FINEニューズレター編集委員会用記事
16/May/2002
- 製薬会社の「剽窃」を禁止する計画
- 英国、モーニング・アフター・ピル禁止の棄却する判決
- 米国、純潔運動の高まり
- 欧州人権裁判所、英国女性の積極的安楽死の願いを認めず
新聞記事の要約です。
固有名詞の訳はあんまり調べてません。
間違ってるのがあれば教えてください。
This is a summary of recent news articles relating (directly or
indirectly) to applied ethics.
1. 製薬会社の「剽窃」を禁止する計画
(from The Guardian Weekly, `Deal aims to end 'piracy'
by drug firms', April 25-May 1, 2002)
発展途上国の薬草とその知識を国外に持ち出し、特許を取って金もうけをする
先進国の製薬会社の「bio-piracy」を国際的に禁止するガイドラインが作成さ
れた。
この「利益の公平な配分equitable sharing of benefits」というガイドライ
ンは、先週(4月中旬)にハーグで行なわれ182ヶ国が参加した生物多様性会議
において決議された。
bio-piracyの批判は主に米国の製薬会社に向けられており、
これらの会社はしばしば発展途上国の現地の人間から聞き出した知識を用いて、
一つの植物をまるごと、あるいはそれから取り出される薬に対して特許を取っ
た。そのため、このガイドラインでは、製薬会社が現地の人から情報を得る前
にインフォームド・コンセントを取るように義務づけている。
米国はこの国際協定に署名はしたが批准はしておらず、
したがってハーグの会議においてもオブザーバでしかなかった。
一口コメント
これも先進国による発展途上国の搾取の一形態だろう。
特許というのは世界的に見るとほんとに深刻な問題だ。
関連サイト
-
-
2. 英国、モーニング・アフター・ピル禁止の棄却する判決
(from The Guardian Weekly, `Judge rejects ban on pill',
April 25-May 1, 2002)
英国の中絶禁止派の団体がモーニング・アフター・ピルの販売禁止を求めて
高等法院に訴えでていたが、4月18日の判決で、この訴えは棄却された。
この訴訟は「まだ生まれていない子供の保護団体」
(SPUC: the Society for the Protection of the Unborn Child)が
厚生省、家族計画団体および製薬会社のシェーリングに対して起こした訴訟で、
SPUCはモーニング・アフター・ピルは流産を引き起こす薬だとしたが、
裁判官は『胎児が子宮に着床していない段階は法的に妊娠していない』
としてこの訴えを退け、
また個人の自律尊重の原則からして、
ピルを飲むかどうかという選択は個人に任せられるべきだとした。
SPUCは控訴院に訴える許可を申請中である。
一口コメント
胎児がいつ人格になるかとか、
女性はいつ妊娠するのかという問題が再燃する予感がする。
関連サイト
英国でモーニングアフターピルが違法になる可能性を参照のこと。
- Lesson improves knowledge of morning-after pill
- ananovaの記事。14才から15才の生徒にモーニング・アフター・ピルについての
指導をすると、性行為をさほど奨励することなく生徒の知識をかなり高める
ことができたという英国の研究。
- Pupils to get free contraception
- 英国の保健省が、ティーンエイジャーの妊娠を減らすために、
中高生にタダでコンドームを配る予定、という話(BBC News)。
- Abortion access to be made easier
- BBCの記事。英国で妊娠中絶ピルが家族計画クリニックなどで
手に入るようになるようだ。
ただし、医者に相談して処方してもらう必要があるとのこと。
妊娠9週間以内なら薬を飲むことで中絶ができる。
これまでも、病院などでは入手可能だったそうだ。
ヨーロッパの多くの国ではすでに10年ぐらい前から入手可能で、
米国でも2001年ぐらいから販売されているようだ
(US gives go ahead to abortion pill)。
- ピルとのつきあい方
- ピルに関する総合情報ページ。日本語。
3. 米国、純潔運動の高まり
(from The Guardian Weekly, `Bush promotes virgin values
in campaign to curb teenage sex', May 2-8, 2002)
ブッシュ大統領を筆頭にした保守派の勢力は、性教育ではなく純潔教育こそが
優れた福祉政策だとして、連邦議会にキャンペーン用の予算を求めている。
もともと保守派のキリスト教グループの運動から始まった純潔運動は、
ブッシュが大統領になってから、
「セックスしないのが一番のセーフ・セックス(no sex is safe sex)」
という標語のもと、米国の福祉政策の基礎になりつつある。
彼らは、婚前交渉をしないことは、道徳的な根拠だけではなく、
医学的な根拠からも正当化されると主張している。
すなわち、ブッシュ大統領が述べたように、
「禁欲こそが望まない妊娠や性病を防ぐ一番確実で効果的な方法」なのである。
米国ではティーンエイジャーの性行為は大きな社会問題である。
CDC(The Centres for Disease Control and Prevention)の調査によれば、
高校卒業するとき、若者の3人に2人は性行為を経験しており、
そのうちの4分の1が毎年性病に罹患している。
この問題に関するリベラルな意見は、
『若者はどれだけ大人が注意してもセックスするのだから、
セーフ・セックスを中心とした性教育をしっかりやるべきだ』というものである。
それに対し、保守派の意見は、
『純潔の誓い(virgin pledge)をすることによって約18ヶ月性行為を遅せることが
できるばかりか、人間関係にも質的な違いを生み出す』というもので、
したがって行なうべきことは性教育ではなく純潔教育だとする。
また、保守的な雰囲気が全国的に強まるなか、
『現実的に見れば若者には性教育を行なうべきだ』
というリベラルな意見は公表しにくくなっている。
「今日の米国では、
子供やティーンエイジャーがセックスの快楽を楽しみつつ、
安全でいることもできると述べた本を出版することは不可能である」
と序文で書いたジュディス・ルヴィン(Judith Levine)の本は、
多くの出版社から出版を拒否され、
最終的にミネソタ大学出版が引き受けたものの、
保守的な団体から発禁を求める運動が続いている。
禁欲運動を研究しているコロンビア大学のある社会学者は、
若者たちは純潔の誓いをすることによって、
「重要なアイデンティティの感覚を持ち、
自分がエリートの道徳的共同体に属しているという意識を持つ」
と述べている。
一口コメント
たしかに、性教育をやることは性行為を奨励することにつながりかねないという
おそれはわかるが、学生がセックスしないというのは現実的ではないし、
セックスはピア・プレッシャー(友人からの圧力)とかもあるから、
きちんと教育する必要がある(いつからやるかというのは悩ましい問題だが)。
性教育とともに性行為と人間関係について教えるのが重要なんじゃないかな。
あと、中高でも性病の検査を強制的に受けさせるとか。
関連サイト
- Experts struggle to boost prophylactics among teens
- 日本のコンドームの使用についての最近のジャパン・タイムズの記事(10/May/2002)。
日本で性病や中絶が増えているのは、コンドームの使用が足りないのと、
性教育が不十分だからなので、インターネットなどで若者にもっと効果的に
セーフ・セックスのメッセージを伝えなければならない、というような内容。
1999年の日本性教育団体の調査によると、高校生の4人に1人
(25年前は20人に1人)、大学生の2人に1人
(25年前は女性は10人に1人)がセックスを経験している。
- Britney should purge her sins, says local church
- 純潔運動のアイコンであったブリットニー・スピアーズが結婚前に
セックスしたり、未成年飲酒をしていたという報道を受けて、
彼女の出身地のルイジアナの教会が批判的なコメントを出しているという話
(14/May/2002)。
4. 欧州人権裁判所、英国女性の積極的安楽死の願いを認めず
(from The Guardian Weekly, `Final plea for suicide
rejected', May 2-8, 2002)
積極的安楽死を求めて欧州人権裁判所に訴え出ていた英国の末期患者の裁判で、
患者に死ぬ権利を認めない全員一致の判決が出された。
運動ニューロン病(MND: Motor Neuron Disease)患者であり、
すでに首から下は全身麻痺の状態にあるダイアン・プリティ(43才)は、
彼女が死ぬのを夫に手伝ってもらうことが法的に許可されることを求めて
欧州人権裁判所に上訴していたが、
17人の裁判官が全員一致で出した判決は、
欧州人権規約と英国の人権法で保証されている生命権と非人間的な治療の禁止は、
政府が安楽死を許可する義務を意味するものではないとし、
自殺幇助を禁止する英国の自殺法はダイアン・プリティの人権を侵害していない
と結論した。
判決後、ダイアン・プリティは車椅子に装着された音声合成装置を用いて、
「法はわたしの権利をすべて奪ってしまった」とコメントした。
ダイアン・プリティは判決後、急速に容体が悪化し、
5月12日に病院で息を引き取った。プリティ氏と英国安楽死協会は、
英国の法の改正を求めてウェブサイトを立ち上げ、署名活動を行なっている。
英国では自殺は犯罪ではないが、自殺幇助は最高7年の懲役刑を伴う犯罪である。
公訴局長官(the director of public prosecution)
のデヴィッド・カルヴァート=スミスは、プリティ氏が妻を安楽死させた場合に
告訴をしないという約束をすることを拒否していた。
一口コメント
たぶんもうすこしリベラルな判決が出ると思っていたのだが…。
もうちょっと判決の内容と含意を分析する必要がある。
関連サイト
- ダイアン・プリティ裁判: 積極的安楽死を求める英国のMND患者
- こないだ日本生命倫理学会のニューズレター用に書いた記事。
- 英国のMND患者、安楽死を求めてハンガーストライキ
- このニュースの関連サイトも参照のこと。
- CHAMBER JUDGMENT IN THE CASE OF PRETTY v. THE UNITED KINGDOM (European Court of Human Rights)
- 判決の全文。
- British woman denied right to die (BBC News)
-
- European right to die judgement (BBC News)
-
- 'It is wrong to say people can die'
- 今回の判決に対する賛成、反対の議論。
- Diane Pretty loses right-to-die fight (Ananova.com)
-
- Anti-euthanasia group welcomes right-to-die judgment (Ananova.com)
-
- Diane Pretty loses right to die case (The Guardian)
-
- Diane Pretty loses right-to-die case (The Times)
-
- Euro court denies right to die (The Daily Telegraph)
-
- Euro court rejects Diane Pretty's 'right to die' appeal (The Independent)
-
- Euro court denies Pretty appeal (London Evening Standard)
-
- Diane's death will be 'glad day' (BBC News)
-
- My journey with Diane (BBC News)
-
- What it's like to help someone die (BBC News)
-
- Diane Pretty says law has violated her rights (Ananova.com)
- 判決に対するダイアン・プリティのコメント。
夫は署名を集めるためにwww.justice4diane.org.ukというサイトを立ち上げるようだ。
- Q&A: European Court of Human Rights
- 欧州人権裁判所についてのQ&A。
- Pretty condemns right-to-die ruling
-
- Diane's Cry
- BBCテレビでやる番組の紹介。
- Please Help Me Die
- 同上。番組はネットでも見れる。
- Husband's tribute to Diane Pretty
- ダイアン・プリティが死んだというニュース。
- Diane Pretty has died
-
- Tributes paid to Diane Pretty
-
- 5/13 「自殺を手伝ってもらう権利」を認められないまま、全身不随の英国人女性、ついに死亡
- Internet Journeyの記事(日本語)。
-
尊厳死選ぶ権利を求めていた女性が死亡 英国
- 毎日の記事(2002年5月13日)。
- Death by another's hand a 'slippery slope': The Diane Pretty case.
- ケンブリッジの法学部で医療法学・倫理学を教えているJohn Keownによ
る記事。
- ukonline.gov.uk: Newsroom: The Euthanasia Debate
- 安楽死問題に関していろいろなリンクがある。
- BBC - Religion & Ethics - Diane Pretty's Case
- 欧州人権裁判所での判決を、欧州人権規約に則って説明している。
- SUBMISSION TO HOUSE OF LORDS DIANE PRETTY
- 英国貴族院での判決の前にカーディフの大司教が貴族院に提出したカト
リックからの声明。
生死は神が決めるものであるし、自殺幇助や安楽死を認めると弱者が
危険にさらされるという論調のようだ。
- nancycrick.com
- オーストラリアでダイアン・プリティのように安楽死を求めたが許さ
れずに死んだ女性のサイト。2002年5月に死ぬまで書いていた日記が読
める。
- Briton's assisted suicide goes ahead
- 1月20日、英国の74才のMND患者が、
積極的安楽死を事実上認めているスイスのチューリッヒで、
「ディグニタス」という自殺幇助援助団体の力を借りて
バルビツールで安楽死を遂げたという話。
Satoshi KODAMA <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Wed Jan 29 14:02:34 JST 2003