こころのリスク状態とは?

こころのリスク状態とは何ですか?

こころのリスク状態は、統合失調症などのこころの病気になるリスクが高まっている状態を指しています。症状は人によって色々なパターンがあります。実際にないものが見えたり、聞こえたり、感じられたりすることがあります。ほかには、普通でない考えにとらわれてしまったり、なんとなく自分が注目されていたり、みんなから見られているような感じを受けたりすることがあります。考えや行動がばらばらでまとめることが難しいということもあります。人によって、こころの不調にはいろいろなパターンがあります。詳しくは「こころの不調のパターン」をご覧ください。

もちろん、ストレスを感じる際にこのような不調を経験することは珍しいことではありません。これまでの研究では、10代の人たちの約15%(1クラス40人とすると、おおよそ6人)の人たちが、一時的にこのような体験をしたことがあると報告されています。しかし、不安や気分の落ち込みを感じながらこのような不調が続く際には、うつ病や統合失調症などのこころの病気を発症する可能性が高くなります。

「こころのリスク外来」では、こうしたリスクについて丁寧に診察を行い、必要な場合はよりよい治療を受けられるように考えていきます。特に上記のような不調や困難が持続している際には、早めに相談をして頂ければと思います。

こころの不調のパターン

ものの見え方・聞こえ方がおかしくて困る

  • 空耳のようなものが聞こえる
  • 空耳のようなものが頻繁に起こって、辛かったり、やりたいことが出来なくなったりする
  • 普通では起こらない不思議な感覚があったり、おかしな経験をしたりする
  • まわりに誰もいないのに、人の声が聞こえてくることがたまにある
  • 掃除機やパソコンの音が前より大きく感じ、耳障りに感じる
  • 時計の秒針の音、冷蔵庫の音などに敏感になった

考えがコントロールできなくて困る

  • 他人の話が頭に入りづらくなった
  • 記憶力、集中力が落ちた
  • 考えがどんどん湧いてきて自分でコントロールできない
  • 自分のものではない考えが浮かんでくる
  • どうでもよいことが頭に出てきて、疲れる
  • 考えが頭の中でまとまりづらい
  • 周囲の人に自分の考えが漏れ伝わり、筒抜けになっている気がする

考えにコントロールされるようで困る

  • 思いこみのせいで、普段とはまったく違う行動をとる
  • 行動や言動がまとまらなくなり、自分をコントロールできない
  • あらゆる事に意味があるように感じ、不気味でしょうがない
  • いつも不安がつきまとい、イライラして、じっとしていられない

こういった場合、どうしたら良いですか?

「自分では普通だと思うのですが、家族からは“変だ”と言われるけど相談に行くべきですか?」

特に、こういったことが辛いと感じたり、したいことが出来なくなったり、もしくは周りの人から様子が違うよ、と言われたりする場合は、相談してみてください。自然と治る場合は多いのですが、不安に思うより、相談して解決する方が早いことがあります。相談して安心したり、自分では気づかない点についてアドバイスが得られたりすることもありますので、気になるようでしたら、気兼ねなくご相談していただいて大丈夫です。

「“10 代から30 代前半に起こりやすい”と書いてありますが、症状が幼い頃からずっとある場合は当てはまらないですか?」

幼い頃からずっとある場合でも、症状がひどくなってきたり、学校に行ったり、勉強したり、友達と遊んだりといった、以前何も問題なく出来ていたことが出来なかったりする場合はやはり心配です。お悩みでしたら、気兼ねなく一度ご相談ください。

こころのリスク外来ってどんなところですか?

「こころのリスク外来」では、思春期のこころの不調から統合失調症などのこころの病気になるリスクが高まっている状態の時に、丁寧な診察と支援を行うことが必要だと考えています。

こうした「こころのリスク状態」の方が、必ずしもこころの病気になるわけではないので、心配し過ぎるのもよくないのですが、リスクが高いと思われる時には、この状態を見過ごさずに専門家に相談をしてほしいと思っています。

必要な支援を早期に受けて頂き、よりよい回復ができるまでのお手伝いができることを願っています。

「初回の診察ではどんな話をするのですか?どんなことを聞かれるのですか?家族と一緒の方がいいでしょうか?」

悩んでいる症状や問題が、どのようなものなのか、いつごろからあるのか、また、それらによって生活に支障をきたしていないか、などについて詳しくお話しをお聞きします。必ずしもご家族と一緒に受診していただく必要はありませんが、自分でも気づいていない症状についてなど、周囲の方からの情報が非常に役立つこともございますので、可能であればご家族と一緒にご来院下さい。
初回は詳しくお話を聞かせていただくため、2時間の余裕を持ってご来院ください。

「こころのリスク外来ではどんな治療が受けられますか?」

こころのリスク外来は、精神科診療で様々な経験を有する医師が、皆さんのご相談に乗りたいと思います。担当する医師は、こころのリスク状態やその治療法についての診療・調査を行っている専門の医師です。場合によっては皆さんにも調査へのご参加をご相談させていただくことがあります。

私たちは、病気のことだけでなく、学校のことや家族のこと、将来のことなどいろいろな話を聞いていきたいと思っています。

「こころのリスク外来」では、通常の外来診察よりは少し多めに時間をかけて丁寧に診察し、必要なときにはご本人の許可をもらってご両親からも話を聞いたり、学校の先生や職場の方とも連絡を取り合ったりしながら、問題の解決を考えていきます。
症状によっては、お薬をおすすめすることもありますが、ご本人や家族の方と話し合って決めていきます。
必要なときには、様々な意見をもった複数の医師や心理士でご本人にとって最適な治療について話し合います。

「家族には内緒で自分ひとりで行きたいのですが、大丈夫でしょうか?」

特に未成年の方の場合は、ご家族からのサポートも非常に重要となる場合が多いため、最初はご家族の方とご一緒に来院していただくことが多いです。いろいろな事情があるかと思いますので、難しい場合はまずご相談ください。

「相談した内容が学校や職場に伝わることはありますか?」

ご本人の希望や許可なしにお伝えすることはありません。治療をより効果的にすすめるためにお伝えした方が良いと考えられる場合でも、ご本人と相談の上で検討していくこととなります。

「こころのリスク外来の診療体制はどのようになっていますか?」

当院精神神経科一般外来に準じており、平日の9時~17時で、完全予約制・担当医制です。曜日は担当医によって異なります。

診療時間は平日の日中なので、学校や仕事がある方はお休みをとって受診して頂くことになります。そのため体調がよくなってきて、学校や仕事を休みたくないという場合には、当院の通院を継続するのが難しくなってしまうことがあります。このような時には、夜間や土曜の診療を行っている医療機関に移ることもできます。その際は、診療経過をまとめた紹介状をお作りし、治療の切れ目がないように引き継ぐことができますので、ご相談ください。

「相談された方はその後どうされることが多いですか。」

相談のご連絡を頂いた方の6 割が実際に受診されています。受診された方の2 割がそのまま継続した受診をされており、5 割くらいの方が元々かかっていた病院やクリニック、当院が紹介した近隣のクリニックを受診され、治療を受けています。

「こころのリスク状態ではなかったとき、こころのリスク状態が軽くなったときはどうすれば良いですか?」

最初に、こころのリスク状態かもしれない、と思ったけれど、幸い今のところその心配はなさそうということもあります。
それでも病院に続けて通う必要があるときは、当院の一般外来でしばらく通院したり、お近くの通いやすい医療機関に通院したりするなどをおすすめします。

また、こころのリスク状態が軽くなり、しばらくは病院に通う必要がなくなることもあります。その場合は、いったん診察は終了となりますので、またなにか心配なことがあれば、そのときに相談をしてください。

ユースメンタルヘルスの知識

専門家の方へ

はじめに

今、世界各国において“こころの病”の社会に及ぼす影響について注目が集まっています。世界保健機構(WHO)や世界銀行は、どの疾患が社会に重要な影響を及ぼすかという指標として、病気等の寿命短縮年数と生活障害をおよぼす健康寿命の合計した健康被害の指標(障害調整生命年disability adjusted life years DALY)を発表しています。日本のDALYは精神疾患が19%と第一位であり、がん(18%)、心血管障害(16%)と続き、自殺も4%を占めています。先進諸国は日本と同じ状況でありながらも、こころの病をがん・心血管障害と並ぶ三大疾患としてとらえて、治療・研究に力を入れています。一方、日本では年間の自殺者が12年連続3万人を超え、こころの病による休職者が50万人以上いると推計されており、こころの問題への対策はまだ不十分と言わざるを得ません。

ユース世代(ここでは、概ね10歳代後半から20歳代前半を指します)は、児童期後期から思春期、青年期前半に重なり、心身の成長、教育・就労の機会として人生の中でも特に変化に富む重要な時期です。若者はこの大人への準備期間に、勉学に励み、良き友人やメンターと出会い、社会性を獲得し、やがて社会の一員としてその成果を還元していきます。また近年の脳科学分野の研究から、ヒト特有の社会活動に関わる大脳前頭皮質の成熟がこの時期にピークを迎えることが分かってきています。

このようにユース世代は人生の中でも極めて重要な時期である一方、さまざまな“こころの病”が出現し始める時期でもあります。コホート研究では、成人のこころの病気の4分の3は24歳までに明らかになることが示され、また中学生の約14%がなんらかのこころの不調を経験し、とくにその不調が強い場合には、青年期に至っても社会生活に何らかの影響を被ることが示唆されています。しかしながら、ユース世代のこころの不調は典型的な症状群を形成しない場合も多く、診断も困難です。また、これらの状態についての知識が一般には十分には知られておらず、家庭や教育現場では発達上の課題として捉えられてしまい、治療の機会を逸してしまうこともしばしばあります。ある種の病気は、治療開始までの未治療期間が長いほどその後の予後に悪影響を与えてしまうことも知られています。また、日本ではこのようなユース世代を対象とした専門的な診療体制が整っているとは言い難い現状にあります。

参考文献

1. Editorial. A decade for psychiatric disorders. Nature. 2010;463(7277):9.
http://www.nature.com/nature/journal/v463/n7277/full/463009a.html

2. 小池進介, 西田淳志, 山崎修道, 安藤俊太郎. Nature 誌編集長 Philip Campbell 氏に聞く :精神疾患のための10年 (A Decade for Psychiatric Disorders). 精神神経学雑誌.2012;114(5):508-516.
https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=abst&vol=114&year=2012&mag=0&number=5&start=508

このような状況を踏まえ、地域におけるユース世代のメンタルヘルスの拡充を目的として、東京大学医学部精神神経科では、平成20年6月より「こころのリスク外来」を設置いたしました。本外来では、特に、ユース世代におけるこころの健康の向上を目指した活動を行い、若い方ご本人やご家族のお力になれるよう、日々診療に取り組んでおります。多くの方々が気軽に相談でき、また支援させて頂けるよう、今後も診療体制の拡充を目指して参ります。精神医療に従事される専門家の方からのご相談にも積極的に対応させて頂きたく思っております。

  • ご紹介に際して
  • 参考文献・参考図書
  • リーフレットを作成しました
Copyright © 2008 東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部 精神科デイホスピタル All Rights Reserved.