AHA新ガイドライン

第10部(4) 低体温
(Part 10.4: Hypothermia)

目次
はじめに(Introduction)
全ての低体温傷病者に対する一般的な加療
低体温へのBLSの修正
低体温に対するACLSの修正
蘇生努力の見送りと中止
参考文献



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■はじめに(Introduction)

 偶発的低体温症は重篤で予防できうる問題である。重篤な低体温(体温< 30℃[86°F])は重要な身体機能を著明に低下させ、いかにも初期評価にお いて傷病者が臨床的に死亡しているようにみえることがある。しかし、低 体温は心停止下において脳や他の臓器を保護しうるかもしれないとも言わ れている1,2。窒息性心停止(asphyxial-associated hypothermic arrest)に比べ非窒息性心停止 (nonasphyxial arrest)の方が予後が良いにせよ、低体温性の心停止後 には正常な神経学的回復が得られうる3-5。これらを踏ふまえ、蘇生処置 は臨床所見に従って(on the basis of clinical presentation)やめるべきではない4、傷病者は速やかにモニター監視下に復温ができる救命センターへ搬送されるべきである。


■全ての低体温傷病者に対する一般的な加療
(General Care for All Victims of Hypothermia)

 傷病者が極度に冷たいが還流リズムが保たれている時には、救助者はこれ以上体温が奪われるのを予防し、傷病者を加温しなければならない。その手順は以下の通りである。

中等度から重篤な低体温の患者には、治療は還流リズムの有無によらず決まっている。私達はここに治療の概略を提供し、詳細については引き続き述べる。中等度から重度の低体温の加療は以下の通りである。


■低体温へのBLSの修正
(Modifications of BLS for Hypothermia)

 低体温患者が心停止に至っていない場合、利用可能な方法で患者を温めることに注意を注ぐ。 全ての手技を優しく行う(handle the victim gently);身体操作(physical manipulations)で突然VFとなることが 報告されている。

低体温患者が心停止にある場合、BLSの一般的アプローチは気道、呼吸及び循環に重点を置くのは変わりないが、若干の修正点がある。患者が低体温だと(When the victim is hypothermic)、脈拍 数および呼吸回数が少ないか、脈や呼吸の検出が難しいであろう。これらの理由からBLSを行う医療従事者は呼吸を評価しその後脈拍を30〜45秒掛けて評価し呼吸停止、無脈性心停止又はCPRが必要になるほど重度の徐脈であることをはっきりとさせる。患者が呼吸をしていない場合、直ちに救助呼吸を開始する。もし可能であれば、バッグマスク換気に温めた(42〜46℃)加湿酸素を用いる。患者が無脈で循環の徴候がない場合、直ちに胸骨圧迫を開始する。脈がないという疑いが少 しでもあれば、圧迫を開始する。

重症低体温患者にどの体温で最初に除細動を行うか及び何回除細動を行うかは確立されていない。しかし心室頻拍(VT)又はVFがある場合、除細動はすべきである。AEDも使用される。VFが同定されれば、このガイドラインの他の部分に示されたように(Part 5参照“Electrical Therapies : Automated External Defibrillators, Defibrillation, Cardioversion, and Pacing”)、1回のショックの後直ちにCPRを再開する。患者が1回のショックに反応しない場合、更なる除細動は延期し、除細動を繰り返す前に救助者はCPRの継続及び30〜32℃の範囲に再加温することに集中する。核心温が30℃未満なら、再加温がなされるまで正常洞調律に 回復させるのはできないかも知れない。

更なる核心温の低下を防ぐ為、濡れた衣服を取り除き患者の更なる外部への露出を避ける。出来る限りこれらはBLSの最初の段階から行うべきである。これらの初期段階を経た上での(beyond these critical initial steps)、屋外での重症低体温(体温30℃未満)の治療には議論の余地がある。治療者は(屋外では)核心温の評価または積極的再加温を開始する時 間も道具もないが、これらを実施可能になれば実施すべきである。


■低体温に対するACLSの修正
(Modifications to ACLS for Hypothermia)

 意識のない患者や心停止患者に対し、気管挿管は理にかなっている。気管挿管は低体温の状態にあ る患者の処置において、2つの目的にかなう(serves 2 purposes)。すなわち、暖かい湿潤した酸素を用いて効果的な人工 呼吸を行えることと気道を分離して誤嚥の可能性を減らせることである。

 低体温に起因する心停止患者のACLS処置において、初期の治療形態として、より一層の侵襲的 で積極的な加温技術に焦点が向けられている。低温心筋においては、心血管系薬剤やペースメー カー刺激、除細動は反応しないだろう9。さらには薬物代謝が遅延している(drug metabolism is reduced)。重度低体温にある傷 病者において、もし心臓作動性薬剤が繰り返し投与され続けられるとしたら、その薬剤は中毒レベ ルにまで血中濃度が上昇してしまうことが心配される。このため、もし傷病者の深部体温が30℃ (86°F)以下であれば、注射薬はしばしば制限される。もし深部体温が30℃(86°F)以上でなれ ば、投与間隔をあけた上で注射剤の投与は可能である。

 前述したように、VF/VTに対しては除細動が最も適している。もし初期の除細動や薬物治療に反応し なければ、深部体温が30℃(86°F)以上になるまで追加の除細動や薬物投与を控える。徐脈は 重度の低体温状態にあっては病的ではなく(言い換えれば、低体温下において十分な酸素運搬を維 持するのに適している)、心ペーシングは通常適応とはならない。

 病院内において心停止状態にある重度低体温傷病者(深部体温30℃[80°F]以下)に対し ては、急速な加温がなされるべきである。院内における加温コントロール方法としては、暖 かい湿潤した酸素(42℃から46℃[108°Fから115°F])や43℃(109°F)に加温した注射 液(生理食塩水)の投与、加温された液による腹膜灌流、胸腔内チューブを通しての加温さ れた生理食塩水による胸腔洗浄、部分的な体外バイパス (extracorporeal blood warming with partial bypass)4,9,12,14,15や心肺のバイパス16を用いた体外循環させての加温、がある。

 45〜60分以上低体温にさらされていた患者は加温中、血管腔が血管拡張により広がるため、水分ボリュームの負荷が必要である(likely to require volume administration)。ステロイド剤やバルビツレート剤、抗生物質をルーチンに投 与することに関して、生存率を上げたり、蘇生後障害を減弱させたりするようなデータを示すもの はない17,18

 溺水後の低体温であれば、蘇生の成功は望めない。重度の低体温は他の異常(例えば、薬物中毒、ア ルコールあるいは外傷など)によってしばしば引き起こされるので、臨床医は低体温の治療を行いな がら同時にこれら根底にある状態を検索し治療しなければならないからである。


■蘇生努力の見送りと中止
(Withholding and Cessation of Resuscitative Efforts)

 屋外において、傷病者が明らかに致死性の外傷を負って いたり(has obvious lethal injuries)、体が凍結していて鼻や口が氷で閉塞 されていたり胸骨圧迫ができない場合は、蘇生を行わなくて良い19

 低温に長い時間暴露された後で死んでいるように見える患者を、臨床医たちは正常の深部体温に 復温するまでは死んでいると判断すべきでない10,11。心停止後すぐに低体温になっていれば、低 体温は脳と他の臓器を保護する効果を発揮する。しかし低体温の傷病者を発見した時、それが一次 的なものなのか二次的なものなのかを区別することは不可能である。心停止が先かあるいは低体温 が先かを臨床的に知る事は不可能な場合は、救助者はCPRを行って患者の状態を安定化させようとす るべきである。熱の喪失を最小限に抑えて加温を開始するという基本的な手法は開始されるべきで ある。ひとたび患者が院内に到着すれば、医師は低体温状態にある心停止傷病者の蘇生努力をいつ 中止すべきかの臨床判断を下さなければならない。


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