ウツタイン様式 日本語版
病院外心停止事例の記録を統一するための推奨ガイドライン
心停止事例のデ−タを記録するためのテンプレ−ト
(統計系統図)
テンプレ−ト(統計系統図)をもちいたアプローチ
会議のメンバ−は、データを記録するために、特に心停止事例の(蘇生の転帰に関する)成績を記録するために、テンプレ−ト(統計系統図)をもちいたアプローチを推奨する(図3、4参照)。図3は、統計をとる者が記録すべき蘇生のデータを図で示したものである。分母は、心原性の心停止患者で始まり、この集団が次第に減少して1年後の生存率に至る。
図4に全心停止事例のデ−タを出発点とする、ウツタイン様式のテンプレ−ト(統計系統図)を示す。テンプレ−ト(統計系統図)にあてはまる個々の数値は、統計をとる者が、様々な割合を計算できるように、各々の段階で書き入れなければならない。上のレベルの数値は分母、下のレベルの数値は分子になるという形で、テンプレ−ト(統計系統図)の各々の数値は、2つの役割を有することになる(訳注13)。
(訳注13)たとえば図4の”2.蘇生が必要である総数”は、”1.救急サ−ビスをうけている人口”の分子であり、同時に、”4.蘇生施行総数”の分母となっている。
テンプレ−ト(統計系統図)は,救急サ−ビスをうけている人口で始まり,図3に示したような心原性の患者に至る前に、様々な方向にも分岐する。テンプレ−ト(統計系統図)に含まれている項目のいくつかは、このガイドラインの用語の使い方に定義されている。それ以外は、以下で論じられる。救急システムによって、この組織だった(統計記録の)計画が施行されれば、テンプレ−ト(統計系統図)を使用して成績をまとめ、これを文献上の他の救急システムの成績と、すぐに比較することが可能になるだろう。
会議のメンバ−は、このテンプレ−ト(統計系統図)に示したレベルとは異なったレベルで、異なった分岐点を、あるいは選択できたかもしれない。たとえば図4の”4.蘇生施行総数”のすぐ下で、心室細動か非-心室細動により患者を分類することも可能であった。すなわち、心拍のリズムのみで、まず、患者をグル−プ分けするのである。しかし、これにより心原性、非心原性の分類枠にまたがる、心室細動の患者の大きなグル−プが生じてしまうことになる。図4に示すような、この(ウツタインの)テンプレ−ト(統計系統図)をもちいることに、(いずれにせよ、ひとつのパタ−ンを採用することに)大きな意味がある。その結果、広く標準化が押し進められ、利得が得られるのである。
テンプレ−ト(統計系統図)の中の左側の、陰をつけた分岐点に続く部分は示されていない。しかしながら、系統図の流れは、いずれの方向でも行き着くところまで行ける(ようにできている)(訳注14)。
(ここに示したテンプレ−トは図4に示したように、心原性の流れを追跡しているが)統計をとる者は、たとえば、次のようにして、非心原性の心停止の原因をさらに詳細に分析することも可能である。(非心原性の心停止事例について)バイスタンダ−、 または救急関係者が心停止を目撃したかどうか、最初にどのような心臓のリズムが得られたか、また各種の臨床成績はどのようであったか。テンプレ−ト(統計系統図)は得られた結果を必ずしも、すべて表示できるわけではないが、(しかしこのように)大事な個々のデータを詳細に分析したり、わかりやすく表示するのに役立つものである。
(訳注14)原文ではDownstream subsetsという表現が使用されている。これは、流れおりるウツタインのテンプレ−ト(統計系統図)のイメ−ジをよくあらわしている言葉である。テンプレ−ト(統計系統図)ではいくつもの流れを作ることができる。それぞれをDownstream subsetと呼んでいる。どのsubsetに流れるかは、統計をとる者がどのsubsetに注目しているかによる。ウツタインでは図3で示したように、心原性の事例を特に、重要視しており、また、中でも心室細動であった事例を重要視している。しかし、テキストにあるように非心原性の流れを下流に追って、テンプレ−ト(統計系統図)を作っていくことも可能である。このように、テンプレ−ト(統計系統図)は、さまざまに下流にむかって組み立てることができる。
統計を評価する者は、呈示されたテンプレ−ト(統計系統図)により、様々な成績を計算することができる。テンプレ−ト(統計系統図)では分母と分子の組み合わせを自由に選択できるからである。成績は、割合またはパーセントで表示される。たとえば蘇生術を試みた全例を分母とし、蘇生に成功し入院できた症例数を割合で示すという具合である。成績は、様々な救急システムや(統計をとった)所在地によって異なることが考えられる。多くの専門家が論文や著作の中で、生きて退院した人数を、心停止が目撃されており、心原性で、心室細動にあった人数に対する割合で報告することを薦めている(7, 8, 17, 19)。この割合は、複数の救急システム間の比較に最も実用的であり、会議のメンバ−も推奨するものである。しかし、たとえコアとなるデ−タであっても、これが救急システムの活動のほんの一端を反映するにすぎなければ、結局、その救急システムの活動全体の実態を明らかにするにはいたらない。
記録されたテンプレ−ト(統計系統図)は、多様な比較を可能にし、臨床上、興味深い問題を明らかにするのに役立つのではないかと思われる。たとえば、ある新しい治療法が考案されたとしよう。これは、心停止となった人の心拍再開に役立つはずのものだが、(統計をとってみたら)全体の生存率は改善しなかったとしよう。もし、単に生存して退院した患者の割合のみ記録されていたとすると、この新しい治療法の(潜在的な、しかし)重要な効用は見過ごされてしまうことになる(訳注15)。
(訳注15)雑多な要因が混在する全体の蘇生率のみで、評価を行なおうとすると、斬新な改革や治療法の効果は、埋もれてしまうことになる。テンプレ−ト(統計系統図)から質の高い統計量を抜き出して組み合わせれば、このような効果を浮き彫りにできるのではないかと期待されるのである。
ウツタイン様式は、コアデ−タと補足的デ−タとう使い分けを推奨する。コアデ−タは、これなしでは分析や比較が困難であったりする必須なデ−タである。これらのデータは一般に集めやすく、いくつかのシステムではル−チンとして集められている。補足的データは、もっと多岐にわたる、あるいはもっと特異的なデ−タであるが、可能であるならば必ず記録すべきである。これにより、さらに詳細な成績の比較と、正確な分析が可能になる。しかしながら、補足的デ−タは、一般には集めにくく、そしてコアデータに比較して正確に記録しづらいデ−タでもある。
統計系統図の出発点は、救急サ−ビスを受けている人口である。これにより住民数あたりの発生率、および住民数あたりの救命率が計算できる。ある地域の全人口数は、全住民がひとつの救急システムよりサービスを受けている時のみ、有用な数字となる。心停止に関する成績をまとめる際には、必ず、その方法論に関する項で、救急システムのサ−ビスを受けている地域が、どのような地域であるかを明示すべきである。コアデータは、救急システムのサービスを受けている全人口と、その面積(平方キロメーター)、65歳以上の人口のパーセントである。
補足的データとしては、その地域の特別な問題や、その地域に特異的な状況をあげることができる。たとえば、高層住居が林立しているところであるとか、他種類の言語が使われている地域である、異常な地理や気候である、道路が狭い、特別な交通規制があるとかいった事情もこれにあたる。もちろん、これ以外の事情もありえる。(そこで)会議のメンバ−はサ−ビスを受けている一定の地域の状況を、より明確にするため、以下のような記録を推奨する。
以下のように、住民を年齢でグループ分けし、各グル−プの人数を全人口に対するパーセントで、記載すべきである。
0〜12カ月,1〜4歳,5〜14歳,15〜24歳,25〜34歳,35〜44歳,45〜54歳,55〜64歳,65〜74歳,75〜84歳と85歳以上.
(訳注16)International Classification of Disease(ICD)とは、WHOが定めた疾病分類であり、世界的に広く使用されている。
3. 蘇生非施行事例 心停止事例の中には、蘇生術は不適当であり、開始されるべきでない事例がある。この様な事例に関するその地域の基準(たとえば国や地方自治体で定められた法律や条例)は、病院外心停止の記録にはっきりと記載されるべきである。この様な基準としては、たとえば斬首、焼却、腐敗、死後硬直または死斑のような不可逆に死に至ったことを明確に示す徴候をあげることができる。また、DNR指示またはリビングウイルに基づいて蘇生を行わなかった事例もここに含まれる(訳注17)。 (訳注17)Do-not-resuscitate(DNR)とは、尊厳死の概念に相通じるものであり、癌の末期、老衰、救命の可能性のない患者等で、本人または家族の希望で心肺蘇生法を行わないことをいう。これに基づいて医師が指示する場合をDNR指示(do-not-resuscitate order)という。(日本救急医学会 救命救急法検討委員会:日本救急医学会雑誌 1995;6:201)本人が、意志表示できない状態で終末期を迎えた場合に備えて、意志表示できる状態のうちに、文書などで人生の終局のありかたを意志表示したものは、リビングウィル(living will)である。 救急隊員が蘇生処置を行った事例、全てを含める。(ただし、単に、傷病者の状態を評価しただけではなく、実際に蘇生処置をおこなった事例でなくてはならない。)蘇生試行とはどのような形にせよ、何らかの形で一次救命処置を行ったこととする。テンプレ−ト(統計系統図)のこの定義は、本来DNRとした事例、リビングウィルの事例(訳注17)、医師が(訳注18)患者到着時に蘇生を中止した症例なども含む。ウツタイン様式の趣旨は、統計の精度を上げ標準化を達成しようとするものであるが、心肺蘇生が成功する可能性が全くないこうした症例も含めた場合、蘇生成功症例の比率が(本来の値より)やや低下することを会議のメンバ−は認めている。 救急隊員は虚血性心疾患の症状や前駆症状が、あったかどうか、持続したかどうかを判定すべきであろう。これにより、心停止がまったく突然に起こったものであるか、あるいは、不整脈によるエピソ−ドか、虚血性のエピソ−ドかといった心停止の原因を検討できるはずである。しかし、実際には、これらの2つの原因の境界線は、臨床的にも生理学的にも明確に線引きできないことが多いので、心停止事例のデータとして、ここでは要求しないことにした。
7. 目撃された心停止
8. 目撃されなかった心停止 ウツタインのテンプレ−ト(統計系統図)では、患者が倒れたところをバイスタンダ−や救急隊員が見ていたか、聞いていたかといった、目撃された心停止に焦点をあわせている。ウツタインのテンプレ−ト(統計系統図)では、目撃されなかった心停止事例や非心原性心停止事例は詳しく扱われず、この後に(分岐すべき)項目は作成されていない。しかし目撃されなかった心停止に関しても、不整脈があったか、バイスタンダ−がいたか、転帰はどうか、といったデータを補足的に記録できる。 心停止に関する報告では、救急隊員の現場到着後に心停止に陥る症例が10%ほどある(17, 19, 20, 21)。ウツタイン様式では、こうした事例を目撃者されなかった心停止、あるいはバイスタンダ−により目撃者された心停止とは分けて報告するように推奨している。これには2つの理由がある。ひとつは、これらの事例にはバイスタンダ−による心肺蘇生の有無や、覚知-現着時間は関係しないという点である。これらの事例を含めてしまうと、バイスタンダ−による心肺蘇生の有無や、覚知-現着時間の統計的数字をゆがめてしまうからである。もうひとつは、到着後心停止事例(そのもの)を他の事例と別個に、分析、記録することにより、重要な情報が得られるからである。たとえば、このグループの生存率には、(傷病者に到達する)時間的な遅れが影響しないので、二次救命処置による蘇生の効果をみるうえでもっとも良い指標となるといわれている(17, 21)。また、これら救急隊員の到着後の心停止症例は、発作が急性で予測できなかった症例とは、背景となる病態生理が異なっているとの報告もある。救急隊員が到着後心停止となった傷病者は、救急搬送を依頼するような疼痛や各種症状を有していたといえる。これは、血栓性のエピソ−ドを示唆している。それに対して、突然、倒れて直後に心停止になった傷病者は、血栓によるエピソ−ドではなく不整脈性の心停止であった可能性が高い(訳注19)。しかし急性心臓死に関する研究では、実際には、両者のメカニズムがはたらくことが示唆されている(15)。(救急隊員)到着後心停止の事例については追加項目として、不整脈の有無、図2に示されるような時間的間隔、ウツタインのテンプレ−ト(統計系統図)の下方に展開されるような成績、などを記載しなければならない。 (訳注19)心筋梗塞などの虚血性心疾患では、冠状動脈が血栓により閉塞されたのにともない胸痛といった自覚症状が発現する。直接死因としては、不整脈、心原性ショック、心破裂などがあげられる。たとえ重症例でも、救急搬送を要請するような症状が生じて後、心停止に至るまでにある程度の時間のズレが生ずることは、こうした血栓性エピソ−ドでは一般的である。これに対し、血栓性のエピソ−ドをともなわない不整脈性の心停止では、いきなり心停止に至るのである。 10.初期調律−心室細動および12.初期調律−心静止 心室細動は振幅の大、中、小により細分類されており(訳注20)、分類自体には、いくばくかの臨床上の有用性はある。しかし、振幅の小さな細動と心静止とは、臨床的にも生理学的にも判然とし難いが、このウツタインの本来の趣旨から区別されなければならない(22, 23)。心静止と振幅の小さな細動との区別は、心電図記録で基線の揺れ(振幅が)1mmより小さければ心静止として、1mm以上であれば細動として取り扱う。自動式体外除細動器には、既にこの基準が設定されている(22, 24, 25, 26)。 (訳注20)原文では、心室細動をcoarse,medium,fineに分類している。下図のように、これは、振幅の大きさによって心室細動を分類したものである。 11.初期調律−心室性頻拍 この致死的不整脈は様々な転帰を辿るため、脈の触れない心室性頻拍を心室細動の範疇にいれずに、別のテンプレ−ト(統計系統図)に入れるように推奨している。病院外心肺停止事例の中で少数を占める心室性頻拍は、(あやまって)しばしば多数を占める心室細動事例のなかに混じっている(ことが多い)。 13.初期調律−その他 14.バイスタンダ−による心肺蘇生が行われたか テンプレ−ト(統計系統図)のこの項目からは、バイスタンダ−により確実に心肺蘇生が開始された心停止症例の割合を算出することができる。心停止後早期のバイスタンダ−による心肺蘇生は心停止事例の救命率向上に結びついている(7, 19, 29-34)。これらのデータは救急システムの 救命のための鎖"Chain of Survival"(訳注21)を別な視点で評価するものであり、プログラムを評価する上で重要である(31)。テンプレ−ト(統計系統図)のこの部分は、多方面の分析にいろいろと利用できることに注目すべきである。たとえば”目撃された心室細動”の事例に関して、発生早期にバイスタンダ−による心肺蘇生を受けた群と、発生から時間がたって救急隊員によって心肺蘇生を受けた群の生存率の比較なども検討することができる。 (訳注21)救命のための鎖
15. 心拍再開 ウツタインのテンプレ−ト(統計系統図)(図4)では”触知できる脈拍の回復”があれば心拍再開にあたるとしており、たとえば5分以上(継続して)といったその持続時間には規定は設けていない。触知できる脈拍とは、手指で太い動脈、通常は頚動脈を触知できることとしている。手指で頚動脈の脈拍が、なんとか触知できるというのは、収縮期血圧でおおよそ60mmHgであることを意味する。しかし、ここでいう心拍再開とは、確かに中間的な転帰であって、これはいずれ消失するかもしれない。(従って単に心拍が再開したというだけでは)、心停止だった傷病者が病棟へ入室したとか、(最終的に)退院できたというほど、臨床的に重要な事項ではない。が、(特定の薬剤の効果を検討するといった)臨床試験や、(特定の処置の効果を検討するといった)治療方法の検討には役立つかもしれない。 16. 心拍非再開 心拍の再開が見られなかった事例(テンプレ−ト参照)に関してもその数を記載しなければならない。 17. 蘇生中止 a.現場死亡 b.(もし搬送されていたら)病院到着後救急処置室内で死亡 救急処置室で心拍を再開させることが、全くできないような事例を搬送することの、医療経済上の損失を検討した報告がいくつもある(35, 36)。確かにこういった症例が蘇生に成功した例はきわめてまれである。にもかかわらず、多くの救急システムが救急隊員に対し、現場で蘇生ができなかった傷病者を救急病院へ搬送することを求めている。このテンプレ−ト(統計系統図)は、これらの患者の記録をとるようにしており、転帰についても記載するようになっている。また救急隊員が病院へ搬送することなしに蘇生行為を終了させた場合も、(そのことを)記載する。このような(救急隊員が蘇生を終了するような)習慣はアメリカではより一般化しつつある(訳注23)。 (訳注23)我が国では、死亡確認は医師の専断事項となっている。
18. 集中治療室への入室 テンプレ−ト(統計系統図)のこの部分は、心拍が再開し、かつ維持できて、集中治療室に入室できるようになった事例に関して記載する。テンプレ−ト(統計系統図)の標準化に向けて、会議のメンバ−は、昇圧剤を使っているか否かに関係なく、心拍が再開したり、血圧が測定できるようになり病院に入院した事例を "蘇生成功後の入院" と定義した。その場合、自発呼吸があるかないか、気管内挿管をしているかいないかは問わない。心拍がなければ、心肺蘇生を続けたり自動心マッサ−ジ器を装着しなければならないが、この場合は集中治療室入室とは定義しない(すなわちこの項目から除外される)。一方、緊急心肺バイパスや、IABP(訳注24)などの人工循環補助装置を使用している事例は、心拍があることを意味しているわけであり、このような事例はこの項目に含まれる。蘇生成功後の病院入院事例に関しては入院期間の長さは問わない。 (訳注24)原文ではIntra-aortic balloon pumps。大動脈バル−ンパンピング法。大腿動脈よりバル−ンカテ−テルを大動脈まで挿入し、バル−ンを心臓の動きと同期させて膨張、収縮させ、心臓機能を補助する装置である。心原性ショックで心臓のポンプ作用が著しく低下している場合に用いる。
19. 病院内死亡 a.全ての死亡事例 b.24時間以内死亡事例 統計をとる者は、病院内死亡の数を記載する。入院後24時間以内に死亡した事例に関しては、特に注釈を付けておく。最初の入院期間中に再度心停止を起こした事例は、蘇生が成功したかしなかったかにかかわらず、データ分析では一人として計算する。
20. 生存退院 生存退院した事例数を記載する。最終退院先も記載されなくてはならない。自宅、心停止前の居住場所、リハビリテーション施設、療養施設(ナ−シングホ−ムなど)、を記載するとともにその他の施設での加療期間も記載する。もし可能であれば、脳機能評価や身体機能評価を行い、最良の時のデ−タを記載する(表1)。もし最良の時の脳機能の評価が得られない場合は、脳機能評価、身体機能評価ともに退院時の評価を記載する。これらの分類評価は"個々の臨床デ−タの収集"の項でさらに検討される。 21. 退院から一年以内の死亡例 生存期間を算出するために、退院から一年以内に死亡した事例のデータと原因疾患をコアデータとして記録する。また身体機能評価や脳機能評価を死亡になるべく近い時点で評価する。退院から死亡までの期間における最高の身体機能評価や脳機能評価を判定するのはかなり難しいが、補足的データとして記載するのがよい。 22. 一年以上生存 一年以上生存した患者に関しては身体機能評価、脳機能評価を、およそ一年経過した時点で判定する。またその一年のうちで最良の身体機能評価、脳機能評価を共に追加データとして記載すべきである。生存から最初の一年間に病院外心停止が再発した場合、各々の心停止や蘇生行為は別の事例として加算する(39)。つまり一回目の心停止から一年以内に二回目の心停止が発症した場合、たとえその患者が生存していてもいなくてもその時点をもって、(最初の心停止発作によって)死亡したとカウントする。もし救急隊員が心停止に対して再び蘇生を行った場合、この患者は、テンプレ−ト(統計系統図)上は、蘇生行為を施行された別個の事例としてカウントされる。そしてもし、再び生存して退院すれば、(最初の生存退院とは)別個の生存退院事例として加算する(訳注25)。 (訳注25)同一の事例が、二回、心停止を起こして二回搬送されたものを、二つの事例として扱うのには抵抗があるかもしれない。しかし、救急システムのレベルを反映した実質的な蘇生率を問うというウツタインの趣旨からすれば、二回生存退院したという事実は、二つ事例が生存退院したことに相当すると考えるべきであろう。 表1.脳損傷患者の転帰:グラスゴ−・ピッツバ−グ脳機能・全身機能カテゴリ− 脳機能カテゴリ−(CPC) CPC 1.機能良好 意識は清明、普通の生活ができ、労働が可能である。障害があっても軽度の構音障害、脳神経障害、不全麻痺など軽い神経障害あるいは精神障害まで CPC 2.中等度障害 意識あり。保護された状況でパ−トタイムの仕事ができ、介助なしに着替え、旅行、炊事などの日常生活ができる。片麻痺、けいれん、失調、構音障害、嚥下障害、記銘力障害、精神障害など。 CPC 3.高度障害 意識あり。脳の障害により、日常生活に介助を必要とする。少なくとも認識力は低下している。高度な記銘力障害や痴呆。"Locked-in"症候群のように眼でのみ意思表示できるなど。 CPC 4.昏睡、植物状態 意識レベルは低下。認識力欠如。周囲との会話や精神的交流も欠如。 CPC 5.死亡、もしくは脳死 全身機能カテゴリ−(OPC) OPC 1.機能良好 健康で意識清明で正常な生活を営む。CPC1であるとともに脳以外の原因による軽度の障害。 OPC 2.中等度障害 意識あり。CPC2の状態。あるいは脳以外の原因による中等度の障害、もしくは両者の合併。介助なしに着替え、旅行、炊事などの日常生活ができる。保護された状況でパ−トタイムの仕事ができるが、きびしい仕事はできない。 OPC 3.高度障害 意識あり。CPC3の状態。あるいは脳以外の原因による高度の障害。もしくは両者の合併。日常生活に介助が必要。 OPC 4. CPC4と同じ OPC 5. CPC5と同じ
4.蘇生試行事例
5. 心原性心停止(用語の項参照)
6. 非心原性心停止(用語の項参照)
9. 救急隊員到着後の心停止
(The Glasgow-Pittburgh Cerebral Performance and Overall Performance Categories)