頭蓋咽頭腫の代表例


 頭蓋咽頭腫に対する拡大経蝶形骨手術(拡大Hady手術)の代表的な経過を呈示いたします.呈示いたしました代表例からもご理解いただけますように,開頭術で摘出できなかった腫瘍が,拡大法で摘出できています.開頭術が大きな腫瘍に適し,経鼻法は小さな腫瘍に適しているとする判断基準は,過去のものとなりつつあります.大きな頭蓋咽頭腫では,単一のアプローチで腫瘍を全摘出することは困難であります.そのなかで,腫瘍付着部を含めて,もっとも広範囲に腫瘍を摘出できるのは,拡大法と考えています.
 幸いにして,これまでこの手術を受けられた患者さんで,生命に関わる合併症の経験はありません.いままで経験しました合併症としましては,下垂体機能低下が最も多く,約50%の患者さんで尿崩症は回避できないと考えております.しかし,これは開頭術の根治例の報告よりも良好な成績です.さらに,論文でも報告していますが,初期の患者さんで,臭いの感覚の低下と髄液鼻漏があります.ただ,最近では,このような合併症はまれですので,低侵襲で,安全な手術法として確立されたものと考えております.


    50歳代前半 男性:視力・視野障害で発見されました
No. 2
手術前 手術後
石灰化を伴う腫瘍で,実質部分と嚢胞が混在していました.術後9年を経過しますが,再発はありません.


    30歳代後半 女性:腫瘍の再発による視力低下で紹介されました
No. 4
手術前 手術後
東海地方の病院で開頭術と,その後ガンマナイフ治療を受けましたが,腫瘍の増大を認めました.開頭術の影響で,軽い記憶障害を合併しています.第3脳室の底の部分に実質性の腫瘍を認めます(矢印).鼻腔より腫瘍を全摘出しました.術後9年経過して,再発はありません.


    30歳代後半 男性:頭痛と視力・視野障害で発見されました
No. 6
手術前 手術後
腫瘍により,閉塞性の水頭症を合併し,右の側脳室が拡大しています.


    40歳代後半 男性:記銘力低下,性格の変化で発見されました
No. 10
手術前 手術後
腫瘍は第3脳室内にありました.


    30歳代後半 男性:治療困難な腫瘍で紹介されました
No. 13
手術前 手術後
開頭術や経鼻手術など数回の手術を受けられましたが,腫瘍が多く残存しています.治療困難とのことで,ご紹介いただきました.鼻腔からほとんどの腫瘍を摘出できました.


    10歳代後半 女性:頭痛と意識障害で緊急入院されました
No. 14
手術前 手術後
左右の脳室拡大を認めます.


    30歳代後半 女性:頭痛と意識低下で紹介されました
No. 16
手術前 手術後
実質部分は腫瘍の右にあり,嚢胞部分が左の脳室を拡大しています.正中部分の腫瘍を減圧することで,側方の腫瘍が正中に移動したため,鼻腔から摘出することができました.


    20歳代後半 女性:視力障害,体重増加で発見されました
No. 18
手術前 手術後
第3脳室内に充満する実質性の腫瘍です.腫瘍は側面の第3脳室に癒着していため,治療に難渋しました.


    50歳代後半 男性:視力・視野障害で発見されました
No. 21
手術前 手術後
嚢胞部分が左の側頭葉方向に広がっています.しかし,この部分の癒着はほとんどなかったため,正中部分の実質状の腫瘍を摘出すると,比較的容易に摘出できました.


    40歳代後半 女性:腫瘍の再発による視力低下で紹介されました
No. 22
手術前 手術後
開頭術や経鼻手術でも摘出困難で,残存腫瘍が急速に増大するため紹介となりました.拡大法では,腫瘍の付着部を含めてほとんどの部分が,直接観察することができましたので,全摘出することができました.