胚細胞腫瘍 germ cell tumors

  • 胚細胞腫瘍の病理と治療はものすごく複雑です
  • この腫瘍はこの病気にとっても詳しい専門家にしかできません
  • 平均年齢は15歳くらいで子供に多い腫瘍です
  • 90%が20歳未満に発生します
  • 下垂体,視床下部,松果体という場所にできます
  • 成熟奇形腫以外は悪性腫瘍です
  • 診断はMRIでほとんどわかります
  • 血液の中のAFPHCGという腫瘍マーカーで悪性度が分かります
  • 手術は予想される組織型によって全く違う計画になります
  • ジャーミノーマが7割くらいで最も多いです
  • ついで,成熟奇形腫と未熟奇形腫です
  • 髄液にのって脊髄に播種(転移)することがあります
  • AFPHCGがとても高い値で悪性度が高い腫瘍は,放射線と化学療法をしてから手術で取り除きます(生塩博士の考え)
  • 日本での化学療法(制がん剤)はCAREあるいはICE化学療法というのが多いです
  • 放射線治療は病理組織によって全く違ってきます
  • 播種しやすい腫瘍では全部の脳と脊髄に放射線治療をしなければならないことがあります
  • 後遺症は手術と放射線できまりますから,それをできる限り低侵襲に押さえるのが治療のコツです
  • 内分泌(ホルモン)障害を持つ患者さんが多いので内分泌の専門家に診てもらう必要があります
  • 水頭症を改善するのには様々な方法がありますがシャント手術をしないコツがあります
  • ちなみに澤村はこの腫瘍の研究で米国脳神経外科学会のマハレー賞をもらいました(^O^)

胚細胞腫瘍の種類と大まかな治療方針
上から順番に治りやすい腫瘍です,クリックするとそれぞれのページに飛びます

成熟奇形腫 mature teratoma

手術で完全摘出すれば治ります,逆に放射線治療も化学療法も効きません

胚腫 ジャーミノーマ germinoma

できれば生検手術を行って病理診断をして,化学療法をしてから低線量脳室照射します

未熟奇形腫 immature teratoma

病理診断をして,放射線化学療法をしますが,残った腫瘍を摘出しないと高率に再発(再燃)します

混合性胚細胞腫瘍,mixed germ cell tumor
奇形腫とジャーミノーマの混合型

どのような腫瘍が混じっているか,病理診断が最も大切です。混じっているものの中で最も悪性度の高い病理所見にあわせて治療計画を立てます。ジャーミノーマと未熟奇形腫の混合型が多いです

悪性転化を伴う奇形腫 teratoma with malignant transformation

めったにない腫瘍です,手術摘出と放射線化学療法をしますが,高線量の局所照射が必要です。

卵黄嚢腫 yolk sac tumor AFP産生腫瘍

AFPが非常に高いときは生検手術は必要ありません,とりあえず化学療法を1コースして化学療法反応性を見極めて,追加の化学療法や脳脊髄照射(局所追加照射)をしてから,残った腫瘍を開頭手術で全部取ります

胎児性癌 embryonal carcinoma

これが疑われた時にはまず強力な放射線治療,それから化学療法が必要です,生存割合がとても低いのでできる治療は何でもします

絨毛癌 choriocarcinoma

純型はものすごく珍しく混合性胚細胞腫瘍の一部像として見られることの方が多いです,HCGが数千から数万の値になります,これが疑われた時には強力な放射線治療と化学療法が必要です,生存割合がとても低いのでできる治療は何でもします

これらの腫瘍が混じっているものが多いのでとても複雑になります
悪性度の高い方の腫瘍に焦点を当てて治療法を選択します

immatteratwk
14歳の少年に発生した松果体未熟奇形腫です
AFP 130ng/ml, HCG-beta 30mIUでした
化学療法はICE (CDDP, VP-16, IFO)
放射線治療は全脳室と局所照射
奇形腫なので開頭手術で全摘出が必要です

治療の概略

全般的に小児脳腫瘍の治療研究体制は欧米に遅れていますが,東南アジアでの胚細胞腫瘍の発生頻度は欧米の3から5倍にあたるために,治療に関しては日本が欧米をリードしています。私もこの腫瘍に対してはたくさんの論文を書きました。

ジャーミノーマは,他のページに詳しく書いていますのでここをクリック

胚細胞腫瘍といってもいろいろな腫瘍の集まりですから,WHO病理分類によって適切な治療方針を決めるさえ難しいです。治療法のおよその選択のために,組織型によって予後良好群,予後中間群,予後不良群の3群に分類しておよその目安としました。

治療選択のための分類

この分類は1995年に澤村が世界で初めて作成したものです。Impact Factor 5.3のCurrent Opinion in Neurologyにきちんと英文発表していますので確かめてください (*^o^*) 原著の発表からもう20年以上たちますのでmodificationしています。2016年4月時点では,この分類よりさらに細かく分けて考えて治療法を選択するべきだと考えています。

Sawamura Y: Current diagnosis and treatment of central nervous system germ cell tumors. Curr Opin Neurol 419-423, 1996
  • 1. 予後良好群 Good Prognostic Group
    • germinoma with or without elevated serum HCG-beta < 100mIU
    • mature teratoma
  • 2. 中間群 Intermediate Prognostic Group
    • immature teratoma
    • mixed germ cell tumors consisted of germinoma with either mature or immature teratoma
  • 3. 予後不良群 Poor Prognostic Group
    • embryonal carcinoma
    • yolk sac tumor
    • choriocarcinoma
    • mixed germ cell tumors including a component of embryonal carcinoma, yolk sac tumor, choriocarcinoma, or teratoma with malignant transformation
    • teratoma with malignant transformation including a component of such as squamous cell carcinoma, adenocarcinoma, or other sarcomas
  • 予後良好群は,胚腫(ジャーミノーマ)と成熟奇形腫です。80-90%の10年生存割合が期待できる群ですから,治癒を目指すとともに治療後遺症をできうる限り最小限度となるような治療方針を作成します。ジャーミノーマは胚細胞腫瘍の約70%を占めますから,成熟奇形腫を入れると4分の3くらいになります。また15歳をピークとして思春期に多い腫瘍ですが10歳以下の小児にも稀ではありません。
    成熟奇形腫は,開頭手術による摘出のみが治療方法で他の治療選択肢はありませんから,脳神経外科医の手術技術だけがたよりです。
    かつてジャーミノーマの標準治療は,全脳室あるいは全脳脊髄を含む領域に腫瘍線量として45~55Gyを用いるものでした。この大量の放射線を使う治療法では,長期生存例において精神発達遅滞(知能低下・認知機能の低下),間脳下垂体機能障害,放射線誘発二次腫瘍,脳主幹動脈閉塞などの遅発性放射線障害の発生が問題となりました。
    ジャーミノーマは化学療法への感受性が非常に高くて,組織診断確定後に化学療法を行えば,大きなものであっても例外なく腫瘍はほぼ完全に消失します。でも,化学療法単独治療ではかなり高頻度に再発が起ってしまいます。MRIで一見したところ限局性腫瘍に見えますが,病理組織学的には脳室壁などにかなり広範に浸潤 subependymal infiltration しているので少なくとも全脳室領域 whole ventricle に照射野を設定する必要があるということがはっきりしてきました。生検術で組織診断を確定した後に,カルボプラチンとエトポシドを用いるCARE化学療法か,ICE化学療法を3コース行ってから全脳室系に低線量照射(24Gy/12分割あるいは25.2Gy/14分割)をします。松谷班の発表では,追跡期間中央値5年の時点にて治療評価可能な130例において,無増悪生存割合91%,全生存割合98%という良い成績を出し,さらにこのうち120例(86%)が社会復帰をしています (ほんとかなーーこんなに高くないかも–??)
  • 予後中間群の5年生存率は70%程度です。未熟奇形腫と治りやすいタイプの混合性胚細胞腫瘍です。混合性胚細胞腫瘍では,ジャーミノーマと成熟・未熟奇形腫との混合型のみを中間群に入れて他のものは予後不良群として治療します。未熟奇形腫は時として髄液播種などもしますから安易に考えて治療を進めないほうがいいでしょう。長期でみれば30%が死亡するというのはおそらく悪性度が高いタイプの未熟奇形腫のためです。
    かつて,ジャーミノーマの病理組織診でみられるHCG陽性巨細胞を含むものを germinoma with STGC (germinoma with syncytiotrophoblastic giant cells)として予後中間群に分類していました。その後,血清のHCG-beta値が軽度の上昇を示すものをHCG-secreting germinomaとしていたこともあります。逆に,それ以外をpure germinomaと呼びました。1990年代までは,HCGを産生するジャーミノーマが再発しやすいと信じられていたからです。しかし,ほぼ全てのgerminomaは微量ながらもHCGを産生することが判明し,またHCG産生ジャーミノーマの再発率はきちんとした治療ができれば高くはないということもわかりました。ですから,2000年ころからは全てのgerminomaは予後良好群としました。
    この群には軽度の血清AFP上昇例(数百ng/ml)も含まれます。低悪性度の未熟奇形腫がAFPを産生するからです。
  • 予後不良群は,胚細胞腫瘍の10%程度で珍しいものです。死亡率が高い群ですから,機能予後の損失(ある程度の後遺症)よりも生命予後に重点をおいて,個々の患者において与えられる限りの初期治療をほどこします。
    胎児性癌や卵黄嚢腫など死亡率が高い予後不良群のうち,HCG-betaあるいはAFPという腫瘍マーカーがかなりの高値を示す症例は,生検術や腫瘍摘出手術のリスクが高いです。松果体や視床下部というところにあり,かなりの出血を伴いますから全摘出できるものではありません。また,手術で取り残した残存腫瘍が病理診断をまっている2週間くらいの間に増大してしまうこともあります。さらに,手術で腫瘍を崩せば腫瘍細胞が髄液中に散って,髄液播種を誘発します。何れにしても強力な化学療法と放射線治療をしなければ助からないので,生検による病理組織診断や摘出術そのものに意義が見出せないのです。
    手術をせずにまず放射線化学療法を先行させて,腫瘍が小さくなったところで全摘出します。これは熊本大学にいた生塩先生が提案した治療法です。第一に,手術による播腫(転移)の誘発を防ぐという利点があります。さらに,neo-adjuvant chemoradiaiton therapyによって出血の減少と腫瘍の縮小で最終的な腫瘍摘出術を容易にするのがねらいです。私は予後不良群に,イホスファミド,シスプラチン,エトポシドを用いるICE化学療法を使用してきました。
  • ICE化学療法
    1. ICE化学療法の効果はJ Clin Oncolという権威ある雑誌に発表していますので見てください。Aoyama H, Sawamura Y, et al.: Induction chemotherapy followed by low-dose involved-field radiotherapy for intracranial germ cell tumors. J Clin Oncol 20: 857-865, 2002。
      注意していただきたいのは,胚細胞腫瘍に対するオリジナルのICE化学療法というのはシスプラチンを使用するものであって,カルボプラチンは使いません。もっとも早期の原著は,1998年にJ Neurosurgという米国脳神経外科学会の機関誌にきちんと発表しています。
  • 分類と治療アルゴリズム
  • 胚細胞腫瘍の病理,マーカー値,発生部位,年齢,腫瘍サイズ,髄液播種の有無,脳室壁浸潤の程度によって必要な治療方法と,加えることの可能な放射線線量はかなり異なってきます。複雑すぎて,選択肢のアルゴリズムを書くことができません。
  • 米国での臨床試験による誤謬
  • 米国では頭蓋内胚細胞腫瘍を,germinomatous germ cell tumors (GGCTs) と nongerminomatous germ cell tumors (NGGCTs) に分けてなんでも考えます。ジャーミノーマとそれ以外の胚細胞腫瘍といいう意味です。ここでは,ジャーミノーマ以外の2-3割を占める胚細胞腫瘍を一緒くたにして治療方針が立てられます。なぜなら登録症例が少ないとまとまった成績が出ないからです。母集団数を大きくするためにひっくるめるヽ(゚Д゚;)ノ!!  例えば,ジャーミノーマと成熟奇形腫というとても治りやすい混合性胚細胞腫瘍も,胎児性癌と卵黄嚢腫を含む未熟奇形腫からなる混合性胚細胞腫瘍も同じ治療になります。そんな馬鹿な—-(ノ゚ο゚)ノ オオオオォォォォォォ-.

定義・概念

  • 胚細胞腫瘍 germ cell tumors は,小児期と青年期に,生殖器(精巣,卵巣)と体中心線に当たる部位,すなわち縦隔,後腹膜,松果体,神経下垂体部などに発生します
  • primordial germ cells (原生殖細胞)を起原として発生する腫瘍であると考えられています
  • 胎生初期にprimordial germ cellsは様々な臓器に分布しますが,なぜ縦隔と間脳松果体部(diencephalopineal region)において停留し腫瘍化するかは不明です
  • 中枢神経系(頭蓋内)原発胚細胞腫瘍(primary CNS (intracranial) germ cell tumors) は生殖器原発のものと較べると頻度はかなり低いです
  • 性殖器あるいは他臓器に発生する胚細胞腫瘍とは,病理組織学的にも生物学的にもほぼ同様の性質を示します
  • ですから,数の多い泌尿生殖器系統に発生した多くの悪性胚細胞腫瘍の治療を参考にして,頭蓋内胚細胞腫瘍の治療が発展してきました
  • 特に悪性度の高い腫瘍 refractory germ cell tumorsに対しての化学療法が参考になります
  • しかし大きな違いもあって,生殖器原発腫瘍が高頻度にリンパ節あるいは多臓器に転移することに対し,中枢神経系原発胚細胞腫瘍の最大の特徴は中枢神経外への転移が例外的なことです

WHOの分類 (2007)

  • Germinoma
  • Embryonal carcinoma
  • Yolk sac tumor
  • Choriocarcinoma
  • Teratoma (Mature, Immature, Teratoma with malignant transformation)
  • Mixed germ cell tumor

胚細胞腫瘍の発生頻度

中枢神経系胚細胞腫瘍の発生頻度は,東アジアでは欧米の3~5倍です

症例数 割合
ジャーミノーマ 1,037 70.2%
奇形腫 100 6.8%
悪性奇形腫 86 4.8%
胎児性癌 63 4.3%
卵黄嚢種 43 2.9%
絨毛癌 46 3.1%
1,478 100%

この日本脳腫瘍統計の集計はWHOの分類に即していないため,およその指標とはなるが正確性を欠く。germinomaとmature teratomaを除けば純型は少なく,詳細に組織像を検討すればmixed germ cell tumorの頻度が高くなる。例えば,immature teratomaにgerminomaが混在する症例では,mixed germ cell tumorと病理診断されるべきであり,診断と治療は,germinomaとimmature teratomaの両者の性質を踏まえて行うことになる。また純粋なembryonal carcinoma,yolk sac tumor,choriocarcinomaの頻度はTable 2に示すものよりも遥かに低いものであろうし,ここではmalignant teratomaとされるものの定義も明らかではない。

14才以下の小児例では,germinomaの頻度は全原発性脳腫瘍の9.8%となり,小児に多い。発生頻度と部位には性差があり,松果体原発腫瘍は男児に圧倒的に多く女児に少ない,またgerminoma以外の組織型は男児に多い。発生部位は,80%以上が第三脳室近傍すなわち,視床下部・下垂体後葉 (neurohypophyseal germ cell tumors) と松果体 (pineal germ cell tumors) の2つの部位に集中する。両部位に同時に発生する (synchronous tumor) ことはめずらしくない。女児に発生するgerminomaは,視床下部に多く松果体部は極めて稀である。頻度は低いが,大脳基底核,視床,脳幹部,脊髄,小脳にも原発することがある。

時を経て胚細胞腫瘍が中枢神経系に2度発生することがあり,これをmetachronous germ cell tumorという。例えば,小児期に松果体部teratomaが発生しそれが治癒し,10年を経て思春期に神経下垂体部にgerminomaが新たに発生する場合などである。3このmetachronous germinomaと再発との厳密な意味での鑑別は難しい。

血清と髄液中の腫瘍マーカー値
HCG-beta AFP
germinoma – or +
yolk sac tumor – or ± +++
choriocarcinoma +++
embryonal carcinoma – or + or ++ – or + or ++
mature teratoma – or + – or +
immature teratoma – or + or ++ – or + or ++
MGT (mixed germ cell tumor) – or + or ++ – or + or ++
high-grade MGT + or ++ or +++ + or ++ or +++
病理染色における腫瘍マーカー
Tumor Type Beta-HCG AFP PLAP c-kit
Choriocarcinoma ±
Embryonal carcinoma –  +
Germinoma + ± +
Immature teratoma ± ± ±
Mature teratoma
Mixed germ cell tumor ± ± ± ±
Yolk sac tumor –  + ±

臨床症状

臨床症候は腫瘍の発生する脳の部位に依存するが,それぞれの腫瘍型によっても若干異なる。

松果体の胚細胞腫瘍の大部分は,第三脳室後方から中脳水道の閉塞による閉塞性水頭症を生じる。それゆえに頭痛と嘔吐,あるいは軽度の意識障害を初発症状とすることが多い。かつては高度の水頭症のためParinoud症候などを呈して入院する例もあったが,最近では中脳被蓋の圧迫症状である眼球運動障害まで進行している例は少ない。

視床下部から下垂体後葉を発生母地とする胚細胞腫瘍は,多飲・多尿(中枢性尿崩症)で発症することがかなり多い。下垂体前葉まで腫瘍が浸潤すれば,成長ホルモンの分泌低下による低身長など前葉不全も伴っている。前葉不全による副腎機能低下で尿崩症が不顕化している場合は,副腎皮質ステロイドホルモンの補充で尿崩症が顕在化して尿比重が低下し尿量の著明な増加を見る。高度の間脳下垂体不全でのナトリウム調節障害,意識障害,知能低下などの重症例も時に遭遇する。

germinomaは本来浸潤性の腫瘍であり,視神経交叉を侵すことが多く,視力・視野障害を合併していることも稀ではない。視力が保たれている例においても,様々な視野欠損を呈する症例があるので,視野検査は必ず行っておいた方がよい。また,germinomaは中枢神経組織を破壊性に浸潤し,視力・視野障害は不可逆性であることが多いので,診断と治療を遅らせてはならない。

大脳基底核に生じた腫瘍は大脳高次機能低下,錐体路障害による片麻痺,知的機能の障害などを呈するが,初期には局所症候に乏しいこともありかなり進行してからでないと発見されないのが通常である。脊髄に生じたものでは横断性対麻痺や膀胱直腸障害もあり,視床や延髄などであればそれらの部位特有の局所症候で発症する。

検査と診断

胚細胞腫瘍の診断においては,血清と髄液中のAFP (alpha-feto protein)とHCG-beta (human chorionic gonadotoropin-beta subunit) の測定は必須検査となる。後述するように,これらの腫瘍マーカーを多く分泌するものほど悪性度が高い傾向がある。個々の症例によっての差異は非常に大きいが,choriocarcinomaでのHCG-betaは10,000 ng/ml前後,yolk sac tumorでのAFPは4,000 mIU/ml前後とかなりの高値を示す悪性腫瘍もある。germinoma例でのHCG-betaは,測定限界値が低い精度の高い検査法を用いればほとんどの例で陽性(異常高値)となるため,かつていわれたようなHCG-beta産生性(あるいは分泌,陽性)germinomaという概念は揺らぎつつある。

HCG-betaは必ずしも胚細胞腫瘍特異的ではなく,頭蓋咽頭腫などの鞍上部腫瘍でも陽性となる症例があることに注意しなければならない。髄液中でのc-kitの測定も病態と関連して胚細胞腫瘍の診断に有用である。5 HCG-betaの値は血清値よりも髄液中の方が高いので髄液の測定も行った方がよい。

髄液の腫瘍マーカー測定と伴に,髄液細胞診で腫瘍細胞の有無をみることも重要である。しかしながら,この髄液細胞診断には疑陽性あるいは偽陰性の頻度が高い。髄液中に明らかな腫瘍細胞の浮遊がある時には,放射線治療を全脳脊髄領域に拡大することも考慮されなければならない。

胚細胞腫瘍が間脳下垂体系に発生した場合には,ほとんどの例で尿崩症や下垂体前葉障害を生じているので,負荷試験を含めた内分泌学的な検査が必要である。また,この診断と平行してホルモン補充療法を行わなければならない。視床下部障害あるいは尿崩症に続発する低ナトリウム血症にも遭遇することがあるので,電解質検査とその補正も常に念頭に入れる。例え松果体にのみ腫瘍が存在する例でも,神経下垂体部にMRIではみえない腫瘍(occult germinoma)が存在することもあるので内分泌検査は全例に行われることが推賞される。

画像診断はMRIで行うが,病理像が様々であるため,その所見にも一定のものはない。mature teratomaを除く全ての胚細胞腫瘍は髄液を介して髄腔内播種する可能性があるので,治療を開始する前には必ずガドリニウム像強を加えた全脳全脊髄のMRI診断を行なう。ただし,teratomaにおける石灰化は診断的価値を有するために,CT scanも行った方がよい。画像上での診断名で鞍上部germinoma(suprasellar germinoma)という用語が長く使用されてきたが,これは適切ではない。灰白隆起,下垂体後葉や下垂体柄を含むneurohypophysisに発生するものが多く,neurohypophyseal germinomaと呼称するのが正しい。

原則的には,全ての症例において定位的生検などにより組織学的診断を治療に先行させ,治療方針を立案することを原則とした方がよい。例えば,胚細胞腫瘍の中でも最も多いgerminomaは治癒の期待できる小児脳腫瘍である。従って,germinomaであるという確定病理診断を得ることが,最も効率的に最も低侵襲に患児を治癒に導くための,必須の条件となる。逆に,悪性度の極めて高いembryonal carcinomaの患児をgerminomaと仮定(誤診)して治療すれば,その患児を救うことはできない。

またgerminomaは,手術全摘のみで治癒を得ることはできず,放射線治療を加えなければ再発するし,組織生検であっても全摘出であっても完全寛解導入率に変わりはない。germinomaにおいての手術は,確定病理診断を得るための診断的手術であることが第一義となるので,侵襲的手術であってはならず,可能な限り定位的腫瘍生検術を選択する。近年,閉塞性水頭症を合併する症例において,第3脳室経由で神経内視鏡を用いる生検術と第3脳室底開窓術が行われることがあるが,胚細胞腫瘍は髄液を介して播種する性格を有しているためこの操作が播種を助長するという懸念は捨て切れない。

腫瘍マーカーが陰性のものをnonsecreting germ cell tumorといい,この群ではもちろん診断のための腫瘍生検は必須となる。逆に腫瘍マーカーが陽性となるものはgerm cell tumorの診断がつき,組織診断を必用としないという考えもあるが,著者はAFPやHCGがかなりの高値を示す悪性例でもできる限り定位生検術を行い,より正確な病理診断と治療を計画する方針をとっている。

病理組織所見は実に多様であり詳述はできないので他書を参照されたい。germinomaの特殊染色では,PLAP (placental alkaline phosphatase) が陽性となることが診断の大きな根拠となり,部分的にHCG-betaが陽性を示す細胞も出現する。定位的生検術で得られる腫瘍検体は小さく,病理組織検査に不十分なことがある。特に画像診断でmixed germ cell tumorが疑われる症例では,画像所見,腫瘍マーカーと病理診断を比較検討して,生検した以外の腫瘍部分に予想外の組織像が存在し得ることを考慮して治療計画をたてることも重要である。必用であれば放射線・化学療法中やその後に,二度目の生検術あるいは残存腫瘍摘出術を行うことも常に考慮に入れる。

治療

前述のように胚細胞腫瘍とは種々の組織型の総称であり,またmixed germ cell tumorsの存在により,WHOの病理分類によっても適切な治療方針を決めることは難しい。北海道大学では1992年より,治療法の選択のために,組織型・伸展度・腫瘍マーカーによりTable 3のように3群に分類しておよその目安としている。以来50例以上の胚細胞腫瘍をこの分類に則って治療したが,現時点までの変更点は,前述したようにほとんどのgerminomaはHCG-betaを産生するのでこの分類の基準から除いたのみである。血清あるいは髄液中のHCG-beta が比較的に高値となるgerminomaの再発率が高いのか否かは現時点では結論がついていない。

good prognostic groupとは,80-90%の10年生存割合が期待できる群であるので,腫瘍からの治癒を目指すとともに治療後遺症をできうる限り最小限度となるような治療方針を作成する。逆に,poor prognostic groupとは生命予後が極めて不良な群であり,機能予後の損失よりも生命予後に重点をおいて,個々の患者において与えられる限りの初期治療をほどこす。intermediate prognostic groupにおいての5年生存率は70%程度である。

mixed germ cell tumorsのうち,germinomaとmatureあるいはimmature teratomaとの混合型のみを中間群に入れて,他のmixed germ cell tumorsは予後不良群として治療する。しかし,松谷らは,teratoma with malignant transformationの中で悪性度が高い腫瘍組織部分の量的割合が少ないものを中間群として治療するべきであるとしている。7) しかしながら,手術でかなりの部分の腫瘍を摘出してしまわなければこの病理診断は得られず,実際的ではないと思われる。HCG-betaあるいはAFPがかなりの高値を示す症例では,組織生検をせず放射線化学療法を先行させることもあるが,14,15) この場合においてはpoor prognostic groupとして治療計画を立てるのが適切なのであろう。

また,欧米では単にgerminomatous germ cell tumorsとnon-germinomatous germ cell tumorsの2群に分けて治療方針が論じられることが多い。Non-germinomatous germ cell tumorsとはgerminomaとmature teratomaを除く全ての腫瘍群を総称する。しかし,この中には様々な程度の悪性度を有する腫瘍が混在するために一括して治療方針を決定することには無理がある。

化学療法

胚細胞腫瘍は,cisplatinを基剤とした化学療法(platinum-based chemotherapy)に感受性が高い腫瘍として知られている。従って,化学療法を選択する場合にはcisplatin(CDDP)あるいはcarboplatin(CBDCA)を中心にregimenが組まれfirst-line chemotherapyとして応用される。現在一般的に用いられている多剤併用化学療法としては,PE (EP) 療法,ICE(VIP, PEI)療法,PVB療法,BEP療法などがある。

regimen combination of agents
PE (EP) cisplatin (or carboplatin), etoposide
ICE (VIP, PEI) ifosfamide, cisplatin, etoposide
PVB cisplatin, vinblastine, bleomycin
BEP bleomycin, etoposide, cisplatin

PE療法とは,cisplatinとetoposide (VP-16),あるいはcarboplatinとetoposideを併用する化学療法である。PE療法に更にifosfamide (IFOS)を加えたものをICE療法という。ICE療法の場合の白金錯体は,carboplatinよりもcisplatinが併用されることの方が多い。このICE療法は,VIPあるいはPEI療法と同じものを意味する。PVB療法とは,cisplatin, vinblastine (VBL), bleomycin(BLM)の3者併用療法をいう。BEP療法とはbleomycin, etoposide, cisplatinの併用である。いずれにせよ基本となるものは,cisplatinかcarboplatinを中心とした多剤併用療法であることにかわりはない。16-25)

これらのregimenの有効性を正確に比較することはできないが,中枢神経系腫瘍以外でも代表的な標準的治療であるICEとBEP療法の転移を呈する進行性胚細胞腫瘍に対しての効果は,ほぼ同等であったという共同研究の結果が発表されている。著者の用いているICE療法は,一日あたりifosfamide 900mg/m2, cisplatin 20mg/m2, etoposide 60mg/m2を5日間連続投与して1コースとするものであるが,この投与量は他臓器原発の胚細胞腫瘍に対して用いられる量より少ない。文献報告を参照する場合は,同一のregimenであっても投与量に差があり,当然のことながら副作用の程度も異なることに注意する必用がある。

最近では, gemciatbine, docetaxel, paclitaxelなどの効果も注目されているが,27) 現時点ではfirst-line chemotherapyとして確立されたものではない。これらの薬剤の真の有効性は大規模臨床研究の結果を待たなければならないが,現時点では再発した腫瘍に対してのsalvage therapyとして効果が期待されるものである。また,末梢血幹細胞移植(PBSCT)を応用する超大量化学療法は,salvage therapyとして有効性の報告はあるが,悪性度の高いgerm cell tumorをこの化学療法単独で治癒せしめうるものではなく,一方で副作用のため化学療法死の危険さえ伴う方法であり毒性が高すぎるため,これも治癒率と副作用を鑑みれば現時点では普遍的な治療法とは言えない。

珍しい腫瘍型

下図に見られるように,embryonal carcinomaとyolk sac tumorとchoriocarcinomaの年齢分布は類似する。germinomaよりはいくらか年齢層が低い。

胚細胞腫瘍の年齢分布

日本脳腫瘍統計によるchoriocarcinoma, embryonal carcinoma, yolk sac tumor, とその他組織型が明確ではない胚細胞腫瘍の年齢分布

 

文献情報

導入化学療法と摘出手術を放射線治療前に行う

Goldman S, et al.: Phase II Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors: A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol 33: 2464-2471, 2015
ジャーミノーマ以外の胚細胞腫瘍に6コース18週間の導入化学療法 (交互にCBDCA/VP-16, Cycles 1, 3, and 5, IFO/VP-16, Cycles 2, 4, and 6)を行い,この導入化学療法後に残った腫瘍は積極的に摘出が行われました(second-look surgery)。CR/PR (65%以上の腫瘍サイズ縮小)となった患者さんには放射線治療 (daily 5 days a week for 5-6 weeks) がされました。PR 不完全奏効以下の例では,大量化学療法 consolidation chemotherapy (PBSCR, thiotepa/VP-16)を加え,その後に放射線治療が加えられています。
2002年から2008年に,年齢中央値12歳,102人の患者さんが治療を受けました。松果体が54%,鞍上部が24%です。導入化学療法のみで,69%の患者さんがCR/PRとなりました。5年無増悪生存割合は84%,全生存割合は93%でした。再発は16人で,7人が死亡しています。原発部位で10例の再発,遠隔再発が3例でした。画像所見がなく腫瘍マーカーで進行が確認されたものは2例でした。
「解説」確かに良い成績です。でもしかし,Histologically confirmed germinoma with elevation of serum/CSF beta human chorionic gonadotropin (HCG) levels greater than 50 mIU/mLが含まれています。この腫瘍群は,単なるジャーミノーマへの治療だけで治る可能性がある予後良好群です。これに対してかなりの強度の高い治療がなされています。また全員が放射線治療を受けていますが,知能予後にもっとも影響のある照射野の規定がはっきりしません。またさらに,45Gy-54Gyもの照射線量が用いられていて,長期生存を得た場合の2次腫瘍,認知機能低下,脳血管障害(動脈閉塞)などの可能性はとても高いものとなるでしょう。治療後10年生存した患児にの多くがとても困った状態になっていると予測されます。20年前からそうですが,欧米ではHCGの値がかなり低いgerminoma以外の胚細胞腫瘍をみんな一緒くたにして治療しようとします。そうしないと研究のための数 Nが集まらないのでしょうが,それでは長期生存した患児の社会的な自立が得られません。

注意して読まなければならない有名な論文

Kellie SJ, et al.: Primary chemotherapy for intracranial nongerminomatous germ cell tumors: Results of the Second International CNS Germ Cell Study Group protocol. J Clin Oncol 22: 846-853, 2004
20人の胚細胞腫瘍(germinomaを除く)の患者さんが,regimen A (CDDP, VP-16, CPM, BLM)とregimen B (CBDCA, VP-16, BLM)の化学療法を受けています。 完全寛解とならなかった患者さんで手術か放射線治療がなされました。
論文の要旨を読むと,評価できた17人の患者さんの内で16人 (94%奏功率) が有効 (CR/PR) になっています。6.3年の追跡期間中央値で20人中の14人(60%)が生存していました。5年全生存割合は75%,無増悪生存割合は36%です。
「解説」2004年に発表されていますが,1994年に計画された治療法の成績です。この論文に書かれている治療方針は現在では全く誤ったものと言えまので,この治療方針を模倣してはなりません。論文をよく読むと治療中と後の再燃(増悪)が20例中の14例(70%)にもなります。これらの患者さんでは予定された化学療法を継続せずに手術や放射線治療でrescueされているのです。明らかにここに書かれている化学療法のみでは腫瘍を抑えきれないです。死亡した6人の患者さんでは,3人(HCG/AFP異常高値)が放射線治療を受けておらず,1人(HCG>3000)が局所放射線治療です。14名の生存者の内で9人が放射線治療を受けています。このことは多くの患者さんで結果的には放射線治療を避け得ないということなので,最初から治療計画に組み込むべきです。この20例の中にはAFPが正常値でyolk sac tumorの組織診断であったり,組織診断がgerminomaの例も含まれていて,そもそも正確に診断されているかどうかも考えさせられます。
germinomaでさえ化学療法のみで放射線治療を加えなければ再発を抑制できないことは知られていますのに,さらに悪性度の高い胚細胞腫瘍群で,化学療法に反応すれば放射線を加えないという初期治療方針を立てることはできません。悪性度の高い胚細胞腫瘍には放射線治療を優先的に考慮しなければなりませんが,どの程度の脳脊髄照射(あるいは第3脳室照射)を用いるかということで,生存の質(認知機能の予後)が決まります。

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1998年にSpringerから出版した英文の成書です。

 

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