副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生下垂体腺腫
(クッシング病とも呼びます)

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生下垂体腺腫とは

 下垂体腺腫とは,ホルモンの中枢である下垂体に発生した腫瘍です.下垂体は鼻の付け根の奥のトルコ鞍という頭蓋骨のポケットのようなところにあります.この病気の原因は不明ですが,子孫に遺伝する病気ではありません.ホルモンの中枢に発生する腫瘍であるため,この病気では腫瘍が下垂体特有の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を過剰に分泌することが特徴です.腫瘍が,副腎皮質刺激ホルモンを大量に作るため,副腎が常に刺激され副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)が大量に産成されます.その結果,肥満,満月のような丸い顔,骨がもろくなり骨折しやすくなる,細菌に対して抵抗力がなくなり感染症にかかりやすくなる,糖尿病などを合併して,最終的には死にいたる病気です.

治療法

 腫瘍をすべて摘出すれば完治し,ホルモン機能が正常化します.したがって,手術の目的は,腫瘍の全摘出であります.有効な薬物治療が開発されていませんので,手術により腫瘍を摘出することが第一選択の治療です.
 かつては,腫瘍が大きい場合は,開頭術が行われていましたが,最近では,特に下垂体腫瘍を専門にする脳外科医の間では,より低侵襲な経鼻的手術が第1選択の手術法となっています.もし,主治医の先生に開頭術を勧められた場合は,主治医の先生のとよく相談されるか,下垂体腫瘍を専門にしている施設でのセカンドオピニオンをお勧めします.
 経鼻手術と言いましても,鼻の穴から腫瘍を摘出する方法と上くちびるの裏を2-3cmぐらい切って鼻腔から腫瘍を摘出する方法があり,最近では鼻の穴から摘出する方法が主流です.しかし,海綿静脈洞内に腫瘍がある場合など拡大法では,上くちびるの下を切開する方法を行います.鼻腔からの手術は,いずれにしても,開頭術よりははるかに低侵襲です.
 手術で,正常化が得られない場合にはガンマナイフ治療を行いますが,ホルモンが正常化する可能性は高くありません.ガンマナイフ治療は,腫瘍の増大を抑える腫瘍コントロール率は80%以上と良いのですが,ホルモン正常化はあまり期待できないと考えたほうが賢明です.(厳格な診断基準で評価したガンマナイフ治療のホルモン正常化率の長期成績に関しては報告がないのが現状です)したがって,手術以外に効果的な治療法がない現状では,最初の手術を担当する脳神経外科医の責任は極めて重要です.症状が重い場合は,最後の手段として,左右の副腎を摘出する場合もあります.

その他の治療法

1.開頭法による腫瘍摘出術.
 視神経や内頸動脈などの重要な脳神経や血管を直接確認しながら手術を進めることができます.巨大な腫瘍や経鼻経蝶形骨洞近接法で充分な視神経の減圧ができなっかった場合などには,有効な方法です.
問題点:

  1. 下垂体腫瘍がトルコ鞍というポケット状の部位に存在する場合,この方法では腫瘍を全て摘出することは困難です.
  2. 腫瘍が脳の深部にあるため,手術中に脳の圧迫が必要です.多くの場合は問題になりませんが,まれに,この圧迫により脳障害を来すこともあります.
  3. 頭皮に傷が残ります.

2.ガンマナイフ(特殊な放射線治療装置)による治療.
 ガンマナイフによる治療の有効性は確認されています.ただしガンマナイフ治療には次の問題点があります.
問題点:

  1. ガンマナイフ治療後,効果がでるまで1年以上の時間経過が必要と考えられています.また,ホルモンが正常化する率は60%以下と考えられています.
  2. 腫瘍の周囲の脳神経や脳下垂体に放射線障害が発生し,視力障害や複視,下垂体ホルモンの機能低下を合併する可能性があります.
  3. 視神経に接している場合や2.5cm以上の大きな腫瘍では適応とはなりません.