エンパワメント科学:新たな実践知の展開に向けて
Empowerment Sciences:
New Horizon for Self-Actualization through Empathy
1. エンパワメントとは
エンパワメントとは、元気にすること、力を引き出すこと、きずなを育むこと、そして共感に基づいたネットワーク化です。
当事者や当事者グループが、十分な情報に基づき意思決定し行動できるよう、サポートしたり環境整備することがエンパワメントです。和訳は、きずな育む力(絆育力)、活き活き生きる力(活生力)、共に創りあげる力(共創力)、などがあります。
エンパワメントの原則は下記の8点です。
(1) 目標を当事者が選択する。
(2) 主導権と決定権を当事者が持つ。
(3) 問題点と解決策を当事者が考える。
(4) 新たな学びと、より力をつける機会として当事者が失敗や成功を分析する。
(5) 行動変容のために内的な強化因子を当事者と専門職の両者で発見し、それを増強する。
(6) 問題解決の過程に当事者の参加を促し、個人の責任を高める。
(7) 問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる。
(8) 当事者のウエルビーイングに対する意欲を高める。
2. エンパワメント相乗モデル
エンパワメントには、
自分力エンパワメント:Self Empowerment
仲間力エンパワメント:Peer Empowerment
組織・地域力エンパワメント:Community Empowerment
の3つの種類があります。
これらを組み合わせて使うことで、さらに効果的にエンパワメントを実現できます。
これをエンパワメント相乗モデルと言います。
3. エンパワメント実現への8指標
エンパワメントを実現するためには、
8つの指標(Eight Values for Empowerment)を満たすことが求められます。
これらは評価指標として活用することができます。
(1) 共感性 empathy
メンバー間、あるいはメンバーのプログラムへの共感性はどの程度か?
あるのかないのか、あるなら限定的なものなのか発展的なものなのか?
(2) 自己実現性 self-actualization
メンバーひとりひとりが、どの程度自己実現できていると感じているか?
(3) 当事者性 inter sectral
メンバーひとりひとりが、人ごとではなく、自分のこととしてかかわっているか?
(4) 参加性 participation
メンバーひとりひとりが、どの程度参加していると感じているか?
(5) 平等性 equity
参加者が、プログラムの内容やフィードバックを平等であると感じているか?
(6) 戦略の多様性 multi strategy
ワンパターンではなく、さまざまな戦略を複合的に組み合わせて
プログラムを遂行しているか?
(7) さまざまな状況への適用性 contextualism
参加者や環境が変化しても、プログラムは対応できるか?
(8) 継続性 sustainability
プログラムには、安定した継続の見通しがあるか?
4. エンパワメント技術モデルの考え方(CASEモデル)
根拠に基づくエンパワメントを実現するには、対象の発展段階別に、必要となる領域を確実に押さえながら遂行することが有効です。
エンパワメント技術モデルは、エンパワメントに必要な技術を、段階別・領域別に明示できるよう図式化したものです。対象のフェーズを「段階」として、また手順を踏まえて把握する必要のあるポイントを「領域」として整理しています。これをCASEモデル(Creation, Adaptation, Sustenance, and Expansion) といい世界各国で活用されています(参考文献5)。
(1)段階別エンパワメント技術
エンパワメントは、つねに発展し変化する状況を踏まえることが大切です。
「創造」「適応」「維持」「発展」の4段階を意識しながら進めることで、当事者の参画を促すより効果的なエンパワメントにつながります(図1)。
(2)領域別エンパワメント技術
エンパワメント技術の機能は、「目標」、「過程」、「成果」、「情報」、「効率」の5領域と、その基盤となる当事者の「共感」をもたらす領域に分けられます。循環する 「目標」 「過程」 「成果」 を、「情報」「効率」「共感」で包み込む形となります(図2)。
5. エンパワメント支援設計
当事者のニーズや意向を反映してエンパワメント戦略をたてる際には「エンパワメント支援設計」の活用が有効です(図3)。このモデルの特徴は、目標と戦略がどのようにプロジェクトを成功させるかの「筋道と根拠」を明示できる点です。プロジェクトが成功するかどうかの可否whetherに加えて、方法how、根拠whyを論理的に明確にします。
これは、以下の6つのステップに沿って順に整理するものです。
第1ステップ もたらしたい成果は?
第2ステップ 現状の問題点あるいは課題は?
第3ステップ 背景は?
第4ステップ 問題点や課題、背景要因に影響を与える要因は?
第5ステップ 影響を与える要因を変化させる支援(戦略)は?
第6ステップ 根拠は?
6. エンパワメントのコツ♪
(1) 目的を明確に: 価値に焦点をあてる
(2) プロセスを味わう: 関係性を楽しむ
(3) 共感のネットワーク化: 親近感と刺激感
(4) 心地よさの演出: リズムを作る
(5) ゆったり無理なく: 柔軟な参加様式
(6) その先を見据えて: つねに発展に向かう
(7) 活動の意味づけ: 評価の視点
7. 参考文献
- いのちの輝きに寄り添うエンパワメント科学:だれもが主人公 新しい共生のかたち、北王路書房
- 子どもの未来をひらく エンパワメント科学、日本評論社
- エンパワメントのケア科学:当事者主体チームワーク・ケアの技法、医歯薬出版
- コミュニティ・エンパワメントの技法:当事者主体の新しいシステムづくり、医歯薬出版
- 健康長寿エンパワメント:介護予防とヘルスプロモーション技法への活用、医歯薬出版
- 根拠に基づく子育て子育ちエンパワメント:子育ち環境評価と虐待予防、日本小児医事出版
- New Empowerment Models on Practical Strategies for Wellbeing, Nova Science Publications
<Lecture text> - Culture, Care and Community Empowerment: International Applications of Theory and Methods, Kawashima Press
<Lecture text> - きずな育む力をつむぐ:エンパワメント科学のすすめ 子ども研究、日本子ども学会
- 保健福祉学とエンパワメント科学:当事者主体の新しい学際研究の展開に向けて、日本保健福祉学会誌
- エンパワメント科学入門:人と社会を元気にする仕組みづくり、エンパワメント科学研究室