心肺蘇生に関する統計基準検討委員会

ウツタイン様式 日本語版

病院外心停止事例の記録を統一するための推奨ガイドライン

画像:ウツタイン僧院の遠景


目 次

英文タイトル
大阪府心肺蘇生に関する統計基準検討委員会
はじめに(訳者の一人として 平出 敦)

序論

用語の使い方

心停止     バイスタンダ−による心肺蘇生
救急隊員    心肺蘇生
一次救命処置  一次心臓救命処置
ニ次救命処置  心原性(推定)
非心源性    覚知―現着時間
自動式除細動器 時刻と時間

心停止事例のデ−タを記録するためのテンプレ−ト
 テンプレ−ト(統計系統図)をもちいたアプローチ
 成績に関する問題
 テンプレ−ト(統計系統図)の項目の説明

1.救急サ−ビスを受けている住民数
2.心停止が確認され蘇生が考慮された事例
3.蘇生非施行事例   4.蘇生試行事例
5.心原性心停止    6.非心原性心停止
7.目撃された心停止  8.目撃されなかった心停止
9.救急隊員到着後の心停止
10.初期調律−心室細動および12.初期調律−心静止
11.初期調律−心室性頻拍
13.初期調律−その他
14.バイスタンダ−による心肺蘇生が行われたか
15.心拍再開     16.心拍非再開
17.蘇生中止     18.集中治療室への入室
19.病院内死亡    20.生存退院
21.退院から一年以内の死亡例  22.一年以上生存

時刻(time points)と時間(time intervals)

記録が推奨されるコアおよび補足的出来事の発生時刻
覚知時刻(コアデータ)     最初に救急車が動き出した時刻
救急車の現着時刻(コアデータ) 患者のそばに到着した時刻
最初に心肺蘇生が行われた時刻(コアデータ)
はじめて除細動が施行された時刻(コアデータ)
心拍再開時刻(コアデータ)   気管内挿管が行われた時刻
静脈路を確保した時刻と薬剤を投与した時刻
心肺蘇生を中止した時刻/死亡時刻
現場出発時刻と病院到着時刻

個々の臨床データの収集

臨床成績(Clinical Outcomes)
グラスゴ−ピッツバ−グ脳機能・全身機能カテゴリ−
データ記録様式
記載が推奨される臨床データ

救急システムに関する記載

出動システム
第1出動
第2、第3出動

考察

参考文献

付図

ウツタイン僧院遠景
図1.突然の心停止における4つの時間
図2.病院外心肺停止事例に対する心肺蘇生の経過
図3.心肺蘇生に関して記録されるべきデータ
図4.心肺停止事例に関するウツタイン様式のテンプレート
救命のための鎖

ウツタイン様式(大阪大学医学部附属病院総合診療部ホームページ)


AHA Medical/Scientific Statement

Special Report


Recommended Guidelines for Uniform Reporting of Data from Out-of-Hospital Cardiac Arrest: The Utstein Style


A Statement for Health Professionals From a Task Force of the American Heart Association, the European Resuscitation Council, the Heart and Stroke Foundation of Canada, and the Australian Resuscitation Council


Richard O. Cummins and Douglas A. Chamberlain, Cochairmmen;
Normans S. Abramson, Mervyn Allen, Peter J Baskett, Lance Becker, Leo Bossaert, Herman H. Delooz, Wolfgang F. Dick, Mickey S. Eisenberg, Thomas R. Evans, Stig Holmberg, Richard Kerber, Arne Mullie, Joseph P. Ornato, Erik Sandoe, Andras Skulberg, Hugh Tunstall-Pedoe, Richard Swanson, and William H. Thies, Members

Circulation 84: 960-75, 1991


大阪府心肺蘇生に関する統計基準検討委員会

監訳  杉本 壽     大阪大学救急医学教授
    桂田菊嗣     大阪府立病院医務局長
    森田 大     大阪府三島救命救急センタ−副所長
    行岡秀和     大阪市立大学救急部助教授

訳   平出 敦     大阪大学総合診療部講師
    丸山次郎     近畿大学救命救急センタ−講師
    木内俊一郎    関西医科大学高度救命救急センタ−
    池内尚司     大阪府立病院救急診療科
    林 靖之     大阪府立千里救命救急センター
    田畑 孝     大阪府立泉州救命救急センタ−
    松尾吉郎     大阪市立総合医療センタ−救命救急センタ−


はじめに

 このガイドラインは、病院外の心停止事例に関して、国際的に共通の様式で記録しようという提言である。訳者たちは、このウツタイン様式をもちいて、関連する消防本部とともに病院外の心停止事例の記録を、広い地域で継続的に行おうという活動をおこなっている。この日本語版は、そうした活動の一つであり、ウツタインの趣旨が広く理解されることを目的に作成された。

 このウツタインの提言は、ごく簡単に言えば、メ−トル法のようなものである。メ−トル法は、1875年にフランスで定められたが、単に、ものの長さを定めたというより、国際的に、度量に関する単位の標準化を押し進めるきっかけとなった偉大な提言でもあった。質の高い共通の尺度を持つことが、いかに価値のあることであるかは、精度を求めて何回も基準が塗り替えられて行った、その後のメ−トル法の歴史そのものが物語っている。我が国は、1885年(明治18年)に度量衡をメ−トル法によって国際的に統一するための条約に加入したが、このことは、その後の我が国の科学技術の発展に、はかりしれない効果をもたらしたことは、もはや万人が認めるところであろう。

 もちろん、病院外心停止事例の評価には、長さの単位を定めることとは異なる複雑な要因がからんでいる。しかし、この提言は、現在の心肺蘇生法を標準化し、普遍的なものにしてきた欧米の有力な学術団体や専門家が、精力を注いで作り上げたものであり、画期的な新しい基準となりえるものである。その背景には、心肺蘇生に関する様々な統計結果が、従来報告されてきたにもかかわらず、蘇生率のあまりにも不自然で、大きな報告結果の隔たりが、一向に説明できなかった事情がある。従って、この提言は、バラバラだった評価を、標準化された一定の尺度でいつでもおこなえるようにし、救急システムの内容評価や向上に、新しい歴史の一ペ−ジを開くのではないかと期待される。我が国の救急搬送システムは、新しい制度も導入され、近年、大きな過渡期に入っている。しかし、その記録のシステムは、少なくとも、ここに提言されたウツタイン様式にみられるような、膨大な過去の実績と知見を背景にしたものにはおよびもなく、なお、歴史のペ−ジを開くに至っていないというべきであろう。我々、翻訳者たちは、このウツタイン様式が、我が国で広く理解されることを、切に願うものである。

 この日本語訳は、その意味で、救急搬送に携わる救急隊員に是非、読んでいただきたいと考え、救急隊員を対象に作成した。具体的には、訳者の7人の救急施設の医師が、ここに羅列した順序で、それぞれ原文を分担訳した。これを平出がまとめて、4人の比較的年長なメンバ−に監訳していただいた。最後に、再び、平出がまとめて最終版とした。まとめ役としては、力不足でいろいろと誤謬が残っているのではないかと思われる。ご指摘いただけたら幸いである。

 なお、日本語版の趣旨に配慮していただいたCummins博士、Chamberlain博士の両chairmanに深謝したい。快く、無償で日本語版の許諾を出していただいたアメリカ心臓協会に感謝する。同時に、印刷や製本、校正で尽力いただいたレ−ルダ−ル社および株式会社アイカに感謝したい。

訳者の一人として 平出 敦(1998年)