第36回日本胸腺研究会の開催にあたって

 平成28年度の胸腺研究会の集会長を務めさせて頂く河本宏です。
 胸腺を主な対象にした研究会としては、本会の他に京都T細胞カンファレンス(Kyoto T Cell Conference:KTCC)という、規模としては本会と同じくらいの会があります。歴史は胸腺研究会の方が古く、胸腺研究会は1982年から、KTCCは1991年からです。このふたつの会は、趣旨が大きく異なっており、会員に重なりはあまりありません。
この2つの会を比較してみようと思います。ざっくり言えば、胸腺研究会は、「胸腺にまつわる病気を診る医師の会」といえるでしょう。胸腺腫、胸腺がんなどのような胸腺上皮細胞に由来する腫瘍性疾患と、胸腺にリンパ節様の構造が形成される事で重症筋無力症のような自己免疫疾患を引き起こす病態などが、主な対象だと思われます。従って、対象はヒトの事例が殆どで、縦隔腫瘍を扱う胸部外科の臨床医と病理医が中心の会です。
一方、KTCCは「T細胞のバイオロジー」を扱う、免疫学者の集いです。中でも「胸腺の中でどうやってT細胞がつくられるか」を中心課題にしており、基礎研究ですのでマウスを用いた研究が殆どです。T細胞側だけでなく、T細胞分化を支持する胸腺環境側、すなわち胸腺上皮細胞の分化過程や機能も大きな研究対象です。胸腺では獲得免疫の司令塔であるT細胞がつくられる訳ですから、免疫学の大命題である「多様性の形成」「自己寛容の成立」の解明という主軸があります。
 胸腺研究会では、基礎研究に焦点をあてたセッションがあり、時には基礎研究よりのミニシンポジウムが開催されたりします。基礎研究者が集会長を担う事も多く、基礎研究も取り入れた会にしようという趣旨がよくわかります。実際、私自身も胸腺研究会にはこれまで何度か招待講演などで参加させて頂いていますし、今回は、胸腺やT細胞の基礎研究者として、集会長をさせて頂くことになったのだと思います。 さて、
上記のように、胸腺研究会の中には、基礎研究のセッションが設けられてはいますが、実際にはまだまだ融合的な分野が形成されているとはいいがたいというのがこれまでの印象です。しかし、これから、このふたつの会は、より「重なり」部分が多くなるのではないかと思います。基礎研究の方では、胸腺上皮細胞の分化経路、胸腺上皮幹細胞による維持機構、正/負の選択の機構などについて最近大きな発展がありました。これらの知見は、胸腺腫、胸腺嚢胞や胸腺がんの分類にも役にたつはずです。また、重症筋無力症などの自己免疫疾患と胸腺の関わりについては、自己寛容破綻機序の解明へ向けた研究の材料として、「抗原は何か」「抗原提示はどこで」「自己反応性クローンの動態は」などの観点でもっと掘り下げられてもいいと思いますし、そのような研究は抗原特異的な免疫制御法の開発研究へ向けた突破口になりうるのではとも思います。さらに最近は、移植医療や再生医療を目指した「人工胸腺」という研究も始まっています。例えばドナーのiPS細胞から胸腺上皮細胞を再生して移植片への寛容を誘導するなどです。また、がんの免疫療法が目を見張る様な発展をみせていますが、胸腺腫瘍にも、免疫チェックポイント阻害抗体であるとか、抗原特異的キラーT細胞療法などが、もっと応用されてもいいように思います。
胸腺研究会の臨床よりの研究者も、基礎研究の成果をより積極的に取り入れるとよいし、またKTCCの基礎研究者にとっても、蓄積されてきた免疫学の知識を駆使して臨床応用することにより、理論を実証するという戦略が今後ますます重要になってくるかと思います。
本集会では、このような趣旨に沿った演題が増えることを期待します。また、ミニシンポや、特別講演などもこの方向性で企画を練りたく思い、KTCC関係者にも参加を呼びかけてみようと思います。今回の集会をきっかけとして、胸腺研究会とKTCCの間で、互いに情報交換、人的交流をもっと進めていければ、と考えています。
 第36回集会をどうぞよろしくお願いします。


第36回日本胸腺研究会
会 長   河本 宏

会告

第36回日本胸腺研究会
・会長:河本 宏(京都大学 再生医科学研究所 再生免疫学分野)
・日時:2017年2月4日(土)午前9時〜午後6時
・会場:京都大学 芝蘭会館
    〒606-8315  京都市左京区吉田近衛町
    京都大学医学部構内 TEL:075-753-9336
・参加費:3,000円
・ランチョンセミナー:未定
  
・演題募集期間: 2016年10月11日(火)~11月30日(水)
・情報交換会:研究会終了後、情報交換会開催予定


演題募集要項

■募集内容
  • 1.演題募集期間は平成28年10月11日(火)~11月30日(水)とさせていただきます。
  • 2.演題は全て一般演題での口演を予定しております。
  • 3.演題は電子メールで受け付けます。日本胸腺研究会のホームページ内の「第36回胸腺研究会」のページ(http://plaza.umin.ac.jp/thymus/jart36.html)に掲載してあります【演題登録用フォーマット】をダウンロードし下記の内容を記入し、演題送付先アドレスに添付しご送信ください。  

    ①演題名 ②所属施設 ③演者名 ④抄録本文  メール本文にご連絡先(住所・電話・電子メール)をご記入ください。

  • 演題送付先:kyosen@frontier.kyoto-u.ac.jp

    フォーマットがダウンロードできない場合は、メール本文にメールテキストとしてお送りください。

    ※演題応募後 1週間以内に確認メールをお返ししますが、確認メールが届かない場合には下記宛先にご連絡をお願い申し上げます。

    〒606-8397 京都市左京区聖護院川原町53
    京都大学再生科学研究所 再生免疫学分野 河本 宏
    TEL:075-751-3818 FAX:075-751-3839
    E-mail: kyosen@frontier.kyoto-u.ac.jp

  • 4.演者と共同演者は本研究会の会員であることが原則となっております。未入会の方は下記研究会事務局への入会の申し込みをお願いいたします。
    (年会費 一般会員:2,000 円 日本胸腺研究会の会計年度は 1 月~12 月となっております)

  • 【日本胸腺研究会事務局】

    大阪大学 呼吸器外科 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2-L5

    TEL:06-6879-3152, FAX:06-6879-3164

    E-mail:kyosen@thoracic.med.osaka-u.ac.jp

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