海綿静脈洞腫瘍

 海綿静脈洞はトルコ鞍の側壁を形成する血管(無数の静脈の集まりと考えられています)の一種です.海綿静脈洞内には,脳の最も太い動脈である内頸動脈や眼球の運動をつかさどる神経や顔面の感覚をつかさどる三叉神経などが走行しています.このため,腫瘍によりこれらの神経が障害され,物が2重に見えたり,目の奥の痛みなどが症状として出現します.
 海綿静脈洞内腫瘍で,最も頻度の多いものは下垂体腺腫です.それ以外に,髄膜腫,神経鞘腫,脊索腫,海綿状血管腫なども海綿静脈洞内に認めます.このような,脳深部で,複雑に神経や血管が走行する海綿静脈洞に腫瘍が発生すると,手術が困難なため,ガンマナイフなどの放射線治療を行うのが一般的な治療法です.  しかし,すべての疾患にガンマナイフが有効ではないため,特定の腫瘍では,外科的摘出を試みる場合があります.私は,経鼻的に成長ホルモン産生下垂体腺腫,副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫,脊索腫に対しては,積極的に外科的摘出を行っています.
 外科手術には,開頭術と拡大経蝶形骨手術があります.現時点では開頭術を行う脳外科医が多いのですが,成績は良くありません.なぜなら,手術のアプローチで,脳神経の隙間から腫瘍を摘出しなければならないからです.多くの場合,脳神経を障害して,物が二重に見える複視を合併し,しかも腫瘍を取り残すとう状況になります.一方,私の開発した拡大経蝶形骨手術では,脳神経の存在しないところから手術アプローチしますので,開頭術のような問題はありません.(最近の34例の海綿静脈洞内腫瘍では,82%の患者さんで後遺症なく海綿静脈洞内の腫瘍をほとんど摘出できています.入院期間は,標準的な鼻腔からの手術より若干長くなりますが,平均で18日間です.)