ICFではICIDHと同様に障害を3つのレベルで捉えますが、より概念が明確になっています。また、ICIDHではある障害をどのレベルに位置づけるが問題でしたが、ICFではこの3つを各要素と考え、全ての側面を見ることになっています。いまだに活動と参加の区別には難しさがありますが、一方、心身機能と活動の区別ははっきりしたと思います。
ICIDHの時代には、機能障害は器官レベル、能力障害は個人レベルといったあいまいなレベルの捉え方だったため、「歩行能力低下は機能障害か、能力障害か?」、「疲れやすさは機能障害か、能力障害か?」というような議論がありました。しかし、歩行能力や疲れやすさなどはより多面的な捉え方が必要です。ICFでは、歩行能力については、機能障害としては「脚筋力」「平行機能」「全身持久力」さらには必要に応じて「視力」などの観点から捉え、活動制限としては「リハ場面で歩けるか」「実際の生活場面で歩けるか」という多面的な捉え方をすることが明確にされました。疲れやすさについては、機能障害としては「易疲労性」「筋持久力」あるいは「精神の安定性」なども関連するかもしれませんし、活動としては「日課の遂行」「ストレスへの対処」などより内容を明確に捉えることになります。
ICFでは心身機能とは、心理学的、生理学的機能であると明確に示されました。また、身体構造は解剖学的構造で、これも多面的な見方の要素です。例えば、「前頭葉」という身体構造の損傷によって、「個別的精神機能」という心身機能が障害されるという具合です。
高齢者のADL質問票の利用のされ方をみると、「階段の上り下りができるか」という質問で実は全身持久力や脚筋力を見ようとしていたりすることがあります。これは、高齢者において、「階段の上り下り」という活動が全身持久力や脚筋力といった心身機能と強い相関があること(実際、ハーバードステップテストなど、海内の上り下りを使った全身持久力の測定法もある。)によるのですが、これを違う要素間の相関ではなく、同じものとして混同してしまうと問題となります。
しかし、「階段の上り下り」という活動は、全身持久力や脚筋力だけでなく、ある人では平衡機能と関係しているかもしれないし、別の人では視力と関係しているかもしれません。このようなことは、心身機能と活動を混同していると、単なる誤差や変動要因として扱われてしまいますが、ICFではこれらを区別して個別的な把握ができるようになっています。
また、「階段の上り下り」は、階段の傾斜、手すりの有無、滑り止め、介護者の存在などによって実際の状況は大きくことなります。これも、その人の心身機能の推定や能力の把握にとっては、やっかいな誤差要因ですが、ICFではこれらを本質的な機能要素とみています。
ICFでは「活動」について特別に「能力」と「実行状況」の2つを区別しているのがそのことです。これによって、どのような機能障害があっても、実際の生活場面や職業場面などでの問題を解消していくことができるという理論的基盤ができたのです。
また、能力評価についても、現在既に米国では採用されているように、例えば、職業能力は必要な環境整備を前提として行われ、環境整備があることを「ハンディ」として能力を割り引いて評価することが認められない、という考え方とも合致してくるような見方につながっていくと考えています。