GeneReview最終更新日: 2018.11.21 日本語訳最終更新日: 2020.10.18.
網膜芽細胞腫(Rb)は通常5歳までの小児に発症する、発達中の網膜におこる悪性腫瘍である。RbはRB1遺伝子の両コピーに発癌の素因となる変異が生じた細胞から発症する。Rbは単発性または多発性の場合がある。Rb患児の約60%は片側性で診断時の平均月齢は24ヶ月、約40%は両側性で診断時の平均月齢は15ヶ月である。遺伝性RbとはRb易罹患性が常染色体優性で遺伝するものである。遺伝性Rbの患者においては、眼以外の腫瘍を発症するリスクも増加する。
診断・検査Rbの臨床診断は、間接的検眼鏡を用いた眼底検査によってなされる。画像診断は臨床診断を支持し、病期を評価する目的で行われる。遺伝性Rbは、Rbまたは網膜細胞腫(レチノーマ)の発端者で家系内にRbの既往歴がある場合や、RB1遺伝子におけるヘテロ接合性に生殖細胞系列の病的バリアントが検出された場合に診断される。
Rbおよび/または遺伝性Rbのリスクがある個人に対して、RB1の生殖細胞系列病的バリアントを有する個人の遺伝的リスクを示すために、”H”を含んだ、以下の分類が推奨されている。
臨床的マネジメント
症状の治療:
Rbおよび眼以外の腫瘍の早期診断と治療により罹病率を減少させ、寿命を延ばすことができる;
眼科学、小児腫瘍学、病理学、放射線腫瘍学を含む集学的専門家チームによる治療が最善である。治療法は、腫瘍のステージ、病巣の数(単一または片側性、多発性または両側性か)、眼球中の腫瘍の位置やサイズ、硝子体播種の有無、視力を残存できる可能性の有無、眼以外への侵襲の程度および種類、および利用可能な資源によって異なる。治療の選択肢には、眼球摘出術、凍結療法、レーザー、全身性または局所性の眼化学療法(レーザーまたは凍結療法との併用またはそれに続く動脈内化学療法を含む)、強膜上のプラークを利用した放射線療法、そして最後の手段としての外部からの放射線療法がある。
二次発症の予防:
晩発性の二次がんを発症するリスクを最小限にとどめるために、H1患者に対する放射線照射(X線、CTスキャン、外部照射を含めて)は可能であれば避けるべきである。
サーベイランス:
RB1遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントが同定されている患児(H1)には、Rbを可能な限り早期かつ小さいうちに見つけるために、生後6ヶ月までは3~4週間ごとに麻酔下で眼の検査を行い、その後3歳まではそれよりはやや間隔を置いて検査を行う。協力的な患児の臨床検査は7歳までは3~6ヶ月毎に、その後は毎年、最終的には隔年での検査が生涯続けられる。片側性RbでRB1遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントが同定されていない患児(H0*)は低レベルのモザイクである可能性があり、超音波検査を含めた定期的な眼の検査を受けるべきである。網膜細胞腫患者は網膜の検査を1~2年ごとに行う。H1のRb患者は肉腫や他の腫瘍のリスクが高いので、眼以外におこる二次がんの発見のためには、担当医や親は骨の痛みや腫れがあるという訴えがあったら、すみやかに対処すべきである。しかし、効果的なスクリーニング・プロトコールはまだ確立されていない。
避けるべき環境:
DNA損傷因子(放射線、たばこ、紫外線)への暴露を制限することによって、遺伝性Rbのサバイバーsurvivor(H1)における高い発がんリスクが減少する可能性がある。
リスクのある血縁者の検査:
家系内でリスクはあるが症状のない子を早期に同定するための分子遺伝学的検査は、病的バリアントを受け継いでいない家族(H0)へのコストのかかるスクリーニングの必要性を減少させる。
遺伝カウンセリング
遺伝性Rbは常染色体優性遺伝形式で受け継がれる。遺伝性Rb(H1)の患者は、ヘテロ接合性のde novo変異または親から受け継いだ生殖細胞系列のRB1病的バリアントを持つ。H1患者の子は50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ。リスクのある妊娠における出生前検査は家系におけるRB1遺伝子の病的バリアントが同定されている場合、可能である。
Rbに罹患した子とその家族に対する診断と治療のガイドラインが出版されている[Canadian Retinoblastoma Society 2009]。
疑い所見
以下のいずれかに該当する小児では、Rbが疑われるべきである。
以下のいずれかに該当する患者では、遺伝性のRbが疑われるべきである。
臨床診断
発端者におけるRbの診断は、眼科医か検眼医(optometrist)による完全散瞳後の検査によってなされる。診断の確認、病気の進行度の確認は麻酔下の検査で行われる。眼の画像診断は診断の確定に役立つ。病理診断は必要ない。注:生検によって腫瘍が眼以外に拡大することがあり、患者の生命を脅かすことがある。
遺伝性Rbは、Rbや網膜細胞腫の発端者において、Rbの家族歴がある場合に診断される。しかしながら、Rb患者の大部分は家族歴がない。そのため、Rbが遺伝性かどうかを調べるために、分子遺伝学的検査により生殖細胞系列にヘテロ接合性RB1遺伝子の病的バリアントを同定する必要がある(表1参照)。発端者におけるRB1病的バリアントの同定により、リスクのある血縁者の早期診断及びスクリーニングが可能となる。
生殖細胞系列由来のRB1病的バリアントの遺伝的リスクを明らかにするために、以下の分類が推奨されている[Mallipatna et al 2017, Soliman et al 2017a]。
遺伝性Rbの診断のための分子遺伝学的検査には、単一遺伝子の検査と染色体マイクロアレイ(CMA)検査とがある。
単一遺伝子の検査
RB1遺伝子のシークエンス解析と遺伝子特異的な欠失/重複解析を、末梢血DNAを用いて行う。注:一部の検査施設では、(高頻度に)繰り返し検出される病的バリアントの標的解析を提供していることがある(表1参照)。
CMAは、オリゴヌクレオチドまたはSNPアレイを用いて、シークエンス解析では検出できないゲノムワイドな大規模欠失/重複(RB1を含む)を検出する。CMAは、発達遅延および/または他の先天性異常を伴うRbを有する個体で考慮されることがある[Mitter et al 2011, Castéra et al 2013]。
表1 遺伝性のRbにおいて用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 検査方法 | 試料 | 生殖細胞系列に病的バリアント2を持つ発端者における変異検出率 |
---|---|---|---|
RB1 | シークエンス解析3 | 生殖細胞系列 腫瘍 |
80%-84% |
当該遺伝子の欠失/重複解析4 | 生殖細胞系列 腫瘍 |
16%-20% | |
CMA5 | 生殖細胞系列 | 6%-8%6 | |
病的バリアントのターゲット解析 | 生殖細胞系列 腫瘍 |
25%7 | |
メチル化解析 | 腫瘍 | 注8参照 | |
アレル欠失解析 | 腫瘍 | 注9参照 | |
MYCN | 当該遺伝子の欠失/重複解析4 | 腫瘍 | 注10参照 |
表2 家族歴と腫瘍の性質に基づくRb患者におけるRB1遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントの有無の可能性
家族歴 | Rbの表現形 | RB1の生殖細胞系列病的バリアントの可能性 | ||
---|---|---|---|---|
片側性 | 両側性 | |||
多発性 | 単発性 | |||
あり1 | + | 100% | ||
+ | 100% | |||
+ | 100% | |||
なし2 | + | ほぼ100%3 | ||
+ | 14〜95% | |||
+ | 〜14% |
注:(1)腫瘍細胞において検出された病的バリアントが非腫瘍細胞(生来のDNA)では検出されなかった場合、患者がRB1遺伝子に生殖細胞系列病的バリアントを持つ可能性は低い。(2)シークエンス解析のような従来の分子解析では、20%程度の低い割合のモザイクであっても検出できるため、RB1遺伝子の病的バリアントが白血球細胞に検出されないということは、その患者が生殖細胞系列に病的バリアントを持つ可能性が低いということはできるが、その可能性を完全に否定はできない。
臨床像
網膜芽細胞腫(Rb)
最も頻度の高い初発症状は白色瞳孔反射(leukocoria)である。斜視は次に頻度の高い初発症状であり、白色瞳孔に随伴したり白色瞳孔より早期に見られたりする[Abramson et al 2003]。まれな初発症状として、緑内障、眼窩蜂巣炎、ぶどう膜炎、前房出血、硝子体出血がある。患児のほとんどは5歳までに診断される。非典型的な症状は年長の患児で見られることが多い。
Rbの発端者は通常、以下のいずれかの臨床像を呈する。
Rbは以下に分類される。
網膜細胞腫と関連眼病変
自発的な成長が停止した良性の網膜腫瘍(網膜細胞腫と呼ばれる)が、網膜瘢痕内に現れることがある [Dimaras et al 2008]。血管閉塞に伴うRbの自然退縮により石灰化した眼球瘻が生じることがある [Valverde et al 2002]。Rbの家族歴がある網膜細胞腫患者、および片眼に網膜細胞腫があり、もう一方の眼に網膜細胞腫またはRbのいずれかがある患者における、RB1病的バリアントのスペクトルは、両側性Rb患者の病的バリアントのスペクトルと違いがないようである[Abouzeid et al 2009]。
松果体芽腫
松果体芽腫は、松果体にある“網膜様組織”に発生する。松果体芽腫または原始神経外胚葉性腫瘍とRbの同時発生は、三側性Rbと呼ばれる。眼に発生するRBが通常治癒可能であるのに対して、松果体芽腫はまれであり、通常致死的である[de Jong et al 2014]。
その他の腫瘍
他の特定の眼以外の腫瘍(総称して第二の原発腫瘍と呼ぶ)の発生リスクも上昇する。ほとんどの場合、骨肉腫、軟部組織肉腫(ほとんどは平滑筋肉腫、横紋筋肉腫)、または黒色腫である[Kleinerman et al 2007, Marees et al 2008, Kleinerman et al 2012]。これらの腫瘍は思春期か成人期に発症することが多い。第二の原発腫瘍の発生頻度は外部からの放射線照射治療を受けた患児では50%以上に増加する[Wong et al 1997]。高容量の放射線照射治療を受けていない遺伝性Rb患者も、晩発性のがんを発症する生涯リスクが高い[Fletcher et al 2004, Kleinerman et al 2012, Dommering et al 2012b, Temming et al 2015]。
遺伝型と臨床型の関連
大多数の遺伝性Rb家系では、生殖細胞系列の病的バリアントを持つ全ての血縁者において両眼に複数の腫瘍が発生する。しかし、発端者(家系内における最初のRb罹患者)が片側にしかRbを発生しないことは珍しくはない。こうした家系のほとんどでは、フレームシフトやナンセンス変異によって生じたRB1の“null”アレルを受け継いでいる。ごく少数の例外を除いて、RB1遺伝子の“null”アレルは浸透率99%以上の完全浸透の形で受け継がれる[Taylor et al 2007, Dommering et al 2014, Frenkel et al 2016]。
表現型が軽くなることによって浸透率が一見低く見える家系(片側性Rbに多い)や不完全浸透(25%以下)の家系もあるが、全体の10%以下である。このように浸透率の低い家系は、変異RB1アレルが、明らかなインフレーム変異、ミスセンス変異、特定のスプライスサイトの変異、エクソン1の特定のindel変異、プロモーター領域の病的バリアントと関連しているといわれている。
第3のカテゴリーの家系では、どちらの親由来の病的バリアントかで、家系内で異なる浸透率を示す(片親起源効果;一方の親家系でのみ連鎖が見られる遺伝) [Klutz et al 2002, Eloy et al 2016, Imperatore et al 2018]。
通常の染色体検査で検出される13q14の欠失は、同領域にあるRB1以外の遺伝子群の欠失も伴うが、これを有する患児は発達遅滞[Castéra et al 2013]と軽度~中等度の顔面奇形徴候を呈する。13q14のかなりの大きさの欠失では表現型は軽くなる。こうした欠失を有する患児の多くは片側性のRbを呈し、腫瘍を発症しない場合もある[Mitter et al 2011]。RB1遺伝子のセントロメア側に隣接したMED4遺伝子の欠失によって、RB1遺伝子とMED4遺伝子の両方にまたがる大きな欠失をもつ患者における症状の軽症化が説明される[Dehainault et al 2014]。
浸透率
「遺伝型と臨床型の関連」の項目を参照
病名
Rbの古くからの別名はGlioma retinaeである.
頻度
Rbの頻度は1人/15,000〜20,000出生児と推定されている[Moll et al 1997, Seregard et al 2004]。
本GeneReviewで述べられている以外の表現型で、RB1の病的バリアントとの関連が知られているものはない。
遺伝性Rbの他の所見が認められずに単一の腫瘍として発生した膀胱尿路粘膜がん、子宮内膜がん、肉腫、肺扁平上皮がん、および肺腺がん(portal.gdc.cancer.gov)を含む散発性腫瘍は、生殖細胞系列には存在しないRB1の体細胞由来の病的バリアントを保有していることが多い。このような状況においては、上記の腫瘍罹患は遺伝性素因によるものではない。
小児期に見られる以下のような眼疾患は臨床的にRbと類似している。
網膜芽細胞腫(Rb)治療のガイドラインが策定されている(Canadian Retinoblastoma Society 2009)。
最初の確定診断後の評価
Rbと診断された患者の病気の程度を確定するために以下の評価が推奨されている。
病変の治療
治療の目標は第一に生命、そして視力を守ることである。最適な治療は多岐にわたっているため、Rbの治療経験が豊富な眼科、小児腫瘍、病理、放射線など各分野の専門家がチームで診療する。
治療法の選択には、腫瘍の程度(眼内、眼外)、腫瘍の病期に加えて、腫瘍の数(単発性か、片側性で多発性か、両側性か)、眼内腫瘍の位置や大きさ、硝子体播種の有無、視力を残す可能性、眼外への拡散の程度および種類、および利用可能な資源など、あらゆる情報を加味して行う。
治療の選択肢には、眼球摘出術;冷凍凝固療法;レーザー、レーザーか凍結療法との併用、またはその後に行われる、動脈内化学療法を含めた眼球限定もしくは全身にわたる化学療法;放射線療法(アイソトープ強膜上癒着照射);そして最後の手段としての外部からの放射線照射療法がある。
二次発症の予防
晩発性の二次がん発症の生涯リスクを最小限にとどめるために、放射線照射(X線、CTスキャン、外部照射を含めて)は可能な限り避けるべきである。これらの検査は絶対的に必要な場合にのみ行われるべきである。
サーベイランス
Rbを発症した患者またはリスクのある患者へのサーベイランスに関する情報は網膜芽細胞腫診療ガイドラインに記載されている。発症のリスクがある小児の臨床的スクリーニングに関するガイドラインが公表されている[Skalet et al 2018]。
最初の診断後のRbの検出
Rbの治療に成功してからも、定期検診を続け新しい眼内腫瘍の早期発見につとめる必要がある[Skalet et al 2018]。
Rb患者における眼外の二次がんの検出
肉腫、メラノーマ、その他の特異的ながんを含む二次がんのリスクが高いため、兆候や症状があれば速やかに対応することが推奨される。定期的な全身のMRI検査が、生殖細胞系列にヘテロ接合性のRB1遺伝子病的バリアントを持つ患者における、二次がんのスクリーニングに有効であるかについての検証が進行中である。
避けるべき薬/環境
Fletcherら[2004]によると、DNA損傷因子(放射線、たばこ、紫外線)への暴露を最小限にとどめることによって、遺伝性Rbサバイバーsurvivorの発がんリスクを減らすことが出来る。こうした人においては、化学療法への暴露を制限することで発がんリスクを減少させる可能性がある。
リスクのある血縁者への対応
米国臨床腫瘍学会 (American Society of Clinical Oncologists: ASCO)は遺伝性Rbをグループ1(遺伝学的検査がリスクのある血縁者の標準的マネジメントの一部である遺伝性疾患)と判定している[American Society of Clinical Oncology 2003]。明らかな症状のないリスクのある血縁者は、なるべく早期に、経験豊富な眼科医による眼の検査を受け、Rbの早期発見につなげることが適切である。
以下の項目を実施する:
リスクのある血縁者の検査の遺伝カウンセリングのための情報は、「遺伝カウンセリング」の項目を参照。
研究中の治療法
広範囲にわたる疾患や病態の臨床試験に関する情報は、ClinicalTrials.gov(米国)(https://clinicaltrials.gov)とEU Clinical Trials Register(ヨーロッパ)(https://www.clinicaltrialsregister.eu/ctr-search/search)より入手できる。
注:この疾患に関する臨床試験はあまり多くない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
遺伝性Rbは常染色体優性遺伝である。
血縁者のリスク
患児の親
注:病的バリアントが親ではじめて発生している場合、その親は体細胞性モザイクを持つ可能性があり、親はまれに片側性のRbに罹患するか、もしくはRb非罹患である。
患児の同胞
同胞のリスクは親の表現型と遺伝的状態による。
発端者の子
遺伝性Rb患者の子は50%の確率でRB1遺伝子の病的バリアントを受け継ぐ。
表3 RB1の生殖細胞系列病的バリアントが同定されていない場合における、同胞や子のRb発生の経験的リスク
患者の腫瘍発生状況 | 家族歴 | 患者の同胞 | 患者の子 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
両側性 | 片側性 | ||||||
多発性 | 単発性 | ||||||
× | なし | 2%1 | 50% | ||||
× | なし | 1-2%1 | 6-50% | ||||
× | なし | 〜1% | 6% | ||||
× | あり | Variable2 | Variable2 | ||||
× | あり | 50% | 50% |
発端者の他の家族
他の家系員のリスクは発端者の親の遺伝的状況により異なる。すなわち、親がRB1遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを持つならば、その家系員はリスクがある可能性がある。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期の診断と治療を目的としたリスクのある血縁者への対応は、「マネジメント」と「リスクのある血縁者への対応」の項目を参照。
発症前検査
未発症のリスクのある血縁者の発症前検査を行うには、家系内のRB1遺伝子の病的バリアントが明らかになっている必要がある。
見かけ上、de novo変異によるように見える病的バリアントを持つ家系における注意点
遺伝性Rbの発端者の両親がどちらも病的バリアントを持たず、臨床的に罹患していない場合、RB1遺伝子の病的バリアントはde novo変異によるものである[Skalet et al 2018]。しかし、医学的ではない理由によることも考えられる。例えば、父親か母親が違う(生殖補助医療による場合など)、非公開の養子縁組の場合などである。
遺伝的発がんリスクとカウンセリング
分子遺伝学的検査の受検に関わらず、発がんリスクの評価を通じてリスクのある者を明らかにすることの、医学的、心理社会的、倫理的な影響についての包括的な記述については、cancer genetics risk assessment and counseling-for health professionals (part of PDQ®, National Cancer Institute)を参照。
家族計画
DNAバンキング
DNAバンキングは、将来使用する可能性を見越してDNAを保存しておくことである。検査方法や遺伝子、バリアント、疾患に対する理解が将来的に改善されることが予想されるので、罹患者のDNAバンキングを考慮すべきである。可能であれば、白血球から抽出したDNAと腫瘍から抽出したDNAを保存しておく(これは米国の状況であり、日本では基本的にこうしたサービスを行っていない。訳者注)。
出生前検査と着床前検査
Rbの家族歴が認められた場合、ハイリスク妊娠を最適に管理するために様々な選択肢がある[Canadian Retinoblastoma Society 2009, Soliman et al 2016]。
検査の目的が早期診断(そして早期治療)ではなく妊娠中絶である場合には、医療専門家と家族の間に出生前検査の使用についての認識の違いがあるかもしれない。ほとんどのセンターで出生前検査をするかどうかは両親が選択するべきものと考えているが、このような事例では議論することは有用であろう。
GeneReviewsスタッフは患者とその家族のために、以下の疾病ごとあるいは包括的なサポート組織を選定した。GeneReviewsは他の組織が提供する情報に責任を負うものではない。選択基準については、原文のこの部分にリンクがある。
The Royal London Hospital
Whitechapel Road
London E1 1BB
United Kingdom
Phone: +44 020 7377 5578
Fax: +44 020 7377 0740
Email: info@chect.org.uk
www.chect.org.uk
Retinoblastoma
Retinoblastoma
PO Box 317
Watertown MA 02471
Phone: 800-562-6265
Fax: 617-972-7444
Email: napvi@perkins.pvt.k12.ma.us
Retinoblastoma
6868 Distribution Drive
Beltsville MD 20705
Phone: 855-858-2226 (toll-free); 301-962-3520
Fax: 301-962-3521
Email: staff@acco.org
www.acco.org
BG 9609 MSC 9760
9609 Medical Center Drive
Bethesda MD 20892-9760
Phone: 800-4-CANCER
Email: NCIinfo@nih.gov
Children with Cancer: A Guide for Parents
200 East Wells Street
(at Jernigan Place)
Baltimore MD 21230
Phone: 410-659-9314
Fax: 410-685-5653
Email: pmaurer@nfb.org
www.nfb.org
Phone: 301-435-3032
Email: eyeGENEinfo@nei.nih.gov
www.nei.nih.gov/eyegene
本項目とOMIM tablesの情報は、GeneReviewの他の情報とは一部異なる可能性がある。最新の情報はOMIM tablesを参照。-ED.
表A.
Retinoblastoma: Genes and Databases
Gene | Chromosome Locus | Protein | Locus-Specific Databases | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
RB1 | 13q14.2 | Retinoblastoma-associated protein | RB1 database rb1-lsdb |
RB1 | RB1 |
データは下記の基準を参照して編集した。遺伝子表記はHGNC、染色体上の位置はOMIM、タンパク質名はUniProtより。データベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明は原文のこの部分をクリック。
Table B.
OMIM Entries for Retinoblastoma (View All in OMIM)
180200 | RETINOBLASTOMA; RB1 |
614041 | RB TRANSCRIPTIONAL COREPRESSOR 1; RB1 |
分子病理学
ごくまれな例外を除いて、腫瘍の発生は、正常なRB1アレルを持たない細胞ではじまる[Rushlow et al 2013](図1参照)。
遺伝子の構造
27個のエクソンが転写され、4.7kbのmRNAにスプライスされる。他の機能しうるスプライス構造はない。よく使用される参照配列はNM_000321.2(LRG_517, t1)である。遺伝子とタンパク質の詳細な情報については、表AのGeneを参照。
多型(Benign variants)
2.7kbのORF中に多型が多くみられる部分はないが、イントロンの変異、2つの高度に多型を持つマイクロサテライト(Rb1.20, Rbi2)、1つのミニサテライト(RBD)を有する。
病的バリアント(Pathogenic variants)
Rb患者の白血球DNAまたは腫瘍DNAから2,500以上の一塩基変異が検出されており、そのうち1,700について記録されている(表A, Locus Specific参照)。RB1の病的バリアントの大部分は、通常、一塩基置換、フレームシフト、またはスプライス部位のバリアントによるout-of-frameとなるエキソンスキッピングにより、早期の終止コドンをもたらす。病的バリアントはRB1遺伝子のエクソン1から25とプロモーター領域に散在している。1家系においてエクソン27に病的と思われるバリアントが検出されている[Mitter et al 2009]。繰り返し検出される病的バリアントは、CGAコドンの一部のメチル化されたCpGジヌクレオチド、またはイントロン12のスプライスドナー部位にも認められた。他の重要なタイプの病的バリアントは複雑な再構成および欠失である[Albrecht et al 2005, Rushlow et al 2009, Castéra et al 2013]。
通常の遺伝子産物
RB1遺伝子は細胞周期調節(G1期からS期への移行)機能をもち、普遍的に発現する核タンパク質をコードする。RBタンパク質はS期に入る前にCyclin-dependent kinase (cdk) 系因子によってリン酸化される。リン酸化されると、ポケット部分への結合活性が失われ、結果として細胞タンパク質の放出が起こる。レビューはDick & Rubin [2013], Dimaras et al [2015]and Dyson [2016]を参照。
異常な遺伝子産物
RB1遺伝子の病的バリアントは、細胞周期調節機能を失ったタンパク質の発現を引き起こす。低浸透率Rbに関連する病的バリアントによりコードされるたんぱく質では、部分的な活性の保持がみられている[Bremner et al 1997, Otterson et al 1997, Sánchez-Sánchez et al 2007]。
図1
遺伝性と孤発性の網膜芽細胞腫(Rb)の分子遺伝学的機構の模式図。RbはRB1遺伝子の両アレルが変異したところから始まる。
孤発性のRbでは、二つの変異(最初と2番目)は体細胞で起こる(体細胞変異)。
注)体質性細胞(例;末梢血)DNAでは変異は検出されない(2つとも正常アレルRB RB)
遺伝性のRbでは、2番目の変異のみが体細胞性変異である。それぞれの2番目の変異がそれぞれの病巣での腫瘍を誘発する(多発性Rb腫瘍)。1番目の変異は生殖細胞を通じて受け継がれる(生殖細胞系列でのde novo変異であっても親から受け継いだ変異であっても)
注)罹患者の体質性細胞では、変異はヘテロ接合性である(Rb rb)
時に、罹患児の最初の病的バリアントは受精後の胚の成長期に起こることもある。
注)罹患児は最初の病的バリアントを体細胞モザイクで持つ。最初の病的バリアントが発生した細胞が属する幹細胞系列の細胞から腫瘍が発生することがある。
GeneReview 著者:Dietmar R Lohmann, MD; Brenda L Gallie, MD.
日本語訳者: 福島久代(札幌医科大学大学院修士課程遺伝カウンセリングコース),櫻井晃洋(札幌医科大学 医学部遺伝医学)
GeneReview 最終更新日: 2013.3.28. 日本語訳最終更新日: 2015.11.17