レター:

心肺蘇生法に関するILCOR勧告(翻訳版)について

越智元郎1)、畑中哲生2)、生垣 正3)、小田 貢4)、石原 晋5)、守田 央6)、白川洋一 1) 

1)愛媛大学医学部救急医学、2)救急救命九州研修所、3)市立砺波総合病院麻酔科
4)医療法人真誠会、5)県立広島病院救命救急センター、6)尼崎消防局 尼崎北消防署

日本救急医学会誌 10: 625, 1999  ―最終更新 00/03/05―


 心肺蘇生法(CPR)の市民への普及は、「社会に働きかける学会」としての日本救急医学会にとって、最も重要な活動の一つである。一方、わが国のCPR普及における最近の問題点としては、関連団体などの間で市民への指導内容が必ずしも一致していないことが指摘されている。

 1992年、自治省消防庁、日本赤十字社、学会関係など各分野の代表が参加した、日本医師会救急蘇生法教育委員会において、わが国の心肺蘇生法、特に一次救命処置と止血法の統一案が協議された。その方針として、アメリカ心臓学会(AHA)のガイドラインに準拠するという合意が得られ、この分野で用いられる用語についても統一されることになった。しかし上記のように、関係団体や組織ごとで指導法に少しずつ異なった解釈がなされた例が散見される。

 一方、海外の流れに目を向けると、1992年、国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation, ILCOR)が組織された。ILCORは世界の主な蘇生組織が連携するための公開討論の場として組織されたもので、構成組織には AHA、ヨーロッパ蘇生会議(ERC)などがある。ILCORの目的は一次および二次救命処置、小児救命処置における国際的な治療ガイドラインを策定することであり、教育訓練方法の有効性、組織作りなどに関しても検討する。

 わが国においても1999年7月、関連学会、関連省庁、日本赤十字社などが参加して日本心肺蘇生法協議会(Japan Resuscitation Council, JRC)が組織され、わが国の心肺蘇生法の普及に関する諸問題を協議することとなった。同時に、同協議会がILCORの構成組織として名を連ねることが決定された。

 ILCORは1997年心肺蘇生法に関する勧告1)を発表しており、これをもとに各構成組織がそれぞれの心肺蘇生法ガイドラインを策定する流れにある。中でも AHAは先陣を切って、「Guidelines 2000」として、1992年以来のガイドラインの見直しを行う予定である。ILCORに所属する各国の組織もこの作業に全面的に協力しており、ILCOR勧告は AHAのみならずわが国においても、統一された心肺蘇生法ガイドラインの骨格になると考えられる。

 ILCOR勧告中には、最初の呼気吹き込みの回数(2〜5回)、1回の吹き込み量(成人用で400〜500ml)、心マッサ−ジの回数(成人で毎分100回)など、様々な変更点がある2)。今後わが国においても蘇生法テキストの改訂をはじめ、各方面における様々な準備が必要になると予想される。

 日本救急医学会は日本心肺蘇生法協議会において中心的な役割を果たすことが期待されている。そのために、まずは学会員の中で、心肺蘇生法の世界標準に向けての動きについて、情報交換が必要になると思われる。この目的で、われわれは AHAホームページ上の心肺蘇生法に関するILCOR勧告を翻訳し、AHAの了解のもとにわれわれのホームページに収載した3)。会員諸氏が本資料を大いに活用して下さることを願うものである。

参考文献:
1) Chamberlain DA, Cummins RO: Advisory statements of the International Liaison Committee on Resuscitation ('ILCOR'). Resuscitation 34: 99-100, 1997

2) 越智元郎、畑中哲生、生垣 正他:
CPAとプレホスピタルケア I. 心肺蘇生法の普及.救急医学 1999; 23: 1883-1887
3) ILCOR Advisory Statements(救急医療情報研究会による和訳)
 
http://ghd.uic.net/99/ilcor.html


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