GeneReviews著者: Roger E Stevenson, MD, FACMG
日本語訳者:和田 敬仁 (京都大学大学院医学研究科ゲノム医療学講座)
GeneReviews最終更新日: 2000.6.19. 日本語訳最終更新日: 2022.3.14.
原文 Alpha-Thalassemia X-Linked Mental Retardation Syndrome
疾患の特徴
X連鎖αサラセミア・知的障がい(ATR-X)症候群は、特徴的な顔立ち、外性器異常、筋緊張低下及び軽度から重度の発達遅滞/精神障害 (DD/ ID)を特徴とする疾患である。特徴的な顔立ちは、小頭症、眼間乖離または小さい三角鼻、テント状の上口唇、めくれあがった下口唇、年齢とともにcoarseさが進行する顔貌である。すべての患者は正常男性核型(46,XY)を持つ男性であるが、外性器異常は尿道下裂や停留睾丸から、一見正常女性外性器様の重度尿道下裂、不明瞭な外性器まで、重症度には幅がある。約75%の罹患者に見られるαサラセミアは軽度で通常治療を要しない。生殖細胞系列の病的バリアントを持つ少数の男性で骨肉腫が報告されている。
診断・検査
ATR-X症候群の診断は、身体的特徴、46,XYの核型、分子遺伝学的検査により同定されたATRX のヘミ接合性病的バリアントを有する発端者において確立される。
臨床的マネジメント
症状に対する治療法:
DD/ID、発作、消化器症状及び摂食障害、過度の流延、生殖器異常は、標準治療に従って管理される。
サーベイランス:
乳幼児期及び小児期における成長と発達の定期的評価。
が知られている場合には、CD40LGの分子遺伝学的検査により、男性血縁者でリスクのある新生児を評価する。
遺伝カウンセリング
ATR-X症候群は、X連鎖遺伝形式を取る。発端者の母親がヘテロ接合体(すなわち保因者)である可能性と、罹患者での新生突然変異の可能性がある。発端者の母親がATRX 病的バリアントを有する場合、妊娠の都度次世代に伝播する確率は50%である。46,XY核型を有する男性同胞が病的バリアントを受け継ぐと罹患する。すなわち、46,XY核型を有する女性同胞が病的バリアントを受け継ぐとヘテロ接合体になり、臨床症状を示すことは稀である。罹患男性が子を持つことはない。家族内でATR-X病的バリアントが同定されると、リスクのある女性に対する保因者検査、リスクの高い妊娠に対する出生前検査、着床前遺伝子検査が可能となる。
以下の臨床所見、血液学的所見、家族歴を有する個人については、X連鎖αサラセミア知的障がい (ATR-X)症候群を疑う必要がある。
血液学的所見.
血液型検査では、ATR-X症候群の男性の約75%にαサラセミアのエビデンスが認められる[Gibbons et al 2008]。
X連鎖遺伝と一致する家族歴(例、男性から男性への遺伝はない)。家族歴が判明していなくても診断を否定するものではない。
診断の確立
ATR-X症候群の診断は、分子遺伝学的検査により示唆的な所見及びATRXのヘミ接合性病的バリアントが同定された男性発端者で確立される(表I参照)。
注: 意義不明のヘミ接合性ATRX病的バリアントの同定は、本疾患の診断を否定するものではない。
分子遺伝学的検査
分子遺伝学的検査のアプローチには、表現型に応じて遺伝子標的検査(単一遺伝子検査及び多重遺伝子パネル)と包括的ゲノム検査(エクソームシーケンス、エクソームアレイ)の組み合わせが含まれる。遺伝子標的検査では、臨床医がどの遺伝子が関与している可能性が高いかを判断する必要があるが、ゲノム検査ではその必要はない。
単一遺伝子検査。遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス、ナンセンス、スプライス部位の変異を検出するために、最初にATRXのシークエンス解析が行われる。注: 使用するシークエンス手法によっては、シングルエクソン、マルチエクソンまたは全遺伝子欠失/重複が検出されない場合がある。使用したシーケンシング手法で病的バリアントが検出されなかった場合、次のステップとして遺伝子標的の欠失/重複解析を行い、エクソン及び全遺伝子の欠失または重複を検出する。
(翻訳者注;ATRX遺伝子検査は保険収載され、かずさ遺伝子検査室に依頼することが出来る。)
多重遺伝子パネル。X連鎖知的障がいパネル並びにATRX及びその他の注目すべき遺伝子(「鑑別診断」を参照)を含む他の多重遺伝子パネルは、最も妥当なコストで症状の遺伝的原因を特定できる可能性が高く、一方で基礎となる表現型を説明しない遺伝子における意義不明のバリアント及び病的バリアントの特定は限定されている。
注: (1)パネルに含まれる遺伝子及び各遺伝子に使用される検査の診断感度は検査室によって異なり、時間経過とともに変化する可能性がある。 (2)パネルの中には、このGeneReviewで取り上げた疾患と関連性のない遺伝子が含まれている場合がある。 (3)検査室によっては、パネルのオプションとして、検査室がデザインしたカスタムパネルまたは臨床医が指定した遺伝子を含む表現型重視カスタムエクソーム解析またはその双方が含まれる場合がある。(4) パネルに使用される方法には、シークエンス解析、欠失/重複解析及び他の非配列ベースの検査またはそのいずれかが含まれる場合がある。
多重遺伝子パネルの紹介については こちらをクリックすると表示される。遺伝子検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報は、こちらを参照されたい。
包括的なゲノム検査。この方法では、臨床医がどの遺伝子が関与している可能性が高いかを判断する必要はない。エクソームシーケンスが一般的に使用されているが、一部の研究所ではゲノムシーケンスが可能になってきている。
エクソームシーケンスで診断がつかない場合、シークエンス解析で検出できない(マルチ)エクソン欠失や重複を検出するためにエクソームアレイを検討する必要がある。
包括的ゲノム検査の紹介はこちらをクリックすると表示される。ゲノム検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報は、こちらを参照されたい。
表 1. ATR-X症候群に用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子 1 | 方法 | 方法により検出可能な病的バリアント2 を持つ発端者の割合 |
---|---|---|
ATRX | シークエンス解析3, 4 | ~95% 5 |
遺伝子標的の欠失/重複解析6 | ~5% 6 |
その他の検査
エピジェネティックシグネチャー解析 /メチル化マイクロアレイ。ATR-X症候群の個人における白血球のエビジェネティックシグネチャー解析で同定された特徴的なメチル化シグネチャー [Schenkel et al 2017]は、非定型表現型を持つ個体の第一層のスクリーニング検査として、または分子遺伝学的検査で意義が不明なATRXバリアントが同定された場合の第二層検査として役立つ可能性がある。
臨床的説明
X連鎖αサラセミア・知的障がい (ATR- X) 症候群には、多かれ少なかれ特徴的な表現型がある。特徴的な顔立ち、外性器異常、発達の遅れは最も重度な罹患者の間で顕著である [Gibbons et al 1995b, Badens et al 2006a, Stevenson et al 2012]。
遺伝学的検査を使用して評価される個人・家族が増えるにつれて、表現型の幅は広がり、特に軽症側で範囲が広くなっている。罹患男性では、同じ家族内でも、軽度、中等度、重度の知的障がい(ID)を持つ場合がある。 Yntema et al [2002] が記載した家族における成人は、小児期の写真で顔面筋緊張低下の証拠を示したものの、非症候群性X連鎖性 ID (XLID)のような外見があった。Basehore et al [2015]は、p.Arg37Terバリアントを持つ5家族25人の罹患男性について、表現型はさまざまだが全体的に軽度の表現型を示すことを報告した(「遺伝型-表現型相関」を参照)。表 2.X連鎖αサラセミア知的障がい症候群の選択的特徴
特徴 | 特徴を持つ人の割合 | コメント | |
---|---|---|---|
発達遅滞 | 100% | 少数では一度も発話がないか意味のある発話のない少数者 | |
知的障がい | 100% | 軽度から最重度までさまざまな重症度 | |
特徴的顔貌
|
90% | 通常出生時から認められるが、成人後は残存あるいは目立たない場合がある。年齢とともに口が開き、歯と唇の間隔が広くなり粗野になることもある。 | |
小頭症 | 75%-85% | 通常、出生時時点で認められる。小頭症でない場合頭位は低い百分位数である。 | |
低身長 | 60%-70% | 通常、出生時点で認められる | |
消化器系機能障害 | 70%-80% | 主な合併症には早期哺乳困難、嘔吐、逆流、腹部膨満、閉塞、疼痛、便秘などがある。 | |
生殖器異常 | 70%-80% | 最小限の尿道下裂や停留睾丸から正常女性外性器様まで幅広い範囲に及ぶ | |
神経系 | 筋緊張低下 | 80%-90% | 顔の表現型に寄与する |
発作 | 30%-40% |
重度の発達障害と知的障がいは、最も重要な臨床症状である。発症当初から、発達の診査事項は全体的に著しく遅れる。発語及び歩行は小児期後半に起こる。一部の罹患者は、一度も自立歩行や有意な発語をすることがない。
小頭症や低身長を伴う成長障害は、ATR-X 症候群のほとんどに見られ、出生時点で認められることが多い。典型的な低身長である(標準的な成長チャートを使用した患者の67%で、平均値より2 SD以上低い。症候群に特化した成長チャートはない)。平均以上の成長は例外的である。
消化器の症状は、大半の個人に見られ、罹患率に大きく寄与している。約4分の3に胃食道逆流が、3分の1に慢性便秘が見られる。胃の異常な懸垂により胃偽閉塞が起こり、結腸の神経節細胞減少(colon hypoganglionosis)により便秘が起こることがある[Martucciello et al 2006]。胃食道逆流に関連すると思われる誤嚥は、一部の患者では致命的な合併症となっている。
生殖器の異常は、第一度尿道下裂、停留睾丸、陰嚢発育不全など、軽度のものが多い。ATR-X症候群のすべての患者は正常な46,XY核型を持つが、不十分なテストステロン産生に起因する性腺形成不全は、第二度及び第三度尿道下裂、小陰茎、不明瞭な生殖器、正常に見女性外性器様など、より重度の異常を引き起こす可能性がある。ATR-X症候群の患者は、すべて正常男性核型 46,XYを有しているが、時に性腺形成不全により、不十分なテストステロン産生及び不明瞭な生殖器が生じることがある。ATR-X症候群で起こり得る生殖器異常は広範であるが、生殖器異常のタイプは家族内で一貫しているように思われる。
ATR-X症候群の特徴でもある筋緊張低下は、顔貌、流延、発達遅滞、及び消化器症状にも寄与する可能性がある。
ATR-X症候群の約3分の1にさまざまなタイプの発作が起こるが、この症候群の決定的症状ではない[Gibbons et al 1995b, Stevenson et al 2012, Giacomini et al 2019]。脳萎縮や白質異常がMRI や CT画像で見られる [Wada et al 2013]。
神経行動学的な表現型は、広範には明らかにされていない。ほとんどの患者は愛想が良いように見えるが、中には癇癪を起したり長時間泣いたり笑ったりする情緒不安定な者もいる。
軽度の骨格異常 (短指症、斜指症、先細りの指、関節拘縮、鳩胸、脊柱後弯症、脊柱側彎症、下肢窪み、内反・外反足変形、扁平足)が発生するが、罹患率に顕著に寄与することはない。
主要な奇形は一般的ではないが、眼球コロボーマ、口蓋裂、心臓欠陥、鼠径ヘルニア、内臓変位、無脾症 [Leahy et al 2005] が報告されている [Leahy et al 2005] 、
腫瘍発生の素因は、生殖細胞系のATRX病的バリアントを持つ患者における腫瘍易罹患性は確認されていないが、ATR-X症候群の小児4例が骨肉腫を発症しており[Ji et al 2017, Masliah- Planchon et al 2018]。これは、体細胞のATRX病的バリアントのよく認識されている腫瘍関連とは対照的な所見である(「がんと良性腫瘍」の項を参照)。Masliah-Planchon et al [2018] は、男性2名の骨肉腫の三例の報告において、生殖細胞系ATRX病原性変異に関連する腫瘍素因の可能性を裏付ける臨床的、組織学的、遺伝的データを提供している。
ヘテロ接合体女性
ヘテロ接合体の女性では、臨床症状を示すことは稀である。通常、保因者女性はX染色体の不活性化の顕著な偏りがあり (>90:10)、ATRX病原性変異を持つX染色体が優先的に不活性化される。稀に、以下のような例外が報告されている。
ATRXのzinc finger domainに影響を与える病的バリアントは、重度の精神運動障害や泌尿生殖器系異常を引き起こすが、helicase domainの病的バリアントは、より軽度の表現型を引き起こす [Badens et al 2006a]。
PHDドメインの変異では、より重篤な生殖器異常が発生する。
エクソン2のナンセンス変異(p.Arg37Ter)は、全体的に軽度な表現型をもたらす共通の病的バリアントであるように思われる [Basehore et al 2015] (表7参照)。
本疾患については、「X連鎖αサラセミア・知的障がい症候群」及び「ATR-X症候群」が好ましい呼称である。
ATRXの病的バリアントは、いくつかの名前の付いたXLID(訳注:X染色体連鎖性精神遅滞)症候群(Carpenter-Waziri 症候群、Holmes-Gang 症候群、Chudley-Lowry 症候群、XLID-arch fingerprints – hypotonia)、痙性対麻痺を伴うXLID、てんかんを伴うXLID、非症候性のXLIDで発見されている[Lossi et al 1999, Stevenson 2000, Stevenson et al 2000, Yntema et al 2002, Stevenson et al 2012]。これらの疾患は、ATR-X症候群の表現型スペクトラムに含まれると考えるべきであり、これら各症候群の名称を維持すべきであるという説得力のある理由はない。
注:Juberg-Marsidi症候群と考えられていた家族が、ATRXの病的バリアントを有していることが判明した [Villard et al 1996]。その後、Juberg-Marsidi症候群と報告された元の家族は、HUWE1の病的バリアントを有していることが判明し、[Villard et al 1996]が調べた家族は誤診であったことが示された [Friez et al 2016]。
Smith-Fineman-Myers症候群と考えられていた二家族は、ATRXの病的バリアントを持つが、Smith-Fineman-Myersの元の家族は再調査されていない。したがって、ATR-X症候群とSmith-Fineman-Myers症候群の関係は不明である[Villard et al 1999a, Li et al 2020]。
有病率は不明である。分子遺伝学的検査を行っている研究室では、200人以上の罹患者が知られているが、特に表現型がより軽度な罹患者については、かなり過小に確認されている可能性がある。
人種や民族による患者の集中は報告されていない。
このGeneReviewで説明されている表現型以外の表現型は、ATRXの生殖細胞系列病的バリアントと関連していることは知られていない。
「がんと良性腫瘍」の項も参照のこと。
表 3. X連鎖αサラセミア知的障がい症候群の鑑別診断で注目される遺伝子
遺伝子 | 鑑別診断障害 | 遺伝型式 | 鑑別診断障害の臨床的特徴 | |
---|---|---|---|---|
ATR-X症候群との重なり | ATR-X 症候群で観察なし | |||
HBA1 HBA2 | ヘモグロビン H (HbH) 疾患 (「α-サラセミア」の項参照) | AR 1 | 小球性低色素性貧血、胚脾腫、軽度の横断、時にサラセミア様骨変化 |
|
MECP2 + 隣接遺伝子 Xq28 |
MECP2 重複症候群 | XL |
|
|
RPS6KA3 | Coffin-Lowry 症候群 (GRJ) | XL |
|
|
AR = 常染色体潜性(劣性); DiffDx = 鑑別診断; GI = 消化器; ID = 知的障がい; XL = X連鎖性
16番染色体関連αサラセミア知的障がい(ATR-16症候群、OMIM 141750)は、16番染色体の短腕遠位部が関与する隣接遺伝子欠失を伴う症例でαサラセミアと知的障がいを合併する。α-グロビン鎖をコードする16p13のcis配置の二つの遺伝子の欠失によりαサラセミアを呈する。ATR-16を引き起こす染色体の欠失と組み換えは大きく多様であるため、ATR-16では特異的な臨床表現型は観察されない。これは、表現型が一様であるATR-X症候群とは対照的である。
初回診断後の評価
X連鎖αサラセミア知的障がい(ATR-X)症候群と診断された人の病気の程度とニーズを確立するために、表4にまとめた評価(診断に至った評価の一部として行われていない場合)を行うことが推奨される。
表4. ATR-X症候群の初回診断後に推奨される評価項目
システム/懸念 | 評価 | コメント |
---|---|---|
成長 | 身長、体重、頭囲を評価する | 乳幼児・小児の場合 |
発達 | 発達評価 |
|
神経系 | 神経学的評価 |
|
消化器摂食 | 消化器科 / 栄養 / 摂食チーム評価 | 対象:
|
生殖器異常 | 身体検査で、 46,XY核型の人の停留睾丸、尿道下裂、不明瞭な性器、正常女性外性器様などの世紀発達障害の証拠が見られる | 外科手術が必要な場合は、小児泌尿器科医と協議する |
筋骨格系 | 整形外科 / 理学療法士 / PT/OT 評価 | 以下の評価を含める
|
先天性心疾患 | 小児循環器専門医 | 中隔欠損は介入可能性の評価が必要 |
眼科領域 | 眼科検診 | 斜視、↓ 視力、目の構造的欠陥 (例、コロボーマ)の評価 |
遺伝カウンセリング | 遺伝子の専門家による 1 | ATR-X症候群の概要、遺伝形式、影響について、患者と家族に伝え、医学的・個人的意思決定を促す |
家族へのサポートリソース | 以下の評価
|
GERD =胃食道逆流症; MOI = 遺伝形式; OT = 作業療法; PT = 理学療法
1. 医療遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、認定上級遺伝看護師
症状に対する治療法
表5. ATR-X症候群の症状に対する治療法
症状/懸念 | 治療法 | 配慮事項/その他 |
---|---|---|
DD/ID | 「発達遅滞/知的障がいの管理問題」を参照 | |
発作 | 経験豊富な神経科医によるAEDを用いた標準的治療法 |
|
消化器/摂食 | 摂食療法; 高カロリー粉ミルク;持続的摂食障害に対して必要に応じて胃瘻チューブの留置 |
|
流延 | 抗コリン剤、A型ボツリヌス毒素の唾液腺への注入及び/または顎下腺管の外科的方向転換 | 流延が深刻な問題であるときの選択肢 |
生殖器異常 | 担当泌尿器科医ごと | |
筋骨格系 | 整形外科 / 理学療法士 / PT / OT | 必要に応じた耐久性医療機器及び体位変換装置の使用(例、車椅子、歩行器、バスチェア、装具、適応型ベビーカーなど) |
先天性心疾患 | 担当循環器医ごと | |
眼科領域 | 担当眼科医ごと |
AR = 常染色体潜性(劣性); DiffDx = 鑑別診断; GI = 消化器; ID = 知的障がい; XL = X連鎖性
16番染色体関連αサラセミア知的障がい(ATR-16症候群、OMIM 141750)は、16番染色体の短腕遠位部が関与する隣接遺伝子欠失を伴う症例でαサラセミアと知的障がいを合併する。α-グロビン鎖をコードする16p13のcis配置の二つの遺伝子の欠失によりαサラセミアを呈する。ATR-16を引き起こす染色体の欠失と組み換えは大きく多様であるため、ATR-16では特異的な臨床表現型は観察されない。これは、表現型が一様であるATR-X症候群とは対照的である。
初回診断後の評価
X連鎖αサラセミア知的障がい(ATR-X)症候群と診断された人の病気の程度とニーズを確立するために、表4にまとめた評価(診断に至った評価の一部として行われていない場合)を行うことが推奨される。
表4. ATR-X症候群の初回診断後に推奨される評価項目
システム/懸念 | 評価 | コメント |
---|---|---|
成長 | 身長、体重、頭囲を評価する | 乳幼児・小児の場合 |
発達 | 発達評価 |
|
神経系 | 神経学的評価 |
|
消化器摂食 | 消化器科 / 栄養 / 摂食チーム評価 | 対象:
|
生殖器異常 | 身体検査で、 46,XY核型の人の停留睾丸、尿道下裂、不明瞭な性器、正常女性外性器様などの世紀発達障害の証拠が見られる | 外科手術が必要な場合は、小児泌尿器科医と協議する |
筋骨格系 | 整形外科 / 理学療法士 / PT/OT 評価 | 以下の評価を含める
|
先天性心疾患 | 小児循環器専門医 | 中隔欠損は介入可能性の評価が必要 |
眼科領域 | 眼科検診 | 斜視、↓ 視力、目の構造的欠陥 (例、コロボーマ)の評価 |
システム/懸念 | 評価 | コメント |
遺伝カウンセリング | 遺伝子の専門家による 1 | ATR-X症候群の概要、遺伝形式、影響について、患者と家族に伝え、医学的・個人的意思決定を促す |
家族へのサポートリソース | 以下の評価
|
GERD =胃食道逆流症; MOI = 遺伝形式; OT = 作業療法; PT = 理学療法
1. 医療遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、認定上級遺伝看護師
症状に対する治療法
表 5. ATR-X症候群の症状に対する治療法
症状/懸念 | 治療法 | 配慮事項/その他 |
---|---|---|
DD/ID | 「発達遅滞/知的障がいの管理問題」を参照 | |
発作 | 経験豊富な神経科医によるAEDを用いた標準的治療法 |
|
消化器/摂食 | 摂食療法; 高カロリー粉ミルク;持続的摂食障害に対して必要に応じて胃瘻チューブの留置 |
|
流延 | 抗コリン剤、A型ボツリヌス毒素の唾液腺への注入及び/または顎下腺管の外科的方向転換 | 流延が深刻な問題であるときの選択肢 |
生殖器異常 | 担当泌尿器科医ごと | |
筋骨格系 | 整形外科 / 理学療法士 / PT / OT | 必要に応じた耐久性医療機器及び体位変換装置の使用(例、車椅子、歩行器、バスチェア、装具、適応型ベビーカーなど) |
先天性心疾患 | 担当循環器医ごと | |
眼科領域 | 担当眼科医ごと |
AED = 抗てんかん薬; DD = 発達遅滞; ID = 知的障がい; OT = 作業療法; PT = 理学療法
発達障害/知的障がい管理課題
以下の情報は、米国における発達遅滞/知的障がい者に対する典型的な管理推奨事項であり、標準的な推奨事項は国によって異なる場合がある。
0歳から3 歳まで。作業療法、理学療法、言語療法、摂食療法、乳児精神保健サービス、特別教育者、感覚障害専門家などを利用するためには、早期介入プログラムへの紹介が推奨される。米国では、早期介入は連邦政府が資金提供するプログラムで、すべての州で利用でき、個々の治療の必要性に応じた家庭内サービスを提供している。
3歳から5 歳まで。米国では、地元の公立学校区を通じた発達段階のプレスクールが推奨されている。入園前に、必要なサービスやセラピーを決定するための評価が行われ、確立された運動、言語、社会性、認知の遅滞により資格を得る個人のために個別教育計画 (IEP)が作成される。早期介入プログラムは、通常この移行を支援する。発達段階用プレスクールはセンターベースであるが、医学的に不安定で通園できない子供にはホームベースのサービスが提供される。
全年齢対象。地域、州、教育機関(米国)の適切な関与を確保し、保護者が生活の質を最大限に高めるための支援として、発達小児科医に相談することが推奨される。以下は考慮すべき課題のいくつかである。
コミュニケーションの問題。言葉による表現に困難のある個人には、代替コミュニケーション手段(例、補強・代替コミュニケーション[AAC])の評価を検討すること。AACの評価は、その分野の専門家である言語聴覚士が行うことができる。この評価では、認知能力と感覚障害を考慮し、最も適切なコミュニケーション手段を決定する。AAC装置には、画像交換通信のようなローテクなものから、音声生成装置のようなハイテクなものまで、さまざまなものがある。一般的に考えられているのとは反対に、AAC装置は言葉の発達を妨げることはなく、多くの場合向上させることができる。
社会的・行動的懸念
発達障害の小児科医に相談することで、保護者が適切な行動管理戦略の指導を受けたり、必要に応じて注意欠陥/多動性障害の治療薬などの薬の処方箋を提供されたりして役立つ場合がある。
深刻な攻撃的行動や破壊的行動に関する懸念については、小児精神科医の対応を仰ぐことができる。
サーベイランス
表6. ATR-X 症候群の個人に推奨されるサーベイランス
システム/懸念 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
成長 | 身長、体重、頭囲 | 乳幼児期・小児期の各診察時 |
発達 | 発達の進み具合や教育上のニーズをモニターする。 | |
消化器/摂食 |
|
|
生殖器異常 | 必要に応じて、担当泌尿器科医と一緒にフォローアップを行う | 乳幼児期の初診時 |
神経系 |
|
各診察時 |
先天性心疾患 | 担当循環器医ごと | 担当循環器医ごと |
眼科領域 | 担当眼科医ごと | 担当眼科医ごと |
リスクのある親族の評価
リスクのある親族に対する遺伝カウンセリングを目的とする検査に関する問題については、「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。
研究中の治療法
さまざまな疾患や症状に関する臨床試験情報にアクセスするには、米国では ClinicalTrials.gov を検索し、ヨーロッパでは EU Clinical Trials Register (EU臨床試験登録)を検索のこと。注:この障害に関する臨床試験は行われていない場合がある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
X連鎖αサラセミア知的障がい(ATR-X)症候群は、X連鎖性遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
複数の罹患者がいる家庭では、正常男性核型 46,XYを持つ罹患者の母親は、真正ヘテロ接合体(保因者)となる。注:ある女性が複数の罹患児を持ち、かつ他に罹患した親族がいない場合、また女性の白血球DNAからATRX 病的バリアントが検出されない場合には、性腺モザイク症である可能性が最も高いと考えられる。
発端者の同胞
46,XY核型を持つ発端者の男性同胞のリスクは、母親の遺伝状態によって異なる。
発端者の子
罹患者で子孫を持ったものはいない。
他の家族構成員
発端者の母方の叔母は、病的バリアントのヘテロ接合体(保因者)であるリスクがあり、叔母の子孫は、核型に応じて、病的バリアントのヘテロ接合体(保因者)であるリスクや罹患する可能性がある。
注:分子遺伝学的検査により、de novo病的バリアントが生じた家族のメンバーを特定できる可能性があり、その情報は拡大家族の遺伝的リスク状態を決定するのに役立つ。
保因者の検出
ATRX病的バリアントが発端者で確認されている場合には、リスクのある女性親族の遺伝的状態を判断するための分子遺伝学的検査が最も有益である。
注:(1) このX連鎖障害のヘテロ接合体である女性は、ATR-X症候群の臨床症状を示すことはほとんどない(「ヘテロ接合体女性」の項参照)。(2) 女性のヘテロ接合体の同定には、(a) 家族内でATRX病的バリアントを事前に同定するか、(b) 46,XY核型を持つ患児が検査に利用できない場合、まずシークエンス解析による分子遺伝学的検査を行い、病的バリアントを同定できない場合は、遺伝子標的欠失/重複解析による検査が必要である。
遺伝カウンセリングに関連した問題
DNAバンキングとは、将来の使用のためにDNA(通常は白血球から抽出したもの)を保存することである。将来、検査方法の向上並びに遺伝子、対立遺伝子変異及び疾患に関する理解が深まる可能性が高いため、罹患者のDNAの保存を検討する必要がある。
出生前検査及び着床前遺伝子検査
罹患家族においてATRXの病的バリアントが同定されれば、ATR-X症候群のリスクが高まる妊娠(すなわちXY 胎児)に対する出生前検査や着床前遺伝子検査が可能である。
出生前検査の実施については、医療関係者や家族の間で考え方に違いがある場合がある。ほとんどの施設では、出生前検査の利用は個人的な決定であると考えられているが、これらの問題について議論することは有益であると思われる。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
米国知的・発達障害者協会(AAIDD)
8403 コレスヴィルロード分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表 AX連鎖αサラセミア知的障がい症候群の遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体遺伝子座 | プロテイン | 遺伝子座特異的データベース | ヒト遺伝子突然変異データベース | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
ATRX | Xq21.1 | 転写制御因子 ATRX | ATRX @ LOVD | ATRX | ATRX |
データは、HGNCの遺伝子、OMIMの染色体座、UniProt.のタンパク質という標準的なレファレンスから編集されている。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)については、こちらをクリックすると表示される。
表 B.X連鎖αサラセミア知的障がい症候群のOMIMエントリー(OMIMですべてを見る)
300032 | ATRX クロマチンリモデリング因子; ATRX |
301040 | X連鎖αサラセミア/知的障害症候群; ATRX |
309580 | X連鎖知的障害-筋緊張低下顔貌症候群, 1; MRXHF1 |
分子病理
ATRXは、DNAに結合するzinc finger domain、二本鎖DNAを開く転写過程で機能するhelicase domainを持つ転写因子であり、ATRXは、このhelicase domainを持つ転写因子をコードしている。ATRXタンパク質は、他のクロマチン関連タンパク質と組み合わせて、クロマチンリモデリングの役割を担っており、おそらく発生過程での遺伝子発現を抑制する[Ausió et al 2003, Xue et al 2003, Tang et al 2004a, Tang et al 2004b, Kernohan et al 2010]。
疾病の発生メカニズム。機能の喪失。欠失、挿入、遺伝子内重複、ナンセンスやスプライス変異が報告されているが、不均衡に多すぎる変異がミスセンス変異であり、その90%以上がzinc fingerやhelicase domainsをコードする領域にあると報告されている[Villard et al 1999b, Villard & Fontes 2002, Borgione et al 2003, Badens et al 2006a, Argentaro et al 2007, Thienpont et al 2007]。
異常なATRXタンパク質は、α-グロビン遺伝子座を発現抑制してサラセミアをもたらし、おそらく転写やクロマチン構造の障害によって他の遺伝子の発現を抑制し、奇形や知的障がいにつながっている [Tang et al 2004a, Tang et al 2004b, Argentaro et al 2007, Nan et al 2007, Ritchie et al 2008, Kernohan et al 2010]。
ATRXに特化した実験室の技術的考察。ATRXの病的バリアントは、N末端付近のADD (ATRX-DNMT3-DNMT3L) ドメインとC末端付近のhelicase domainsのクラスターに集中している [Argentaro et al 2007]。
表 7. 注目すべきATRX病的バリアント
参照配列 | DNAヌクレオチド変化 | 予測されるタンパク質変化 | コメント [参照] |
---|---|---|---|
NM_000489.4 NP_000480.3 | c.109C>T | p.Arg37Ter | 表現型がより軽度になる一般的病的バリアント [Basehore et al 2015] |
表中のバリアントは著者提供。. GeneReviews のスタッフはバリアントの分類を独自に検証したわけではない。
GeneReviews は、Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org)の標準的な命名規則に従っている。命名規則に関する説明は、Quick Reference を参照のこと。
がんと良性腫瘍
Masliah-Planchon et al [2018]がまとめた悪性腫瘍に関連する体細胞ATRX病的バリアントは、悪性グリオーマにおける切断型変異(フレームシフトとナンセンス)[Cancer Genome Atlas Research Network 2015]及び骨肉腫におけるフレームシフトまたはナンセンスバリアント及び遺伝子内欠失 [Chen et al 2014]である。