GeneReviews著者: Judith Johnson, MS, Alexandra H Filipovich, MD, and Kejian Zhang, MD, MBA.
日本語訳者:小西陽介、升野光雄、山内泰子、黒木良和
(川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 遺伝カウンセリングコース)
GeneReviews最終更新日: 2013.1.24 日本語訳最終更新日: 2016.10.6
原文 X-Linked Hyper IgM Syndrome
疾患の特徴
X連鎖高IgM症候群(HIGM1)は、T細胞とB細胞の機能異常による疾患であり、血清IgGとIgA濃度の低下、および血清IgM濃度が正常か高値によって特徴付けられる。マイトジェン増殖は正常な場合があるが、NK細胞およびT細胞の細胞傷害性は、多くの場合に損なわれる。抗原特異的な応答は低下あるいは欠損することがある。臨床所見は、同じ家系内においてさえ多岐にわたる。HIGM1をもつ男性の50 %以上が1歳になるまでに症状を呈し、90 %以上が4歳になるまでに症状を示す。HIGM1は通常、再発性の上・下気道の細菌感染、日和見感染、発育不全を伴う再発性の(あるいは長引く)下痢を乳児期に呈する。好中球減少、血小板減少、貧血もよくみられる。硬化性胆管炎のような自己免疫疾患や炎症性疾患が報告されている。しばしば中枢神経系感染の結果として起こる重大な神経学的合併症は、10~15 %の罹患男性に見られる。原発性肝硬変や癌(胆管癌、肝細胞癌、肝臓および胆嚢の腺癌)などの肝疾患や消化管腫瘍(膵臓のカルチノイド、膵臓のグルカゴノーマ)は、HIGM1をもつ青年および若年成人においてよくある生命を脅かす合併症である。罹患男性は、リンパ腫、特にエプスタイン・バーウイルス感染症に伴うホジキン病に対するリスクも高い。
診断・検査
HIGM1の診断は、臨床所見、家族歴、白血球の試験管内刺激後のフローサイトメトリーでのCD40リガンド(CD40L)タンパク質の発現の欠損または減少、およびHIGM1の原因変異が知られる唯一の遺伝子であるCD40LG (以前にはTNFSF5もしくはCD154として知られた)の分子遺伝学的検査の組み合わせに基づいて行われる。全コード領域およびイントロン/エクソン境界のダイレクトシークエンスは、罹患男性の約95 %において変異を検出する。
臨床的マネジメント
症状の治療:
現在利用できる唯一の治癒的処置は同種造血細胞移植(HCT)であり、理想的には生命を脅かす合併症や臓器障害の発症の前に行われる。慢性好中球減少症に対する組み換え顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、感染症に対する適切な抗菌治療、自己免疫疾患に対する免疫抑制薬。
一次症状の予防:
ニューモシスチス・イロベジイに起因する肺炎に対する予防。被包性細菌による重症感染を防ぐために生後6か月までに免疫グロブリン静注(IVIG)。
二次的な合併症の予防:
クリプトスポリジウムが給水に存在する可能性がある地域では精製水のみを飲用する。
サーベイランス:
7歳以降の毎年の肺機能検査。毎年の内視鏡評価。
リスクのある血縁者の評価:
早期の診断および治療によって罹病率および死亡率が減少するので、フローサイトメトリーによるCD40Lタンパク質発現定量、および家系内に疾患を引き起こす変異が知られている場合には、CD40LGの分子遺伝学的検査により、男性血縁者でリスクのある新生児を評価する。
遺伝カウンセリング
X連鎖高IgM症候群(HIGH1)は、X連鎖の遺伝形式をとる。女性の保因者は無症状であり、疾患の免疫学的あるいは生化学的なマーカーを持たない。女性の保因者は、各々の妊娠において50 %の確率で疾患の原因となる遺伝子変異を次の世代へと継承する。変異を受け継いだ男性は罹患し、変異を受け継いだ女性は保因者となる。罹患男性の疾患の原因となる変異を継承する次世代のリスクは、娘の場合は必ず変異を継承し、息子の場合は継承しない。疾患の原因となる変異が家系の中で同定されている場合、リスクのある女性血縁者の保因者診断や、リスクの高い妊娠に対する出生前診断が可能である。
臨床診断
X連鎖高IgM症候群(HIGM1)の診断は、年齢に応じた血清IgG濃度が‐2SDよりも低い男性で、以下に述べる診断基準(欧州免疫不全学会による推奨)が一つ以上当てはまる場合に考慮される。
確定診断(血清IgGの減少と以下のいずれか一つ)
可能性の高い診断(血清IgGの減少と以下の全て)
可能性のある診断(血清IgGの減少、T細胞数およびB細胞数は正常で、以下の一つ以上が当てはまる場合)
検査
均一の異常がHIGM1をもつ男性のルーチンの免疫学的検査で観察されない場合であっても、以下の検査結果は、HIGM1の診断を示唆する。
(注):
- HIGM1をもつ男性の少数ではIgM濃度が低い。
- 新生児において、IgM, IgD, IgG, IgA, およびB細胞マーカーの血清濃度は信頼性が高くない。
- リンパ球サブセットの算定、マイトジェン応答、および他の細胞性免疫検査は、個人差があり、特定の人において時間とともに変化することがある。
試験管内におけるT細胞刺激後のCD40リガンド(CD40L)タンパク質発現のフローサイトメトリーによる測定
休止状態において、CD40Lタンパク質の低発現が、正常なCD4陽性T細胞で見られる。試験管内刺激の後 :
分子遺伝学的検査
GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.
遺伝子 CD40LG (以前にはTNFSF5あるいはCD154として知られた)は、X連鎖高IgM症候群(HIGM1)を引き起こすことが知られている唯一の遺伝子である。
臨床検査
表1.X連鎖高IgM症候群において用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 検査方法 | 検出される変異2 | 検査法による変異検出頻度3 | |
---|---|---|---|---|
罹患男性 | 保因者女性 | |||
CD40LG | シークエンス解析4 | シークエンス バリアント5 | 95%4,5 | 95%6 |
欠失/重複解析7 | エクソンあるいは全遺伝子欠失 | 5% | 5%8 |
検査手順
以下の所見をもつ発端者の診断の確定のために
以下の検査を行う
リスクのある血縁者に保因者診断を行うには、家系内で疾患を引き起こす変異が事前に同定されていることが必要である。
注):(1)保因者はX連鎖疾患のヘテロ接合体であり、多くの場合は疾患に関連する臨床所見は見られない。(2)保因者女性の同定には次のいずれかが必要である。(a)家系内において疾患を引き起こす変異の前もった同定、あるいは(b)罹患男性の検査ができない場合、先ず、シークエンス解析による分子遺伝学的検査で変異がなければ、大きな構造異常を検出する方法を用いる。
リスクのある無症状の男性が行う発症前の検査は、家系の中で疾患を引き起こす変異を事前に同定することによって容易になる。
前もって変異が家系で見つかっていない場合は、発症リスクのある新生児のCD40LG遺伝子内の全塩基のシークエンス解析で変異を同定できる場合がある。PCRにおける増幅の欠如があり、遺伝子の欠失を示唆する場合は、欠失/重複解析によって確認する必要がある。
リスクのある妊娠に対する出生前診断および着床前診断(PGD)は、家系内で疾患の原因となる変異を事前に同定しておく必要がある。
臨床症状
X連鎖高IgM症候群(HIGM1)は、T細胞とB細胞の機能異常による疾患であり、血清IgGとIgA濃度の低下、および血清IgM濃度が正常か高値によって特徴付けられる。マイトジェン増殖は正常な場合があるが、NK細胞およびT細胞の細胞傷害性は、多くの場合で損なわれる。抗原特異的な応答は低下あるいは欠損することがある。臨床所見は同じ家系内においてさえ多岐にわたる。HIGM1をもつ男性の50 %以上は、1歳になるまでに症状が見られ、90 %以上が4歳になるまでに発症する。
HIGM1は通常、再発性の上・下気道の細菌感染、日和見感染、再発性の(あるいは長引く)下痢を乳児期に呈する。好中球減少、血小板減少、貧血などの血液疾患もよくみられる。
自己免疫疾患や炎症性疾患(例えば、硬化性胆管炎)が報告されている。消化管腫瘍に加えて、原発性肝硬変および癌を含む肝疾患は、HIGM1をもつ青年や若年成人において生命を脅かす医学的な合併症であり、よくみられる。
感染
反復性細菌感染症への感受性増大は、乳児期や小児期における肺炎、頻繁な副鼻腔肺感染症、反復性中耳炎となる。主にカンジダ、クリプトコッカス、ヒストプラズマなどの侵襲性真菌症は罹患者における重大なリスクとなる。HIGM1をもつ男児はニューモシスチス・イロベジイ(以前はニューモシスチス・カリニとして知られた)や小形クリプトスポリジウムによる日和見感染にも大きなリスクをもつ。ニューモシスチス・イロベジイ肺炎はHIGM1をもつ乳児の40 %以上で最初にみられる臨床症状であり、HIGM1に関連した死因の10~15 %を占める。
慢性下痢と栄養失調
慢性下痢は罹患男性の約1 / 3でみられるHIGM1の頻繁な合併症である。再発する下痢または長引く下痢は、小形クリプトスポリジウムや他の微生物による感染の可能性が考えられるが、少なくともその50 %では感染因子を検出することができない。発育不全は、慢性下痢の重篤な合併症である。
血液障害
好中球減少症および、それよりは少ないが、貧血または血小板減少症がHIGM1をもつ大多数の男性でみられる。
神経学的な併発
しばしば中枢神経系感染により起こる重大な神経学的合併症は、HIGM1をもつ男性の10~15 %でみられる。しかしながら罹患者の少なくとも半分では、その病原体を単離することはできない。
肝疾患と肝 / 消化管癌
肝疾患は、HIGM1の重篤な合併症で、20歳までに罹患男性の80 %以上で確認されている。肝炎および硬化性胆管炎は頻繁にみられる(同定された感染因子から生じる場合があるが、そうでない場合もある)。
肝臓と消化管の悪性腫瘍(胆管癌、肝細胞癌、膵臓のカルチノイド、膵臓のグルカゴノーマ、肝臓と胆嚢の腺癌を含む)は、青年期と若年成人期におけるHIGM1のよくある合併症であり、HIGM1に関連する死因の約25 %を占める。一般的ではないが、神経内分泌癌もみられることがある。
リンパ腫
HIGM1をもつ男性は、リンパ腫、特にエプスタイン・バーウイルス感染症によるホジキン病になるリスクが高くなる。
HIGM1の他の合併症には、まれに、自己免疫性網膜症や皮膚の肉芽腫などが含まれる。
寿命
同種骨髄移植を受けていない、あるいは成功していないHIGM1をもつ男性の生存期間の中央値は25歳未満と報告されている。乳児期におけるニューモシスティス・イロベジイ肺炎、肝疾患、青年期や若年成人期における肝癌と消化管癌が主な死亡原因である。
遺伝型と表現型の相関
HIGM1をもつ男性の臨床症状は著しく多岐にわたる。
一般的にHIGM1において、遺伝型と表現型との間に高い相関は見られない。
p.Thr254Metの変異が軽い症状をもつ血縁のない3家系で報告されている。この変異が本当に症状と関係するかどうかは、変異を有する追加の家系を用いた研究で評価する必要がある。
浸透率
CD40LGの変異を有する男性の浸透率は100 %である。
表現促進
HIGM1において、表現促進現象はみられない。
有病率
男性100万人あたり2人と推定されている。
HIGM1は、欧州系、アフリカ系、アジア系の家系で報告されている。したがって、ある人種や民族に多いという根拠はない。
遺伝学的に関連する疾患
HIGM1はCD40LGの変異に関連付けられる唯一の疾患である。OMIMのPhenotypic SeriesにあるImmunodeficiency with Hyper-IgM(HIGM1とよく似た遺伝学的に多様な表現型の表)を参照。
X連鎖高IgM症候群(HIGM1)の鑑別診断には、以下の疾患が含まれる。
非X連鎖型のHIGM
分類不能型免疫不全症(CVID)(特に、生後10年のうちに確認される低ガンマグロブリン血症)。HIGM1のように、CD40LGタンパク質はCVIDを有する人で減少することがある。HIGM1とは対照的に、CVIDは、総T細胞数の減少、あるいはT細胞の機能低下を伴うことがある。CVIDの患者の遺伝的な原因のほとんどは現在のところ不明である。
重症複合免疫不全。ニューモシスティス・イロベジイ肺炎を呈する乳児がいた場合、重症複合免疫不全(SCID)のいずれかを考慮しなければならない。SCIDは、通常、T細胞機能の欠損、Tリンパ球分画の量的な異常、SCIDの遺伝型とは関係なく、マイトジェン機能の顕著な低下を呈する。X連鎖のSCIDはIL2RGの変異により引き起こされる。SCIDにおいて、複数の他の遺伝子による両アレル変異は常染色体劣性遺伝形式をとる。
無ガンマグロブリン血症。無ガンマグロブリン血症を伴う疾患のいずれか一つは、HIGM1の鑑別診断の一環として考慮しなければならない。X連鎖の無ガンマグロブリン血症(XLA)は通常、生後1年以内に、反復性細菌感染を呈する。ニューモシスティス・イロベジイ肺炎のような日和見ウイルス感染症はまれである(好中球減少のような血液疾患はまれであるため)。HIGM1とは対照的に、XLAは、典型的にはCD19陽性B細胞の欠損を呈する。XLAは、BTKの変異によって引き起こされる。無ガンマグロブリン血症において、他のいくつかの遺伝子の変異は、常染色体優性、常染色体劣性の遺伝形式をとる。
HIV感染。HIVの感染は、ニューモシスティス・イロベジイ肺炎を呈する乳児で考慮されるべきである。
乳児期の一過性低ガンマグロブリン血症。乳児期の一過性低ガンマグロブリン血症は、正常な抗体産生、正常な成長パターン、そして日和見感染がないことによって特徴付けられる。
IKBKG。IKBKB (以前にはNEMOとして知られた)の変異は、高IgM症候群を引き起こし、一般的に減汗性外胚葉異形成症と関連する可能性がある。日和見感染を含む重篤な感染症は、どの年齢でも起こる一般的な合併症であり、遺伝形式はX連鎖である。
初期診断後の評価
X連鎖高IgM症候群(HIGM1)の診断に続いて、消化管と呼吸器は、顕性感染症や潜伏感染症の評価を行うべきである。
症状の治療
HIGM1に対して現在利用できる唯一の治癒的処置は、同種造血細胞移植(HCT)であり、生命を脅かす合併症や臓器障害の発症の前に行うのが理想的である。現在、同種HCTを受けたHIGM1男児の長期生存率は70~75 %ほどである。肝疾患をすでに発症している人には、HCT前の修飾された移植前処置が必要な場合がある。この疾患における現在の臨床管理の実践の簡潔な概要については、Davies & Thrasher [2010]を参照。
その他
一次症状の予防
感染を防ぐための方法を以下に示す。
HIGM1をもつ乳児は、生後2年の間にニューモシスティス・イロベジイに起因する肺炎(PCP)を発症するリスクが高いので、PCPの予防が適応となる。典型的な予防法は、トリメトプリム-スルファメトキサゾールの経口投与か、ペンタミジンの静脈注射もしくは吸入療法である。
HIGM1をもつ患者は、被包性細菌に対する抗体を患者自身で産生することができないので、これらの細菌による重症感染症のリスクがあり、免疫グロブリン静注による抗体の補充が生後6か月までに考慮されるべきである。IVIGは典型的には3~4週間毎に投与されるが、通常は毎週皮下注射することも可能な高度に精製された血液製剤(多くの特定の抗菌抗体の組み合わせ)である。
二次的な合併症の予防
クリプトスポリジウムが給水に存在する可能性がある地域では、精製水のみを摂取すべきである。
サーベイランス
肺合併症のモニターと治療
内視鏡による評価を毎年行う。
定期診察時に以下に対するモニターを行う。
リスクのある血縁者の評価
罹病率および死亡率は、早期診断と早期治療によって減少させることが可能であるので、その家系の疾患の原因となる変異が知られている場合には、CD40LGの分子遺伝学的検査を行うことが適切である。
遺伝カウンセリングの目的でリスクのある血縁者の検査に関連する問題については遺伝カウンセリングを参照。
研究中の治療
種々の疾患に対する臨床試験に関する情報へのアクセスにはClinicalTrials.govで検索。
(注):この疾患には臨床試験がない可能性がある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
X連鎖高IgM症候群(HIGM1)は、X連鎖形式で遺伝する。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
他の家族構成員
発端者の母方のおばや、他の母方の血縁者、およびその子孫が女性であった場合、CD40LG変異の保因者であるリスクがあり、男性であった場合、CD40LG関連疾患に罹患しているリスクがある。発端者の母方の血縁者に対する正確なリスクは、家族関係に依存する。
保因者の検出
家系に特異的な変異が、家系内の罹患男性において同定されている場合、家系内の保因者であるリスクがある女性には保因者診断を行うことが可能である。
家系内の罹患男性でシークエンス解析が実施されていない場合は、CD40LGのコード領域を直接シークエンス解析することで、女性保因者の95 %で変異を検出できる。
(注):フローサイトメトリーによるCD40Lの発現は、信頼性の高い保因者診断ではない。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断と早期治療を目的とする、リスクのある血縁者の評価についての情報は、臨床的マネジメントのリスクのある血縁者の評価を参照。
家族計画
DNAバンキングとは、将来の使用のために、通常は白血球から抽出したDNAを保存しておくことである。検査手法や、遺伝子、アレルバリアント、疾患への理解は将来向上する可能性があり、罹患者のDNAを保存しておくことは考慮されるべきである。
出生前診断
CD40LGの変異が家系で同定されている場合、リスクの高い妊娠に対して、出生前検査が可能である。通常の手順として、絨毛採取(妊娠10~12週)または羊水穿刺(妊娠15~18週)により得られた胎児細胞の染色体分析を行うことにより、胎児の性別を決定する。核型が46,XYであった場合、胎児細胞からのDNAで既知の疾患の原因となる変異を分析することができる。
(注):妊娠期間は最終正常月経期の第1日から算出するか、超音波による計測によって推計された月経週数として表される。
着床前診断(PGD)は、疾患の原因となる変異が同定されている家系における選択肢となり得る。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A. X連鎖高IgM症候群 : 遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク質 | Locus Specific 座位特異性 |
HGMD |
---|---|---|---|---|
CD40LG | Xq26.3 | CD40 ligand | CD40LG @ LOVD CCHMC - Human Genetics Mutation Database (CD40LG) CD40Lbase: Mutation registry for X-linked Hyper-IgM syndrome (CD40LG) Resource of Asian Primary Immunodeficiency Diseases (CD40LG) |
CD40LG |
データは、以下の標準的な参考文献を編集したものである:HGNCによる遺伝子; OMIMによる染色体座位、座位の名称、決定的領域、相補性群; UniProtによるタンパク質。リンクを提供したデータベース(Locus Specific, HGMD)の記述については、ここをクリック。
表B. OMIM に登録されているX連鎖高IgM症候群(OMIMですべてを参照のこと)
300386 | CD40 LIGAND; CD40LG/td> |
308230 | IMMUNODEFICIENCY WITH HYPER-IgM, TYPE 1; HIGM1 |
遺伝子の構造
CD40LG遺伝子は、5つのエクソンと4つのイントロンをもち、全長は13 kb以上である。遺伝子およびタンパク質の情報の詳細な概要については、表Aの遺伝子を参照すること。
正常アレルのバリアント
今日まで、CD40LGの正常アレルバリアントは、タンパク質のアミノ酸配列の変化を伴うものとして関連付けられているものはない。南オハイオ州での50人の正常女性のDNAを調査した集団研究では、イントロンにいくつかのバリアントが同定されたが、これらのバリアントが、CD40リガンドにおいて病的な影響をもつ可能性は非常に低い。
病的なアレルのバリアント
現在までに、CD40LGにおいて約170の病的な変異が公表されている。公表されたCD40LG変異のデータベースは、www.hgmd.cf.ac.ukで見ることができる(登録が必要)。変異は、5つのエクソンの中の全体で見られるが、特に、TNF相同ドメイン(エクソン5)でよく見られる。
表2. CD40LGの病的なバリアント(抜粋)
DNAヌクレオチドの変化 | タンパク質・アミノ酸の変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.-239A>C | -- | NM_000074.2 NP_000065.1 |
c.761C>T | p.Thr254Met |
※バリアントの分類上の注意 : 表に記載されているバリアントは、著者によって提供されている。GeneReviewsのスタッフは、独自にバリアントの分類を確認していない。
※命名法上の注意 : GeneReviewsは、ヒトゲノムバリエーション学会(www?.hgvs.org)の標準的な命名規則に従う。命名法の説明は、クイック リファレンスを参照。
正常な遺伝子産物
CD40リガンド(CD40L)は、261のアミノ酸からなる膜貫通型の小さなタンパク質である。このタンパク質は、三つの機能ドメインを有しており、それぞれ細胞質内ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞外ドメイン(腫瘍壊死因子αと、かなりの相同配列を有する)である。主にCD4陽性T細胞で発現するCD40リガンドは、免疫グロブリンアイソタイプ転換を促進するB細胞表面のCD40と結合する。CD40Lはまた、特に単球由来の抗原提示細胞との相互作用において、T細胞機能の重要な役割を果たす。
異常な遺伝子産物
CD40LGにおける変異は、CD40リガンドタンパク質のアミノ酸配列の変化、タンパク質の異常なスプライシング、タンパク質の早期短縮(正常より短いタンパク質)、あるいはCD40リガンドタンパク質の完全な欠如をもたらす。CD40LGに変異を有する人は、高親和性機能抗体およびサイトカインを作ることができないので、日和見感染症の発生リスクが高い。
エクソン1へのAluYb8エレメントの挿入によるCD40LGの不活性化が、若い罹患者1例において報告されている。
プロモーター領域(c.-123)の変異が、CD40Lタンパク質の減少の原因であることが報告されている。
GeneReviews著者: Judith Johnson, MS, Alexandra H Filipovich, MD, and Kejian Zhang, MD, MBA.
日本語訳者:小西陽介、升野光雄、山内泰子、黒木良和
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