早期支援の技術を身につける


早期支援 e-learning

早期精神病への認知行動 療法 How To Do ポール・フレンチ先生 ワークショップ 2011年11月29日(火)

 


早期支援 ワークショップ・研修会お知らせ

早期支援に関するワークショップや研修会のご案内を掲載していきます.

早期精神病への認知行動療法 How To Do ポール・フレンチ先生ワークショップ
  日時:2011年11月29日(火)9:30~12:30
  場所:慶應大学病院 新棟11階  案内ポスター
  ※ワークショップは盛況のうちに終了いたしました.ご参加いただいた皆様に御礼申し上げます.

ポール・フレンチ先生(Paul French, Dr.)は,英国マンチェスター大学にて早期精神病の認知行動療法研究員として,大規模な多施設共同研究のマネジメントを行うかたわら,ボルトン・サルフォード・トラフォードメンタルヘルストラストの早期介入サービスのマネジメント・実践も行っておられます.ポール・フレンチ先生は,1986年より精神保健看護のトレーニングを受け始めて以降,精神病症状を持つ当事者への心理社会的サポートに一貫して関心を持って,取り組んでいらっしゃいます.実践フィールドも入院サービスからコミュニティサービスまで,非常に幅広くご経験されています.看護のバックグラウンドを活かしつつ,精神病への認知行動療法の実践・研究をされてきた方です.近年は,早期精神病の研究にも精力的に取り組まれており,精神病のAt Risk Mental State研究で,2007年に博士の学位を取得されています.
 ワークショップでは,早期精神病への認知行動療法のエッセンスと具体的なスキルについてお話しいただきます.
ポール・フレンチ先生らのマンチェスター大学グループの著書である「Think You’re Crazy? Think Again」の内容や事例を踏まえて,実践的なお話をしていただく予定です.早期精神病への認知行動療法を,実際の現場にどのように組み込んでいくか,心理士以外の職種がどのように認知行動療法に取り組むのかについても話題に出来ればと考えております.
 現在早期支援の実践に取り組んでいる精神保健専門職の方や,今後早期支援の実践に取り組む予定のある精神保健専門職の方々,また学生・大学院生の方々にも広くご参加いただければ幸いです.※申し込み方法等は,ポスターをご参照ください.


早期支援 普及啓発サイトのまとめ

早期支援に関する普及啓発サイトをまとめて掲載していきます.主に海外のサイトをメインに掲載していきます.

 


早期支援専門家向け解説・マニュアル

早期支援の専門家向けに,技術をまとめた解説・マニュアルをアップロードしていきます.
※この解説・マニュアルは,厚生労働科学研究「精神病初回発症例の疫学研究および早期支援・早期治療法の開発と効果確認に関する臨床研究」の一環として作成されています.

早期支援のためのケースマネジメント
【はじめに】
早期支援サービスとは、未治療期間を可能な限り短縮し、包括的な治療・支援を継続的に提供することで、より早い回復を促すことを目的とした精神科臨床サービスである。多職種の専門スタッフがチームとなってユーザーや家族をサポートするが、その中でも中心的な役割を担うのがケースマネジャー(看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士)である。
【早期支援サービスにおけるケースマネジメント】
オーストラリアで早期支援サービスを開始したORYGEN Youth Healthは、早期支援におけるケースマネジメントのポイント等をCognitive-Behavioural Case Management In Early Psychosis: A Handbook(CBCMハンドブック)にまとめ 、ケースマネジャーの養成研修で活用している。
この中ハンドブックの中でケースマネジャーは、
・患者の精神状態やリスクに関するモニタリングを継続的に行う
・患者や家族または関係者に、病気の特質や治療についての適切な情報が提供されていることを確かめる
・急性期を最短にするための援助をする(最適な薬物治療を促すことも含む)
・入院に関するトラウマや不安を軽減する
・二次疾患や併存する精神障害の適切な治療を促す
・症状が心理社会的環境に及ぼす影響を軽減する (例:人間関係、住居、教育、就業、経済的保障)
・リカバリー、社会への再統合、ノーマルな発達基軸へ戻ることを促す
となっている。これらのために必要となる様々な支援(認知行動療法的アプローチ、心理教育、家族支援、就労・就学支援など)をケースマネジャーが積極的に行っていく。そのため、早期支援サービスが全国的に普及している英国では、行動療法的家族療法(Behavioral Family Therapy)、早期警告サイン(Early Warning Sings)、陰性症状が強いケースへの支援(Motivational Difficulties)は、職種に関係なく全てのコメディカルスタッフが必須で受講する研修プログラムとなっている。
 このようにケースマネジャーは、社会資源を組み合わせてケアプランを作る間接的支援だけでなく、リカバリーに必要な直接的支援も積極的に提供する.必要時にはアウトリーチの手法を活用することもある.

文責 石倉習子(東京都立松沢病院)

早期支援のための認知行動療法
【はじめに】
初回エピソード精神病を経験した若者に対する包括的な心理社会的支援が世界的に注目されており,その効果研究が活発に行われている(Marshall et al. 2006).その中でも認知行動療法は,セラピスト(ケースマネジャー)と当事者との対話により,症状への対処能力を高め,自己効力感を回復し,自立した生活を支援する方法であり,非常に重要である.
【早期精神病への認知行動療法の実際】
初回エピソード精神病の早期支援では,若者とのエンゲージメントを確立し,治療関係・治療同盟を作る面接スキルが不可欠である.しかしながら,支援者の面接スキルを客観的に評価し,支援者のコミュニケーションスキル向上を図る取り組みはわが国ではこれまで非常に少ないのが現状である.エンゲージメントの確立が無いままに認知行動療法を形式的に実施しても,効果は見込めないだろうし,治療関係・治療同盟に悪影響を与える場合もあるだろう.
アメリカ精神医学会の報告によれば,心理社会的な治療技法そのものの効果は,支援効果全体の15%を説明する程度であった.一方,心理社会的な支援に共通する要素である,共感的理解・受容・暖かさといったセラピストの態度が,効果の30%を占めていた.認知行動療法をはじめとするエビデンスに基づいた心理社会的な支援技法が効果を上げるためには,エンゲージメントを確立するための,セラピストの基本的な治療的態度が必要不可欠である.
精神病への認知行動療法は,慢性統合失調症の持続的な陽性症状に対しては効果が繰り返し報告されているが,早期精神病に対しては,認知行動療法単独では効果が限定的である.だが,回復志向の包括的な早期支援サービスの中に認知行動療法が組み込まれることで,相乗効果を発揮する.メルボルン大学のORYGENでは,ケースマネジメントに認知行動療法を有機的に組み込んだ(implementing)「認知行動ケースマネジメント(Cognitive-Behavioural Case Management)」ハンドブックが作成され,実践にも応用されている.
【精神病への認知行動療法に必要な要素~Cognitive-Behavioural Case Management ハンドブックより】
<認知行動療法とは?>
・個々人が人生経験の中で作ってきた認知構造が精神疾患に悪影響を与えていると捉える
・ネガティブな自動思考を変えるために,ホームワークなどを使う.
・自動思考の中に組み込まれている仮説を検証しながら,自動思考の変容を促す.
<認知行動療法成功の秘訣>
・積極的な当事者と支援者のコラボレーション
・受容的で,好奇心・探究心が持てるような雰囲気を作る.
・精神病症状を持つ当事者を対象とする場合,個別化された支援計画を立て,変えるべき信念を同定するために,これまでの症状の詳細な経過とアセスメントが必要
<精神病への認知行動療法に含まれる要素>
・当事者が,コントロールできるという感覚を持つことができ,精神病的体験にも耐えうる対処方略を増強する
・精神病症状を維持させている信念について,現実かどうか調べることを促す
・抑うつや不安のような併存する症状を扱う

文責 山崎修道(東京大学大学院医学系研究科)

早期支援のための作業療法
【はじめに】
 入院して1~2週間経つと、薬物療法と安静療養によって精神症状は落ち着き始めます。この頃は亜急性期と言われ、話す言葉が減って、眠気が強く、身体の違和感があり、おっくうさや抑うつ気分、活動性の低下などが目立ちます。入院した時に比べたら安定しているように見えますが、過敏さが残っておりちょっとした刺激に反応しやすい時期です。回復する道筋からすれば確実に回復の段階を踏んでいる一方で、ご本人は不安、焦りや孤独感を秘めていることもあり、十分な休息を得られず無理をしたり逆に休息が大切だからと必要な活動をしないことで次の回復段階へ進むのを阻害してしまう場合があります。ですから周囲の者は対象者に良くなる方へ進んでいると伝え安心してもらいつつ、無理をさせたり焦りをあおらないよう、なおかつ必要な活動を促し、回復を見守ります。
 精神科リハビリテーションには作業療法という方法があります。作業療法はこころとからだのリハビリテーションで、特に生活機能の改善を担います。ことばや作業活動を介して、ひとが生きていく上での困っていることや辛いことを軽減する療法です。入院して2週間目ぐらい(亜急性期)になると精神科作業療法という処方が出され、この時期の作業療法を早期作業療法と呼んでいます。早期作業療法はことばと作業活動を用いて精神症状を軽減する手助けをして早期退院を促します。今回は早期精神病者の方を念頭におき、早期作業療法の紹介と留意点について述べます。
【早期精神病の作業療法】
1)実践例
京都大学附属病院で行われている早期作業療法を紹介します。60床の病棟に入院されている方の年齢は10~70歳代と幅広く、約4割が統合失調症、ついで感情障害、摂食障害、人格障害、非定型精神病と続き、処方疾患は年々多様化しています。作業療法の1日平均参加人数は約20~30名で、処方在籍数は約40名(入院の6割)です。病棟の平均在院日数は約90日、作業療法平均利用日数は約50日ですが、作業療法を受けた方は作業療法開始後1ヶ月以内に3~5割が、2ヶ月以内に6~8割が退院し、早期作業療法を経験した方は作業療法を始めてから平均約40日で退院します。
早期作業療法としては、感覚運動プログラムとパラレル活動が主軸になります。感覚運動プログラムでは、現実感の乏しい、もしくは物を操作し何かをつくるより感覚運動レベルでかかわることが適切な者が主な対象となり、適度な精神運動機能の発散、身体イメージの是正を目的に行われます。グループセッション形態で行われます。参加しやすく、途中で休憩しやすいようにとの配慮から病棟ホールで実施しています。パラレルは、“場を共有しながら、人と同じことをしなくてもよく、集団としての課題や制約を受けず、自分の状態や目的に応じた利用ができ、いつだれが訪れても断続的な参加であっても、分け隔てなく受け入れられる場”と定義され、早期作業療法を実施するのにもっとも適している治療構造であると言われています。当院過去8年間の早期作業療法の統計的資料詳細はWeb上に公開されています。
こちらをご参照ください。
2)目的
病的状態からの早期離脱、慢性化や遷延による二次的障害の防止、現実への移行の援助、心身の基本的機能の回復
3)期待される効果
作業療法士は、安全と安心が保障された環境を整え、対象者の状態に合わせた作業活動を提供します。作業活動をすることで、脳内のコントロールと亜急性期に必要な活動を促し、対象者の回復段階が円滑に進むようにします。
4)早期作業療法で用いる作業活動の特徴
新しい知識や技術、作業遂行時に判断を要しないこと、活動の進行度や結果までの手順が明確で構成的であること、適度な繰り返しとリズムをもつこと。
5)早期作業療法で用いる作業活動の使い方
不用意に入り込まない心理的距離を維持すること、外的および内的刺激からの保護と鎮静をはかること、自己の内外の刺激の明確化を促すこと。
6)作業療法が早期精神病に貢献できる要素
早期作業療法で適度な繰り返しとリズムという刺激を入力し、不要な外的刺激を遮断しつつも自己刺激を軽減させることが可能になると考えられています。例えば、刺し子で下絵の線上を縫うという作業活動を挙げると、まず針を刺す場所を確認し目指した場所に針を入れて出します。次に布が引っ張られない程度に糸を引きます。そして糸を引っ張りすぎて布がシワになっていないか、糸がたるんでいないか目と手で確認し、問題がなければ次はどこに針を指すのかを探索し、目指した一点に針を刺します。針を刺す場所の確認、糸を程良くひっぱる感覚、布がシワになっていないかの触覚などの「単純で適度な刺激の入力」があり、糸の引っ張り具合の過不足を正し、シワをなおし、次に針を刺す場所を判断して、目指す場所に針を入れるという「適応的な刺激の出力」を繰り返すのです。適度で単純で適応的な刺激の入出力を集中して行っている間、対象者は健康的な時間を過ごすことが可能になり、病的状態からの早期離脱が促進されます。
加えて対象者は早期作業療法がおこなわれる場に参加することで日中過ごす場所と休む場所を区別することができます。回復段階を進めるために必要なこころとからだの機能を活かす場が得られるのです。刺激に過敏に反応にし、対人緊張が強い場合でも安心して過ごすことができるように工夫されたパラレルという治療構造であれば、対象者は自分の状態に合わせた作業活動を自分のペースで進められます。つまり、早期作業療法のパラレルという治療構造は、回復に必要な活動を対象者の方々それぞれにカスタマイズすることが可能なのです。集団の中にいながらも不用意に入り込まれない心理的距離が保障されており、入院したことで発揮する機会を一時的に失った生活機能がさびるのを防ぎ、こころとからだの基本的機能を回復することができます。以上のことから、早期作業療法は精神病症状を早期に軽減させ、対象者の早期退院を促進すると考えられます。

文責:山田純栄,中村泰久,朝倉起巳