)を強く意識した通信ネット ワークである.しかし一部の大学病院関係者以外では,有効に活用されているとは言 えない.その有効利用のためには,大学と市民との情報共有として使用することも 一計と考える.日頃からの市民との情報共有の一手段として利用されれば,災害時の 一情報伝達手段として機能する可能性がある.
 以上のような観点から,われわれは 2000年の AHA(American Heart Association) の新しいCPR(心肺蘇生法)指針 (G2000)刊行に伴う,わが国のCPR 指針改訂の動きを解説し,またG2000とプレホス ピタルケア,二次救命処置の教育,小児のCPR,溺水と着衣水泳などの様々な話題を 取り上げた遠隔講義を企画した.5人の講師が3大学から講義を発信し, 各地の国立 大学において多数の救急医療関係者が受講した.講義には教育効果の高いビデオ資料 を多用し,事後にはプレゼンテーションファイルを収載したCDR,ビデオ,ウェブ資 料などの形の息の長い 情報提供をはかっている.MINCS遠隔講義は救急医学教育ため の新しい,また極めて効果の高い情報伝達手段として期待できる.


32 心停止をきたした脚気衝心の1症例

   広島市立安佐市民病院麻酔・ 集中治療科
   森田善仁,世良昭彦,木下博之

 【症例】 48才男性.3年前胃癌で胃全摘の既往あり.日頃から大量飲酒・暴飲暴食の 生活を送っていた.1月より全身倦怠感と下肢脱力・しびれを自覚し,2月には上肢脱 力・下腿浮腫・疼痛も出現した.2月26日朝,突然呼吸困難を訴え,当院に緊急搬送 された.来院時ショック状態で,心エコーで広範な壁運動低下を認め心筋梗塞が疑わ れた.挿管, IABP下に心臓カテーテルが行われたが,検査中に徐脈から心停止に陥 りペーシング とPCPSが開始された.検査の結果,心筋梗塞・肺梗塞・心タンポナー デ・心筋炎・敗血症性ショックは否定的であった.病歴から脚気衝心を疑いチアミン 100mgを投与後ICUに入室した.入室時には大量のカテコラミン・重炭酸ナトリウム投 与にもかかわらず循環不全・代謝性アシドーシスを認めたが,4時間後からアシドー シスが改善し,6時間後から血圧が上昇し始めた.チアミン150mg投与後の血清チアミ ン値 は4650ng/mlであった.以後チアミンを50mg/日投与した.チアミン投与により カテコ ラミンは第1病日から減量可能で,第2病日ペースメーカーとPCPSを抜去,第 3病日にはIABP抜去,意識も清明となり抜管できた.第4病日に合併症を残すことなく ICUを退 室した.退室1カ月後病棟で歩行訓練中である.
 【結語】原因不明のショッ ク,代謝性アシドーシスには,すみやかにチアミン投与を試みるべきである.


33 Stanford A型大動脈解離に対する手術成績の検討

   愛媛県立中央病院心臓血管外科1,同救命救急センター2
   岡本佳樹1,富野哲夫1,佐藤晴瑞1,北條禎久1,長嶋光樹1,中島光貴1, 佐々木 潮2

 1994年1月から2001年3月までに施行したStanford A型大動脈解離手術33症例を比較検 討した.年齢は18〜87(平均61)歳,男女比はほぼ1:1.このうち,死亡例は8症例 (24%),術後脳梗塞合併症例は7症例(21%)であった.これを術式(上行弓部全置 換術:A群,上行置換術:B群),体外循環の確立方法(lt.subclavian a.送血: C群,femoral a.送血:D群),GRFの導入(GRF使用:E群,非使用:F群)の各群にお いて死亡例,術後脳梗塞合併例について比較検討した.A群13例中死亡例3例 (23%),脳梗塞合併例1例(7%),B群20例中死亡例5例(25%),脳梗塞合併例6例 (30%)と上行弓部全置換術の方が術後脳梗塞合併は少なかった.C群8例中死亡例な し(0%),脳梗塞合併例2例(25%),D群25例中死亡例8例(32%),脳梗塞合併例5例 (20%)とlt.subclavian a.送血の方が死亡例は明らかに少なかった.E群22例中死亡 例5例(22%),F群11例中死亡例3例(27%)とGRF使用は明らかな成績の差違は認めな かった.Stanford A型大動脈解離に対してlt.subclavian a.送血にて上行弓部全置換 の術式を選択することにより手術成績の向上ができると考えられた.


34 精神症状,脳血管障害を初発症状とした急性大動脈解離の2例

   津山中央病院救命救急センター1,同麻酔科2
   石井智子1,梶原秀年1,實金 健1,森本直樹1,杉山雅俊2

 急性大動脈解離は急激に発症し,治療せずに放置しておくと致命的な疾患であるた め,救命のためには早期診断が重要である.初発症状としては胸背部痛が 特徴的で あるが,非特異的な症状を呈することも多い.今回我々は精神症状,脳血管障害を初 発症状とした急性大動脈解離を経験し,その診断に苦慮したので報告する.症例1  52歳,男性.高血圧あり.平成12年7月20日午前3時頃,異常行動があることに妻が気 づき,救急車にて来院.血圧152/42mmHg.譫妄状態で,呼びかけに反応なし.多動で あり諸検査を施行するためには鎮静が必要であった.頭部CT,髄液検査で異常所見な し.時間の経過と共に意識レベルが低下し,呼吸停止となった.来院から約8時間後 心タンポナーデのため死亡した.症例2 71歳,女性.高血圧あり.2,3日前から右手 のしびれ感を訴えていた. 平成13年1月16日,意識消失発作にて救急車にて来院し た.来院時意識混濁, 右上下肢麻痺.血圧90/50 mmHg,HR50/m,CRBBB.MRAにて左 内頸動脈の狭窄があり,左脳梗塞として治療開始した.当初より上腕動脈での血圧の 左右差,意識レベルの変化がみられたが,4日後,胸部x-pにて大動脈弓部の拡大がみ られ,CTを施行したところ大動脈解離が判明した.以上2症例について,反省点を含 めて検討し報告する.


35 心破裂により循環動態が破錠したにも関わらず救命し得た急性心筋梗塞の一例

   愛媛県立中央病院循環器内科1,同心臓血管外科2,同救命救急センター3

   羽原宏和1,風谷幸男1,阿部充伯1,鈴木 誠1,立野博也1,永井啓行1,
   高木弥栄美1,富野哲夫2,佐藤晴瑞2,長嶋光樹2,北条禎久2,中島光貴2,
   岡本佳樹2,佐々木 潮3

 症例は60歳,男性.胸背部痛が出現したため近医を受診し,心電図で急性心筋梗塞を 疑われ,当院救命救急センターへ搬送された.来院時の検査で前壁中隔の急性心筋梗 塞と診断し,緊急冠動脈造影を施行した.その結果,左前下行枝(#6)の閉塞を認 めたため,経皮的冠動脈形成術・ステント留置術を施行し,再灌流に成功した.術後 血行動態は安定していたが,第3病日に突然血圧が低下した.昇圧薬を投与したが血 圧は上昇せず,ショック状態になった.直ちに心血管造影室に搬入し血行動態の改善 を期待してIABPを挿入したが,その直後に心停止となった.心臓マッサージ下で心エ コーを施行し多量の心嚢液貯留を認めたことから,心破裂による心タンポナーデと診 断した.カテーテル台の上で心マッサージを続けながらPCPSを挿入し開胸したとこ ろ,左室自由壁に心破裂を認めたため,同部位の止血術を施行した.術直後から血圧 は上昇し一旦ICUに搬入したが,心嚢ドレーンよりの多量の出血を認めたため,再度 開胸し縦隔内の微小血管の止血を行った.その後の経過は良好で,術後3日目に抜管 し,心臓リハビリテーションを行い ,第39病日には後遺症なく独歩退院した.本例 は急性心筋梗塞による心破裂のため血行動態が破綻し心停止となったが,心臓マッサ ージ下でPCPSを挿入し,直ちに開胸し止血することにより救命することができた.


 36 当院におけるカテーテルアブレーションの検討 −準緊急施行患者を中心と して−

   愛媛県立中央病院循環器内科1,同救命救急センター2

   立野博也1,風谷幸男1,阿部充伯1,鈴木誠1,羽原宏和1,野本良一1,
   濱田範子1,永井啓行1,佐々木 潮2

 従来上室性頻脈に対するカテーテルアブレーションの目的は救命ではなく専ら生活の 質の向上とされ,待機的に施行されることが多い.しかし薬物療法に抵抗し終日続く 上室性頻脈は心不全を招来し致命的に至るか,日常生活が極めて冒される.当院で経 験した全カテーテルアブレーション64例(15〜81歳)のうちこのような症例に対し準 緊急に施行した6例につき検討した.準緊急的カテーテルアブレーション施行患者の 平均年齢(67±8歳)は待機的施行患者のそれ(51±22歳)に比し高く,70歳以上に かぎると全9例中3例(33.3%)に及んだ.64例全体の成功率は92%,合併症発生率 4.8%であったが準緊急6例のそれは各々100%,0%であった.70歳以上の症例は以下の 如し.
 【症例1】71歳,女性.エプスタイン奇形でWPW症候群を合併,感冒様症状を契 機に上室性頻拍が薬物抵抗性となり終日続くようになった.
 【症例2】77歳,男性.薬物抵抗性のWPW症候群で,アミオダロンも無効で1日に数回以上の頻拍発作があっ た.
 【症例3】81歳女性.80歳頃より上室性頻拍が頻回に出現し心不全となった.い ずれも準緊急的に症例1と2に対しては副伝導路の焼灼を,症例3に対しては房室結節 の焼灼を施しすみやかに心不全は改善,いずれも無投薬下で再発はない.不整脈の重 積状態を呈した患者においてもカテーテルアブレーションは有効かつ安全な治療法と 考えられた.


37 喘息発作に併発したタコツボ型心筋症の1例

   高知赤十字病院救急部1,高知医科大学麻酔蘇生学教室2
   島津友一1,片岡由紀子1,山崎浩史1,岡本 健1,西山謹吾1,真鍋雅信2

 症例は67才男性.自宅トイレで呼吸困難をきたし,意識もうろう状態で救急搬送され た.来院時,とう骨動脈を触知するが体動激しく血圧測定困難,心拍 数140bpm,呼 気延長をともなう努力呼吸とチアノーゼをみとめた.呼吸音は聴取できず,酸素マス ク5L/min投与で血液ガスはPH 7.101 PaCO2 89.1mmHg PaO2 94.9mmHg,胸部X-P上 CTR50%,肺うっ血をみとめなかった.プロカテロール吸入,アミノフィリン投与下に スクイージングを試みたが呼吸状態は改善せず,気管内挿管し呼吸器を装着した.麻 酔器よりセボフルラン3%の吸入を行い,効果的な換気量の上昇をみとめたが,突然収 縮期血圧が50mmHgに低下し,心電図モニターでSTが上昇した.12誘導心電図では全誘 導でSTが上昇し,心エコー上左室壁は心基部のみが収縮していた.冠動脈造影で有意 な狭窄はなく,びまん性のれん縮をみとめ,左室造影所見よりタコツボ型心筋症と診 断した.血圧低下が持続するため,カテコラミン投与に加えてIABPを挿入した.循環 動態は徐々に改善,5日目に呼吸器を離脱した.入院後喘息発作はみられず,1ヶ月後 に行った冠動脈造影でも異常をみとめなかった.タコツボ様の左室壁運動異常は交感 神経緊張の関与が示唆されており,喘息発作により誘発された可能性がある.しかし 本症例は気管支喘息の既往がなく,本病態による左心不全からいわゆる心臓喘息に至 ったとも考えられる.


38 脾摘後重症感染症(OPSI : Overwhelming Post Splenectomy Syndrome)の一例

   山口大学医学部附属病院先進救急医療センター

   山下 進,吉富 郁,鶴田良介,藤田 基,山下久幾,小田泰崇,原田一樹,
   河村宜克,若月 準,今井一彰,井上 健,笠岡俊志,定光大海,前川剛志

 【はじめに】脾臓摘出後に免疫力が低下し,易感染性を示すことは良く知られてい る.脾臓摘出後重症感染症(OPSI : Overwhelming Post Splenectomy Syndrome)では 死亡率は50%におよび,脾摘後にはワクチンを接種するなどの予防処置が推奨されて いる.今回我々は重症DIC,ARDSを合併したOPSI症例を救命しえたので報告する.
 【症例】34歳女性.腹痛,下痢,発熱を主訴に近医を受診した.腸炎と診断されるも 数時間後にショックとなり当センターに紹介となった.患者は22歳時に特発性血小板 減少性紫斑病(ITP)の診断を受け,治療目的で脾臓を摘出された.来院時ショック で,まもなくARDSを発症したため人工呼吸を開始した.白血球数,血小板数の著明な 低下が認められて重症感染症と判断し,抗生物質(イミペネム)を投与した.ITPの 再燃も考慮に入れてガンマグロブリンを大量投与し,ARDSに対してはステロイドパル ス療法を施行した.血液培養より肺炎球菌が検出されたので,ペニシリンGの大量投 与を併用した.病態は改善し,一週間後に気管内チューブを抜管し,二週間後には退 院となった.
 【考察・結語】OPSI救命例を経験した.OPSIに対する肺炎球菌ワクチン の投与は日本では施行されていないことが多い.今後,国内でも積極的な予防処置が 望まれる.


39 劇症型溶連菌感染症(TSLS)の1救命例

   徳島大学医学部付属病院救急部・集中治療部1,同麻酔科2

   佐藤由美子1,黒田泰弘1,山田博英2,高田 香2,羽野公隆2,片山俊子2,
   岸  史子1,飯富貴之1,福田 靖1,阿部 正1,大下修造2

 【症例】41歳,男性.
 【現病歴】平成13年2月12日40℃の発熱・咽頭痛が出現し,さ らに 全身の筋痛を認めた.近医で重症感染症・DIC・横紋筋融解症・急性腎不全と診 断され入 院加療されたが,症状が増悪し15日当救急部に搬送された.
 【入院時所 見】意識清明,心拍数172/min・Af,血圧134/80mmHg,呼吸数32/min,体温37.4℃. 陰茎・陰嚢から肛門周 囲に腫脹を,下肢に紅斑様皮疹を認めた.
 【入院後経過】前 医の血液培養でA群β溶連菌が検出されTSLSと診断した.当院の培養検査では入院時 に陰茎の粘膜からG群β溶連菌が検出された.ABPC 8g/day,CLDM 2400mg/dayの投 与,DIC治療を開始した.しかし乏尿と 出血傾向が増悪し,人工呼吸下に血小板輸血 を行い,血液透析を施行した.血行動態は安定したが,顆粒球減少が著明で易感染状 態となり,MRSA敗血症を発症した.VCM投与で症状軽快し,第15病日抜管した.陰茎 と右足背の壊死部に対して第28病日デブリードメントを施行し,以後経過良好で第 37病日一般病棟へ退室した.
 【考察】非A群によるTSLSは, 肝硬変,糖尿病などの免 疫不全患者に発症することが多く,予後不良である.本症例では ,皮膚病変が比較 的限局していたにもかかわらず,顆粒球減少やDICなど全身反応が重篤 であった原因 として,何らかの免疫不全状態の関与が考えられる.


40 画像所見にて特異な像を呈した蘇生後脳の2例

   川崎医科大学救急医学
   熊田恵介,福田充宏,山根一和,青木光広,荻野隆光,小濱啓次

 蘇生後脳の病態を知る上において,画像所見の役割は重要である.頭部CTが汎用され ており,画像上の変化としては急性期では脳浮腫,時間が経過するにつれ基底核部の 低吸収域,その後は脳萎縮となるのが一般的である.今回,蘇生後急性期に施行され た頭部CTで興味ある所見を呈した症例を経験したので報告する.症例1 45歳男性  自殺目的にて農薬を服用.近医にて胃洗浄等の治療をうけるも,経過中,心肺停止状 態となり,蘇生後,当院へ紹介搬送となった.来院時,血圧 は60mmHg(触診),意 識レベルはGCS3-1-2であり,瞳孔径は左右ともに2.0mm大であった.頭部CTを施行し たところ,後頭葉および小脳に低吸収域を認め,MRI拡散強調画像において同部位は 高信号域を呈し,拡散係数は低下していた.症例2 48歳男性 仕事場で突然倒れ, 心肺停止状態となり,bystander CPRを施行され,近医搬送となった.心室細動から の離脱が困難であり,発症から約100分後に洞調律となり,蘇生後の全身管理目的に て当院に紹介搬送となった.来院時,血圧は98mmHg(触診),意識レベルは GCS1-1-1,瞳孔径は左右ともに4.5mm大と固定しており,対光反射は消失していた. 頭部CTを施行したところ,大脳皮質全域で低吸収域を呈しており,MRI拡散強調画像 において,大脳皮質,小脳,脳幹部に高信号域を認め,おのおのの部位での拡散係数 は低下していた.虚血侵襲が強い場合では頭部CT上低吸収域を示すことがあり, MRI拡散強調画像ではその状態をより明確に捉えることが可能であった.


41 激烈な頭痛と視力障害で発症したRathke's cleft cystの一例

   愛媛県立中央病院脳神経外科
   篠原直樹,大田正博,佐々木 潮,武田哲二,河野兼久,武智昭彦,藤原 聡

 下垂体腫瘍内出血による卒中様症状は臨床上しばしばみられるが,Rathke's cleft cyst の出血はきわめて稀である.今回,われわれは激烈な頭痛と視力障害で発症し たRathke's cleft cystの一例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.症 例は69歳,男性.4日前より悪寒,頭痛が出現し,感冒として近医にて治療を受けた が改善せず,頭痛が増強したため,救急病院を受診した.CT,MRIにて下垂体腺腫に よる下垂体卒中と診断されたため,当科へ紹介となった.MRIではトルコ鞍内に径 1.5の腫瘍性病変を認め,T1WIで等信号,T2WIで軽度高信号を示し,内部は一部 T1WIで高信号,T2WIで等信号を示した.周囲には増強効果が認められた.下垂体腺腫 内出血による下 垂体卒中の診断にて経蝶形骨洞的摘出術を施行した.術中所見で は,Milky whiteの液体成分が認め られたが,腫瘍性病変は認められず,嚢胞壁の一 部を採取した.病理組織学的診断は出血を伴う Rathke's cleft cystであった.


42 重症破傷風において呼吸管理に難渋した1症例

   広島市立舟入病院麻酔科
   木村美葉,佐々木 宏

 重症破傷風に対し長期の呼吸管理が必要であった1症例を経験したので報告する. 72才男性(身長164cm,体重62kg).薪割り中,左母指を斧で損傷し受傷後7日目より 開口困難・発語障害をきたし,徐々に症状が悪化した.第8病日他院より紹介され当 院入院.破傷風と診断し,直ちにデブリードマンを施行.抗生剤・抗破傷風ヒト免疫 グロブリンとともにダントロレンの投与を開始した.自発呼吸を温存させたままの呼 吸管理で一旦症状は改善したが,第11病日より増悪し人工呼吸管理を開始した.ま た,同時に制御困難な著しい血圧変動を数日間認めた.第26日病日,症状が緩解した ため人工呼吸器からの離脱を試みたが誤嚥の危険性があったため気管切開を施行し, 第30病日に呼吸器から離脱できた.しかしながら,嚥下障害・喀痰排出困難が続き気 切口閉鎖までにさらに27日間を要した.破傷風は重症化すると,早期には全身痙攣や 筋硬直による呼吸困難,自律神経過敏症状による循環不全をきたすため,集中治療管 理が必要である.本症例でも筋弛緩薬,鎮静薬を使用した人工呼吸管理および循環作 動薬による循環管理を施行した.一方,破傷風の死因は急性期を過ぎた後には呼吸器 系合併症が主といわれており,基礎疾患を有する高齢者の発症も増加傾向にある.抗 痙攣療法・自律神経症状に対する治療後も呼吸管理を中心にさらに十分な管理が必要 であると痛感した.


43 右心不全急性増悪をきたした睡眠時無呼吸症候群の2例

   愛媛県立中央病院呼吸器内科
   中西徳彦,絹川真英,喜多嶋拓士,森高智典,上田暢男

 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は,肥満成人に多く,夜間睡眠中に呼吸停止をきたし,低 酸素状態が長時間繰り返される疾患である.長期に低酸素状態にさらされるため肺高 血圧,右心不全をきたしやすいといわれている.今回,睡眠時無呼吸症候群を基礎に持 ち,多臓器不全をきたした症例を2例経験したので報告する.症例1 53歳女性.身長 148cm,体重104kg.以前より高度の肥満があった.平成12年1月21日ごろ風邪を引 き,その後,呼吸困難が増悪してきた.1月24日紹介入院となるが,血液ガスにて pH7.292,PaCO2 71.0,PaO2 51であった.体型より,閉塞型睡眠時無呼吸症候群とそ れに伴う右心不全と診断し,鼻マスクによる非侵襲的陽圧人工呼吸を行った.症例 2 64歳男性.身長160cm,体重84kg.高血圧,慢性肝炎にて近医にて治療中であっ た.平成13年1月4日より38℃以上の発熱がみられるようになった.胸部X線異常を認 め,酸素飽和度67%と低酸素血症を認めたため1月5日紹介入院となる.胸部X線にて 心拡大,両側浸潤影を認め,血液生化学にて著明な肝機能,腎機能障害を認めた.病 歴聴取にて普段より昼間の眠気が強いとのことであったので,SASを疑った.急性期は BiPAP(Vision)にて非侵襲的人工呼吸管理を行い,軽快した.1月28日終夜睡眠ポリ グラフィーを行い,無呼吸低呼吸指数32.2であり,SASと診断した.在宅鼻持続陽圧呼 吸(CPAP)を導入し軽快退院となった.


44 輸血関連急性肺傷害 -Transfusion related acute lung injury(TRALI)と   考えられた1症例

   山口大学医学部総合治療センター1,産婦人科2,輸血部3

   瀬口雅人1,國廣 充1,立石彰男1,副島由行1,河岡 徹1,村上不二夫1,
   福本陽平1,尾懸秀信2,藤井康彦3

 [症例]51歳.女性[既往歴]左乳癌.
 [輸血歴]あり
 [現病歴]子宮内膜癌の治療 後,経過観察中に原因不明の貧血,血小板減少を生じ,H12/12/11外来でMAPの輸血を 開始した.輸血は12時25分開始.終了直前の15時10分頃より呼吸困難が出現し,重度 の低酸素血症を起こしたため,当センターに入室となる.
 [入室後経過]挿管のうえ 人工呼吸管理とした.FIO2 1.0でPaO2 160.4mmHg,PaCO2 68.2mmHg.両肺野は肺門を 中心に放射状に拡がるび漫性陰影を認めた.心機能は正常であり,ARDSの所見であっ た.臨床経過から,輸血との関連が考えられ,輸血関連急性肺傷害(TRAIL)と診断 した.mPSLパルス療法にて軽快し,第6病日に抜管した.後日,製剤中の抗HLA抗体は 陰性であったが,患者血漿中の抗HLA抗体,抗顆粒球抗体は陽性と判明し,これが TRAILの原因と考えられた.
 [考察]近年,TRALIは年々増加し,非溶血性輸血副作用 のうち重要な位置を占めるようになっている.日本赤十字センターの副作用報告では 97年5件,98年9件であったのが,99年には10月まで22件と年々増加傾向にある.血液 製剤,あるいは患者血漿中の抗HLA抗体や抗顆粒球抗体が引き起こす抗原抗体反応が 肺の血管内皮細胞傷害に働くためと考えられており,輸血歴,妊娠歴のある患者の輸 血の際,念頭に置くべき合併症の一つである.


45 気道粘膜病変を合併した中毒性表皮壊死症(TEN)の一例

   山口大学医学部附属病院総合治療センター1,同小児科2

   国広 充1,副島由行1,立石彰男1,瀬口雅人1,河岡 徹1,村上不二夫1,
   福本陽平1,松島 寛2,松原知代2,古川 漸2

 Toxic Epidermal Necrosis(TEN)に皮下気腫,縦隔気腫,気道出血を合併し,呼吸管 理に難渋した症例を経験した.
 【症例】13歳,男児.平成12年9月16日から発熱があ り,近医で処方されたフロモックス,シンメトリル,市販の風邪薬を服用した.2日 後に,両眼球結膜充血,頚部から顔面にかけての発赤を認め,9/19国立下関病院に入 院した.全身のびまん性紅斑,口腔粘膜の出血,皮下気腫を生じたため,9/23当院小 児科に紹介され,総合治療センターに入室した.入室時,背中・足底の一部分を除き 皮膚はびらん状態であった.顔面,頚部から胸部,腋窩にかけ皮下気腫を認め,CTで は縦隔と脊柱管にも気腫を認めた.
 【経過】口腔粘膜からの出血も著しいため気管内 挿管し,人工呼吸(FIO2 =0.4)を行った.BFでは,気道粘膜からのびまん性出血を認 めたが,エアリークの原因となる所見は認めなかった.皮膚所見は順調に改善してい ったが,気道出血は持続し,肺酸素化能は不安定であった.入室13日目には再び,皮 下,縦隔気腫を認めた.BF所見を目安とした呼吸管理を継続し,気道出血は24日目に ようやく消失した.その後ウィニングを進め,32日間の人工呼吸の後にICUを退室し た.
 【まとめ】TEN症例で呼吸器症状を合併した場合は,さらに予後が不良である. 気道粘膜は皮膚と同様に2-3週間で修復されると報告されているが,BFで経時的に観 察していく必要がある.


46 局所麻酔薬により呼吸停止をきたした一症例

   鳥取大学医学部附属病院麻酔科1,同手術部2,同高次集中治療部3
   山崎和雅1,坪倉秀幸1,坂本誠司2,広沢寿一3,斉藤憲輝3,石部裕一1

 症例は58歳の女性で,うつ病,頸肩腕症候群で近医精神科に通院中であった. H12.10.13,頸肩腕症候群に対して頚部,肩にネオビタカインィを23G,70mmの針で トリガーポイントブロックしたところ約5分後に両手のしびれ,めまいを訴え,血圧 低下をきたした.一時,昇圧薬により血圧は回復したが,意識消失,呼吸停止をきた し,気管内挿管されて,救急隊により当院に搬送された.来院時,血圧は回復してい たが,意識はJCS 100で,自発呼吸も認められず,ICU入室となった.ICU入室後,し ばらくして意識が回復し,自発呼吸も良好なため抜管した.抜管後,会話も可能であ ったが,1時間後より全身性の,筋硬直と不随意運動が出現した.次第に増 強し,全 身性硬直性痙攣が出現し,再挿管を行った.CT上は器質的な疾患は認められず,1ヶ 月後のMRIでは低酸素脳症が示唆された.痙攣に対して多剤を使用したが コントロー ルに難渋し,チアミラールの持続静注を10日間行い,第17病日覚醒,第 28病日抜 管,第31病日ICU退室となった.考察:ネオビタカインィは塩酸ジブカイン ,サリチ ル酸ナトリウム,臭化カルシウムの合剤で局所注射用疼痛治療剤として広く用いられ ているが,今回はトリガーポイントブロックで穿刺針がくも膜下まで刺入されてしま ったために,全脊椎麻酔となり今回の症状が発症したことが疑われた.


52 潜在性誤嚥から急激に発症した膿胸・ARDSの一例

   山口大学医学部先進救急医療センター

   原田一樹、鶴田良介、小田泰崇、井上健、山下進、河村宜克、若月準、
   笠岡俊志、定光大海、前川剛志

 誤嚥を契機として急速に進行したと考えられた膿胸・ARDSの一例を経験した。 36歳男性。覚醒剤精神病の診断にて某病院で入院加療が行われていた。3日前か ら左胸部痛出現。全身倦怠感、失見当識出現、左胸腔に大量胸水を認めた。不穏 状態であり意識レベルの低下も見られ、血圧も低下したため、当センターへ搬送 された。入室時は意識レベル JCS 1,収縮期血圧 95 mmHg、脈拍 115/分、体温 36.1℃、左肺野の呼吸音は減弱しておりcoarse cracklesを聴取した。胸部X線 写真及びCTにて左胸水および右上葉の浸潤影を認めた。左胸腔内から混濁した 淡黄色血性の胸水を少量得た。胸水のpHは6.008と低く、白血球数33400と高値で あり、膿胸と診断した。左肺尖部と肺底部にトロッカーを挿入し、胸腔鏡下に洗 浄した。胸水の培養ではStreptococcus intermediusが検出された。抗生物質は MEPを1g、CLDMを1.2g投与した。第3病日の胸部X線写真でARDSと診断し、第7病 日よりステロイドパルス療法を3日間行った。その頃より呼吸状態は徐々に改善 し、第11病日に抜管した。その後嚥下障害を認めた。咽頭反射は消失しており、 咽頭・喉頭には解剖学的異常は認めなかった。当院入院前から誤嚥があったとの 本人の弁及び起炎菌の種類より覚醒剤使用・向精神薬長期服用による誤嚥が原因 の膿胸と考えた。


47 血液透析にて改善した醤油大量飲用による食塩中毒の一例

   徳島赤十字病院麻酔科
   酒井陽子,加藤道久,神山有史,岡田 剛,郷 律子

 食塩中毒は稀な疾患であるが,大量摂取により致命的な中毒となり注意が必要であ る.今回,われわれは血液透析を施行し改善した醤油大量飲用による食塩中毒の一例 を経験したので報告する.
 【症例】65歳,女性.現病歴:昭和48年から精神分裂病の 診断にて某院に入院中であった.平成12年11月4日午前6時ごろ,自殺企図にて醤油 1150mLを一気に飲用した.その直後は意識清明であり,胃洗浄が行なわれた.2時間 30分後には呼名応答がなくなり,3時間後には昏睡,さらに痙攣,高体温を来したた め,当院救急外来に搬送された.血液ガス分析にて高Na血症(176mEq/L)を呈して いたため,直ちにICUに入室した.脈拍140/分整,血圧150/80mmHg,体温40.5℃, 呼吸30/分浅,昏睡(JCS 200),顔面痙攣を認めた.入院時検査ではNa167mEq/L, Cl 140mEq/Lであった.ICU入室後,直ちに気管内挿管が行われた.顔面痙攣に対し て,ジアゼパムを静注した.11時30分血液透析を開始し,15時30分終了.血液透析開 始後,意識状態の改善を認め,血液透析終了後に気管内チューブを抜去した.翌朝, 意識清明でNa濃度の再上昇もなく転院となった.食塩中毒の症例に対して血液透析を 施行し,Na濃度の低下とともに意識レベルの改善を認め,救命することができた.食 塩中毒の治療として,血液透析は有効であると考えられた.


48 狭い空間で発生した一酸化炭素中毒の2例

   愛媛県立中央病院麻酔科
   越智朋子,坪田信三,濱見 原,渡辺敏光

 我々は狭い空間で発生した一酸化炭素中毒の2例を経験した.患者は69歳の男性と 65歳の女性.既往歴は女性は貧血で通院していた.経過は漁船の船倉で練炭を炊いて いたところ(詳しい時間経過は不明),仲間に意識不明の状態で発見され当院救命外 来に搬送された.来院時,男性の意識レベルはJCS I群でCOHbは10.7%,女性はIII群 でCOHb 5.3%であった.男性に対し15L酸素マスクで,女性はFIO2 1.0のNIPVで管理 後,肺炎を発症したので気管内挿管下に人工呼吸器管理を行った.入院時検査におい て男性はCPK 7,126 IU/L (max 13,042),AST 116 IU/L (max 215),女性はCPK 3,259 IU/L (max 4,302),AST 56 IU/L (max 69)であった.男性は3病日に意識が清 明となった.女性は4病日に抜管したが,歩行障害,失認,失行,記名力障害を呈し た.男性は25病日に間歇型を発症し,女性と同様の失認,失行,歩行障害を呈し, 36病日,家族の希望により2人とも高圧酸素療法目的で転院した.考察 一酸化炭素 中毒による症状は一酸化炭素濃度,時間,状況,全身状態などにより異なる.今回の 2症例では一酸化炭素被爆様式が同様と考えられるが,異なる経過を辿った.しか し,1ヵ月後には同様の症状を呈した.


49 テオフィリン中毒の一例

   倉敷中央病院
   増田直樹,小泉有美馨,米井昭智

 テオフィリン徐放製剤による中毒を経験したので報告する.
 [症例] 16歳男性
 [主訴]胸痛,嘔吐
 [既往歴]アトピー性皮膚炎
 [現病歴]11歳から気管支喘息で近医通院加療 中であった.H13.1.17の13時頃,テオフィリン(ユニコン) 200mgを間違って10錠内 服した.14時頃から胸痛,めまい,呼吸困難,嘔吐が 出現し18時30分に近医を受診 した.HR120〜130,BP119/89で全身管理目的で当院 紹介となった.
 [入院後経過]来 院時,意識清明,sBP90〜130,HR120であった. 胸痛を認め,嘔吐を繰り返した. 生食3Lで胃洗浄を行ったが,嘔気強くメトクロ プラミド静脈内投与するも嘔吐を繰 り返した.洗浄後,活性炭,クエン酸マグネ シウムを注入したが嘔吐した.19時 40分のテオフィリン血中濃度(μg/mL) は38.4であったが症状増悪したため,0時 35分からICUで3時間の血液吸着で症状 は改善した.翌朝測定した血中濃度は吸着前 が67.7,吸着後39.5に,その3時間 後には31.3と低下した.翌々日には6.7となり, 第6病日退院となった.
 [考察]本症例は中等度薬物中毒濃度であったが,徐放剤であ り,Tmaxが8〜12時間,T1/2 が10時間であったこと,嘔吐が激しく活性炭の効果も期 待できなかったため血液 吸着を行った.徐放製剤の中毒では,血中濃度の予測,経 過観察と症状を考慮した治療が重要である.


50 致死量のアニリン系除草剤を服用したが救命できた一症例

   鳥取大学医学部附属病院麻酔科1,同高次集中治療部2
   岩下智之,森山直樹1,渡辺倫子1,永井小夜2,南ゆかり1,稲垣喜三1

 今回我々は,致死量のアニリン系除草剤を服用したにもかかわらず,救命し得た 症 例を経験したので報告する.症例は52歳,男性.平成13年2月20日,自殺企図にて ア ニリン系除草剤であるクサノンA乳剤100mlを服用した.嘔吐,下痢といった消化器症 状が強くなり当院救急外来に搬送された.意識は清明で,活性炭10g服用させ, ICU入室となった.入室後から一過性にメトヘモグロビンが高値を示したが,特に治 療をすることなく 第2病日には正常値となった.特に神経症状などもみられず,精神 科受診の後,第 6病日に退院となった.クサノンA乳剤の成分はDCPA,NAC,有機溶剤 ・界面活性であ る.DCPAによる症状としてメトヘモグロビン血症,NACによる症状と して有機リン中毒様の症状を呈するが,本症例においては一過性のメトヘモグロビン 血症を呈した のみであった.我々の経験した症例は全く後遺症を残さずに治癒した が,クサノン Aを100ml服用して死亡した症例は3例報告されており,若干の文献的考 察を加えて報告する.


51 非定型的に発症したセロトニン症候群の一症例

   社会保険広島市民病院麻酔・集中治療科
   清水一好,西江宏行,多田恵一

 我々は抗うつ薬中止後に増悪したセロトニン症候群を経験したので報告する.
 【症例】31歳,男性.鬱症状に対し近医より塩酸クロミプラミン75mg/day処方され一 旦 症状の改善を認めるも,21日目より発汗や奇異行動出現し内服中止.24日目には 発 汗,全身の振戦を認め同院入院.その後空笑,粗暴性出現,32日目 40℃を越える 発 熱,CK高値などから悪性症候群を疑われ,当院ICU入室となった.入室時は腋窩温 42.3℃,血圧130/50mmHg,脈拍160bpm,呼吸促迫,発汗著明,脱水状 態,瞳孔 4-5mm,対光反射緩慢.上下肢筋硬直・振戦・ミオクローヌスを認め,昏迷状態であ った.血液検査上CK 2296IU/l, ミオグロビン2200ng/mlと上昇,尿潜血(++)であ った. 気管内挿管下に人工呼吸管理,大量輸液,全身冷却施行し,ダントロレンナ トリウ ム60mg使用.3時間後には体温37℃台まで低下.抗うつ薬服薬既往,ミオクロ ーヌス 主体の臨床症状,治療への良好な反応性などからセロトニン症候群と判断. 入室6時 間後より意識レベル改善,25時間後には人工呼吸器から離脱.CKは4130 IU/lをピー クに低下,急性腎不全も発症せず,症状も軽快.46時間後には抜管.全 身状態改善し,一般病棟転棟となった.
 【考察】セロトニン症候群は悪性症候群に 類似した症状を呈するが,治療法・予後などの面から鑑別を要する疾患と考えられ る.