第3部 心肺蘇生法の概要 |
■疫学 ■心停止と救命の連鎖 ■傷病者の年齢と救助者の違いによるCPR推奨の違い ■心肺蘇生法の重要なレッスン ■質の改善 ■医療救急チーム(METs) ■まとめ □原文と参考文献 |
CPRは除細動の前後で、ともに重要である。VF心停止で倒れた直後から
CPRが行われた場合、CPRにより傷病者の生存の可能性を 2〜3倍にすることが
できる14-17。CPRはAEDまたは手動式除細動器が使えるようになるまで
行うべきである。
VFが治療されないまま5分以上たった場合には、冠動脈と脳にある程度
血液を供給するような有効な胸骨圧迫によるCPRの時期をショッ
ク(除細動の試み)に先行させたほうが転機が良いかもしれない18,19。
CPRは除細動直後にもまた重要である。傷病者の大多数は除細動後の数分間、心静止や無脈
性電気活動(PEA)を呈する。CPRを行うことでこれらのリ
ズムを血流のあるリズム(perfusing rhythm)に変換することができる20-22。
成人の死亡がすべてVF心停止によるものとは限らない。
実数は不明だが一部の傷病者は、溺水や薬剤過量のように、窒息
の機序(an asphyxial mechanism)で心停止に至る。
窒息は大部分の小児心停止の機序ともなっているが、これに
対しVFが原因となるものは約 5〜15%に過ぎない23-25。
動物実験では、胸骨圧迫のみでも何もしないよりは結果が良い
が、胸骨圧迫と換気の両者が行われた時に窒息心停止に対する最良の蘇
生結果が示されている26,27。
いくつかの手技(例えば、胸骨圧迫なしの救助呼吸)は、もはや一般市
民救助者に対して指導されることはない。これらの改変の目的は、すべての
救助者にとってCPRを学びやすく、憶えやすく、ま
た実践しやすくすることである。
この2005年ガイドラインでは、新生児に対する推奨は、出産後の最初
の数時間から病院から退院するまでの新生児に適用される。乳児CPRのガイ
ドラインはほぼ1歳未満の傷病者に適用される。
一般市民救助者むけの小児のCPRガイドラインはおよそ
1〜8歳の小児に適用し、市民救助者向けの成人のガイドラインはほ
ぼ8歳以上の傷病者に適用する。2005年ガイドラインに準拠した
CPRとAEDの再訓練を行う一般市民救助者の学習を簡略
化するために、2005ガイドラインでの小児の年齢区分は緊急心血管治療ガ
イドライン2000(ECC Guidelines 2000)と同じ年齢区分が使われている28。
ヘルスケア・プロバイダーのための小児CPRガイドラインは、
ほぼ1歳から第二次性
徴の存在で定義される青年期または思春期(ほぼ12〜14歳)の始まりま
での傷病者に適用される。病院(特に小児病院)や小児集中治療室では、思春期をもってACLS(成人向け)
を適用するというのでなく、すべての年齢の小児患者
(通常ほぼ16〜18歳まで)に対しPALS(小児二次救命処置)ガイドラインを拡大適
用することを選択することも許容される。
医療従事者が、小児が突然虚脱するのを目撃した場合には、
ヘルスケア・プロバイダーはAEDを入手でき次第使用すべきである。
乳児(1歳未満)にはAED使用について、推奨も否定もされない。
救助者は、もし利用可能であれば、1〜8歳の小児に対しては小児用
エネルギー減衰システム(a pediatric dose-attenuating system)
を使用すべきである。この小児用
システムは8歳までの傷病者(ほぼ体重25kg [55ポンド]または身長
127cm [50インチ])に対して適切な減弱したショックエネルギーを
与えられるように設計されている。小児システムにより供給される(電気
ショックの)エネルギー量は年長小児、青年期、成人に対しては不
適切である可能性が高いので、8歳以上の傷病者に使うべきではない。
病院内での蘇生では、救助者は直ちにCPRを開始し、
さらにAEDまたは手動式除細動器が到着
し次第、AEDまたは手動式除細動器を使用すべきである。
手動式除細動器を用いる場合には、初回のショックには 2J/kgの
エネルギー量が推奨され、2回以降のショックには 4J/Kgが推奨される。
反応のない成人に対する一般市民救助者による行動手順は以下の通り
である。
反応のない乳児・小児に対する市民救助者による行動手順は以下の
通りである。
一般的に、ヘルスケア・プロバイダーによる救助手順は市民救助者に対して推
奨される手順と同様であるが、以下の点が異なっている。
市民救助者が反応のない成人の呼吸を確認する場合には、正常な
呼吸をしているかどうかを確認すべきである。これは、市民救助
者が呼吸している傷病者(CPRは不要)と
死戦期呼吸(心停止である可能性が高くCPRが必要)の傷病者を区別す
るのに役立つ。
市民救助者が乳児や小児の呼吸を確認する場合、呼吸の「有
無」を確認するのでよい。乳児や小児はしばしば、正常ではないが換
気量が十分確保された呼吸パターンを呈する(この場合、人工呼吸は
不要。訳者註)。
ヘルスケア・プロバイダーは成人傷病者が適切な呼吸をしているかどうかを評価するべきである。
一部の傷病者は不十分な呼吸を呈しており、その場合補助呼吸が必要となる。乳児と
小児における換気の評価はPALSコースにおいて指導される。
救助呼吸
それぞれの救助呼吸は送気時間1秒以内で行うべきであり、
胸の挙上が視認できる量を送気する。
救助呼吸に関するそれ以外の新しい勧告
は以下の通りである。
小児傷病者や救助者の体格はそれぞれ大きく異なるため、救助者はすべての小児の
胸骨圧迫を片手で行うようにはもはや指導されない。その代わりに、救助
者は小児の胸部の厚みの1/3〜1/2の深さまで圧迫する必要に応じて、片手
または両手(成人と同様に)を使うように指導される。
市民救助者はすべての傷病者(乳児、小児、成人)に対して30:2の胸骨圧迫・
人工呼吸比率で行うべきである。ヘルスケア・プロバイダー
は救助者が1人の場合と成人に実施する場合は30:2
の胸骨圧迫・人工呼吸比で行い、
乳児と小児に対
して2人で行う場合には15:2の比率で行う。
乳児の場合
一般市民救助者と医療従事者の乳児(1歳まで)に対する胸骨圧迫に関
する勧告は以下の通り。
小児の場合
市民救助者とヘルスケア・プロバイダーの小児傷病者(ほぼ1〜8歳)に対する胸骨
圧迫に関する勧告は以下の通り。
成人の場合
市民救助者とヘルスケア・プロバイダーが成人(およそ8歳以上)に対するして行う胸骨圧迫
に関する勧告は以下の通り。
なぜバイスタンダーはCPRを行うことを躊躇するのか? 我々はこの重要
な質問にはっきりと答えられるような十分なデータをもっていないが、
多くの考えられる理由が示されている。
新生児の約10%は子宮内生活から子宮外生活へうまく移行するため
に、CPRの手順の一部が必要である。本ガイ
ドラインに基いた新生児蘇生プログラム(The Neonatal
Resuscitation Program NRP)は世界中で175万人以上が受講している。
NRPは北米全域(throughout the United States and Canada)、
および他の多くの国で行われている。新生児
の蘇生に対する教育的な課題は、突然の心停止(SCA)に対
する救助者の教育の課題とは全く異なっている。なぜなら、
アメリカではほとんどの出産が病院で行われ、蘇生は医
療従事者によって行われるからである。
アメリカにおいては医療施設評価認証機関(JCAHO)が個々の病院内における蘇生対
応能力の基準(standards for individual in-hospital resuscitation capabilities)
を改定して、蘇生方針、蘇生手技、蘇生過程、蘇生プロトコル、蘇生器具の評価、職員の訓練、
転帰の調査などの項目を含むものとした52。
アメリカ心臓協会(AHA)は2000年に、心肺蘇生に関する系統的なデー
タ収集に関して参加病院を補助するために、NRCPR(National Registry of
Cardiopulmonary Resuscitation)を設立した53。
(NRCPRへの)登録の目的は病院の蘇生成績を記録するた
めの明確なデータベースを長い時間をかけて(over time)に作り上げることである。
この情報により病院の基礎的な蘇生機能を確立することができ
(can establish the baseline performance of a hospital)、(さら
に)問題のある領域に的を絞り、(また)データ収集と蘇生プログラム
全般に関する改善の機会を見極める(identify opportunities for
improvement in)ことができる。
NRCPRはまた、病院内での心肺停止に関する情報の最大の集積所である。
NRCPRに関する詳細については、ウェブサイトwww.nrcpr.orgを参照のこと。
参考文献(省略)
■疫学
■心停止と救命の連鎖
■傷病者の年齢と救助者の違いによるCPR推奨の違い
単純化(Simplification)
市民救助者とヘルスケア・プロバイダー(HCP)におけるCPRの違い
年齢区分(Age Delineation)
小児に対するAEDの使用と除細動
手順(Sequence)
ヘルスケア・プロバイダーが1人で、傷病者(年齢を問わない)が突然虚脱す
るところに遭遇した場合、反応のないことを確認した後、最初に911に
電話をして、AEDがあればAEDを取って来る。その後、
CPRを開始し、適応があればAEDを使用する。
突然の虚脱はショックが必要な不整脈によって生じることが多い。
呼吸の確認と救助呼吸
Lay rescuers who check breathing in the infant or child should look
for the presence or absence of breathing. Infants and children often
demonstrate breathing patterns that are not normal but are adequate. 胸骨圧迫(Chest Compressions)
手技
成人
(市民救助者 ≧8歳)
(HCP 青年期以降)
小児
(市民救助者 1-8歳)
(HCP 1歳から青年期)
乳児
(HCP 1歳未満)
気道確保
人工呼吸 最初の
1呼吸1秒で2回
1呼吸1秒で有効な2呼吸
HCP: 心臓マッサージのない救助呼吸
10〜12回/分(およそ)
12〜20回/分(およそ)
HCP: 高度な気道確保がなされたCPRにおける救助呼吸
8〜10回/分(およそ)
異物による気道閉塞
循環 HCP:脈触知(≦10秒)
上腕動脈か大腿動脈
圧迫の目印
乳頭線のすぐ下(胸骨の下半分)
圧迫の方法
強く速く押す
(完全に圧迫を解除する)手のかかと部分、他の手は上に重ねる
片手のかかと部分あるいは成人と同様
2〜3本の指
HCP(2人):胸郭包込み両母指圧迫法
圧迫の深さ
4〜5cm
大体胸郭の1/2から1/3の深さまで
圧迫の比率
圧迫と換気の比
30:2(1人でも2人でも)
HCP:15:2(2人)
30:2(1人)
除細動 AED
成人用パッドを用いる
(小児用を用いてはいけない)5サイクルのCPRの後でAEDを用いる(院外では)
もし可能ならば1〜8歳の小児には小児システムを用いる
HCP;(院外での)突然の虚脱あるいは院内の心停止ではできるだけ速やかにAEDを用いる
乳児に対する推奨はない(<1歳)
新生児に対するCPR
■心肺蘇生法の重要なレッスン
■質の改善(Quality Improvement)
■医療救急チーム(Medical Emergency Teams: METs)
■まとめ(Summary)