線虫の分与依頼方法
線虫の分与依頼方法
1. 線虫の入手方法について
主な入手先は国内拠点とアメリカの2ヵ所
線虫の入手方法は大きく2通りある。
1つは国内拠点となっている、東京女子医科大学のナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)から発注する方法。
もう1つはアメリカのミネソタ大にあるCaenorhabditis Genetics Center (CGC)へ依頼する方法となる。
NBRPは文部科学省によるプロジェクトの1つで、日本における研究資料としての生物資源の収集、保存、提供を行うプロジェクトとなっている。とくに線虫(C. elegans)に関する業務の中核機関となっているのが東京女子医科大学で、主に国内で単離した遺伝子変異体を提供しており、13,000以上の変異アリルが公開されている。
CGCはアメリカのミネソタ大学で実施されているプロジェクトで、こちらも様々な研究者から寄託された線虫系統を保管、提供している。主に海外で単離された変異体や、主要論文で使われた遺伝子組換え線虫などが提供されている。他にもC. elegans種以外に、C. briggsaeなどの近縁種の線虫も提供されている。
そのほかの入手方法
NBRPにもCGCにも存在しない虫が欲しい場合は、個別に扱っている研究者とコンタクトをとる必要がある。
連絡先が分かっていれば直接コンタクトをとるのが一番手っ取り早いのだが、そうでなければメーリングリスト経由で呼びかけてみるのもよい。
探していた研究者本人の目に止まるケースもあるし、海外の研究者などに知り合いを経由して話を通してもらえたりもする。
初学者、新規参入者にフレンドリーな研究者が多いので、とにかくまずは誰かしらにコンタクトをとってみることをお勧めする。
メーリングリストへの参加や連絡方法については、こちらに詳細があるので参照してほしい。
※入手前に注意すること
2024年現在、日本国内において外来遺伝子をもつ生物を飼育・使用する場合、カルタヘナ法に基づいて適切な拡散防止措置をとらなければならない。
これは線虫も例外ではなく、飼育・実験をおこなう場合はP1Aレベルが必要となる。残念ながら該当する施設を保有しない場合は遺伝子組換え線虫を入手してはいけない。
もし入手しようとしている線虫が、所属する組織・機関内で使用可能かどうか判断に困った場合や不安に思った人は、上記のメーリングリストやNBRPの問い合わせフォームなどを活用して専門家たちに相談してほしい。
2. 野生型の線虫の入手方法
国内拠点(NBRP)に依頼しよう
野生型の線虫が欲しい場合は、 国内拠点(NBRP)の連絡先 に連絡をとろう。
飼育環境についてメールで何点か確認があったのちに、無料で送付してもらうことができる。
また、このとき線虫の餌となる大腸菌(OP50)も一緒に送付してもらうことができる。必要があれば一緒に依頼しておくといいだろう。
3. ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)からの入手方法
注文から受取までの流れ

アカウントのつくり方
1.ログインページを開く
2.ログインボタンを押して「新規登録」を選ぶ
3.使用するメールアドレスとパスワードを設定する
4.入力したメールアドレス宛に承認用サイトのリンクが送付されるので、リンク先で「同意」する
5.氏名、電話番号や住所などの情報を入力する
※送付先の住所として使用することになるので、正確に入力する
6.入力出来たら「確認画面へ進む」を押し、内容をチェックして登録する。
注文方法と料金表
1.欲しい線虫のカテゴリに応じて発注サイトを開く
カテゴリ別リンク | 注文できる線虫 |
---|---|
Mutant | 遺伝子変異株 (変異体アリル名、線虫遺伝子名から検索) |
Pathway | 遺伝子変異株 (KEGG分子カスケードから検索) |
Balancer | バランサー染色体保有株 |
Transgenic | 時間・空間的発現制御 (Cre-loxPシステム) 株 病変モデル: ヒトMAPT(タウ)遺伝子発現株 ヒトSNCA(α-シヌクレイン)遺伝子発現株 |
2.欲しい線虫を検索して買い物かごへ
カテゴリ | 注文方法 |
---|---|
Mutant | 1)あらかじめ入手したい虫のアリル名(tmXXXX)を調べておく。 2)変異体一覧テーブルの左端「Allele Name」の検索欄に、調べたアリル名を入力する。 3)検索結果の中から、欲しいアリルの行の右端にある「Add to Cart」ボタンを押す。 |
Pathway | 1)興味のある分子カスケードのキーワードを「Pathway Name」列の検索欄に入力して検索する。 2)検索結果から該当のカスケードを探し、右端にある数字を押すと関連する遺伝子変異体一覧が取得できる。 3)この中から興味のある変異体について、右端にある「Add to Cart」ボタンを押す。 |
Balancer Transgenic | 1)あらかじめ入手したい虫のアリル名(バランサー染色体:tmCYYYY、トランスジェニック系統:tmInZZZZ)を調べておく。 2)検索機能はないので、スクロールして該当のアリル名を探して右端にある「Add to Cart」ボタンを押す。 |
3.買い物かごの中身を確認する
画面右上のカートから注文系統を確認しよう。このあたりは普通のWebショップの手続きと同じように考えればよい。
4.オプションを選択する
遺伝子変異体の中には、オプションが選択可能なものがある。
ヘテロ接合で維持されている変異体は「バランス交配」が選べる。 また、全ゲノムシークエンスの結果から複数の遺伝子変異をもつことが判明している場合は「分離交配」が選べる。
交配に不慣れであればオプションを選択して依頼してしまうのも手だが、料金が割増しになるのと納期が遅くなる点は留意しておこう。

5.最終発注処理を行う
「申し込み」を選んで、最後に送付先や請求先などの情報を入力すれば発注完了となる。
どちらも自分のアカウント情報を転用できるが、請求部署と研究部署が分かれている場合は個別に入力しよう。
また【研究代表者の情報】の入力欄があるが、こちらは後に送られてくる分譲合意書上で研究部署・機関の責任者として反映される。
そのため、学生・大学院生や研究員として研究している場合は、自身が所属する研究室の教授や部署の責任者の情報を入力しよう。
料金表
種類 | 系統手数料(系統あたり) | |
---|---|---|
学術機関(学校法人、国立研究機関など) | 非学術機関(企業など) | |
遺伝子変異体 | 1,200 円 | 10,000 円 |
交配済*1変異体 オプションサービス*2を選択した変異体 | 2,400 円 | 20,000 円 |
バランサー染色体保有株 時間・空間的発現制御 (Cre-loxPシステム) 株 病変モデル:ヒトMAPT(タウ)遺伝子発現株 病変モデル:ヒトSNCA(αシヌクレイン)遺伝子発現株 (いずれも外来遺伝子組換えあり) | 1,200 円 | 10,000 円 |
※これに加えて、注文ごとの手数料として200円が別途かかる。消費税率は一律10%。
*1 潜性致死・不稔の変異は、バランサー染色体とヘテロ接合になるように交配したものが提供されている。
また一系統に複数の遺伝子変異をもつ場合、個別の遺伝子変異を単離するために交配したものが提供されている。
*2 発注時に選ぶ「バランス交配」ないしは「分離交配」のオプションサービスのこと。
注文してから届くまで
1.同意書の受信
発注が完了すると、eメールで試料移転合意書(Material Transfer Agreement : MTA)がPDFで届く。
MTAのサンプルはこちら
これは研究試料の譲渡にあたっての規約などが書かれた合意書となるので、内容をよく確認しておくこと。
※もし合意できない点があれば、ただちにNBRPに連絡をしてあらためて契約内容について相談してほしい。
2.請求書の受信
発注後、およそ7-10日*3ほどしてNBRP側で虫の準備ができると、PDF形式の請求書がeメールで送られてくる。
請求書のサンプルはこちら
このときの送り先は、アカウント作成のときに「請求先:eメールアドレス」で指定したアドレスになる。
3.料金の支払い
請求書が届いたら、書面のリンク先からクレジットカードで支払いを行おう。
支払い方法はクレジットカードのみで、銀行振込などには対応していないので注意しよう。
4.虫の受け取り
支払いが完了したら、だいたい一週間以内には虫の発送通知がeメールで送られてくる。
発送通知を受信してから数日(連休、年末などを除く)もすれば、線虫のいる寒天培地がプラスチックシャーレに入って配送されてくるだろう。
国内だと長くても一週間あれば届くはずなので、届かない場合はNBRPへ連絡しよう。輸送トラブル疑いがある場合は無料で再送してくれる。
*3 交配のオプションサービスを選んだ場合は、20-30日ほどかかる。
4. CGCからの発注方法
詳細はCGCのウェブサイトを参照してほしい。
アカウントのつくり方
CGCのアカウントは、まず研究室ごとに代表アカウントを1つ保有することを想定している。
そのため、まずは研究代表者(PI)や研究室のマネージャーなどの名義でアカウントを作成するよう指定されている。
そのうえで個人アカウントを作成しよう。発注状況の確認などは個人アカウントからできる。
監修者
末廣 勇司(東京女子医科大学所属、NBRP線虫 課題管理参加者)
https://ys-ebase.net/