健康に係わる医療は、人間の存在の根幹に位置づけられるため、社会を構成する全ての人々が、公平かつ迅速に享受できることが理想となります。つまり、医療制度の適切な整備なしに社会の持続的な発展も期待できない訳ですが、現実には、医療ニーズへ応えきれない事態も数多く散見されます。その理由として、我が国では医療が有する価値を十分に認知し共有することが出来ず、資源投入や資源利用がうまくいかないことも挙げられます。
経済や政治、環境などを中心に従来型の仕組みの綻びが見えつつあり、各種の選択の岐路に立つ昨今においては、医療システムの理想、すなわち理想の社会システムについて改めて論じることは、意義があるに違いありません。思想家トマス・モアが唱えた「ユートピア(理想郷、1516年)」は、“どこにも無い国”という意味でもありましたが、医療の理想を合理的・科学的な探求により追い求めることは、社会の発展にとって避けて通れないはずです。
今こそ、医療に係わる夢や期待に対する現状の綻びを、学問領域の横断的なアプローチで紡いでいくべきと思われます。
経済や政治、環境などを中心に従来型の仕組みの綻びが見えつつあり、各種の選択の岐路に立つ昨今においては、医療システムの理想、すなわち理想の社会システムについて改めて論じることは、意義があるに違いありません。思想家トマス・モアが唱えた「ユートピア(理想郷、1516年)」は、“どこにも無い国”という意味でもありましたが、医療の理想を合理的・科学的な探求により追い求めることは、社会の発展にとって避けて通れないはずです。
今こそ、医療に係わる夢や期待に対する現状の綻びを、学問領域の横断的なアプローチで紡いでいくべきと思われます。
臨床や生活、または産業、制度などにおいて、多様な価値の流通を円滑化するための手法とモデルを論じ、必要に応じて実社会へフィードバックを行います。
各分野の横断的な探索や実証的な研究を指向することで、「臨床経済」や「診療評価」などの領域において、新たに学術的な成果を育んでいきます。
具体的な研究活動として、健康であること、生存余命を伸ばすことなどの社会経済的(Socioeconomics)な意義(Value)を明らかにし、必要となる資源投資や施策制度などの環境整備の提言を行います。例えば、診療手技、医薬品、医療機器などについて、医療技術評価(HTA)の一環である費用対効果分析、または健康改善が有する国民や患者への貢献度、産業振興の実体経済への影響などについて、定量化する理論と手法の開発を展開します。
- 虚血性心疾患、末期腎不全などに対する医療技術の臨床経済的な評価研究である費用対効果分析(cost utility analysis、markov chain model、delphi method)
- 慢性腰痛症の薬物治療や重度心不全の補助人工心臓術などにおける社会経済的な価値評価手法(willingness to pay、monte carlo method、labour productivity function)
- 糖尿病の疾病予防や循環器病の服薬アドヒアランスの改善を促す行動変容プロモーション(theory of reasoned action、behavioral economics method)
- 医療機関における経営パフォーマンス(収支)や医療資源(医師など)の生産性に関する分析手法(actual cost analysis (rate)、productivity、possibility frontier:DEA)
- 医薬品や治療機器、再生医療の市場推計、研究開発投資の回収戦略(value chain、portfolio strategy、real option valuation)
医療技術の研究開発と臨床応用を価値評価で結ぶ概念例
田倉智之,TRの臨床経済,第6回未来医療交流会,2007.
難治性疼痛治療の費用対効果の分析例
(Tomoyuki Takura, Masahiko Shibata, et al. Socioeconomic value of intervention for chronic pain. J Anesth. Vol.30 No.4, pp.553-61. 2016)
Figure. Transition in cost-effectiveness plane (ratio of medical costs
and number of relapses) before and after administering rituximab
Table. Medical economics analysis (pre-post CEA) accounting for the medical costs of rituximab
難治性ネフローゼ症候群に対するリツキシマブの費用対効果(増分費用効果比)の例
(Tomoyuki Takura, Takashi Takei, Kosaku Nitta. Cost-Effectiveness of Administering Rituximab for Steroid-Dependent Nephrotic Syndrome and Frequently Relapsing Nephrotic Syndrome: A Preliminary Study in Japan. Sci. Rep. 7,46036; doi: 10.1038/srep46036 (2017).)
がん治療医が認識する公的医療費(生存年数を1年伸ばすことに対する最大費用)のコンセンサス
(Tomoyuki Takura, Mikihiro Fujiya, et al. Perspectives of Japanese oncologists on the health economics of innovative cancer treatments. Int J Clin Oncol. Vol.21 No.4, pp.633-41. 2015)
行動経済学を応用したヘルスプロモーション推進の概念
田倉智之,コンタクトレンズ診療と医療経済,CL学会,2009.