脊索腫

 脊索腫とは

 脊索とは,胎生期に見られる組織で,発育に伴って,頭蓋底の骨や脊椎,さらに椎間板の髄核になります.この組織の一部が大人になっても残っていて,それが腫瘍化したものが脊索腫と考えられています.脊索腫は,組織学的には癌のような悪性腫瘍ではなく,良性の腫瘍ですが,骨の中を広がるため,すべての腫瘍を摘出することが難しいため,治療に難渋します(臨床的には悪性腫瘍として扱われることが多い腫瘍です).また,MRIなどの画像検査では,同じように見えるものに,軟骨肉腫(これは組織学的にも悪性です)があり,手術後の組織検査ではじめて鑑別されることもあります.どちらの腫瘍も,非常にまれな腫瘍で,斜台や傍鞍部といわれる頭蓋底の正中部に多く発生します.一般的には,腫瘍が大きくなり,外転神経などを障害して,複視(ものが二重に見える)の症状で発見されることが多い腫瘍です.

治療法

 腫瘍をすべて摘出できれば完治します.したがって,手術の目的は,腫瘍の全摘出であります.しかし,腫瘍が頭蓋底の骨の中を広がるように発育しますので,すべてを摘出することが困難な腫瘍です.また,海綿静脈洞内に広がり,全摘出が不可能な場合もあります.腫瘍をすべて摘出できるチャンスが最も高いのは,最初の手術であります.最初の手術で腫瘍を全摘出できなかった場合は,すぐに再発することになり,放射線治療の効果もあまり高くないため,その後の治療に難渋することになります.
 治療で大切なことは,硬膜が腫瘍の頭蓋内への発育を阻止することです.最終的に,腫瘍が硬膜の一部を破壊して頭蓋内に広がることもあるのですが,腫瘍の本体は頭蓋底の骨の中にあります.したがって,硬膜を破らずに,頭蓋底の骨を可能な限り大きく削り取る方法が,理想的な方法です.硬膜を破らない限り,仮に再発したとしても,腫瘍が頭蓋内に大きく発育して脳障害を起こす確率を下げることが出来るからです.しかし,開頭術では,大きく硬膜を切開しないと,頭蓋底の骨内に広がる腫瘍を摘出できません.
 したがって,この腫瘍では,開頭術を避け,拡大経蝶形骨法で,可能な限り頭蓋底骨を削除することが,大切と考えています.仮に,腫瘍が硬膜を破って頭蓋内に広がっている場合でも,最初に腫瘍が発生した頭蓋底骨の中に広がる腫瘍をすべて摘出しないと,腫瘍の全摘出は不可能です.まず最初に,頭蓋底の腫瘍を経鼻的に摘出して,硬膜の破れた部分をきちんと修復(これが大切)して,その後に開頭術により頭蓋内腫瘍を摘出する方法が良いと考えます.

その他の治療法

1.開頭法による腫瘍摘出術.
 頭蓋底(頭蓋骨の底)の骨の中に広がる腫瘍は,ほとんどが硬膜の外の頭蓋外にあります.しかし,腫瘍が大きくなると,硬膜を破って,頭蓋内に広がります.この頭蓋内の部分を摘出するのに,開頭法は適しています.しかし,拡大経蝶形骨法の経験がないとか不慣れである,自信がないなどの理由で,頭蓋底の骨の中に広がる腫瘍を開頭法で摘出を試みる場合もありますが,治療成績はあまり良くないのが現状です.頭蓋外の腫瘍を,一度頭蓋内を経由して,しかも腫瘍が頭蓋内に広がるのを阻止する役目のある硬膜を切開して,摘出するのですから,手術で,取り残した腫瘍が頭蓋内に広がる道を手術により作っている可能性があります.

2.放射線による治療.
 一般的な放射線治療やガンマナイフによる治療の効果はあまり期待できないと言われています.しかし,病変をきちんと同定して,十分な線量を照射すれば,腫瘍の再発を予防することが可能と考えています.ただ,頭蓋底骨の中に浸潤性に増殖するため,病変の広がりをきちんと同定することが,難しいため,再発するのではと考えております.一方,重粒子線や陽子線などの特殊な放射線治療が有効な例があると報告されています.ただしこれらの治療は,保険外診療になり,高額の自己負担金(約300万円)が必要になります.また,このように高額ですが,有効率はそれほど高くありません.