鞍結節部髄膜腫の代表例


 髄膜腫に対する拡大経蝶形骨手術(拡大Hardy手術)の代表的な経過を呈示いたします.幸いにして,これまでこの手術を受けられた患者さんで,重い後遺症を残したり,生命に関わる合併症の経験はありません.いままで経験しました合併症としましては,論文にも報告していますが,初期の患者さんで,臭いの感覚の低下と髄液鼻漏です.ただ,最近では,このような合併症はまれですので,低侵襲で,安全な手術法として確立されたものと考えております.


    50歳代後半 男性:視力・視野障害で発見されました
No. 1
手術前 手術後
腫瘍が頭蓋内の内頸動脈を完全に取り囲んでいましたが,鼻腔より無事に腫瘍を摘出できました.


    50歳代前半 女性:急激な右視力低下で発見されました
No. 2
手術前 手術後
小さな腫瘍で視交叉を軽く圧迫していますが,著しい左視力低下を認めました.この患者さんのように腫瘍が視神経管という狭い部分に伸びたため,急速に視力を失う原因になります.鼻腔より,左右の視神経管を開放して,無事に腫瘍を摘出できました.


    70歳代前半 男性:視力・視野障害で発見されました
No. 4
手術前 手術後
腫瘍は前後方向に5cm近くある大きなものでした.内頸動脈などが完全に腫瘍に埋もれています.開頭術をしないで,鼻腔より腫瘍を摘出しましたが,臭いの感覚を温存するため,腫瘍の前方部分は一部を残しました.この部分は,視神経など重要な神経から離れていますので,かなりの大きさになるまで,無症状であることが予測されますので,追加の治療をせずに経過観察しています.幸い術後5年経過しても,腫瘍はあまり増大しませんでした.


    40歳代前半 女性:右視力低下で発見されました
No. 11
手術前 手術後
子供の頃に左目失明しています.右目の急激な視力低下で腫瘍が発見されました.腫瘍は右内頸動脈ならびに左右の前大脳を完全に取り囲んで発育しています(矢印).腫瘍を摘出して,幸い右視力は,術前の0.4から2.0と,正常に回復しました.このように,腫瘍が血管を巻き込んで発育している場合は,開頭術でも経鼻手術でも,困難な手術になります.幸い,腫瘍が硬くなかったため,手術は成功しました.


    50歳代前半 女性:右視力低下で発見されました
No. 17
手術前 手術後
右視力低下で発見されました.腫瘍は右内頸動脈を完全に取り囲んで発育しています.腫瘍を摘出して,右視力は正常に回復しました.


    80歳代前半 男性:視力が急速に進行しました
No. 21
手術前 手術後
1年前に視力障害で発症しました.高齢者であるため開頭手術が難しいと経過観察されていました.半年前に右目失明し,2ヶ月前から左視力低下が急速に進行したため,関東の大学病院より紹介がありました.手術前は左目も強い光がかろうじてわかる程度で全盲に近い状態でした.高齢であるため視力の回復は困難と説明いたしましたが,患者さんの強い希望により手術させていただきました.幸運にも,左視力は0.4まで回復しました.


    40歳代前半 女性:視力障害で発見されました
No. 26
手術前 手術後
視力低下で発見されました.鼻腔より腫瘍を摘出して,視力は正常に回復しました.