下垂体の近くに発生する腫瘍について

  下垂体は,成長,代謝,月経周期をはじめとする様々な作用をもつなど全身のホルモンを調節する最も大切な器官です.その機能が障害されると命に関わるようなホルモン異常を引き起こします.

下垂体ホルモンの種類と働き

下垂体は前葉と後葉に分けられ,全身のホルモン分泌をコントロールしています.

 また,下垂体の近くにある視神経(物を見る神経)が完全に障害されると視力が障害されます.同じく,近くにある内頸動脈(大脳を養う最も太い動脈)が閉塞すると,大脳に広範囲の脳梗塞が起こり,生命に関わる事態になります.

真ん中で頭を前後方向に縦に割って横から見た図
 下垂体はトルコ鞍と呼ばれるポケット状の骨のくぼみにあります.脳とは下垂体柄でつながっています.下垂体の真上に視神経の交叉(視交叉)や第3脳室があります.

下垂体の位置で頭を左右方向に縦に割って正面から見た図
 下垂体の左右には,海綿静脈洞と呼ばれる太い静脈があります.さらに,海綿静脈洞の中には,脳のもっとも太い動脈である内頸動脈があります.また,目の動きを調節する3本の神経(動眼神経,外転神経,滑車神経と呼ばれます)も海綿静脈洞にあります.このように下垂体の左右には,大事な神経や血管が密集しています.

 この下垂体の近くには,下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ),鞍結節部髄膜腫(あんけっせつぶずいまくしゅ),頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ),ラトケ嚢胞(らとけのうほう),脊索腫(せきさくしゅ)などと専門用語でいわれている,いろいろな種類の腫瘍が発生します.
 また,これらのほとんどは良性腫瘍です.(いわゆる癌のようにそれのみで死にいたる病気ではありません.)腫瘍が発見されたからといって直ちに治療をする必要のない場合もあります.腫瘍が小さくて症状がまったくない場合,さらに腫瘍が大きくなるスピードが遅い場合などは,急いで治療する必要はありません.定期的なMRI検査で様子をみる場合もあります.
 良性腫瘍は,完全に摘出することで完治する(完全に治る)病気です.手術によって腫瘍をすべて摘出することが最も確実な治療法といえます.
 ところが,腫瘍が視神経や内頸動脈などの重要な神経や血管を取り囲んでいるため,腫瘍をすべて摘出できない場合もあります.このような場合は,完治を期待せず腫瘍増大を抑制する(腫瘍コントロール)の治療が選択されます.腫瘍コントロールの治療の代表的治療法は,ガンマナイフ治療(放射線治療の一種でありますので,治療により放射線障害がおこることもあります)です.ガンマナイフによる腫瘍コントロールの治療では,将来,腫瘍が完全に消えることは期待できません.どちらかと言えば,今ある腫瘍と共存する治療法です.今ある腫瘍がさらに大きくなっていろいろな障害が発生するのを予防するのが目的になります.手術で腫瘍がどうしても全部取れない場合は,ガンマナイフなどの放射線治療を行うのが一般的です.