研究・実践・人材育成

研究

1) ユース・コホート研究の立ち上げ

「コホート」という言葉は,聞き慣れない言葉かもしれません.「コホート(cohort)」とは,○○隊,○○団,○○グループという意味です.「コホート研究」とは,ある特定の地域の住民や,大きな集団を長期間追跡する調査方法のことです.コホート研究では,大きな集団を長期間追跡して調査するので,遺伝や環境・人間関係などたくさんの要因が複雑に絡み合って起こる精神疾患の原因解明にとても役に立ちます.

これまで日本では,ユース世代の精神保健問題に対するコホート研究が十分行われていませんでした.ユース世代の精神保健問題とその対処法を見つけ出すために,ユースコホート研究を行っていきます.

ユースメンタルヘルス講座 ユースコホート研究

2) 早期診断の確立

精神疾患は,「見えにくい」疾患であると言われています.精神疾患が「見えにくい」原因の1つに,誰が見ても間違いなく診断できるための情報が得られにくいことが挙げられます.しかも,精神疾患が重くなる前に早めに診断する方法は,非常に難しいのが現状です.

東京大学 医学部附属病院では,精神疾患を客観的に診断できるようにするための技術を開発し,診断技術を応用した「こころの検査入院」を行っています.「こころの検査入院」では,従来の精神科医の問診による診断に加えて,心理検査や生理的指標(バイオマーカー)を用いた検査を行って,より客観的に診断ができるようにする試みを行っています.精神疾患を早い段階で診断して,早い段階で治療・支援できるようにするために,現在研究を行っています.

ユースメンタルヘルス講座 早期診断の確立ユースメンタルヘルス講座 早期診断の確立

3) 早期支援における効果研究

精神疾患の早期支援の効果については,世界的にも「効果があるのではないか?」というデータが出てきています.しかしながら,確実に「効果がある」かどうかを示すためには,さらに研究が必要です.東京大学では,精神疾患のうち,統合失調症の患者さんや,発病早期の患者さんに対して、効果があると言われている治療法をいち早く取り入れ,日本でも効果があるかどうかを検証していきます.

J-CAP (Japanese Comprehensive Approach to Psychosis)

欧米では,精神疾患の発症早期に心理士やソーシャルワーカーによるケースマネジメント(心理社会的支援)を行うことで,患者さんの希望に沿った支援が可能であり,再発率・再入院率の減少,生活の質の向上につながることが分かっています.日本でも,東京大学医学部附属病院を含む4つの施設において,この効果を立証するための試験を行いました.

実践

1) 地域・学校へ向けた啓発活動

精神疾患にかかった当事者の方を早い段階で支援するためには,地域や学校・企業へ向けた啓発活動が不可欠です.

インターネットを通じたコンテンツ発信

思春期は精神疾患の好発年齢であるにもかかわらず,学校教育の中で精神疾患を教える場がなく,治療が遅れ,さらに治療後の再発にも影響を与えています.思春期の若者がアクセスしやすいインターネットやブログ等で,わかりやすく偏見を持ちにくい情報を積極的に発信していきます.また若者だけでなく,家族や教師も勉強できるコンテンツを作成・紹介していきます. また,ユースメンタルヘルス専門家向けの技術を解説したマニュアルについても,インターネットを通じて配信していきます.

企業や就労支援機関へ向けた啓発・研修活動

精神疾患を持つ当事者の方の中には,適切なサポートを受けつつ企業で働く方が増えています.精神疾患を持つ当事者の方の就労支援を行ってきた支援機関,当事者の方を雇用している企業と連携し,精神疾患の知識や支援技法の研修活動を行っていきます.また,支援機関や企業と合同で研究会を行い,就労支援のネットワークを構築・拡大していきます.

2) ニーズとステージに即したユース期支援

ユースメンタルヘルス講座 ニーズとステージに即したユース期支援

ユース世代のメンタルヘルスに関するニーズは,就学・進学・就職・自立生活など非常に多岐に渡ります.また,メンタルヘルスの問題の程度(ステージ)によっても大きく変わってきます.ユースメンタルヘルス講座では,ユース世代のメンタルヘルス増進のために,個々人のニーズとステージに即した支援法や,ユース世代の支援を専門的に行える人材を育成していきます.

東北関東大震災被災地における支援活動

東京大学医学部附属病院災害医療支援の一環として,東北関東大震災被災地(宮城県東松島市)における精神保健医療活動の支援を行っています.震災被災地での支援でも,ニーズとステージに即した地域ベースの支援活動が不可欠になります.東京大学・精神神経科・こころの発達医学分野とも連携しながら,活動を展開しています.

3)ユース相談支援センターの設立

ユースメンタルヘルス講座 ユース相談支援センターの設立

大学病院の精神科外来は、若者にとって最もアクセスしにくい場所の一つです.若者がアクセスしやすいセンターを地域に設立し,大学病院診療と学校・地域社会とのハブ施設の創設して,若者が気軽にアクセスして相談出来,かつ必要なときに専門的なサービスを受けられるユース相談支援センターの設立を目指します.

人材育成

1)ユース期早期支援マネージャー育成

ユース世代のニーズは多岐に渡るため,ニーズを満たすためには,医師や看護師だけでなく,心理士・精神保健福祉士・作業療法士・保健師・教師・養護教諭・産業カウンセラー・地域のボランティアなど,さまざまな専門家・スタッフの協力が不可欠になります.異なる専門性を持つ専門家がチームとして働く(多職種協働)ためには,チームのスタッフが力を発揮し,チームとしても機能するように上手くマネジメントする必要があります.多職種協働チームのマネジメントを専門的に行える,ユースメンタルヘルスマネージャーを育てていきます.

2)認知行動療法研修

メンタルヘルスの問題に対処していくためには,薬を使った治療法と同じくらい心理的なサポート(心理療法)が重要になります.心理的なサポートの方法にはさまざまなものがありますが,最近では,認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)が非常に注目されています.認知行動療法は,科学的なデータ(エビデンス)によって効果が示されている心理療法で,国際的にも有力な心理療法の方法として認められています.これまでは,うつ病,不安障害,統合失調症など,さまざまな精神疾患に対して効果が認められており,ユース期の早期支援に特化した認知行動療法も行われ始めています.しかしながら,ユース期の早期支援に特化した認知行動療法を行うことが出来る人材は非常に少ないのが現状です.ユースメンタルヘルス講座では,講演会やワークショップを通じて,ユース期の早期支援に特化した認知行動療法を行うことが出来る人材を育てていきます.

3)地域アウトリーチケースマネジメント研修

ユースメンタルヘルス講座 地域アウトリーチケースマネジメント研修

若者を対象としたメンタルヘルスサービスを提供する際には,専門機関でのサービスだけではなく,専門家が若者が生活する地域に出向いてサービスを届けていく必要があります.また,若者のニーズは非常に多岐に渡るため,さまざまな専門家の力を借りつつ,個々人のニーズやステージに沿うように,サービスの利用を調整していく必要が出てきます. 実際の支援を通じた教育(On-the-Job Training:OJT)によって,ユース世代のニーズに沿った支援を,地域の中でアウトリーチしながら提供することが出来る人材を育てていきます.

ロードマップ~日本の早期支援の拠点に向けて~

ユースメンタルヘルス講座では,日本の早期支援の実践を担う人材育成の拠点を作り,国際的な早期支援・研究拠点との連携を進めていきます.具体的には,イギリス・オーストラリア・アメリカの研究者,実践家から早期支援の最先端の知見・技術を学び,日本への普及を目指します.

実践・人材育成・研究を以下のロードマップに沿って進めていきます.

ユースメンタルヘルス講座 ロードマップ

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