ナースのためのコンピュ−タ通信講座

  目 次
序言(白川洋一)   1、パソコン通信(冨岡譲二)
2、LAN(美代賢吾)  3、インターネット(新田賢治)
4、救急医療とコンピュ−タ通信(伊藤成治)
5、災害医療とコンピュ−タ通信(越智元郎)


4 救急医療とコンピュータ通信

日本救急医療コンピュ−タネットワーク研究会 伊藤成治
(エマージェンシー・ナーシング10 (1): 65-71, 1997)


目 次

はじめに
まずはコンピュータのこと
パソコン通信を使った交流
どんなことが話題に?
おわりに
コンピュータ通信を利用して....(町屋滋子)


はじめに

 この「ナースのためのコンピュータ通信講座」の企画も4回目となり,新年号を迎えました.

 皆さん,明けましておめでとうございます.と書いても,ほとんどの皆さんが,「今から師走の一番忙しい時期を迎えるのに」とか,“ボーナスと楽しいクリスマス”のことを考えておられるのではないでしょうか? 私自身も締め切りに向けてまだクーラーにあたりながらこの原稿を書いています.

 改めまして,伊藤成治と申します.ほかの先生方とは違い私の本職は「消防官」で,患者さんを診る方ではなく皆さんへ搬送するのがおもな仕事です.

 さて,紙面も少ないことですからそろそろ本題に入っていこうと思います.

まずはコンピュータのこと

 コンピュータのイメージというとどんなものを思い浮かべられるでしょうか.

 「便利そうだけど難しそう」といったところでしょうか? 半分は正解です.

 便利だけれど考えているほど難しくないのです.一昔前までは,カタカタカタとキーボードを叩いて,一から十まで入力していたのですが,今では「マウス」でその仕事のほとんどができてしまう.やることといえば,文章の入力,そう,ワープロとほとんど同じなのです.で,そのコンピュータを使って,文字や画像,時には音まで通信をしてしまうのがパソコン通信やインターネットなのです.

 しかも,コンピュータの値段は日一日と下がっています.一方で性能はそれとは逆にアップしています.

 あの「アポロ」が初めて月に行ったときのNASAのコンピュータよりも,いま市販されているものの方が性能がいいというのをご存じでしょうか? 信じられないかもしれませんが,本当の話です.

 でも,私たちにコンピュータがあっても,月には行けませんけどね.

では,どのようなことが実際に流行っているのかを書いていきます.

パソコン通信を使った交流

 いま,急速にコンピュータが普及しはじめていますね.テレビをつければコンピュータの宣伝ばかりが目立っているといっても過言ではないでしょう.本屋さんではその系統の雑誌が何種類も山積みになっています.

 学校ではインターネットを授業で利用したり,レポートを電子メールで提出,就職活動もホームページで行うところも出始めました.そんな中で,「救急」,「医療」,「福祉」というキーワードで集まりはじめている人達がいます.

 ほかの先生方から説明もあったと思いますが,まずは,大手パソコン会社のニフティサーブの中には「FCASE(症例検討会)」というフォーラム*1が,医療関係者のために開設されています.

 そこは,医師はもちろん,看護婦,救急隊員,検査・放射線などの各種技師さんたち,赤十字関係者ほか,医療に関係のある人達すべてに解放されています.その中にこの企画の第1回を担当された,日本医科大学の冨岡譲二先生がリーダーをされている「この指とまれ」(全職種の方が参加可能)や「新メディカルスタッフの部屋」(救急・放射線など)があり,幅広く意見や情報の交換をしています.

 そして,看護婦さん向けの「看護スタッフよもやま話」があります.看護婦さん達を中心に日頃の世間話から仕事場での話に花を咲かせています.

 このほかにもエキスパートナース誌編集部とテルモが協力して開設している「NURSE」というその名のとおりのフォーラムもあります.

 およそ思いつく限りすべての医療・福祉関係者が参加できる場所が確保されているのです.それらが,それぞれバラバラではなく,相互に連携しあって幅広い網の目になっています.それが「ネットワーク」と呼ばれる1つの理由です.

 個人的に好きな仲間だけで1つの場所を確保することもできます.例えば,私が開設している「救急の部屋」と「救急控え室(井戸端会議室)」というものがニフティサーブの中にあります.

 「救急の部屋」は後で触れますが,インターネットの救急災害医療メーリングリスト*2と発言の相互転送を行って,パソコン通信,インターネットどちらからでも参加していただけるようになっています.開設から約半年で100人以上の方に登録をしていただいています.その職種も医師,看護婦,消防官,技師,自衛隊関係者,ライフセーバー,ボランティアなどさまざまです.しかし,「救急」「災害」の現場でどのようにすればいいのかをみんなが対等の立場で話し合っているのです.

 そう,医師も救急隊員も看護婦も立場や地位など一切関係なく,対等に話し合えるのがコンピュータ通信の最も素晴らしい面でもあるのです.

「救急控え室(井戸端会議室)」は,看護婦さんや技師さん,救急隊員といった医療関係者の方が多く参加されています.肩の凝らない気軽なフリートーキングを楽しんでいただけるように開設しています.

 さて,もう一方のインターネットでは,愛媛大学や宮崎医大,札幌医大などをはじめ,しだいに「救急」に関するホームページやメーリングリストが登場しています.

 先ほどの「救急災害医療メーリングリスト」も愛媛大学医学部の中にあります.今まで,多くの新聞や雑誌で取り上げられましたので,読まれた方も多いのではないでしょうか.

どんなことが話題に?

 阪神・淡路大震災以後インターネットの利用価値が重視されはじめました.電話回線1つで情報を即座に全世界に発信し,受け取ることができる.そんな夢のようなことが現実に可能となって,最大限に力を発揮したのです.日本の一都市から発信された情報は,どんな新聞や雑誌,テレビよりも速く地球の裏側まで正確に届いたのです.

 そして,情報を発信した側と受け取った側ですぐに電子メール(インターネットを利用した手紙のようなもの,文字,画像,音声を送ることができます)で話し合えるのです.  では,現実にはどのようなことが話題になっているのか少し触れてみようと思います.

 1 身近なものに応急処置の方法を

 もし,家族の誰かが急に倒れたとしたらどうなさいますか? ほとんどの方は119番通報をすると思います.そんな時,身近に応急処置の方法が書かれたものがあったらいいと思いませんか? 電話の近くにあって,ほとんどの家にあるわかりやすいもの.あなたは何を思い浮かべられるでしょうか.

 私たちのメーリングリストで出た1つの答は「電話帳」です.

 119番通報を受けた消防の指令室員が,的確に応急処置の方法をアドバイスしようとする時にそれがあれば,もっと効果があると思います.そして,それが救命に直結してくるのです.

 2 動く心電図

 題名だけをみると「心電図が動くのはあたり前じゃない」と思われるでしょう.でも,あなたが心電図の勉強をした時にその参考書やマニュアルは動いていましたか? 多分動いていなかったのではないでしょうか.

 もし,実際の心電図のように波形が流れてその中に不整が発生しているようなものだと,もっと実際のそれに近い感覚を身につけることができると思います.

今売られている「動く心電図」は,100万円以上しますが,インターネットでは簡単にそれを動かすことができます.インターネットでできるのなら,普通のコンピュータでも可能なはずです.もしかすると,もう少しすればこのようなソフトが市販されるかもしれません.そうなれば,もっと心電図の勉強が楽しくなるでしょうね.

 3 テレビ電話

 テレビ電話という言葉は,皆さんお聞きになったことがあると思います.現実的にはいかがでしょうか.使ったことがあるという方は極わずかではないかと考えます.

 しかし,インターネットではかなり身近なものになりつつあります.先ほども書きましたが,コンピュータを使った通信では,「文字」,「音声」,「画像」などのデータを簡単に相手に送ることができます.

 それらを組み合わせてテレビ電話のようにするソフトがもう市販されています.

 これらを使えば,インターネット接続会社までの電話代で,地球の裏側ともテレビ電話による通話が可能になります.

 そして,この方法を病院と病院,病院と消防の指令室や救急車とつなげれば,実際搬送されてくる患者さんの様子が目で見ることもできますし,その間に必要な資材の準備も間違いなくできます.そして,救急隊からの情報も病院到着を待たずに受け取ることができるようになります.

 いま,3つの例を書きましたが,堅苦しい話ばかりではなく,日頃の職場の話や趣味の話題,愚痴をこぼすのもOKです.

 同じような悩みや不満を持つのは何処にいても同じですし,だから話しやすいということもあります.

 インターネットでは日本救急医学会のホームページが開設されています.現在はまだ仮開設ということですが,すでに新聞や雑誌で取り上げられ,注目を集めています.将来的には看護部会や救急隊員部会などのホームページも開設されるのではないでしょうか.

 そのうち,このエマージェンシーナーシングのホームページも開設されるかもしれませんね.

おわりに

 コンピュータ通信ではいま,いろいろな情報を自由に受けたり発信したりすることができるようになってきています.看護婦さんの中にも,自分のホームページを開設して積極的に情報を発信,仲間を増やしている人もいます.

 そんな方々のURL(インターネットでの住所のようなもの)と,さらにニフティサーブ「救急の部屋」に参加されている看護婦の方が,この記事のためにナースの立場からコンピュータ通信について書いていただいた電子メールの内容を,最後に掲載して終わりにしようと思います.

 これを読まれた方の中から「新しくはじめてみようかしら」という方が1人でも多く出てきていただけることを心から願います.

 きっと,多くの仲間がご参加を心から待っていることでしょうし,その仲間の輪はあなたが感じているよりも大きいことは間違いありません.

 どうぞ,ドアを開けてくださいね.

 ご質問などは遠慮なく以下まで.
GFE02562@niftyseve.or.jp (伊藤 成治)


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コンピュータ通信を利用して....

町屋滋子

 はじめまして.看護婦で学生をしています,町屋滋子と申します.何を書いていいのやら,と思いあぐねるうちに〆切が近づいてしまいました.

 コンピューター通信と看護という題をいただき,肩の凝らない文章でということでしたので,私自信が約2年のパソコン通信歴の中で考えたことをご紹介しようと思います.


 ひょんなことからパソコンを手にいれ,それも通信の環境を整えてもらったものを手にいれたために,皆さんが「難しくてできない」と思う過程を経験せずに通信を始めました.私はパソコン通信といっても,ニフティサーブしか体験していません.今,話題のインターネットにはパソコンの機能上の悲しさのため,まだ,触手が延びずにいます.

それでも通信を始め,はじめは人の発言を読むばかりでしたが,自己紹介などを書くと返事が来るという楽しみを覚え,いつのまにか2年も経っていたという感じです.


 考えてみると,声も,顔も知らない人と知り合いになるということは奇妙なことです.違和感を覚えないわけでもありません.しかし,融通のきくこともたくさんあります.すなわち,気に入らなければ「知らないふり」も当然可能なわけですから,それを割り切れば心地よいお話相手がたくさんできるわけです.

 私は看護婦ですから医療のことにやはり興味をもち,そのフォーラムに入ってみました.


 「症例研究室」という所は医師ばかりですから少し抵抗もありました.しかし,面と向かってははずかしくて聞けないようなことでも相手は自分のことを知らないと思えば,どんな疑問もさらけ出すことができました.

 日頃疑問に思っていても聞けないことや,疑問に思っていても,どうやって調べたらいいのかわからないということも,ちょっと勇気を出して書いてみると,すっきりした答を出してくださったり,答えが出なくてもここで聞くといいのではないか,などとアドバイスが戻ってきます.それは医学辞典を調べるよりももっと日常語の,的確で応用のきく答でした.もちろん,失礼にならないためには,ある程度の知識を得ようとする努力は必要でしょうが.

 しかし,本でみたことのあるような著名な先生方ともお話することができるのは,通信ならではのことと思います.


 看護の領域では,まだまだ,通信が浸透しているとは言い難いのが現状のようで,医療従事者の中では一番の数を誇る業種であるはずなのですが,ニフティサーブの中のナースフォーラムや,先述の症例研究会,すこやか村といった医療従事者がたくさん登場しそうなフォーラムでも,発言数は多いとは言い難いのが残念です.


 さて,先に書いておられる伊藤氏のホームパーティには,開設当初から参加させて頂いています.救急医療の仲間が集まったものですが,それぞれの現場での悩みや,共通の話題を出し,問題を提起し合い,時には雑談に花を咲かせるという楽しいものです.ここに集まるメンバーにもやはりまだまだ看護婦が少ないのが現状のようです.それでも,同じ救急医療という話題があるので,仲間意識が生まれやすく,「学会で逢おう!」という話がとんとん拍子に決まったりして,それだけでも学会に参加してみようという気分になったりします.同じ職種の仲間もできて,一度も顔を見たことがないのに,仲がよい友達のような気分になったりもします.


 看護の中におけるコンピュータ通信の活用ということについてですが,実際に私にはどのような形で応用が可能なのかは未知数ではありますが,考えつく限りでは,まず,この原稿のように書いたものを手軽に家から〆切に合わせて発送できるということがあるでしょう.郵送では頑張っても限度がありますが通信のシステムでは一瞬の出来事になります.

 文書という面ではほかにも,看護添書の発送.これは院内でも院外でも可能です.現在もすでに導入されている在宅の訪問看護での活用,救急看護の分野では震災時などの情報のやりとりや,看護の継続などに有効であろうことが予測されます.実際の手紙などと違い,同じデータを世界中の何処からでも引き出すことが可能だということが魅力なのでしょう.当然,プライバシー侵害などの危険性はないとはいえませんが.


 簡単に書いてきましたが,パソコン通信の可能性は未知数と思われます.多くの看護婦の仲間が参加し,愚痴をこぼしながらでも看護を語り,そこから何かが変わって行くのではないかと密かに期待している私です.


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