AHA新ガイドライン
第3部 心肺蘇生法の概要 (Part 3: Overview of CPR )
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■はじめに
我々は以前からつねに、CPRが単一な手技ではなく一連の評価と処置であることを知っていた。
(さらに)最近になって、心停止の原因が単一ではなく、心停止の心電図波形や原
因に応じてCPRの手順(the steps of CPR)を変更する必要があるかもしれないことを知るよう
になった。
2005年のコンセンサス会議において、研究者たちは心停止の同定と
治療のすべての側面について議論した。しかしな
がら、最後の要約は最初の論題に戻ってしまった。それはもっと多く
のバイスタンダーやヘルスケア・プロバイダー(医療従事者)に
CPRを身につけてもらい、うまく行ってもらうにはどうしたらいいかと
いう問いであった。
突然の心停止(SCA)はアメリカとカナダにおいて主要な死亡原因で
ある1-3。病院外でのSCAによる年間死亡者数の推定値はばらつきが大
きいが1,2,4,5が、米国疾病予防管理センター(CDC)はアメリカにおい
て病院外および救急外来で年間におよそ330,000人
が冠動脈疾患で死亡していると推定している。これらのうち、約250,000人は病院外
で死亡する1,6。北アメリカ
での年間のSCA発生率は約0.55/人口1000人である3,4。
突然の心停止(SCA)となった傷病者の大多数は、心停止のいずれかの時点で心室細動
(VF)を呈している3-5。VFのいくつかの段階が示されており7、
倒れてから5分以内に除細動が行われた場合に蘇生の成功率が最も高い。
救急医療サービス(EMS)に連絡してから、救急医療従事者が傷病者のと
ころに到着するまで通常は5分以上を要している8ので、
高い救命率を得られるか否かは
一般市民がCPR訓練を受けているかどうかに、また適切に組織化された
PAD(public access defibrillation)プログラムがあるかどうかによっ
て決まる9,10。
市民救助者と自動体外式除細動器(以下、AED)によるプログ
ラムが最良の結果を生むのは管理された環
境において、訓練を受け動機づけられた人員が、あらかじめ決められ練習を
積んだ方法で対応し、応答時間(response time)が短い場合に生じる。そのような環境の例は、
空港9、機内11、カジノ12そして病院などである
(Part4:「成人の一次救命処置」参照)。
病院外におけるVF突発性心停止(VF SCA、以下、VF心停止)
の著しい生存率の改善は、よく組織された警察官救助者によるCPRと
AEDプログラム(police CPR and AED rescuer programs)においても
報告されている13。
CPRは除細動の前後で、ともに重要である。VF心停止で倒れた直後から
CPRが行われた場合、CPRにより傷病者の生存の可能性を 2~3倍にすることが
できる14-17。CPRはAEDまたは手動式除細動器が使えるようになるまで
行うべきである。
VFが治療されないまま5分以上たった場合には、冠動脈と脳にある程度
血液を供給するような有効な胸骨圧迫によるCPRの時期をショッ
ク(除細動の試み)に先行させたほうが転機が良いかもしれない18,19。
CPRは除細動直後にもまた重要である。傷病者の大多数は除細動後の数分間、心静止や無脈
性電気活動(PEA)を呈する。CPRを行うことでこれらのリ
ズムを血流のあるリズム(perfusing rhythm)に変換することができる20-22。
成人の死亡がすべてVF心停止によるものとは限らない。
実数は不明だが一部の傷病者は、溺水や薬剤過量のように、窒息
の機序(an asphyxial mechanism)で心停止に至る。
窒息は大部分の小児心停止の機序ともなっているが、これに
対しVFが原因となるものは約 5~15%に過ぎない23-25。
動物実験では、胸骨圧迫のみでも何もしないよりは結果が良い
が、胸骨圧迫と換気の両者が行われた時に窒息心停止に対する最良の蘇
生結果が示されている26,27。
単純化(Simplification)
CPRとECCのための2005 AHAガイドラインの著者らは、
とりわけ一般市民救助者のための、乳児、小児そして成人に対
するCPRの手順と手技の差異を最小限にすることにより、BLSの手順を単
純化した。
今回初めて、(新生児を除く)乳児、小児、成人に対して救助
者が1人の場合はすべて共通の圧迫―換気比(30:2)が推奨された。
いくつかの手技(例えば、胸骨圧迫なしの救助呼吸)は、もはや一般市
民救助者に対して指導されることはない。これらの改変の目的は、すべての
救助者にとってCPRを学びやすく、憶えやすく、ま
た実践しやすくすることである。
市民救助者とヘルスケア・プロバイダー(HCP)におけるCPRの違い
市民救助者とヘルスケア・プロバイダーのCPR手技の差は以下の通りである。
- 市民救助者は反応のない傷病者に対して2回の救
助呼吸を行った後に、直ちに胸骨圧迫と人工呼吸のサイクルを開始すべき
である。市民救助者が反応のない傷病者の脈と循環の
サインを評価することは指導されない。
- 市民救助者は胸骨圧迫なしの救助呼吸を行うようには指導されない。
- ヘルスケア・プロバイダーが1人の場合には、傷病者の問題の最もありそうな原因に
基いて救助の対応手順を変更する(should alter the sequence of
rescue response)。
- すべての年齢において傷病者が突然虚脱した時、医療従事者が1人
の場合には救急隊に電話をし、(すぐに利用できる場合)AEDを持って
傷病者のもとへもどり、CPRを開始しAEDを使用する。
- 窒息による心停止(例えば、溺水)が疑われる
(with likely asphyxial arrest)、すべての年齢の、反応のな
い傷病者に対して、ヘルスケア・プロバイダーが1人の場合、およそ5サイクル
(約2分間)のCPRを行った後に傷病者のもと
を離れて救急隊へ電話をし、さらにAEDを調達すべきである。その後、傷病
者のもとにもどりCPRを開始し、AEDを使用する。
- ヘルスケア・プロバイダーは、2回の救助呼吸後に、反応がなく呼吸していない傷病
者の脈を10秒以内で感知するよう努めるべきである。10秒以内に脈を
疑いなく感知できない場合には、胸骨圧迫と人工呼吸のサイクルを開始する。
- ヘルスケア・プロバイダーは呼吸が停止しているが血流のある(すなわち、
脈がある)リズムの傷病者には胸骨圧迫をせずに救助呼吸を行うように指導され
る。胸骨圧迫を行わずに救助呼吸を行う場合、成人に対しては毎分
10~12回、乳児や小児に対しては毎分12~20回行う。
- ヘルスケア・プロバイダーは高度な気道確保(例えば、気管チューブ、ラリンジアル
マスク(LMA)、または食道―気管コンビチューブ(Combi-tube))が実施さ
れていない場合には、CPRの間ずっと胸骨圧迫と人工呼吸を交互に行う
サイクルを行うべきである。いったん高度な気道確保が乳児、小児、成人
の傷病者に実施されたならば、2人の救助者はもはや人工呼吸のために胸
骨圧迫が中断される「胸骨圧迫と人工呼吸のサイクル」を行う必要はない。
その代わりに、胸骨圧迫を行う救助者は人工呼吸のために中断すること
なく胸骨圧迫を毎分100回のペースで持続的に行う。人工呼吸
を行う救助者は、毎分8~10回の人工呼吸を行い、換気回数が過剰にならな
いように注意する。救助者が2人の場合、胸骨圧迫者(compressor)が疲労し胸骨
圧迫の質と回数が低下しないように、2分ごとに胸骨圧迫と人工呼吸の役割を交
代する。多数の救助者がいる場合には、胸骨圧迫の役割を交代で(rotate the
compressor role)行う。交代は胸骨圧迫の
中断を最小限とするためにできる限る迅速に(理想的には5秒以内)行う。
年齢区分(Age Delineation)
小児と成人では心停止の原因が異なるので、乳児と小児の傷病者に対す
る推奨される蘇生手順は成人傷病者に対する手順と比べて必然的にいくつか
の相違がある。たった一つで「小児」傷病者と「成人」傷病者を区別でき
るような解剖学的・生理学的な特徴などというものは存在せず、小児に対す
るCPR手技ではなく成人に対するCPR手技を開始すべき正確な年齢を識
別するような科学的根拠もないため、緊急心血管治療にかかわる科学者は主
として実用的な基準と教えやすさに基づいた年齢区分を合意決断した
(made a consensus decision)。
この2005年ガイドラインでは、新生児に対する推奨は、出産後の最初
の数時間から病院から退院するまでの新生児に適用される。乳児CPRのガイ
ドラインはほぼ1歳未満の傷病者に適用される。
一般市民救助者むけの小児のCPRガイドラインはおよそ
1~8歳の小児に適用し、市民救助者向けの成人のガイドラインはほ
ぼ8歳以上の傷病者に適用する。2005年ガイドラインに準拠した
CPRとAEDの再訓練を行う一般市民救助者の学習を簡略
化するために、2005ガイドラインでの小児の年齢区分は緊急心血管治療ガ
イドライン2000(ECC Guidelines 2000)と同じ年齢区分が使われている28。
ヘルスケア・プロバイダーのための小児CPRガイドラインは、
ほぼ1歳から第二次性
徴の存在で定義される青年期または思春期(ほぼ12~14歳)の始まりま
での傷病者に適用される。病院(特に小児病院)や小児集中治療室では、思春期をもってACLS(成人向け)
を適用するというのでなく、すべての年齢の小児患者
(通常ほぼ16~18歳まで)に対しPALS(小児二次救命処置)ガイドラインを拡大適
用することを選択することも許容される。
小児に対するAEDの使用と除細動
病院外で心停止の状態で倒れているところを発見された小児の治療では、
市民救助者およびヘルスケア・プロバイダーは
AEDを装着する前に約5サイクル(約2分間)のCPRを行うべきである。
この勧告は2003年に出版された勧告と
整合性がある29。すでに記載された通り、小児の大部分の心停止は心室性
不整脈に起因するものではない。直ちにAEDを装着し
操作する(リズム解析のために心肺蘇生が行われない時
間(hands-off time)が必要となる)ことにより、胸骨圧迫と人工呼
吸の有効性が最も期待される傷病者において、救助呼吸や胸骨圧迫が
遅延したり中断されたりする危険性がある。
医療従事者が、小児が突然虚脱するのを目撃した場合には、
ヘルスケア・プロバイダーはAEDを入手でき次第使用すべきである。
乳児(1歳未満)にはAED使用について、推奨も否定もされない。
救助者は、もし利用可能であれば、1~8歳の小児に対しては小児用
エネルギー減衰システム(a pediatric dose-attenuating system)
を使用すべきである。この小児用
システムは8歳までの傷病者(ほぼ体重25kg [55ポンド]または身長
127cm [50インチ])に対して適切な減弱したショックエネルギーを
与えられるように設計されている。小児システムにより供給される(電気
ショックの)エネルギー量は年長小児、青年期、成人に対しては不
適切である可能性が高いので、8歳以上の傷病者に使うべきではない。
病院内での蘇生では、救助者は直ちにCPRを開始し、
さらにAEDまたは手動式除細動器が到着
し次第、AEDまたは手動式除細動器を使用すべきである。
手動式除細動器を用いる場合には、初回のショックには 2J/kgの
エネルギー量が推奨され、2回以降のショックには 4J/Kgが推奨される。
手順(Sequence)
心停止の現場に2人以上の人員がいた場合には、いくつかの行動を同時
に行うことができる。1人のバイスタンダーが救急対応シス
テムに電話し(付近にAEDがある場合に)AEDを取りに行っている間に、
他の訓練された救助者(たち)が傷病者のもとに残りCPRを開
始する。
救助者が1人の場合には、次の行動手順が推奨される。その
詳細はPart 4:「成人の一次救命処置」、Part 5:「電気的治療」およびPart 11:「小児の一次救命処置」の項に記載されている。
反応のない成人に対する一般市民救助者による行動手順は以下の通り
である。
- 救助者が1人の場合は救急対応システムに電話をして(もしAEDがあ
れば)AEDを持って来る。その後、救助者は傷病者のもとに
もどりCPRを開始し、適応があればAEDを使用する。
- 市民救助者は気道を確保し、正常な呼吸をしているかどうかチェ
ックする。正常な呼吸をしていなければ、2回の救助呼吸を行う。
- 救助呼吸をした後、直ちに30回の胸骨圧迫と2回の人工呼吸のサ
イクルを開始し、AEDが入手でき次第AEDを使用する。
反応のない乳児・小児に対する市民救助者による行動手順は以下の
通りである。
- 救助者は気道を開通させ、呼吸の確認を行う。そして、もし
呼吸がなければ、胸が挙上する程度まで2回、人工呼吸を行う。
- 救助者は5サイクル(30回の胸骨圧迫と2回の人工呼吸で1サイクル)
のCPR(約2分間)を行った後、小児の傷病者のもとを離れ911へ電話
し、もしあればAEDを取って来る。直ちにCPRを行う理
由は、小児においては突然の(訳者註:心原性)心停止より窒息
による心停止(一次的な呼吸停止によるものを含む)の方が多く見られ
るからであり、小児は初期のCPRに反応する可能性が高く、有効であるこ
とが多いからである。
一般的に、ヘルスケア・プロバイダーによる救助手順は市民救助者に対して推
奨される手順と同様であるが、以下の点が異なっている。
ヘルスケア・プロバイダーが1人で、傷病者(年齢を問わない)が突然虚脱す
るところに遭遇した場合、反応のないことを確認した後、最初に911に
電話をして、AEDがあればAEDを取って来る。その後、
CPRを開始し、適応があればAEDを使用する。
突然の虚脱はショックが必要な不整脈によって生じることが多い。
- 救助者が1人で、窒息による心停止の可能性が高い(例えば、溺水)反応
のない傷病者を救助している場合には、救助者は5サイクル(約2分間)の
CPR(30回の胸骨圧迫と2回の人工呼吸で1サイクル)を行った後に傷
病者のもとを離れて救急対応の電話番号へ電話する。
- 上述のように、ヘルスケア・プロバイダーは一般市民救助者には教えないい
くつかの手技・手順を実施することになる。
呼吸の確認と救助呼吸
呼吸の確認
市民救助者が反応のない成人の呼吸を確認する場合には、正常な
呼吸をしているかどうかを確認すべきである。これは、市民救助
者が呼吸している傷病者(CPRは不要)と
死戦期呼吸(心停止である可能性が高くCPRが必要)の傷病者を区別す
るのに役立つ。
市民救助者が乳児や小児の呼吸を確認する場合、呼吸の「有
無」を確認するのでよい。乳児や小児はしばしば、正常ではないが換
気量が十分確保された呼吸パターンを呈する(この場合、人工呼吸は
不要。訳者註)。
-
訳者註:この段落の最後の2行は原文では以下のようになっており、
意訳を入れないと意味が通じにくかった。
Lay rescuers who check breathing in the infant or child should look
for the presence or absence of breathing. Infants and children often
demonstrate breathing patterns that are not normal but are adequate.
ヘルスケア・プロバイダーは成人傷病者が適切な呼吸をしているかどうかを評価するべきである。
一部の傷病者は不十分な呼吸を呈しており、その場合補助呼吸が必要となる。乳児と
小児における換気の評価はPALSコースにおいて指導される。
救助呼吸
それぞれの救助呼吸は送気時間1秒以内で行うべきであり、
胸の挙上が視認できる量を送気する。
救助呼吸に関するそれ以外の新しい勧告
は以下の通りである。
-
乳児や小児では突然の心停止より窒息による心停止の方が多いので、
ヘルスケア・プロバイダーは乳児や小児に対して有効な人工
呼吸を行うよう細心の注意を払うべきである。
確実に有効な救助呼吸を行うためには、気
道確保をやり直して再度換気する必要があるかもしれない。乳児や小児
に対して、2回の有効な人工呼吸を行うためには2~3回人工呼吸を試みる
必要があるかもしれない。
- 脈のある傷病者に対して胸骨圧迫なしで救助呼吸を行う場合には、
ヘルスケア・プロバイダーは乳児や小児に対しては毎分12~20回、
成人に対しては毎分10~12回の人工呼吸を実施する。
- 既に述べたように、2人でCPRを行ってい
る間にひとたび高度な気道確保(例えば、気管チューブ、コンビチューブ、
LMAを使用して)がなされたならば、胸骨圧迫者は人工呼吸時に中断せずに毎分100回の
胸骨圧迫を行い、人工呼吸を担当する救助者は毎分8~10回の人工呼吸を行う。
胸骨圧迫(Chest Compressions)
市民救助者も医療従事者も乳児や小児の胸骨を胸部の厚みの1/3~1/2の
深さまで沈み込むように胸骨圧迫を行うべきである。救助者はすべて
の傷病者に対して、強く、速く(毎分100回のペースで)胸骨圧迫
を行い、圧迫の合間には胸骨が完全に戻るようにし、また圧迫の中断を最
小限にするようにすべきである。
小児傷病者や救助者の体格はそれぞれ大きく異なるため、救助者はすべての小児の
胸骨圧迫を片手で行うようにはもはや指導されない。その代わりに、救助
者は小児の胸部の厚みの1/3~1/2の深さまで圧迫する必要に応じて、片手
または両手(成人と同様に)を使うように指導される。
市民救助者はすべての傷病者(乳児、小児、成人)に対して30:2の胸骨圧迫・
人工呼吸比率で行うべきである。ヘルスケア・プロバイダー
は救助者が1人の場合と成人に実施する場合は30:2
の胸骨圧迫・人工呼吸比で行い、
乳児と小児に対
して2人で行う場合には15:2の比率で行う。
乳児の場合
一般市民救助者と医療従事者の乳児(1歳まで)に対する胸骨圧迫に関
する勧告は以下の通り。
- 市民救助者とヘルスケア・プロバイダーは乳頭を結ぶ線の直下
(かつ胸骨の下半分)を圧迫すること。
- 市民救助者は乳児の胸骨を2本の指で、胸骨圧迫と人工呼吸の比率30:2で圧迫する。
- ヘルスケア・プロバイダーの場合、1人だけで実施するときは乳児の胸骨圧
迫を指2本で行うこと。
- ヘルスケア・プロバイダー2人でCPRを行う場合には、高度な気道確保が行
われるまでは胸骨圧迫と人工呼吸の比率は15:2で行うこと。胸
骨圧迫を行う医療従事者は、可能ならば胸郭包込み両母指圧迫法
(the 2-thumb-encircling hands technique)を用いること。
小児の場合
市民救助者とヘルスケア・プロバイダーの小児傷病者(ほぼ1~8歳)に対する胸骨
圧迫に関する勧告は以下の通り。
- 市民救助者はすべての傷病者に対して、胸骨圧迫と人工呼吸の比率
30:2で行うこと。
- 救助者は乳頭線上の胸骨の下半分を圧迫すること(成人と同様)。
- 市民救助者は小児の胸部をその厚さの1/3~1/2の深さまで圧迫する
ために、必要に応じて片手または両手を用いること。
- 市民救助者と単独の医療従事者の場合、胸骨圧迫と人工呼吸の比率
は30:2で行うこと。
- ヘルスケア・プロバイダー(とヘルスケア・プロバイダーのコースを終了したすべての救助者、
ライフガードなど)が2人で行う場合には、高度な気道確保が行われるまで
は、胸骨圧迫と人工呼吸の比率15:2で行うこと。
成人の場合
市民救助者とヘルスケア・プロバイダーが成人(およそ8歳以上)に対するして行う胸骨圧迫
に関する勧告は以下の通り。
- 救助者は乳頭線上で胸部の真ん中を圧迫すること。
- 救助者は両手の(訳者註:足で言えば)踵(かかと)の部分
(the heel of both hands)で胸骨を 4~5 cm圧迫すること。
- 成人、小児、乳児の傷病者に対するCPR手技の比較は表に強調して
ある(highlighted)。
表.乳児、小児、成人におけるBLS ABCD手技の要約(新生児の情報は含まれない)
手技 |
成人 (市民救助者 ≧8歳) (HCP 青年期以降)
|
小児 (市民救助者 1-8歳) (HCP 1歳から青年期)
|
乳児 (HCP 1歳未満)
|
気道確保 |
頭部後屈あご先挙上(HCP:外傷が疑われる時には下顎挙上法) |
人工呼吸 最初の |
1呼吸1秒で2回 |
1呼吸1秒で有効な2呼吸 |
HCP: 心臓マッサージのない救助呼吸 |
10~12回/分(およそ) |
12~20回/分(およそ) |
HCP: 高度な気道確保がなされたCPRにおける救助呼吸 |
8~10回/分(およそ) |
異物による気道閉塞 |
腹部突き上げ法 |
背部叩打、胸部突き上げ法 |
循環 HCP:脈触知(≦10秒) |
頚動脈 |
上腕動脈か大腿動脈 |
圧迫の目印 |
胸骨の下半分、乳頭の間 |
乳頭線のすぐ下(胸骨の下半分) |
圧迫の方法 強く速く押す (完全に圧迫を解除する) |
手のかかと部分、他の手は上に重ねる |
片手のかかと部分あるいは成人と同様 |
2~3本の指 HCP(2人):胸郭包込み両母指圧迫法 |
圧迫の深さ |
4~5cm |
大体胸郭の1/2から1/3の深さまで |
圧迫の比率 |
大体 100回/分 |
圧迫と換気の比 |
30:2(1人でも2人でも) |
HCP:15:2(2人) 30:2(1人) |
除細動 AED |
成人用パッドを用いる (小児用を用いてはいけない) |
5サイクルのCPRの後でAEDを用いる(院外では)
もし可能ならば1~8歳の小児には小児システムを用いる HCP;(院外での)突然の虚脱あるいは院内の心停止ではできるだけ速やかにAEDを用いる
|
乳児に対する推奨はない(<1歳) |
- 注:ヘルスケアプロバイダーにのみ使用される手技には"HCP"がついている。
新生児に対するCPR
新生児に対する勧告は乳児に対する勧告とは異なっている。新生児の治
療にあたる医療提供者の多くは、乳児、小児、成人の治療を行わないので、普遍的なまたより均一な勧告に対する
教育的な必要性はさほど差し迫ったものではない(the educational imperative for universal or more uniform recommendations is less compelling)。新
生児のCPRに対する勧告は緊急心血管治療ガイドライン2000のもの
と大きな変更はない28。
- 脈のある新生児に対する救助呼吸の回数は毎分約40~60回である。
- 新生児に胸骨圧迫を行う場合、救助者は胸部の厚みの1/3の深さまで圧迫すること。
- 新生児の蘇生では(高度な気道確保の有無にかかわらず)、毎分90回の胸骨圧迫と30回の人工呼吸(ほぼ120回の手技)を行うこと。
- 救助者は胸骨圧迫と人工呼吸を同時に行わないように努めること。
■心肺蘇生法の重要なレッスン
CPRに関して我々は何を学んできたのか? 蘇生を成功させるためには、
傷病者が虚脱したらできる限り迅速にCPRが開始されなければならない。
それゆえわれわれは、訓練を受け意欲的な一
般市民がCPRを開始し、専門家の助けとAEDを要請してくれるかどうか
に強く依存している。
われわれは、これらの手順が時機を逸せずに実施された場合に、
CPRが生と死の分かれ目になりうる(CPR makes a difference)ことを
知っている(we have learned that)30-32。同時に、悲しいことでは
あるが、居合わせた人(bystander)がCPRを行ってくれるのは目撃され
た心停止のうちの1/3あるいはそれ以下であり31,32、また CPRが行われ
た場合でも、それが専門家によるが行った場合でさえ、しばしば適切に
行われない(it is often not done well)ことを知っている。
CPR中、高度な気道確保が行われた傷病者に対して過度な換気
がなされがちであり、結果として心拍出量の低下を来たす33。一方、
胸骨圧迫があまりにも頻繁に中断され34-37、その結果冠動脈灌流圧が
低下し転帰が悪化する38-40。また、胸骨圧迫はしばしば遅過ぎ、かつ
浅過ぎる。
本ガイドラインの各章はCPRの質の問題(issues of CPR
quality)について、一つには質の高いCPRすなわち「胸骨を強くかつ速く圧迫し、
胸骨圧迫1回ごとに胸骨の圧迫が完全に解除されもとに戻るよ
うにし、また胸骨圧迫の中断を最小限にすること」を強調し、一方で、
一般市民やヘルスケアプロバイダーが同じようにこれらの重要な手技を
学び、記憶し、実施できるように(alike to learn, remember, and
perform these critical skills)推奨事項を単純化して記載した。
胸骨圧迫の中断を最小限とするために、CPRと除細動に関する推奨にお
いてその他の変更がなされた(Part 5:Electric Therapies参照)。
なぜバイスタンダーはCPRを行うことを躊躇するのか? 我々はこの重要
な質問にはっきりと答えられるような十分なデータをもっていないが、
多くの考えられる理由が示されている。
- CPRの手順が余りに多く複雑であり憶えるのに負担がかかると
いう批判がある。
このガイドラインでは科学的な根拠が許す場合にはいつでも手
順を単純化してきた。例えば、一般市民が行う胸骨圧迫―換気比は、今で
は乳児、小児、成人で同一であり、圧迫方法も小児と成人で同様である。
- われわれのトレーニング方法は不適切であり、手技の維持がト
レーニング後かなり早く低下している(skills retention has been
shown to decline fairly rapidly)と感じる者もいる41。
AHA(アメリカ心臓協会)はより良くまた効果的な教育
手法を探すためにECC小委員会を設立した。
われわれははまた、なぜ同じ知識を持った人が緊急時にそれ
ほどまでに異なった対応をするのかを理解するために、心理学の分野
から自己効力の考え方(the lessons of self-efficacy)を取り入れ
るよう努めなければならない。
- 一般市民は感染症を恐れ、口対口人工呼吸を行うことを躊躇すると指
摘する者もいる42-45。ガイドラインは、データからみて病気
が感染する可能性は極めて低いと強調している46。
単純なバリアディバイス(フェイスシールドなど)では細
菌感染の危険を減ずることはできない可能性があるが、
ガイドラインは病気の感染についてま
だ懸念を持つ人は誰でも、人工呼吸の際にバリアディバイスを使うよ
うに推奨している47。
ガイドラインはまた、口対口人工呼吸を行いたくない人は助けを呼び
胸骨圧迫のみを開始するよう推奨している。
新生児の約10%は子宮内生活から子宮外生活へうまく移行するため
に、CPRの手順の一部が必要である。本ガイ
ドラインに基いた新生児蘇生プログラム(The Neonatal
Resuscitation Program NRP)は世界中で175万人以上が受講している。
NRPは北米全域(throughout the United States and Canada)、
および他の多くの国で行われている。新生児
の蘇生に対する教育的な課題は、突然の心停止(SCA)に対
する救助者の教育の課題とは全く異なっている。なぜなら、
アメリカではほとんどの出産が病院で行われ、蘇生は医
療従事者によって行われるからである。
病院外および病院内での蘇生プログラムを成功に導く
ためには、持続的な質の改善の過程が必須である。病院外での蘇生プロ
グラムに対しては、ウツタイン様式(the Utstein Registries)が転帰のモニ
タリングを容易にする定型書式(templates)を提供している48-51。
アメリカにおいては医療施設評価認証機関(JCAHO)が個々の病院内における蘇生対
応能力の基準(standards for individual in-hospital resuscitation capabilities)
を改定して、蘇生方針、蘇生手技、蘇生過程、蘇生プロトコル、蘇生器具の評価、職員の訓練、
転帰の調査などの項目を含むものとした52。
アメリカ心臓協会(AHA)は2000年に、心肺蘇生に関する系統的なデー
タ収集に関して参加病院を補助するために、NRCPR(National Registry of
Cardiopulmonary Resuscitation)を設立した53。
(NRCPRへの)登録の目的は病院の蘇生成績を記録するた
めの明確なデータベースを長い時間をかけて(over time)に作り上げることである。
この情報により病院の基礎的な蘇生機能を確立することができ
(can establish the baseline performance of a hospital)、(さら
に)問題のある領域に的を絞り、(また)データ収集と蘇生プログラム
全般に関する改善の機会を見極める(identify opportunities for
improvement in)ことができる。
NRCPRはまた、病院内での心肺停止に関する情報の最大の集積所である。
NRCPRに関する詳細については、ウェブサイトwww.nrcpr.orgを参照のこと。
医療救急チーム(METs)のコンセプトは危機に瀕した患者を同定し、心
停止に至らないように介入するための方法として検討されてきた。
検討されたMETsは一般的に、集中治療の訓練を受けた医師と看護師で
構成される。院内職員への教育・周知を行った後
(following implementation of an education and awareness
program)、特定の招集基準に基づいてチームを招集する権限を与えら
れた看護師や他の職員により、チームは24時間常に対応可能
(available at all times)な状態となる。
MET設置の前と後を一つの施設で比較した3つの支持的な研究(LOE 3)
54-56では、心停止発生率と心停止後の転帰がそれぞれ有意に改善した。
2つの中立的な研究(LOE 3)57,58では、成人の院内心停止の
減少傾向と転帰の改善傾向57、そして予定外のICU入室(unplanned ICU
admissions)が減少する傾向が認められた58。
最新の研究である23病院の集団無作為化研究では、METシステムを導
入した12病院と導入していない
11病院の間で、いくつかの転帰指標(心停止、予測外死亡、
予定外ICU入室)のいずれににも差がないことが示された(LOE 2)59。
成人の入院患者に対してMETシステムを導入する際には、実施
法の詳細(すなわち、チームの構成と応召能力(availability)、召
集の基準、病院職員への教育と認知、チーム召集の方法など)に特に
留意する必要がある。
小児に対してMETを運用することを推奨するには十分なエビデンスがな
い。
詳しい実施方法(the critical details of implementation)
については、またMETが心停止の予防や患者の他の主要な転帰の改善に
つながるかどうかについては、さらに研究が必要である。
本ガイドラインは単純化された情報を提供し、質の高いCPRの重要性
とその基本を強調している。以下の各章ではCPRの役割、
CPRと除細動の連携、二次救命処置における
CPRの位置づけ、新生児・乳児・小児
に対する一次、二次救命処置の詳細が記載されている。われわれは、
さらに多くの人が質の高いCPR手技を学習することにより、さらに多くのSCA傷病者が
質の高いバイスタンダーCPRを受け何千人もの命が救われることを望ん
でいる。
参考文献(省略)
■CoSTR粗訳(フロントペ-ジへ)