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2025年度東京都立青山高等学校実習_faq

2025年度東京都立青山高等学校実習 FAQ

形質転換実験について

幾つか結果と考察をまとめます。
#1でコロニーが生えてしまった原因について、私の方でも後日余ったプレートで形質転換をしてみたところサテライトコロニーが多くいたので、恐らく抗生物質の効きが悪くなっていた可能性があります。バリっとした結果でなく申し訳ございません。

GFPの発現については大体の班で見られている一方、CFPはちょっと蛍光が地味なことから、UVライトでは観察が難しかったかもしれません。
地味な理由として、CFP(今回はtagCFPを使用)の励起波長が458 nm、蛍光波長が480 nmであり、一般的なブラックライトの波長の中心が365 nm辺りですので、どうしてもブラックライトと被る波長があり観察しにくいというのがあると考えられます(cf. https://www.md.tsukuba.ac.jp/basic-med/pharmacology/miwa/FPtable.html)。一方、GFPやCFPではブラックライトの波長とかなり離れていますので、観察がし易かったのでは、と思われます。

アンケートにつきまして

ご協力有難うございました。大まかな所でお返事させて頂きます。

  • サンガー法の実験をしたい

確かに教科書的にはサンガー法が出てきますが、研究現場では自前でサンガー法を行うことは先ずありません。
シーケンサーと呼ばれる機器が、サンガー法をベースとして自動的にDNA配列をall-in-oneで読んでくれてしまうためです。

サンガー法の原理の理解は大学入試レベルではなく、生命系の大学院入試には出題されることがあるので有用かもしれません。
当初はサンガーシーケンスといえば、RI(ラジオアイソトープ)で標識したDNAを大きなゲル板で電気泳動するのが一般的でした。
しかし、2000年頃からキャピラリー電気泳動といって、サンガー法により剥がされたDNA1塩基ずつを細いキャピラリー内で電気泳動し、観察窓に到達した各塩基をそれぞれ検出する、という方法が主流になりました(現在でもサンガーシーケンスはキャピラリー電気泳動によって行われています:cf. https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/ce_basic_dna_gsd_ts_3-2/)。

キャピラリー電気泳動を用いたサンガーシーケンスでは、RIの替わりに「蛍光色素」で以て標識を行っています。
したがって、現在ではサンガーシーケンスでは蛍光標識されたDNA鎖が必要になります。
先ずA, T, C, Gそれぞれ蛍光標識したヌクレオチドを用意します。
次に、一般的に「シーケンスPCR」と呼ばれる「片側プライマーのみのPCR」を行います。それによって、片側プライマーの相補鎖を鋳型として蛍光標識されたDNAが次々に重合していき、結果として「蛍光標識されたDNA鎖」が出来ます。
この蛍光標識されたDNA鎖をサンガー法に供する(上述のシーケンサーという機器が自動的にサンガー法⇒電気泳動⇒検出までやってくれる)ことによって、DNA鎖が「読める」ということになります。

といった感じで、サンガー法はこの様に自動化されてしまっており、実習として行うには現実的ではないかなと思います。
ただ、自動化されているといっても例えば「DNAシーケンスの波形がおかしい」など、実験上のトラブルシューティングはしなくてはならないですから、そういう意味では原理を一通り知っていることは、将来的に生命系の実験・研究を専門とするのであれば必要ではないか、とは思います。
ただ大学受験では、サンガー法が出るとしてもリード文付きと思いますので、資料集などを見て納得、くらいで良いのではないかと個人的には思います。

  • PCRをしたい

実は去年度の青山高校での実習はPCRを行っていました
確かにPCRを実際に経験するというのは、百聞は一見に如かずと申します様に教育的にも良いとは思うのですが、しかし実際の実験所作としては鋳型DNAを反応液に加えるだけ、ということになってしまいます。
確かに自分の持ってきたサンプルで、実際にPCRで以てどんな生物種(群)が検出されるか?というのは面白い所でもあるのですが、皆さんが受験前ということもあり、今回は等電点電気泳動実験からpKa, pIといった事項を体験して貰う方が実戦的かと思い、試行させて頂いた次第です。

恐らく、今後大学に進めば生物系であれば必ず1回はPCR実習があると思いますが、恐らく等電点電気泳動は中々ないと思います。
同時に教員目線ですが、「生化学」で一番苦慮するのは生体高分子のpKaやpIといった箇所です。

等電点電気泳動の医療応用としては「アルカリフォスファターゼ(ALP)のアイソザイムに対する検査法」があります。
「同じ機能を有するがアミノ酸配列が進化的にアミノ酸配列が異なる酵素群」のことをアイソザイムといいます。
ALPは、ALP1:高分子型、ALP2:肝性、ALP3:骨性、ALP4:胎盤性、ALP5:小腸性、ALP6:免疫グロブリン結合と6種のアイソザイムがあることが知られており、「アミノ酸配列が異なれば等電点も異なる」ということを利用してALPの分離をすることで、各々の存在比を実験的に割り出すことが可能です。
それぞれのALPは疾病を示唆する指標になり得て、肝ガンや肝硬変、骨粗しょう症などを知る手掛かりとなります(cf. https://data.medience.co.jp/guide/guide-01040002.html)。

一般に測定や検査の原理は理解が難しいので、中々キチンと説明できる人が居ないと思います。
他方、インベンション・イノベーションには原理の理解が不可欠です。
大学受験にパスすることも勿論大切ですが、将来的に今回の体験が皆さんの中でインベンション・イノベーションの一助になればと願っています。

  • クローニングをしたい

確かに制限酵素・リガーゼで切ったり貼ったりを考えるのは一番勉強になると思いますし、毎年ご要望を頂きます。
分子生物学実験的に「PCR⇒制限酵素処理⇒電気泳動・目的断片切り出し⇒プラスミドへのライゲーション⇒形質転換⇒プラスミド抽出」という流れはルーティンではあるのですが、日数としては3~4日程度、各2~3時間ほど取ってしまうので、残念ながら、高校での実習としての実施が難しいなという風に考えます。
かといって、皆さんも夏休みや冬休みも講習などでギチギチでしょうし、どの様に「高校のカリキュラム内で」実施できるか?というのは課題とも感じます。
一方、有志で体験できる様にするというのは教育的な試みとしても非常に良いと思いますので、私もそういった場を形成できる様に活動できればと考えさせられました。

2025年度東京都立青山高等学校実習_faq.txt · 最終更新: 2025/12/03 03:11 by oshikane