Gene Reviews著者: Morten Dunø, PhD, Eskild Colding-Jørgensen, MD
日本語訳者: 仲座 真希、(監訳)高橋 正紀(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 機能診断科学講座)
Gene Reviews 最終更新日: 2015.8.6 日本語訳最終更新日: 2019. 1.18.
疾患の特徴
先天性ミオトニー(Myotonia congenital)は、小児期より出現する筋のこわばり(ミオトニー)を特徴とする。この筋のこわばりは外眼筋、顔面筋や舌筋を含む全ての横紋筋群で見られる。筋緊張は筋を繰り返し収縮させることにより軽減する(warm-up現象)。筋はたいていの場合、肥大している。常染色体劣性遺伝形式をとる先天性ミオトニー症例の方が常染色体優性遺伝形式をとる症例よりもしばしばミオトニーがより重度となる。常染色体劣性遺伝形式をとる患者においては、進行性の軽い遠位筋優位の筋力低下、休息後の運動により誘発される一過性の脱力発作を呈することもある。発症年齢は様々である。常染色体優性遺伝形式の先天性ミオトニーにおいては、たいてい乳児から幼児期初期であるのに対し、常染色体劣性遺伝形式の先天性ミオトニーでは、平均発症年齢が僅かに高い。双方において発症年齢が30~40歳代と遅い症例もある。
診断・検査
先天性ミオトニーの臨床診断は、幼児期初期から始まった筋強直のエピソードの存在、短い運動によるミオトニーの軽減、筋に叩打を加えることによるミオトニーの誘発、針筋電図でのミオトニー放電所見、血清クレアチンキナーゼ濃度の上昇、常染色体優性または劣性遺伝形式と一致する家族歴をもとにして行う。塩化物イオンチャネルをコードしているCLCN1が、先天性ミオトニーに関連していることが解明されている唯一の遺伝子である。シークエンス解析により、双方の遺伝形式の先天性ミオトニーを起こす症例の95%以上で、CLCN1遺伝子の変異が同定される。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
ミオトニーは、メキシレチン(最も効果のある薬剤)、カルバマゼピン、フェニトインらの薬剤に感応しうる。それ以外にキニーネ、ダントロレン、アセタゾラミドによる有用な効果についても、報告されている。
避けるべき医薬品/環境:
脱分極性の筋弛緩剤(スキサメトニウムなど)、アドレナリン、β‐アドレナリン作動薬、プロプラノロール、コルヒチンはミオトニーを悪化させうる。
リスクのある血縁者の検査:
先天性ミオトニーの患者においては麻酔に関連した有害事象が発生する危険性が高まっている可能性があることから、リスクのある血縁者については、小児期のうちにその遺伝状況について評価しておくことは適切である。
遺伝カウンセリング
先天性ミオトニーは、常染色体劣性遺伝形式(Becker 病) あるいは常染色体優性遺伝形式(Thomsen 病)の遺伝形式を取る。同じ病原変異が、いずれの遺伝形式を有する家系内でも生じることがある。常染色体優性遺伝形式において、新生突然変異が原因で発症する症例の全体に対する割合は不明である。常染色体優性遺伝形式の先天性ミオトニーの子では、各々、50%の確率でその変異が遺伝する。常染色体劣性遺伝形式の先天性ミオトニーにおいて、原則的には、ヘテロ接合の場合はたいてい無症状である、同胞では、発症する確率が25%、無症候性のキャリアとなる確率が50%、発症せず、キャリアでも無い確率が25%である。遺伝学的検査にてCLCN1原因遺伝子に2つの変異を同定することが出来なければ、孤発例(ある家系の中で発症者が1人のみ)の遺伝形式を同定することは困難であり、このような症例は、常染色体劣性遺伝形式をとるものと推定される。リスクを有する血縁者に対する検査やリスクの高い妊娠の出生前診断は家系での疾患原因遺伝子変異が判明している場合には可能である。
疑わしい所見
下記のような臨床所見や検査所見を有する患者は先天性ミオトニーを疑うべきである。
臨床所見
検査所見
確定診断
CLCN1遺伝子のヘテロ接合性変異または二対立遺伝性変異が同定された発端者は先天性ミオトニーと確定診断される(表1)。
注意:常染色体優性、常染色体劣性先天性ミオトニーの両方が、同じ遺伝子変異により発症しうる為、常染色体優性と常染色体劣性の鑑別はおもに家族歴(すなわち、発症している親の存在など)を基にしておこなう。
分子検査方法は単一遺伝子検査、マルチ遺伝子パネルの使用、網羅的ゲノム検査などを含む。
表1. 先天性ミオトニー症例に使用される分子遺伝学的解析のまとめ
遺伝子1 | 解析方法 | 同解析方法で検出可能な 病原性変異をもつ発端者の割合 |
---|---|---|
CLCN1 | シークエンス解析2 | 95% |
ターゲット遺伝子欠失/重複解析3 | 1%-5% 4 |
臨床所見
発症年齢 発症年齢は様々である。常染色体優性遺伝形式の先天性ミオトニーにおいては、発症がたいてい乳児期から幼児期初期であるのに対し、常染色体劣性遺伝形式をとる先天性ミオトニーでは、平均発症年齢が前者と比べて僅かに高い。発症年齢が30~40歳代と遅い症例も双方においてみられる。
筋のこわばり 先天性ミオトニー(Myotonia congenita)は、小児期より出現する筋のこわばりを特徴とする。このミオトニーは外眼筋、顔面筋や舌筋を含む全ての横紋筋群に出現する。
筋力低下 常染色体劣性遺伝形式をとる患者においては、進行性の軽い遠位筋優位の筋力低下、休息後の運動により誘発される一過性の脱力発作を呈しうる。近位筋の筋力低下と遠位筋のミオパチーを呈した症例も報告もある。
筋外症状 若年性白内障、心伝導異常、内分泌機能障害などの筋症状以外の症状の合併はみられない。
遺伝型と表現型の関係
CLCN1遺伝子変異の表現型の症状は、同一家系内においてでさえも様々である。ホモ接合型がヘテロ接合型よりも症状の重い、半優性遺伝症例の報告もある。
例えば p.Gly230Glu、p.Thr310Metの遺伝子変異を有する患者は、妊娠により変動する表現型を呈したと報告されている。また、p.Phe428Ser (NM 000083.2:c.1283T>C)の遺伝子変異を有する患者は先天性パラミオトニーを思わせるような表現型を呈したと報告されている。
近位筋の筋力低下(p.Thr550Met遺伝子変異に起因した症例)、もしくは遠位筋のミオパチー(p.Pro932Leu遺伝子変異に起因した症例)も報告されている。しかしながら、これらの臨床的な特徴とCLCN1遺伝子変異と相関について疑問も呈されている。
浸透率
常染色体優性遺伝形式の遺伝子変異の大多数は、低い浸透性を呈しうる。同一遺伝子異常をヘテロ接合体として有する家族内でも、ミオトニーを認めないものから重度のミオトニーまで様々な表現型を呈することがある。
命名
常染色体優性遺伝形式をとる先天性ミオトニーは、トムゼン病として知られている。
常染色体劣性遺伝形式をとる先天性ミオトニーはベッカー病として知られている。
Myotonia leviorは基本的には先天性ミオトニーと同義である。
有病率
Beckerらが1977年頃に検討したところ先天性ミオトニーは常染色体優性遺伝形式では1:23,000、常染色体劣性遺伝形式では1:50,000の頻度にて生じていると推測されていた。後の調査の結果、常染色体劣性遺伝形式をとる先天性ミオトニーのほうが常染色体優性遺伝形式よりもよりありふれていることが示唆された。イギリスにおける症状を有する300症例以上のコホート研究では、常染色体優性遺伝形式をとる先天性ミオトニーは遺伝子変異陽性症例の僅か37%に認められたにすぎなかった。
スカンジナビア半島の北部においては、先天性ミオトニーの有病率は、おおよそ1:10,000と推測されてきたが、世界的には有病率は1:100,000と考えられている。
CLCN1遺伝子のp.Phe428Ser変異をもつ一例で、パラミオトニー様の表現型と関連があるとされている。この発見はほかに類がなく、慎重に解釈する必要がある。先天性パラミオトニーは通常、SCN4A遺伝子の変異によって引き起こされるものである。
ほかに、p.Arg976Ter変異をもつある症例では、てんかんと関連があるとされている。この変異は、薬剤抵抗性全般てんかんのほかに、特定の評価において軽度のミオトニー症状も示す患者から、新生の変異として見出された。CLCN1遺伝子変異とてんかんの関連を示すためにはさらなる根拠が必要である。
CLCN1遺伝子変異は、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)やナトリウムチャネルミオトニーと診断された患者にも同定されている。DM2においては、このCLCN1遺伝子変異の合併によって表現型が変化し、症状が悪化している可能性がある。
先天性ミオトニーの鑑別疾患にはミオトニーを主要徴候とする他の疾患が含まれる。先天性ミオトニーはこれらの疾患群から以下を参考にして鑑別できる。
鑑別疾患として考慮すべき疾患群
初期診断後の評価
先天性ミオトニーと診断された患者の疾患の程度と治療の必要性を確認するために、以下の評価が推奨される。
臨床症状に対する治療
軽度な症状を訴える症例に対しては、症状を軽減するために活動や生活スタイルを適応させることのみ必要である。ミオトニー症状はナトリウムチャネルブロッカーやほかの薬物治療に感応しうる。
一次症状の予防
運動により一時的にミオトニーが軽減する(warm-up効果)。体操による長期間の効果も時々、患者から聞くが、その効果については体系的に研究、評価はされていない。
回避すべき薬物/環境
一般に、麻酔は注意して行う必要がある。麻酔時の脱分極性筋弛緩剤の使用は、麻酔に関連した有害事象の原因となるため、特に注意する必要がある。スキサメトニウムの手術前注射により、生命を脅かす程の筋攣縮や二次性の換気困難が出現したという報告もあるため、先天性ミオトニーの患者に対してスキサメトニウム使用を避けることが勧められる。
注意:非脱分極性の筋弛緩剤に関しては、先天性ミオトニーの患者対して問題なく作用するようである。しかし、スキサメトニウムが原因で出現したミオトニー現象を軽減する訳ではない。
稀な例ではあるが、アドレナリン、高容量の選択性βアドレナリン作動性アゴニストの静脈内投与によりミオトニーが増悪した例もある。
βアンタゴニストであるプロプラノロールにおいても同様にミオトニーを増悪させたとの報告がある。それゆえβ‐アゴニストやβ-アンタゴニスト慎重に使用するべきである。また、フェノテロールやリトドリンの静脈内投与を行う際にも特別な注意を払うべきである。
腎機能低下症例において、コルヒチン使用により、ミオトニーを伴ったミオパチーを起こす可能性がある。理論的には、先天性ミオトニー症例においても同様にミオトニーを増悪させるものと考えられる。
罹患危険性のある血縁者の検査
先天性ミオトニーの患者においては麻酔に関連した有害事象が発生する危険性が高まっていることなどから、罹患危険性のある血縁者については、小児期のうちにその遺伝状況について評価しておくことが適切である。
妊娠中の管理
罹患した母親には、薬物療法や筋肉注射、寒冷などの要因による筋肉のけいれんのリスクを最小限にするために、包括的な出産計画を推奨している。
研究中の治療法
ラモトリギンを用いた治験が(欧米で)現在進行している(NCT01939561)。
疾患や広範な領域の臨床的な研究に関する情報を見る為にはClinical trials.govサイトを参照するように。注意:この疾患に関しての臨床試験はない可能性がある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
先天性ミオトニーは常染色体劣性遺伝形式(Becker病)と常染色体優性遺伝形式(Thomsen病)をとる。
同一の遺伝子変異が、常染色体劣性遺伝形式をとる家系と常染色体優性遺伝形式をとる家系に認められることがありうることから、遺伝形式の明白な区別は困難である。
患者家族のリスクー常染色体優性遺伝形式
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
他の血縁者
患者家族のリスクー常染色体劣性遺伝形式
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
他の血縁者
キャリア(ヘテロ接合性病原変異保持者)の検出
リスクのある血縁者へのキャリアの遺伝的解析には、家系内で遺伝子変異が同定されていることが必要である。
遺伝カウンセリングに関連した問題
リスクのある血縁者の検査に関する情報は臨床的マネジメント リスクのある血縁者の検査を参照のこと。
孤発症例の遺伝形質の同定
分子遺伝学的解析によりCLCN1病原遺伝子変異2つがそれぞれ別の染色体にあるような状況を同定することが出来なければ、孤発症例(例えばある家系の中で発症者が1人のみ)の遺伝形式を同定することは困難である。このような症例の場合は、常染色体劣性遺伝形式をとるものと推定される。単一アレルに2つの病的遺伝子変異存した報告があるので、分離解析による相の確認は重要である。ヘテロ接合体よりホモ接合体の方がより症状が重いような半優性の症例が報告されているということに注意する必要がある。
発症前診断(リスクを有するが無症状である親類)に対する検査
先天性ミオトニー患者のリスクを持つ無症候親族に対する解析は、分子遺伝検査で家族に特定の病的遺伝子変異が同定された後に可能となる。そのような検査は正式な遺伝子カウンセリングを受けたもとで行われるべきである。このような検査は、無症候患者の発症年齢、重症度、症状の種類、進行速度ついて予測することには有用ではない。非特異性または疑わしい症状がある無症候患者の検査は予測検査であり、診断検査ではない。先天性ミオトニー症例においては麻酔に関連した有害事象のリスクが高いため、リスクを有すると考えられる者は幼年時代に検査を行うことは適切である。
家族計画
出生前検査と着床前診断
CLCN1遺伝子病原変異が既に発症している家族で同定されているならば、先天性ミオトニーのリスクに関する出生前検査や着床前診断を受けることは可能性を有する選択肢である。
医療従事者の中や家族の間に出生前診断の利用については意見の相違が存在する可能性がある。特に診断が早期診断でなく妊娠中絶を目的として考慮されている場合には、そうである。大多数の施設では出生前診断についての両親の意思決定を尊重するようにはしているが、これらの事項については十分に議論されることが適切である。
訳注:日本では本症に対する着床前診断は行われていない。