ナースのためのコンピュ−タ通信講座 |
「コンピュータ通信」は,今や,最もよく耳にする言葉のひとつです.確かに,コンピュータで情報を受け取ったり処理するのはひじょうに便利ですが,そのもとは,情報がディジタル化されているということでしょう.とくに,言語による情報(つまり文書)は,文字のひとつひとつを万国共通のコードに置き換えているため,きわめてコンパクトでエラーの起こりにくいのが特徴です.このため大量の文書が小さな記憶媒体に収納され,ディスプレイの上で文章の一部を変更したり入れ換えたり,そっくり複製したり,また種々の検索をしたりと,紙に書かれた文書ではとても面倒なことが自由自在にできることはご存知の通りです.文書だけでなく絵や音でも,かなり複雑にはなりますが,事情は似たようなものです.
このように,いわゆる電子化された情報,たとえばワープロを,いちど使い始めると手放せなくなる理由はそうした便利さにあります.しかし,ワープロで作った文書も,いったん印刷しないと手紙やファックスでは送れませんが,通信回線を介して相手のコンピュータに直接送ってやれば,送り手も受け手も,ずいぶん手間が省けます.これがコンピュータ通信の始まりで,いわゆる電子メールを使い始めて最初に感ずるメリットは,文書やその他の情報を電子化された形のまま授受・保管できることです.
病院で,電算ネットワークを導入する動機は業務の効率化であり,当初,端末はたんにホストコンピュータにデータを入出力するだけのきわめて非人間的な道具でした.おそらく,それに泣かされた経験のある方は少なくないでしょう.しかし最近,電子メールなど,端末どうし互いの通信機能を備えたシステムに変わりつつあるのは,コンピュータ通信の効用に気づいたためです.規模の大きい職場の中では,電話などとはひと味もふた味も違った使い道がありますから,味をしめた方が増えればもっと普及すると思います.
しかし,それだけであれば,便利な通信手段がひとつ増えたというだけに過ぎないかもしれません(それだけでも大変なことではありますが).コンピュータ通信の大きな可能性はもっと違ったところに開かれつつあります.それは情報通信のネットワークが世界的な規模に拡がって,ご存知のインターネットという実態が作られつつあることによります.国境のない,誰もが世界に対して情報発信者になり得る世界というのは確かに目まいを覚えます.じつは私も,インターネットのごく片隅を利用しているだけですから,あまり大きなことは言えませんし,この先,どんな文化的インパクトを発揮するのか見当もつかないのが正直なところです.このシリーズの執筆を担当されるのは,権威・達人・奇才と呼ばれる方々ばかりですから,私もいっしょに勉強させてもらえると大いに期待しています.
目 次
「先生,この患者さんのことなんですけど.... 」
「あ,ちょっと待ってね,今パソコン通信をやっているから,すぐ接続を切るからね」
「先生もパソコン通信をやっていらっしゃるんですか?」
「そう,だいぶ昔からやってますよ・・あなたは?」
「いや,興味はあるんですけど,具体的にどんなことができるのかがわからなくって」
「いろんなことができるんですよ.手紙のやりとりや,仕事や趣味が同じ仲間と話し合ったりすることもできるし,情報を集めることも,買い物することもできますよ」
「でも,なんだか難しそうで.... 」
「そんなことはないですよ.確かにとっかかりは難しく感じるけれどね..... そうか,もし興味があるなら,明日の夕方にでも教えてあげますよ.あなた以外にも興味がある人がいたらどうぞ連れてきてくださいな」
「いいですか?じゃあそうします」
「よろしくお願いします!」
「はりきってますねぇ.じゃあ,最初にパソコン通信のしくみを話しましょうか.二人とも,ワープロを使ったことはありますか?」
「少しだけなら.... 」
「私も.... 」
「愛さんがワープロで書いた文章を,陽子さんに渡したいときはどうします?」
「印刷するか,フロッピーを渡すか.... 」
「そう,でも,愛さんと陽子さんの間だったら,印刷やフロッピーを手渡すことで文章,すなわち情報を受け渡しすることができるけど,不特定多数の人たちや,遠くにいる人たちに情報を伝えたいときには,印刷やフロッピーっていうわけにはいけませんよね.これを可能にするのがパソコン通信なんです」
「パソコンとパソコンをつなぐんですね」
「そう,その通り.パソコンとパソコンを一対一でつないだものがパソコン通信の基本.この方法では,情報は一対一でしか伝えられませんね.(図1-a)もう少し大きな規模になると,職場や病院,大学などの中(エリア)にあるコンピュータどうしを接続して,エリアの中で情報を受け渡しできるようにした,”ローカル・エリア・ネットワーク”(LAN)とよばれる通信の形態もあるんです.(図1-b)でも,一般に”パソコン通信”というときには,このような一対一の通信やLANではなく,パソコンを,電話回線を使って通信サービス会社の大型コンピュータにつなぎ,不特定多数の相手と情報を交換するネットワーク(図1-c)のことを指すことがほとんどですね」
「不特定多数の人としか情報交換はできないんですか?」
「いや,そうじゃなくって,特定の個人に手紙(電子メール)を書いたりすることもできますよ.パソコン通信には,特定の相手と情報をやりとりする郵便の要素と,不特定多数に情報を発信する壁新聞的な要素とがあると考えたらわかりやすいかもしれないな」
「通信サービス会社っていうのはたくさんあるんですか?」
「いまのところNIFTY-Serve(ニフティサーブ),PC-VAN(ピーシーバン)という2つの会社が最大手で,それぞれの運営しているネットワークには百万人以上の会員がいるんだけれど,それ以外にも数十万人規模のものから”草の根ネット”とよばれる数十人規模のものまで,いろいろですよ」
「いや,インターネットっていうのは,一般のパソコン通信のもっと上位の概念なんです.もう一度図を見てください(図1-a,b,c)パソコンとパソコンの一対一の接続では一対一,LANではエリアの中でしか情報伝達ができませんよね.一般のパソコン通信では,もっとたくさんの人たちと情報交換できるんだけれど,でも,自分の入っているネットワークと,情報をやりとりしたい相手が加入しているネットワークがいつも同じとは限らないでしょう」
「ネットワークが違うと情報伝達できないんですか?」
「できなかったんですね.昔は.でも,これを解決してくれたのがインターネット.インターネットはコンピュータネットワークとネットワークの間をつなぐシステムなんです.(図2)最初は政府機関や大学しか接続できなかったんだけど,最近になってパソコン通信網からも接続できるようになったし,代理業者(プロバイダー)を通して,個人が直接インターネットに接続できるようにもなった.このおかげで,今では,相手のコンピュータがインターネットに接続されていれば,世界中どこへでも情報が送れるようになったんですよ」
「うーん,難しい」
「まあ,今日のところはそこまでわかってもらわなくてもいいですよ.(読者の方は12月号をご参照くださいね)」
「さてと,じゃあパソコン通信でどんなことができるのかを簡単にみてみましょうか.一番わかりやすいのは電子メール(Electric Mail=E-Mali : イーメール)かな.これは名前の通り,手紙のように,文章を特定の相手に送れるサービスなんですね」
「普通の手紙とどこが違うんですか?」
「まずは,非常に早く着く.手紙だと,速達だとしても,相手に届くのに一日以上かかってしまうでしょう.でも,電子メールだったら,こちらが送った直後に相手は読むことができるから,緊急連絡には非常に便利」
「でも,電話のほうがもっと早いんじゃないですか?」
「相手がつかまればね.でも,重要な情報を伝えたいときに限って,相手は不在だったり,話し中だったりしませんか?それに医療関係者は生活パターンが不規則でしょう.夜勤あけで寝ているところに電話がかかってくると,かけた方も受けた方も気まずいしね.そんなときでも,電子メールなら,送り手は都合がいいときに手紙を送れるし,相手も都合がいいときに手紙を読めるから便利ですよ」
「でも,どうして,話し中でも手紙が届くんですか?」
「それはね,電子メールというのは,直接相手に届くんではなくて,一旦パソコン通信会社の大型コンピュータに蓄積されるからなんです.相手が次にパソコン通信にアクセス(接続すること)したときにはじめてメールが相手に送られるんです.(図3)だから,こちらがメールを送ったときに相手が不在だろうが話し中だろうが,かまわないんですよ」
「と,いうことは,いくら手紙を送っても,相手がアクセスしなければ,読んでもらえない可能性もあるんですね」
「そうそう.その逆に,自分にメールが届いていてもアクセスしない限り読むことはできないしね.だから,電子メールを本格的に使うなら,定期的にアクセスして,メールが来ていないかをチェックしたほうがいいですね」
2 電子会議室
「さて,メールのことはこのくらいにして,電子会議室のことを話しましょうか.電子会議室っていうのは,パソコン通信を使った討論の場なんです.どのパソコン通信ネットワークにも,趣味・仕事などさまざまなジャンルごとの会議室が存在して,まじめな話から雑談まで,いろいろな話題を話し合っているんですよ」
「サークル活動みたいなものなんですか」
「まぁ,そうもいえますね.でも一般のサークル活動と違うのは,時間的・地理的制約でなかなか会うことができない仲間とも話題を共有することができる,ということですね.僕も医療関係の会議室や,趣味の会議室で知り合った友人が日本中にいますよ.その多くは一回も会ったことがないんだけれどね」
「医療関係の会議室もあるんですか?」
「そう,救急関係の会議室も,ナースの会議室もあるし.いろいろな症例報告や,仕事の上での悩みごとの相談などもよく書き込まれていますから,読んでいるだけで勉強になりますよ」
3 データベース・ショッピング
「それから,自宅に居ながらにして,さまざまな買い物をすることができるのもパソコン通信の特徴ですね.たとえば,医学関係の書籍なんかは,置いてある書店が少ないから,あちこち探して回るより,パソコン通信を使って注文したほうが楽.僕も何度も使ったけど,手数料も安いし便利ですよ」
「情報,っていうのはどんなものが手に入るんですか?」
「そう,あらゆるものと言っていいですね.たとえば,海外に行く前に,飛行機の接続や,現地でのおすすめスポット,安全情報,現地で今一番話題になっていることなんかを調べたいとき,どうします」
「ガイドブックで調べたり.... 」
「うん,でもガイドブックの情報は往々にして古かったりするしね.そんなときパソコン通信のデータベースを使えば,常に最新の情報が手にはいるし,現地の明日の天気予報さえ瞬時に手に入れることができますよ」
「へ〜え」
「そうですね,パソコン・モデム・通信ソフト・電話回線は必須ですね」
「パソコンは何を買えばいいんですか」
「何を買ってもいいんですよ.身の回りにパソコン通信をやっている人がいて,いろいろと相談に乗ってくれそうだったら,その人と同じ機種にしておくのは1つの手ですね.もし,身の回りにそういう人がいなかったら,はじめからモデムも通信ソフトも組み込まれていて,電話線をつなぐだけで通信が始められるタイプのパソコン(マッキントッシュならパフォーマ,IBMならAptivaなど)を買うのもいいでしょう.パソコン通信機能が付いたワープロでもいいし」
「モデム,っていうのはなんですか?」
「これは,パソコンの情報を音声信号に変えて,電話で送れるようにした機械で,パソコン通信をするには必須です.買うときには,パソコンとの相性があるので,自分の使っているパソコンが何なのかをしっかり確認しておくこと.通信ソフト,っていうのは,パソコンを通信ネットワークにつなげるためのプログラムで,これまたコンピュータやモデムとの相性があるから,コンピュータやモデムを買うときに,お店の人に相談するのがいいかと思います.まぁ,さっき言ったように,初めて買うのであればモデムや通信ソフトを内蔵しているコンピュータを選ぶのがいいかもしれませんね」
「電話回線はなんでもいいんですか」
「そう,プッシュホンでも,ダイアル回線でも構わない.ただ,パソコン通信をやるのであれば,キャッチホンは使えない,っていうことは知っておいてくださいね」
「え,私キャッチホンを使ってるんですけど.それはこまっちゃうな」
「ご心配なく.最近,NTTではパソコン通信と併用できる新しいキャッチホンサービスを始めたらしいですよ.まあ,このへんはNTTと相談するといいでしょう」
「それで,通信ネットワークってどこに入ればいいんですか?」
「うん,最初にお話ししたNIFTY-Serve(ニフティサーブ)やPC-VAN(ピーシーバン)なんかが大手なんだけれど,それ以外にもいろいろ特色を持ったネットがあるし...一概にどこがいいとは言えませんね.最近では,モデムやパソコンを買うと,ほとんどの大手ネットへの無料入会キットがついてくるから,それを見て決めてもいいと思いますよ.ただ,会費はクレジットカード決済のところがほとんどだから,クレジットカードは持っていた方がいいですね」
「なんとなく」
「私も」
「まあ,話しているだけではわからないこともあるし,まずははじめてみて,わからなければどんどん質問してください.メールを送ってくれてもいいしね」
(読者の方もどうぞ.アドレスは PBB01055@nifty.ne.jpです.NIFTY Serveの中からなら PBB01055で届きます)
「ありがとうございました!」
序言
愛媛大学医学部救急医学教授 白川洋一
(エマージェンシー・ナーシング 9 (10): 914, 1996)1 パソコン通信
日本医科大学多摩永山病院救命救急センター 冨岡譲二
(エマージェンシー・ナーシング 9 (10): 915-24, 1996)プロローグ:パソコン通信とは
パソコン通信のしくみ
インターネットとパソコン通信
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パソコン通信を始めるには
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