Gene Review著者: Anne C Goodeve, PhD
日本語訳者:江田肖(瀬戸病院遺伝診療科),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
Gene Review 最終更新日: 2014.7.24. 日本語訳最終更新日: 2016.11.16.
フォンウィルブランド病(VWD)は血漿フォンウィルブランド因子(VWF)の異常や欠損が原因とする先天性出血障害である。明らかな症状は止血困難だけであるため、年齢が長ずるにつれて出血歴がより明らかとなる。
1型VWD(全体の約70%)は、一般的に軽度の皮膚粘膜出血症状を示す。
2型VWD(全体の約25%)は下記のサブタイプがある。
3型VWD(全体の5%以下)は重度の皮膚粘膜出血及び筋骨格出血の症状を示す。
診断・検査VWDの診断は、一般的にVWDに特異的な止血因子検査及び/または唯一の原因遺伝子であるフォンウィルブランド因子(VWF)の分子遺伝学的検査が必要となる。ほとんどの場合、診断には家族歴の存在が必要である。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
出血性疾患に対する包括的治療はVWD患者に有効である。重度な出血症状に対しては、VWF及び第Ⅷ因子を含む血漿由来の不活性凝固因子濃縮物の静脈内注入によって予防やコントロールができる。VWDのタイプによるが、軽度な出血症状には、通常バソプレッシンアナログであるデスモプレッシンの静脈内注射もしくは皮下注射が有効である。フィブリン溶解阻害剤や月経過多に対するホルモン剤などの方法も症状緩和に有用である。VWD妊婦は、出産時もしくは産後に出血性合併症を起こすリスクが高い。
一次症状の予防:
3型VWD患者には濃縮VWF/第Ⅷ因子製剤を予防的に投与する。
二次合併症の予防:デスモプレッシンを慎重に投与する。幼児は水分摂取を制限することが困難なため、特に2歳未満の幼児において注意が必要である(水中毒を惹起しやすい-訳者注)。A型及びB型肝炎のワクチンを接種する。
サーベイランス:
出血性疾患のマネジメントに経験のある医療機関で定期検診を受ける。3型VWD患者に対しては、理学療法士による関節可動性の評価を定期的に行う。
回避すべき薬剤や環境:外傷のリスク、特に頭部外傷のリスクを伴う活動は避ける。血小板機能に影響を及ぼす薬剤(アセチルサリチル酸、クロピドグレル、非ステロイド系抗炎症薬)の使用を避ける。男児の割礼は血液専門医との相談の後に行われるべきである。
リスクのある血縁者における評価:
家系内における病原性変異が同定されている場合、リスクのある血縁者に対する分子遺伝学的検査によって、早期診断及び早期治療(必要であれば)が可能となる。
妊娠中の管理:
VWF値は妊娠中に増加するため、ベースラインVWFと第Ⅷ因子値が30IU/dL以上の女性患者は分娩まで正常値になることが多い。しかし、基礎値が20IU/dL以下もしくは、ベースラインVWF:RCo/VWF:Ag比が0.6以下の患者には代替療法が必要となる。デスモプレッシンは1型VWD女性患者の分娩時出血のコントロールに有効であるが、遅れてくる産後の二次出血が問題となる。
研究中の治療:
遺伝子組み換えVWFは、現在臨床試験中であり、血漿由来VWFに代わって使用されると見込まれている。
遺伝カウンセリング
ほとんどの1型、ほとんどの2A型、全ての2B型及び全ての2M型は、常染色体優性遺伝の形式をとる。2N型、3型及びいくつかの1型と2型は、常染色体劣性遺伝の形式をとる。
家系内における病原性変異が同定されている場合、もしくは遺伝子マーカーを用いた連鎖解析が有用な場合、出生前診断(ほとんどが3型VWDに対し)は可能である。
フォンウィルブランド病は下記の疾患を含む |
---|
|
臨床診断
フォンウィルブランド病(VWD)は、血漿中フォンウィルブランド因子(VWF)の欠失もしくは機能障害を原因とする。VWFは、血小板による止血機能を仲介し、血液凝固第Ⅷ因子を安定化させることによって一次止血における中心的な役割を果たす巨大な多量体糖タンパクである。
VWDの3つの型は[Sadler et al 2006]、
下記を含む過度の皮膚粘膜出血が見られる場合、VWDが疑われる。
VWD診断の一部として症状の発生及びその重症度を点数化する標準臨床評価ツール[Tosetto et al 2006, Bowman et al 2008, Bowman et al 2009, Rodeghiero et al 2010]の有用性が認められている。これらのツールは、出血が一般集団に比べて多いかどうか、診断の正確さ、重症度の定量化および臨床的介入の必要性を決定することができる。また、出血性疾患の疑いを否定するにもこれらのツールが用いられている[Tosetto et al 2011]。
診断にはVWDに特異的な止血因子検査(検査の項を参照))及び/またはVWF遺伝子の分子遺伝学的検査が必要である。
診断にはさらに(ほとんどの場合)家族歴の存在が必要である。注意:軽度な1型VWDでは、浸透率が不完全であることや表現型の違いによって、家族歴が認められない場合もある。
検査
スクリーニング検査
止血因子検査 スクリーニング検査では正常であっても、下記の止血因子検査(Table 1)は必ず実施する[Budde et al 2006]。注意:検査値の正常範囲は検査機関ごとに決められているため、検査結果は1つの指標にすぎない。
上記3つの検査で異常が認められた場合、VWDのサブタイプを特定するために、血液凝固の専門施設は次の検査を行う。
Table1
特異的VWF検査に基づくVWDの分類
VWDの型 | VWF:Rco1 | VWF:Ag1 | Rco/Ag | 第Ⅷ因子:C IU/dL1 |
多量体 パターン2 |
その他 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 低値 | 低値 | 等値 | ~1.5×VWF:Ag | 基本的に正常 | |
2A | 低値 | 低値 | VWF:RCo<VWF:Ag | 低下もしくは正常 | 異常 ↓高分子量 |
|
2B | 低値 | 低値 | VWF:RCo<VWF:Ag | 低下もしくは正常 | 通常は異常 ↓高分子量 |
↑RIPA3 (↓血小板数) |
2M | 低値 | 低値 | VWF:RCo<<VWF:Ag | 低下もしくは正常 | 高分子量の欠損 を伴わない |
|
2N | 正常/低値 | 正常/低値 | 等量 | <40 | ほとんどは正常 | ↓VWF:第Ⅷ因子4 |
3 | 欠損 | 欠損 | NA | <10 | 欠損 |
分子遺伝学的検査
遺伝子
VWF遺伝子は病原性変異がVWDを引き起こすことが知られている唯一の遺伝子である。
注:
臨床的検査 VWFドメイン構造及び各ドメインをコードするエクソンをFigure 1に示す。
Figure 1
VFWタンパク構造[Zhou et al 2012より引用]および各型のVWDによるVWF病原性変異の分布。太線は病原性変異の頻度が最も高いエクソン、細線は比較的に頻度が低いエクソンの場所を示している。2型VWDにおいて、VWFの機能およびドメイン領域に影響を与える病原性変異は主にミスセンス変異である。
1型VWD 1型VWD患者の60~65%は病原性変異が同定されている[Cumming et al 2006, Goodeve et al 2007, James et al 2007a, Yadegari et al 2012]。
1型VWDにおける病原性変異の約50%がエクソン18から28の間に存在するので、これらのエクソンを先に解析する。しかしながら、全ての変異を確認するためには、全遺伝子配列を解析する必要がある。
2型VWD 2A型や2M型のほとんどの病原性変異および2B型のすべての病的ミスセンス変異はエクソン28に存在する。従って、この3つのサブタイプを疑う場合は、エクソン28を最初に調べるべきである。
3型VWD 3型VWDに関与する病原性変異は、VWFコード領域全体のいたるところ(例えば、エクソン2-52)に見られる。コード領域全体の遺伝子配列分析に加えた欠失/重複解析は約90%の3型VWDにおける病原性変異を同定できる。
Table 2
フォンウィルブランド病(VWD)における分子遺伝学的検査の概要
遺伝子1 | 型 | VWDに占める割合 | 検査方法 | 検出される変異 | 発端者における病原性変異の検出率 |
---|---|---|---|---|---|
VWF | 1型 | ~70% | 全コード領域および隣接するイントロンとの境界領域の遺伝子配列解析 | 配列変異3 | 60~65% |
欠失/重複解析 | 部分および全遺伝子欠失/重複 | <5% | |||
選択的エクソン配列解析 | エクソン18-28の遺伝子配列解析 3 | ~50% | |||
2型すべて | ~25%5 | 選択的エクソン配列解析 | 配列変異 3 | ~90%6 | |
2A型(AD)、2B型、2M型 | 脚注2を参照 | 選択的エクソン配列解析 | エクソン28の配列変異 3 | ~70% | |
2A型(AR) | 脚注2を参照 | エクソン11-16、22、25-27及び52の配列変異 3 | 2A型患者において、 ~30% |
||
2N型 | 脚注2を参照 | エクソン18-20の配列変異3 | ~80% | ||
3型 | <5%7 | 全コード領域およびイントロンとの隣接領域の遺伝子配列解析 | 配列解析 3 | ~90% | |
欠失/重複解析4 | 部分および全遺伝子欠失/重複 | <10% | |||
すべての型 | NA | 連鎖解析 | NA | NA |
AD=常染色体優性遺伝形式
AR=常染色体劣性遺伝形式
NA=適用なし
検査の特徴 検査感度および特異度を含めた検査の特徴に関する情報はClinical Utility Gene Card [Cumming et al 2011]を参照する。
検査手順
発端者における診断の確定/確立.2型VWDの患者において、分子遺伝学的検査よりも、特異的VWD止血因子検査から明確な診断が得られる。
VWDに対する分子遺伝学的検査は通常、下記の場合において実施される。
VWD遺伝学的検査のガイドラインは、英国血友病センター医師団体(UK haemophilia centre doctors organization)より公開されている[Keeney et al 2008]。
臨床像
VWDは出血傾向を特徴とする先天性疾患である。症状は出血が止まらないことで気付かれ、出血歴は年齢とともに明白となる。したがって出血傾向が明らかになるまで多少時間がかかることがある。
出血歴は疾患の重症度に依存する。3型VWDは早い時期に明らかになるが、一方で1型VWDは、出血の既往があったとしても、中年期まで診断されないことがある。
VWDの患者は過度の皮膚粘膜出血(あざ、鼻出血、月経過多など)を起こす。しかし、2N型や3N型において、第Ⅷ因子活性が10IU/dLよりも低い場合は、筋骨格出血が生じうる。
1型VWD は一般集団(非近親婚集団)におけるVWDの約70%を占める。1型VWDは一般的に軽度の皮膚粘膜出血症状をしめす。しかしVWF値が15IU/dLを下回ったときには重症化する。鼻血やあざは小児に共通の症状であり、月経過多は生殖年齢の女性に最もよく見られる[James & Lillicrap 2006, Kadir & Chi 2006, Tosetto et al 2006]。
2型VWDはすべてのVWDの約25%を占める。ヨーロッパ集団におけるサブタイプの相対頻度は2A>2M>2N>2Bの順である。
3型VWD は近親婚の頻度の高い地域を除き、全VWDの5%未満である。過度の皮膚粘膜出血や筋骨格出血の両方を含む重度な出血症状を示す[Metjian et al 2009]。
遺伝子型と臨床型の関連
一般的に、VWF値と出血の重症度との間には反比例の関係がある[Tosetto et al 2006]。出血スコアはいくつかのコホート研究に記録され、異なるVWDおよび特定な病原性変異に関連した出血の範囲を示す指標となる。
Table 3 VWFのタイプによる出血スコア
患者群 | 研究 | 患者数 | 出血スコア中間値 | 出血スコア範囲 |
---|---|---|---|---|
1型 | Goodeve et al [2007] | 150 | 9 | -1-24 |
2A型 | Castaman et al [2012] | 46 | 11 | 6-16 |
2B型 | Federici et al [2009] | 40 | 5 | 4-24 |
2M型 | Castaman et al [2012] | 61 | 7 | 4-28 |
3型 | Solimando et al [2012] | 9 | 15 | 6-26 |
3型 | Bowman et al [2013] | 42 | 13 | 3-30 |
出血スコアが高ければ高いほど、出血が重症である。
注:上記の研究では同様な出血評価ツールを使用されていたが、各ツールおよびそれらの使用方法におけるわずかな違いはそれぞれの出血スコアに影響を与える可能性がある。
2N型VWD ミスセンス変異によって、VWFの持つ第Ⅷ因子への結合能及び保護能が低下する。VWFと第Ⅷ因子の値は、軽症の血友病A男性患者と症候性の血友病A女性保因者と全く同じに見える。
ABO血液型 血液型によって血漿中VWF値において約25%の相違が見られる。VWFのABOグリコシル化は、クリアランスの割合に影響を与える[Jenkins & O'Donnell 2006]。非O型患者はO型患者よりVWF値が高い。AB型患者のVWF値は最も高い。共通の病原性変異p.Tyr1584Cysを持つ1型VWDにおいて[O'Brien et al 2003, Davies et al 2007]、ABO血液型は浸透率及びVWF低値に重要な因子である[Goodeve et al 2007, James et al 2007a]。
浸透率
常染色体優性1型VWD 血漿VWFが25IU/dL以下になるような病原性変異の浸透率はほぼ完全である。血漿VWFが25IU/dL以上の場合、通常浸透率は不完全である。
他の常染色体優性遺伝形式の2A型、2B型と2M型の浸透率は通常完全である。
命名
命名の変更は下記となる
頻度
VWD患者は人口の0.1%から1%を占める。1万人に1人は専門機関への紹介が必要である。
3型VWDは100万人に0.5~6人が罹患するが、近親婚の割合とともに上昇する。
本章に記述された疾患のほかに、VWF病原性変異による表現型は知られていない。
以下の2つの疾患は、表現型からVWDとの鑑別が難しい。
第Ⅷ因子活性の低下が見られる家系においては、X連鎖の遺伝形式が軽症の血友病Aとの鑑別に有用である。F8病原性変異に加え、偏ったX染色体不活化が原因であることが多いため、家族歴からの情報が不十分である場合は、たとえ孤発の症候性の女性(家族内で単一の発症)であっても、F8の遺伝子配列分析を最初に行うべきである。これらの症例ではF8染色体内逆位が考えられ、DNA配列解析もしくはF8遺伝子のエクソン1-26解析を行うべきである。女性ではヘテロ接合の部分的もしくは完全な遺伝子欠損/重複を同定するために、F8遺伝子の量的解析を用いる。2N型VWDもしくは血友病Aの疑いで検査した患者のうち50%以上で病原性変異が見つかっている。F8遺伝子に病原性変異がなかった場合、VWF遺伝子エクソンのスクリーニングを行う。
PT-VWDは過小診断される可能性が高い。また、誤診は効果のない治療につながる。VWF濃縮物は低下したVWFを補正するのに必要である。血小板減少が著しい場合は、血小板輸血が必要とある。異常なGpIbαへの結合が原因で、置換したVWFの半減期は低下する。したがってVWF濃縮物はVWDのときよりも頻回に投与する必要がある。2B型VWDと診断された患者の約15%は、分子遺伝学的検査によって、GP1BA遺伝子におけるミスセンス変異もしくはin-frame変異を同定できる[Hamilton et al 2011]。
後天性フォンウィルブランド症候群(AVWS)は軽度から中度の出血傾向を示す疾患で、様々な状況で起こるが[Federici 2006, Nichols et al 2008, Sucker et al 2009, Federici et al 2013]、VWF遺伝子変異がその原因ではない。AVWSは40歳以上で出血歴がない人によく見られる。AVWSの発症原因は様々であり、以下のようなものがある。
最初の診断確定後の評価
VWDと診断された患者の症状の程度および治療の必要性を確認するために以下の評価方法が推奨される。
症状の治療
治療ガイドラインはNichols et al [2008] (full text)とCastaman et al [2013] (full text)を参照する。
教育、治療と遺伝カウンセリングのための包括的出血性疾患プログラムに紹介することはVWD患者に有益である。2つの主な治療法として、デスモプレッシン(1-デアミノ-8-Dアルギニンバソプレッシン[DDAVP])及びVWFと第Ⅷ因子を含む凝固因子濃縮物がある。VWD患者は出血が重度な場合に迅速な治療を受ける必要がある。
デスモプレッシン
ほとんどの1型VWD患者及び一部の2型VWD患者は、デスモプレッシンの静脈内注射もしくは皮下注射に反応する[Castaman et al 2008,Federici 2008,Leissinger et al 2014]。この治療法によって、貯蔵されていたVWFの放出が促進され、VWF値が34倍に上昇する。デスモプレッシンの経鼻投与もできる。
VWDと診断された後は、VWF反応を評価するためのデスモプレッシン負荷試験を行うのが望ましい。
デスモプレッシンは、急性の出血症状もしくは手術を対応するための治療選択肢である。
デスモプレッシンは、1型VWD女性患者の出産時の出血に有効であり、さらに一部の2型VWD女性患者の妊娠時にも投与している[Castaman et al 2010b]((妊娠管理の項を参照)。
デスモプレッシン耐性患者もしくはVWF応答性が悪い患者に対しては、凝固因子濃縮物投与が必要である。
デスモプレッシンは動脈系疾患を持つ患者や70歳以上の患者では禁忌であり、これらの患者にはVWF及び第Ⅷ因子濃縮物投与が必要である。
注意:デスモプレッシンは低ナトリウム血症(発作や昏睡が生じる)を引き起こす可能性がある。低ナトリウム血症のリスクを最小限にするために、デスモプレッシン投与後24時間は水分摂取を制限する必要がある。
濃縮VWF/第Ⅷ凝固因子製剤の静脈内注入
デスモプレッシンに応答しない患者(例えばVWF欠損が十分に治療されていない患者)およびデスモプレッシンが禁忌の患者([タイプ別VWDの治療]の項を参照)に対しては、VWF及び第Ⅷ因子を含む血漿由来の不活性濃縮凝固因子製剤を静脈内注入することによって、出血症状の予防もしくはコントロールができる[Federici 2007]。この濃縮製剤は多くのドナーによる献血から作られる。潜在的病原体はウイルス不活性化処理によって除去されている。
間接治療
VWFレベルを直接上昇させる治療に加えて、VWDの患者に対して、次の間接的止血治療もしばしば有効となる。
タイプ別VWDの治療
1型VWD デスモプレッシンやVWF/第Ⅷ因子を含む濃縮凝固因子製剤のような直接VWF値を上昇させる治療は通常、大きな外傷や外科手術時の重度な出血の治療もしくは予防に対してのみ必要となる。
線維素溶解阻害剤やホルモン療法のような間接的治療はしばしば効果的である。
2A型VWD 濃縮凝固因子製剤を用いた治療は、通常外科手術中におこるような重度な出血の治療もしくは予防に対してのみ必要となる。
患者のデスモプレッシンに対する応答性は様々であるため、治療目的で投与する前に確認する必要がある。
間接的治療は有効である場合がある。
2B型VWD 濃縮凝固因子製剤は通常重度な出血の治療もしくは手術の際に必要となる。
血小板減少症を悪化させることがあるため、デスモプレッシンを用いた治療は慎重に行うべきである。但し、特定な病原性変異による軽度もしくは非定型的2B型VWDの患者において、デスモプレッシンへの暴露による血小板減少症は生じない[Federici et al 2009]。
間接的治療(例えば、線維素溶解阻害剤)は有効である場合がある。
2M型VWD 一般的に、デスモプレッシンに対する応答性は低いので、濃縮VWF/第Ⅷ因子製剤が治療の選択肢となる。
2N型VWD デスモプレッシンは軽度な出血に使用されるが、第Ⅷ因子レベルは急激に低下することがある(第Ⅷ因子がVWFに保護されていないので)ので、外科手術中は濃縮VWF/第Ⅷ因子製剤が必要となる。
3型VWD 通常濃縮VWF/第Ⅷ因子製剤を投与する必要がある[Franchini et al 2007]。3型VWDに対し、デスモプレッシンは有効ではない。間接的治療が効く場合がある。
小児科的問題
VWDの幼児や子供のケアに対して以下のような特別な注意が必要である。
一次病変の予防
3型VWD患者に対して、筋骨格出血およびそれに続発する関節損傷を予防するため濃縮VWF/第Ⅷ因子製剤の予防的投与がしばしば行われる。
二次病変の予防
デスモプレッシンは注意して使用する必要がある。2歳未満の幼児は、水分摂取制限に対する潜在的な問題を伴うので特に注意が必要である。
VWD患者にはA型およびB型肝炎の予防接種を行うべきである[Nichols et al 2008, Castaman et al 2013]。
サーベイランス
軽度なVWD患者が、出血性疾患のマネジメントに経験のある医療機関で経過観察を受けることは有益である。
3型VWD患者は、経験のある医療機関で経過観察を受けるべきである。また理学療法士による関節可動性の評価を定期的に行う必要がある。
避けるべき薬剤や環境
外傷、特に頭部外傷に高いリスクを伴う活動は避けるべきである。
出血症状を悪化させるので、血小板機能に影響を及ぼす薬剤(アセチルサリチル酸、クロピドグレル、非ステロイド系抗炎症薬)の使用は避けるべきである。
男児の割礼は小児血液専門医との相談の後に行わなければならない。
リスクのある血縁者の検査
家系内に病原性変異が同定された場合、リスクのある血縁者は速やかに遺伝学的検査をすることで、早期診断及び必要な治療を受けることができる[Keeney et al 2008]。
遺伝カウンセリングを目的として行われるリスクのある血縁者の検査に関する問題は、[遺伝カウンセリング]の項を参照。
妊娠中のマネジメント
VWF値は妊娠第三半期にピークに達し、妊娠期間中を通じて上昇する。それにもかかわらず、VWD妊婦は出血性合併症のリスクが増加するため、出血性疾患の周産期管理に経験のある医療機関でのケアが必要である[James & Jamison 2007, Varughese & Cohen 2007, James et al 2009]。
VWFおよび第Ⅷ因子の基準値が30IU/dL以上の女性は、分娩までの期間に正常値になることが多い。しかし、基準値が20IU/dL未満もしくはVWF:RCo/VWF:Ag比が0.6以下の女性において、代替療法が必要となることが多い[Castaman et al 2013]。
分娩は産科的兆候に基づいて行わるべきであるが、使用器具は最小限にすべきである[Demers et al 2005]。
遅延性、二次性の産後出血は問題となることがある。VWF値を分娩後速やかに妊娠前に戻る[Castaman et al 2013]。
研究中の治療法
現在臨床試験中の遺伝子組み換えVWFは、近いうちに利用可能となる見込みである。遺伝子組み換え第Ⅷ因子や第Ⅸ因子のように、遺伝子組み換えVWFが血漿由来VWFに代わって広く使われるようになると考えられる[Turacek et al 2010, Mannucci et al 2013]。
さまざまな疾患についての臨床研究の情報は、ClinicalTrials.govで検索できる。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
ほとんどの1型、ほとんどの2A型、2B型、2M型は常染色体優性の遺伝形式をとる。
2N型、3型、1型の一部と2A型の一部は常染色体劣性の遺伝形式をとる。 片親性ダイソミーによる3型VWDが1例報告されている。2つの病原性変異アレルは母親ダイソミーによって一緒に受け継がれた[Boisseau et al 2011]。
患者家族のリスク:常染色体優性遺伝
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の家族
患者家族のリスク:常染色体劣性遺伝
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
常染色体劣性VWDの患者の子は、必然的にVWF病原性変異のヘテロ接合型(保因者)となる。
発端者の他の家族
発端者の両親の同胞は50%の確率でVWF病原性変異の保因者となる。
保因者診断
家系内における病原性変異が同定されていれば、リスクのある血縁者の保因者診断が可能である。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断と早期治療を目的としたリスクのある血縁者に対する情報については[臨床的マネジメント]のリスクのある血縁者の内容を参照する。
明らかな新規突然変異を持つ家族が考慮すべき事項
常染色体優性遺伝形式の発端者の両親のいずれも病原性変異を持たず、さらに本症に罹患している臨床所見がない場合、発端者は新規突然変異の可能性が高い。しかしながら、親が生物学上の父もしくは母でない場合(例えば生殖補助医療が行われている場合)や未公開な養子縁組など、非医学的な可能性も検討する必要がある。
家族計画
DNAバンク
検査の方法、遺伝子や変異、疾患の理解が将来向上する可能性は十分に考えられる。従って将来のために、罹患者のDNA(通常は白血球から抽出したもの)の保存を十分に考慮すべきである。現在行われている検査の感度が100%でない場合は、特にDNAバンキングを考慮すべきである。DNAバンキングのサービスを行っている機関を参照。
出生前診断
家系内におけるVWF病原性変異が同定されていれば、リスクのある妊娠(通常は3型VWD)に対し、出生前検査もしくは着床前遺伝学的診断は選択肢となる。
治療法のある疾患において、早期診断よりむしろ妊娠中絶を目的とした出生前診断は問題である。ほとんどの施設では出生前診断の選択を両親に委ねているが、これには議論の余地がある。
(訳注:日本国内ではVWDにおける出生前診断および着床前診断は実施していない。)
http://hemophilia-japan.org/contents/knowledge/2-1-1/2-1-1-1.html
分子遺伝学
Table A
フォンウィルブランド病:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク | 特異的座位 | GMD |
---|---|---|---|---|
VWF | 12q13.31 | フォンウィルブランド因子 | von Willebrand Factor Database ISTH-SSC VWF Online Database - VWF |
VWF |
Table B
OMIMにおけるフォンウィルブランド病関連情報
193400 | フォンウィルブランド病1型、VWD1 |
277480 | フォンウィルブランド病3型、VWD3 |
613160 | フォンウィルブランド因子、VWF |
613554 | フォンウィルブランド病2型、VWD2 |
遺伝子構造 VWFは52個のエクソンを持ち、長さが178kbの遺伝子である。VWF遺伝子産物は8.8kbのmRNAと2813個のアミノ酸からなるタンパクである[Sadler 1998]。遺伝子およびタンパクに関する詳細な情報はTable A、遺伝子を参照する。
正常アレル変異 正常アレル変異は極めて一般的である。最近、エクソンおよびエクソン/イントロンの隣接領域において500以上の正常変異は報告されており、正常アミノ酸置換は80残基にあると予測されている(Table 4)。北ヨーロッパ起源でない集団を検索したところ、更に多くの正常アレル変異は同定された[Bellissimo et al 2012,Johnsen et al 2013,Zhou et al 2014]。ある研究では、VWF病原性変異のスクリーニング検査を受けた対象者において、平均17個のヘテロ接合型正常変異は同定された[Hashemi Soteh et al 2007]。VWF遺伝子における多くの正常変異に加え、遺伝子サイズの大きさおよび部分的偽遺伝子VWFP(エクソン23-34)の存在によって、全遺伝子配列解析とデータ解釈が困難となる。
1型VWDにおいて、約10%の罹患者は1つ以上の配列変異が見られた。これらの配列変異はcis型(同じアレル)とtrans型(別々のアレル)の両方が存在する[Cumming et al 2006,Goodeve et al 2007,James et al 2007a]。これによって、病原性変異と正常アレル変異の鑑別が更に困難となった。同様に、プロモーター領域における配列変異も確認されており、ある1型VWD家系において、病原性変異である13bpの欠失が同定された[Othman et al 2010]。
連鎖解析に有用な正常アレル変異はTable 4で示している。中には、プロモーター領域とイントロン40における短い縦列反復配列(rs41402545とrs36115023)[Vidal et al 2005]、および頻度の高い一塩基変異を含む。
Table 4
抜粋されたVWF正常アレル変異
DNA塩基配列の変化 | タンパク・ アミノ酸の変化 |
VWFエクソン /イントロン |
参考SNP 番号 |
制限領域/ 多型の種類 | 参考配列 |
---|---|---|---|---|---|
c.1451A>G1 | p.His484Arg | Exon 13 | rs1800378 | Rsa I | NM_000552.3 NP_000543.2 |
c.1946-19_1946-17dupCTT1 | なし | Intron 15 | rs10622288 | 3-bp挿入/欠失 | |
c.2365A>G1 | p.Thr789Ala | Exon 18 | rs1063856 | Rsa I | |
c.2555A>G | p.Gln852Arg | Exon 20 | rs216321 | Nla IV | |
c.4141A>G1 | p.Thr1381Ala | Exon 28 | rs216311 | Hph I | |
c.4414G>C | p.Asp1472His | Exon 28 | rs1800383 | RleA I | |
c.4641C>T1 | p.Thr1547Thr | Exon 28 | rs216310 | BstE II | |
c.6187C>T | p.Pro2063Ser | Exon 36 | NA | ||
c.6977-542_6977-541ins24 | なし | Intron 40 | rs36115023 | 欠失/挿入多型 | |
c.6977-715_6977-714ins16 | なし | Intron 40 | rs41402545 | 欠失/挿入多型 | |
c.8113G>A | p.Gly2705Arg | Exon 49 | rs7962217 |
上記は一般的な非同義変異のごく一部である。
病的アレル変異 VWDのほとんどは1塩基置換(Table 5, Figure 1)が原因である[James & Lillicrap 2006]。質的異常(2型VWD)はVWFタンパク機能に重要な領域におけるミスセンス変異が原因である。1型VWDに見られる部分的な量的異常のほとんどはミスセンス変異によって生じる。3型VWDに見られる重度な量的異常のほとんどは、null-allelesを引き起こすホモ接合もしくは複合型ホモ接合が原因である。しかし中には、ごく一部ミスセンス変異によるものもある。病原性変異はISTH-SSC VWF Databaseに登録されている。
Table 5
VWF病原性変異の抜粋
VWDのタイプ1 | DNA塩基の変化 | タンパク・アミノ酸の変化 | VWFエクソン | 参考配列 |
1 | c.3614G>A | p.Arg1205His | 27 | NM_000552.3 NP_000543.2 |
1 | c.4751A>G | p.Tyr1584Cys | 28 | |
2A | c.4517C>T | p.Ser1506Leu | 28 | |
2A | c.4789C>T | p.Arg1597Trp | 28 | |
2B | c.3797C>T | p.Pro1266Leu | 28 | |
2B | c.3916C>T | p.Arg1306Trp | 28 | |
2B | c.3946G>A | p.Val1316Met | 28 | |
2B | c.4022G>A | p.Arg1341Gln | 28 | |
2M | c.3835G>A | p.Val1279Ile | 28 | |
2M | c.4273A>T | p.Ile1425Phe | 28 | |
2N | c.2372C>T | p.Thr791Met | 18 | |
2N | c.2446C>T | p.Arg816Trp | 19 | |
2N | c.2561G>A | p.Arg854Gln | 20 | |
3 | c.2435delC | p.Pro812ArgfsTer31 | 18 | |
3 | c.4975C>T | p.Arg1659Ter | 28 | |
3 | c.7603C>T | p.Arg2535Ter | 45 |
変異分類に関する注意:上記に記載されている変異は作者が作成したもので、GeneReviewsはこれらの変異の分類を単独な検証を行わなかった。
命名法に関する注意:GeneReviewsはHuman Genome Variation Society (www?.hgvs.org)の標準命名規則に従う。命名に関する解釈はQuick Referenceを参照する。
正常遺伝子産物 2813個のアミノ酸からなるVWFタンパクは、シグナルペプチド(22個アミノ酸)、プロペプチド(741個アミノ酸)と成熟タンパク(2050個アミノ酸)を含む。最近、VWFタンパクのドメイン構造は修正され、Figure 1で示している[Zhou et al 2012,Valentijn & Eikenboom 2013]。タンパク合成中、ジスルフィド結合(S-S)によるtail-to-tailの二量体はCKドメインを介して形成される。その続きにhead-to-head多量体が付加される。上記のプロセスを触媒するジスルフィド異性化酵素サイトはプロペプチドに存在する。VWF合成は内皮細胞と、血小板の前駆体である巨核球、2つの部位で行われる。内皮細胞と血小板から分泌されたVWFには、長さが最大40個のサブユニット(二量体)多量体が含まれる。多量体産生時に、プロペプチドは763と764番目のアミノ酸の間にフリンによって切断される。これらのプロペプチド(VWFpp)はVWFと一緒に血漿中に分泌される。VWFppと成熟VWF(VWF:Ag)の割合を用いて、成熟VWFの相対的半減期を推定できる[Haberichter et al 2008]。この割合から、病理学的メカニズムに関する情報を得られる[Eikenboom et al 2013]。
高分子量VWFの血栓形成性を抑えるために、分泌直後、1605と1606番目のアミノ酸の間にADAMTS13(ジスインテグリンと1型トロンボスポンジンモチーフをもつメタプロテアーゼ)によって切断される。この多量体タンパク分解は、各主要多量体バンドに隣接するサテライトバンドのような特徴的な「トリプレット」パターンを生成し、多量体解析ゲルで観察できる。バンドパターンの異常は、VWDのサブタイプの決定に手掛かりとなる[Schneppenheim & Budde 2011]。
VWFは主に2つの機能がある。(1)コラーゲンを血管損傷部位の内皮下層に結合し、血小板集積と血栓形成による血管修復を開始させる。(2)第Ⅷ因子を未熟なプロテアーゼによる分解から守り、フィブリン生成が必要な部位までに運ぶ。
異常遺伝子産物 異常VWFは病原性変異のタイプによって異なる。タンパクと塩基配列の両方における分子学的変化によって、異なるVWDが生じる。
Gene Review著者: Anne C Goodeve, PhD
日本語訳者:江田肖(瀬戸病院遺伝診療科),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
Gene Review 最終更新日: 2014.7.24. 日本語訳最終更新日: 2016.11.16. (n present)