顕微鏡的ヘルニア摘出術

腰椎椎間板ヘルニアの手術には、顕微鏡的ヘルニア摘出術(microdiscectomy)が、脳神経外科では、最も一般的に行われています。

顕微鏡手術の利点

脳神経外科では、という言葉に、違和感を感じられる方もいらっしゃるかもしれません。「同じ病気を治療するのに、科によって、どうしてやることが違うのですか?」というご質問をよく受けます。脊椎の病気は、昔から、整形外科と脳外科がどちらも手術を行ってきており、それぞれの科の特質や、歴史的な経緯によって、同じ病気を治療するにも、手術方法が少し違います。脳神経外科では、脳腫瘍や脳動脈瘤の手術を手がけており、手術用の顕微鏡を使って、ミクロン単位の細かい作業をするのが得意です。したがって、脊椎の手術にも、ほとんどの場合に手術用顕微鏡を使います。顕微鏡を使う利点は、小さい切開で、狭い術野でも、明るい照明を当て、神経や血管などの細かい構造物を拡大し、安全な手術を行うことができる点です。神経が拡大されてはっきりと見えるのですから、それを損傷する危険性ははるかに少なくなります。このようにして、私たちは、手術に伴うリスクを、限りなくゼロに近づけるように努力をしています。

顕微鏡的ヘルニア摘出術

手術は、全身麻酔をかけて、腰の正中部に、約4cmの切開を加え、筋肉を少し剥離して、椎弓の骨を少し削り、黄色靭帯と呼ばれている椎弓と椎弓をつなぐ靭帯を一部切除して神経を露出します。多くの場合に、飛び出したヘルニアが神経の裏側あるいは外側に認められます。細かい操作で、神経をヘルニアから剥離して少し横にどけ、飛び出したヘルニアを摘出します。慣れた術者が行えば、ほとんど危険性のない、安全な手術です。当院では、年間約200例の脊椎手術のうち約2割を占めていますが、ほとんどの症例で術直後から症状は劇的に改善し、約一週間で退院、早い人では、2週間で仕事に復帰されています。

内視鏡手術の問題点

近年、内視鏡的ヘルニア摘出術も、多く行われるようになってきました。当院でも、数十例の経験がありますが、現在ではほとんど行っていません。理由は、リスクが高くなるのに比べてメリットが少ないという点です。内視鏡による手術は、テレビの画面を見ながら行うものですが、一番の問題は、ものを立体視できないという点です。顕微鏡では、両目でものを見ることができるので、術野の奥行きがはっきりとわかり、普通に手術をするのとまったく変わらないのですが、内視鏡では、それが、片目で手術をするような状態になります。当然、神経を損傷したりするリスクも高くなります。それに比べて、メリットは、4cmの皮膚切開が2cmに小さくなるというくらいのものです。これが大きなメリットであるとは、私には考えられません。以上の理由で、当施設では、現在は、すべての症例で顕微鏡的ヘルニア摘出術を行っています。


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