Gene Reviews著者: Lisa Sniderman King, MSc, CGC, Crisine Trahms, MS, RD, and C Ronald Scott, MD.
日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
Gene Reviews 最終更新日: 2017.5.25.日本語訳最終更新日: 2017.7.24 (minor revision: 2017.10.30)
疾患の特徴
未治療のチロシン血症Ⅰ型では、通常は乳児期早期に重度の肝障害を認めるか、乳児期後期に成長障害やくる病を合併する肝機能障害および腎尿細管機能障害を認める。未治療の小児患者では、反復性でしばしば気付かれない神経性クリーゼ(neurologic crises)が1-7日間持続する可能性がある。神経性クリーゼでは、精神状態の変化、腹痛、末梢神経障害、人工呼吸を必要とする呼吸不全をきたしうる。未治療患者は通常10歳以前に死亡するが、典型的には肝不全、神経性クリーゼ、肝細胞癌による。ニチシノンと低チロシン食の併用療法により、90%を超える生存率、正常な成長、肝機能の改善、肝硬変の予防、尿細管性アシドーシス、および二次性くる病の改善が認められる
診断・検査
チロシン血症Ⅰ型はFAH遺伝子にコードされるフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(fumarylacetoacetate hydrolase, FAH)の欠損による。典型的な生化学的所見(血中および尿中サクシニルアセトン濃度の上昇、血漿チロシン・メチオニン・フェニルアラニン濃度の上昇、尿中のチロシン代謝物およびδアミノレブリン酸化合物濃度の上昇)および/または分子遺伝学的検査でFAH遺伝子両アレル病原性変異を同定することによって診断される。
臨床的マネジメント
症候の治療:
ニチシノン(オーファディン, Orfadin®)、2-(2-ニトロ-4-トリフロロ-メチルベンゾイル)-1, 3 シクロヘキサンジオン(NTBC)はチロシン分解経路の第2段階であるパラヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(parahydroxyphenylpyruvic acid dioxygenase, p-HPPD)を阻害し、フマリルアセト酢酸の蓄積とそのサクシニルアセトンへの変換を防ぐ。ニチシノンはチロシン血症Ⅰ型の診断が確定したあと可及的速やかに開始するべきである。ニチシノンはチロシンの血中濃度を上昇させるので、角膜におけるチロシン結晶の形成を予防するため、フェニルアラニンやチロシン制限食を診断後速やかに開始するべきである。血中フェニルアラニン濃度が低くなりすぎた場合(<20μmol/L)、天然の蛋白質を食事に追加すべきである。ニチシノン登場以前のチロシン血症Ⅰ型に対する唯一の根治療法は肝移植であったが、現在では発症時に重度肝不全を認める小児例、ニチシノンに不応である小児例、もしくは肝組織に悪性化の所見を認める小児例にのみ行われるべきとされている。
一次症状の予防:
ニチシノンによる治療は診断確定後すみやかに行われるべきである。
二次合併症の予防:
腎尿細管ファンコーニ症候群に続発するカルニチン欠乏、骨粗鬆症、くる病を早期から治療する。
定期検査:
チロシン血症Ⅰ型患者において、ルーチンの定期検査に関するガイドラインが発行されている。
避けるべき薬物/環境:
不適切な蛋白摂取は避けるべきである。
リスクのある親族の検査:
チロシン血症Ⅰ型患児に続く同胞は全員、早期診断および治療を行えるように、尿中・血中サクシニルアセトンを出生後可及的速やかに測定するべきである。家系内の病原性変異が判明している場合、リスク妊娠に対して出生前の分子遺伝学的検査が考慮されることがある。
妊娠管理:
妊娠中にニチシノンを使用したデータはほとんどない。しかし、治療量のニチシノンを使用した少なくとも2人の女性から出生した児は健康であった。
遺伝カウンセリング
チロシン血症Ⅰ型は常染色体劣性遺伝性疾患である。受胎時に罹患者の同胞が罹患している確率は25%、無症候性キャリアである確率は50%、罹患もしておらずキャリアでもない確率は25%である。リスクのある家族に対する保因者診断やリスク妊娠における出生前診断は、家系での病原性変異が同定されている場合可能である。
チロシン血症Ⅰ型はフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(fumarylacetoacetate hydrolase, FAH)(EC 3.7.1.2)の欠損による。(図1および「病態生理」を参照)
図1 チロシン分解経路
示唆的な所見
以下のような新生児スクリーニング結果、臨床徴候、支持的な検査所見を認めた場合にチロシン血症Ⅰ型を疑うべきである。
新生児スクリーニング
臨床徴候(未治療患者)
支持的な検査所見
血中サクシニルアセトン濃度の上昇および尿中排泄の増加
注:(1)肝不全/重症腎疾患患児におけるサクシニルアセトンの尿中排泄の増加はチロシン血症Ⅰ型の特徴である。(2)多くの検査機関は、尿中有機酸分析で特にサクシニルアセトンの測定を依頼するように要求している。
注:(1)乳児患者の血漿チロシン濃度は、臍帯血中および新生児期は正常なこともある。(2)血漿チロシン濃度上昇は、肝の障害もしくは未成熟の非特異的な指標にもなりうる。たとえば、希釈していないヤギ乳など高蛋白乳を摂取している乳児において認められる。
注:(1)チロシン血症Ⅰ型における血清α-フェトプロテイン(AFP)およびプロトロンビン時間/部分トロンボプラスチン時間(PT/PTT)の変化は非特異的な肝疾患よりも重度で、しばしば初発所見となる。(2)トランスアミナーゼおよびビリルビンの上昇はあったとしてもほんのわずかである。(3)血清AFP濃度正常およびPT/PTT正常の場合、肝疾患の原因がチロシン血症Ⅰ型である確率は低い。
診断の確定
チロシン血症Ⅰ型の診断は、特徴的な生化学的所見(血中および尿中サクシニルアセトン濃度の上昇、血漿チロシン・メチオニン・フェニルアラニン濃度の上昇、尿中のチロシン代謝物およびδアミノレブリン酸化合物濃度の上昇)および/または分子遺伝学的検査でFAH遺伝子両アレル病原性変異を同定することによって確定する(表1を参照)。
分子遺伝学的検査
単一遺伝子検査 まずはFAH遺伝子のシークエンス解析を行う。病原性変異が1つしか同定されない、もしくは1つも同定されない場合、続いて標的遺伝子の欠失/重複解析を施行する。
表1 チロシン血症Ⅰ型で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 検査方法 | 検査方法によって同定された変異2を有する発端者の比率 |
---|---|---|
FAH | シークエンス解析3 | >95% |
標的遺伝子の欠失/重複解析4 | 不明 巨大欠失が報告されている5 |
臨床像
新生児スクリーニングで見つからなかったチロシン血症Ⅰ型患児は通常乳児期早期に重症肝疾患、もしくは乳児期後期に肝機能障害・著しい腎障害・成長障害・くる病で発症する。成長障害は慢性疾患に伴う経口摂取不良、肝機能障害、慢性腎疾患による。未発見および未治療の場合は通常10歳以前に死亡するが、典型的には肝不全、神経性クリーゼ、肝細胞癌による。
図2 1992年以前の小児チロシン血症患者の生存率
治療を受けたチロシン血症Ⅰ型患者
ニチシノンの投与を受けた小児チロシン血症Ⅰ型患者の経過は未治療患児とは異なる。ニチシノンおよび低チロシン食による治療を受けた2歳未満の患児は、低チロシン食単独の患児に比べて著明な改善がみられる。ニチシノンおよび低チロシン食により、90%を超える生存率、正常な成長、肝機能の改善、肝硬変の予防、尿細管性アシドーシスの是正、二次性くる病の改善を認める。
病態生理
フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH)はチロシン代謝経路の最終酵素である(図1)。FAH(EC 3.7.1.2)の欠損はチロシン血症Ⅰ型を起こす。FAHが欠損すると、直接前駆体であるフマリルアセト酢酸(FAA)は、
遺伝子型と臨床型の関連
一般的に、臨床症状と遺伝子型の間に相関は認められない。同じ遺伝子型の非血縁者と同様に、同一家系内でも急性型、慢性型ともにみられる。
この臨床的な多様性を説明できる1つの機序に遺伝子変異の復帰(gene reversion)がある。慢性型のチロシン血症Ⅰ型患者の肝臓より摘出された肝結節において、免疫学的にFAH蛋白陽性の細胞やFAHの酵素活性が認められている。これらの一見"正常な"細胞は遺伝子変異の復帰(gene reversion)、すなわち体細胞分裂時に生殖細胞の病原性変異が正常な遺伝子配列に自然に修復される(すなわちreversionもしくは"back-mutation[復帰突然変異]")ことによって生じる。
病原性変異の効果を抑制し、遺伝子発現は正常もしくは正常に近い自然発生的な体細胞変異も報告されている。これは変異した配列の真の復帰であり、母体由来細胞のコロニー形成もしくは融合によるものではない。フマリルアセト酢酸(FAA)の蓄積によるアポトーシスのリスクがもはやないため、 "正常な"(すなわち復帰した)細胞は選択的成長優位性(selective growth advantage)を示す。生化学所見や臨床所見が軽微な未治療の慢性チロシン血症Ⅰ型患者において、肝結節の多くは遺伝子の変異復帰による"正常な"細胞コロニーから構成されている。しかし、復帰のない変異細胞(non-revertant mutant cells)はフマリルアセト酢酸を持続的に生成し、肝細胞癌のリスクを高める。
生後4ヶ月のベルギー人の重症肝疾患患者で、稀で非典型的なチロシン血症Ⅰ型の病型が報告されている。α-フェトプロテインは著明に上昇し、PT・PTTは延長していたが、尿中サクシニルアセトンは検出されなかった。フマリルアセト酢酸(FAH)蛋白や活性は減少・低下しているが、欠損はしていなかった。c.103G>A(p.Ala35Thr)という独特な病原性変異のホモ接合体が同定された。
同じように、血中/尿中サクシニルアセトンは検出されないが慢性肝疾患および肝細胞癌を発症した3人の同胞例において、FAH酵素活性欠損が認められた。家族は中東出身で、それぞれの患児はFAH遺伝子にc.424A>Gのホモ接合体を有していた。
命名
以前用いられていた病名にチロシノーシス(tyrosinosis)などがある。
発生率
新生児スクリーニングが行われていない地域では、チロシン血症Ⅰ型は約100,000-120,000出生に1人に認められている。臨床症状に一貫性はなく混同されやすいため、生存している患者の50%未満しか診断されていないと推測されている。
米国では、キャリア頻度は1:150~1:100と推定されている。
創始者効果によって病原性変異が高頻度であるため、チロシン血症Ⅰ型の頻度が予想より高い地域が世界に2つある。
このGeneReviewで論じられている以外に、FAH遺伝子変異と関連する臨床型は知られていない。
小児で以下の所見のいずれかを認める場合、チロシン血症Ⅰ型を評価すべきである(表2)。
表2 初発所見によるチロシン血症Ⅰ型乳児の鑑別疾患
初発所見 | 鑑別疾患 |
---|---|
高チロシン血症 | ・未成熟な肝臓 ・高蛋白食1, 2 ・チロシン血症Ⅱ型(OMIM276600) ・チロシン血症Ⅲ型(OMIM276710) ・その他の肝疾患 |
高メチオニン血症 | ・ホモシスチン尿症 ・メチオニン代謝異常 ・その他の肝疾患 |
肝疾患 | ・ガラクトース血症 ・遺伝性果糖不耐症 ・フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ欠損症(OMIM229700) ・ニーマン・ピック病C型 ・ウィルソン病 ・新生児ヘモクロマトーシス(OMIM231100) ・血球貪食性リンパ組織球症 ・ミトコンドリア病 ・先天性グリコシル化異常症 ・トランスアルドラーゼ欠損症(OMIM606003) ・アセトアミノフェン中毒 ・細菌感染症(敗血症、サルモネラ、結核) ・ウイルス感染症(CMV、A型/B型肝炎、ヘルペスなど) ・キノコ中毒3 ・薬草3 ・特異な薬物反応、毒素、血管性/虚血性、炎症性3 |
腎疾患 | ・ロウ症候群 ・シスチン症 ・尿細管性アシドーシス ・ファンコーニ症候群 |
くる病 | ・低ホスファターゼ症 ・ビタミンD欠乏(栄養性/遺伝性) ・低リン血症性くる病 ・ビタミンD依存性くる病 ・ファンコーニ症候群 |
神経性クリーゼ | ・脳出血/浮腫 ・細菌性/ウイルス性髄膜炎 ・高張性脱水 ・急性間欠性ポルフィリン症 |
チロシン血症Ⅱ型はチロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)(EC2.6.1.5)の欠損によって起こる。チロシン血症Ⅱ型の診断は以下による。
手掌や足底に痛みはあるが掻痒感はない角化性局面を認める。足趾底面に過角化を伴った著明な黄色の肥厚を認めることがある。眼病変には難治性の偽樹枝状角膜炎がある。発達遅滞はよく認められるが、発達遅滞や神経症状の報告が診断バイアスによるのかは不明である。
所見はチロシンやフェニルアラニンの制限食で改善する。
チロシン血症Ⅲ型はチロシン血症のなかでもっとも稀な疾患であり、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(EC.1.13.11.7)の欠損によって起こる。血漿チロシン濃度は350~650μmol/Lを示す。4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸の排泄が増加している。正確な排泄量は摂取した蛋白量によって変わる。
見つかっている患者は少なく、臨床型は明らかではない。最初の患者は知的障害もしくは運動失調のため治療対象となる。その他の者はルーチンのスクリーニング検査で見つかっている。チロシン血症Ⅱ型患者のように、Ⅲ型患者は肝病変を有さないが皮膚/眼病変は認められる。チロシン血症Ⅲ型が本当に認知の遅れと相関するのかどうか、その相関が診断バイアスによるのかどうかは依然として不明である。
低フェニルアラニン・チロシン食により血漿チロシン濃度を低下させることができる。
初期診断後の評価
新生児スクリーニングに基づいてチロシン血症Ⅰ型と診断された患者の疾患の広がりやニーズを把握するために、以下の評価が推奨される(表3を参照)。
臨床症状に基づいて(表4[pdf]を参照)診断された小児では、上記に加えて以下の評価を行うべきである。
すべての患者は臨床遺伝専門医に紹介する。
病変に対する治療
治療ガイドラインが発行されている。米国版はChinsky JMらの文献を、欧州版はde Laetらの文献などに基づいている。
肝不全急性期の治療 換気補助、適切な輸液管理、出血傾向に対する血液製剤による補正を必要とすることがある。
ニチシノン(オーファディン®) 2-(2-ニトロ-4-トリフルオロ-メチルベンゾイル)1,3-シクロヘキサンジオン(NTBC)はチロシン分解経路の第2段階であるパラヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(parahydroxyphenylpyruvic acid dioxygenase, p-HPPD)を阻害し、フマリルアセト酢酸の蓄積とそのサクシニルアセトンへの変換を防ぐ(図1)。
低チロシン食 ニチシノンはチロシンの血中濃度を上昇させるため、角膜にチロシン結晶が形成されないよう低チロシン食とする必要がある。
肝移植 チロシン血症Ⅰ型の治療でニチシノンが登場する前は、肝移植が唯一確立された治療法だった。
一次症状の予防
ニチシノン(オーファディン®)による治療は診断が確定したら可及的速やかに開始するべきである。
二次合併症の予防
腎尿細管ファンコーニ症候群に続発するカルニチン欠乏は骨格筋の筋力低下を起こすため、カルニチン欠乏を認めた場合に治療できるように血清カルニチン濃度を測定すべきである。
尿細管障害による骨粗鬆症・くる病に対する治療は、アシドーシスの補正、カルシウム・リンのバランスの維持、25-ヒドロキシ-ビタミンDの投与を行う。
定期検査
チロシン血症Ⅰ型患者の典型的な管理では、以下の指標を頻回に評価する(表3)。
表3 ガイドラインで提唱されている新生児スクリーニングで診断されたチロシン血症Ⅰ型患者のモニタリング
評価 | 治療開始時(ベースライン ) | はじめの6ヶ月 | 治療開始6ヶ月以降:6-12ヶ月ごと | 治療開始2年以降:6-12ヶ月ごと | 臨床的に適応があるとき | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1ヶ月ごと | 3ヶ月ごと | ||||||
チロシン血症Ⅰ型のマーカー | 血漿メチオニン・フェニルアラニン・チロシン濃度 | X | X | X | X | またはX | |
血中/尿中サクシニルアセトン | X | X(尿) | X | またはX | |||
血中ニチシノン濃度 | X | X | X | またはX | |||
血算 | ヘモグロビン、ヘマトクリット、白血球数、血小板数 | X | X | X | X | またはX | |
肝臓の評価 | 血清AFP濃度 | X | X | X | X | X | |
PT/PTT | X | X(正常になるまで) | |||||
ビリルビン | X | ||||||
ALT/AST/GGT | X | X(正常になるまで) | X | ||||
アルカリホスファターゼ | X | X(正常になるまで) | X | X | |||
CTもしくはMRI1 | X | ||||||
腎検査 | BUN, クレアチニン | X | |||||
尿:PO4, Ca, 蛋白/クレアチニン比 | X | ||||||
骨格系の評価 | 手関節X線(くる病) | X |
AFP=α-フェトプロテイン
ALT/AST=アラニンアミノ基転移酵素/アスパラギン酸アミノ基転移酵素
BUN=血中尿素窒素
GGT=γ-グルタミルトランスフェラーゼ
PT/PTT=プロトロンビン時間/部分トロンボプラスチン時間
臨床所見に基づき診断された小児のモニタリングについては表4を参照(pdf)。
他に推奨されている管理方法については、de Laetらの報告(2013)を参照。
避けるべき薬物/環境
不適切な蛋白摂取を避ける。
リスクのある親族の検査
患児の同胞は一見無症状であっても、治療や予防を迅速に開始できるよう、なるべくすみやかに評価を行うことがのぞましい。
評価方法には、
遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。
妊娠管理
ヒトで妊娠中にニチシノンを使用したデータはほとんどない。妊婦に有害事象は起こらないだろうと推測されているが、チロシン代謝が変化するため胎児の発達に対するリスクになる可能性がある。
治療量のニチシノンを使用した少なくとも2人の女性から出生した児は健康であった。
研究中の治療法
さまざまな疾患に関する臨床試験に関する情報はClinicalTrials.govを参照のこと。注:この疾患に対する臨床試験は行われていない可能性がある。
その他
ニチシノンが登場する前は、移植以外の有用な治療法はフェニルアラニン・チロシン制限食のみであった。効果はわずかなもので、神経性クリーゼの反復や肝疾患の進行が起こる。平均生存期間は10年未満である。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
チロシン血症Ⅰ型は常染色体劣性遺伝性疾患である。
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の家族
保因者診断
リスクのある親族に対する保因者診断を行う前に、家系内の病原性変異を同定する必要がある。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断・治療を目的としたリスクのある親族の検査についての情報は、「臨床的マネジメント」「リスクのある親族の検査」を参照のこと。
家族計画
DNAバンクは(主に白血球から調整した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、アレル変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、患者のDNA保存を考慮すべきである。
出生前診断および着床前診断
分子遺伝学的検査
家系内で罹患者のFAH病原性変異が明らかとなっている場合、リスク妊娠に対して出生前診断や着床前診断を行うことができる。
生化学検査
25%のリスクがある妊娠で、出生前診断は、通常はおよそ妊娠15-18週に行う羊水穿刺によって得られた羊水中にサクシニルアセトンを検出することで行うことができる。羊水中にサクシニルアセトンを検出すれば診断できるが、偽陰性も報告されている。そのため、この方法は安定同位体検出によって常に低濃度のサクシニルアセトンを検出することができる検査機関でのみ用いられるべきである。生化学検査にはこれらの問題があるため、出生前診断の方法として分子遺伝学的検査のほうがのぞましい。