医学生・医師のライフキャリアワークブック

著者の 賀來 敦 先生よりご恵贈いただきました。

“本書は、医師とキャリアコンサルタントが共同で作成した、本邦初の『医学生・医師向けキャリアワークブック』です。キャリアコンサルタント倫理綱領に基づき、個人の選択の自由と自己決定権の尊重に重点を置いています。”とはじめに書いてあるように、当事者の個人の選択の自由と自己決定権の尊重に重点を置いています。特に印象に残った内容を簡単にまとめました。

「医学教育におけるプロフェッショナルロールモデルとキャリアロールモデル教育の混同」

“燃え尽き症候群を誘発しうる、医業者としての就業継続や現場復帰を目的とした教育や、プロフェッショナルロールモデルとキャリアロールモデル教育の混同例も時折散見されます。”

“キャリア教育におけるロールモデル (役割モデル) は生き方の例示モデルであり、学習者自身の価値観・興味の再認識に用いる。一方、プロフェッショナリズム教育のロールモデルは、プロフェッショナルの役割期待モデルとして目指すべき理想の医師像や望ましい価値観・役割の提示に用いられる”

“キャリア教育では複数人の役割モデルから、共感できる興味/価値観のパーツを一部ずつ取り出し、パーツを組み合わせて自分という概念モデルをくみ上げていく。すなわちアイデンティティ確立のための手法であり、また自己概念と外的環境とのすり合わせに用いることも可能だ。”

「キャリア教育を行う教員の倫理」

“「提示された医師像を”目指さなければならない”」といった義務感/責任感の醸成が、燃え尽きを増加させうる危険性はあまり知られていない。その防止にはAlbert Banduraの社会的学習理論の観察学習に沿った介入が必要だ。”

“人は自分で行動を決めていると感じている時は内発的に動機づけられ、他人から統制されていると感じる時は外発的に動機づけられる。社会への使命などを利用して、教育の中で、選択の自由を制限すると他者に行動を決定されたと感じ、自分で行動を決定したという感覚が失われる”

“日本では、燃え尽きにくいスキルとして「レジリエンス」が注目されてきている。だが、そもそも燃え尽き症候群は組織の問題であり、個人の問題ではないということが現在のコンセンサスだ。”

“レジリエンスがないから燃え尽きたとすることは、組織問題を個人へ押し付けて責任を追わせることとなるため慎むべきとされている。レジリエンスを高める教育の提供は必要だが、レジリエンスが高いことを求めてはならないということに留意しなければならない。”

“医学プロフェッショナリズム教育・キャリア教育で特に注意をしなければならない点は、なんといっても教育を実施している人間 (教官や指導医) にとって、その対象者は明確に「弱い立場の人間」であるということであり、教育者はそのことを強烈に認識しなければならない。”

“自分が直接指導している学生や研修医を対象にコンセンサスが完全に一般化していない価値観を求めるということは、キャリア教育ではやるべきではない。倫理を一言で言うならば「支援される側が嫌だなと感じることについて、どれだけしなくて済むように工夫するのか?」”

「SDHへの対応と燃え尽きの関係」

SDH(健康の社会的決定要因)への対応が医療者の燃え尽きを増やすという報告は複数存在するという記載も大変重要なテーマだと思いました。

“SDHへの対応は複雑で要求度が高いことがしばしばであり、医療者のストレスを増やすとされる(https://doi.org/10.1353/hpu.0.0163 )”

“一方で、SDHへの対応は、逆に医療者の燃え尽きを減らすという報告もある。…患者の社会的なニーズに対応できると思えているプライマリ・ケア医は、燃え尽きが少ないことが知られている (https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31891-9 ;https://doi.org/10.3122/jabfm.2019.01.180104 )。そのような認知につながりやすいのは、勤務先に医療ソーシャルワーカーや薬剤師などの多職種がいる場合とされている。 “

“燃え尽きの予防のためには、「私に」何ができるか、ではなく、(チームとしての)「私たちに」何ができるか、という考え方で課題に取り組むことが望ましい(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29924700/ )”

その他

Krumbotzの社会的学習理論、ワークライフバランスおよび8つのライフロールなども取り扱っており、キャリア教育を行う上で大事な内容が詰まっていると思いました。

“Krumbotzの社会的学習理論によれば、キャリア開発は自分の行動に変化をもたらす経験 (“学習”) の結果である。キャリア選択の多くは偶然の出来事に左右されるが、日頃の “学習” 行動が都合の良い偶然を引き寄せチャンスに変えることにつながる。”

“Krumboltzの主張は一貫している。計画外の出来事の重要性を認識し、興味に基づいて行動し、チャンスを活かすための注意深さを持つこと、そして行動の妨げとなる思い込みを潰すことである。”

“WLBは、「ワーク (仕事)」と「ライフ (プライベート)」の2つのバランスを天秤にかけ、均等に取ることととらえられているが、実際にはもう少し多くの側面を持っている。Donald E. Superは、人は人生において8つの役割を持つと述べ、これを「ライフロール」と呼んでいる。”

私のキャリアは、Krumboltzのキャリア論に大きく影響を受けています。個人的には、Krumboltzの話をする際には、これまでキャリアアンカーの話もセットでしていたのですが、本書では、その前までの章で十分に価値観や能力への洞察を深めるワークが入っていますので、こちらに代替しようと考えています。

医学生・医師自身が読むだけでなく、医学生・若手医師のキャリア教育・支援に携わっている方々にもぜひ手に取っていただきたい一冊です。

書籍情報はこちらから御覧ください。サポートページからワークシート一式もダウンロードできます。

やればやるほど成功パターンが体にしみこむ 医学生・医師のライフキャリアワークブック

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