FINEニューズレター編集委員会用記事
07/Mar/2002
- 英国のMND患者、安楽死を求めてハンガーストライキ
- 英国初のデザイナーベビーの承認
- ケニヤの家族計画クリニック、米国の方針転換により閉鎖へ
- 英国、ES細胞研究を認可
- 英国、イースターごろに狐狩り全面禁止の法案採決か
- 米国の学校でダーウィン禁止
新聞記事の要約です。
固有名詞の訳はあんまり調べてません。
間違ってるのがあれば教えてください。
This is a summary of recent news articles relating (directly
or indirectly) to applied ethics.
1. 英国のMND患者、安楽死を求めてハンガーストライキ
(from ananova.com (http://www.ananova.com/news/story/sm_528094.html))
英国で或るMNDの末期患者が、
自発的安楽死を禁じる法の改正を求めてハンガーストライキを始めた。
運動ニューロン病を患っている37才の男性フィル・サッチ(Phil Such)は、
ブレア首相に宛てた手紙の中で、
下院で自発的安楽死の問題を取り上げられるまでは一切食事をしないと書いた。
現行の英国法によれば、
安楽死のために自殺幇助を行なうことは違法である。
サッチ氏は2000年10月にMNDと診断され、現在はすでに四肢の自由がなく、
会話も自由にできない。
3月には別のMND患者のダイアン・プリティが、
自分の夫の助けで自殺する権利を、
欧州人権裁判所に訴える予定である。
関連ニュース
- Daughter speaks out in right-to-die battle
- ダイアン・プリティの24才の娘も、
安楽死を求める母の意見を支持しているという話。
- Woman battles for right to die
- 脊椎(頚骨のあたり)の血管が破裂したために自発的呼吸ができなくなり、
人工呼吸装置に頼って生きている英国女性が、
自分の意志から装置の停止を求めて高等法院に訴えたという話。
意識がある当人が消極的安楽死を求めるこのようなケースは初めて。
- Paralysed woman in court battle for right to die
- ananovaの上と同じニュース。
- Woman tells judge at bedside to let her die
- ananovaの上と同じニュース。裁判のために患者のベッドの横に裁判官が立って
質問をした、という話。
- Judge fears 'emotional involvement' in right-to-die case
- ananovaの上と同じニュース。患者の同意能力をチェックした精神科医が、
「感情がわれわれの理性を支配しているのであり、
その逆ではない」というヒュームのような発言をしている。
- 'I'm not Christopher Reeve' says right-to-die woman
- ananovaの上と同じニュース。お金が一番の問題であるわけじゃないけど、
わたしはクリストファー・リーヴのように金持ちじゃないから、
どんな治療にでもお金が払えるわけじゃない、と患者が言っているという話。
- Doctor 'ready to respect wishes of right-to-die woman'
- ananovaの上と同じニュース。医者たちは考えを変え、
患者の意思を尊重して、
他の病院に移ってもらって安楽死してもらってもかまわないと
考えるにいたったという話。
- Right to die case woman hears plea on doctors' behalf
- ananovaの上と同じニュース。こういう事例を裁判所が許すと、
医者に余計な精神的負担がかかるからやめてくれ、という話。
- Battling on behalf of the right to die
- デイリーテレグラフの記事。ダイアン・プリティと上の安楽死を求める女性の
二つの事件を同時に扱う弁護士に照明を当てた記事。
- 'Law lords misled in right-to-die legal battle'
- BBC NEWSの記事。VES(自発的安楽死協会)が、
内務省が他の国の安楽死事情について貴族院判事に誤った情報を与えたと
批判しているという話。
- Right-to-die woman in Europe plea
- BBC NEWSの記事。
今日3月18日から、
欧州人権裁判所でダイアン・プリティの裁判が開始するという話。
- Right-to-die woman takes fight to European court
- ananovaの同じ記事。
- Lawyers battle at human rights court over Diane Pretty's right to die
- ananovaの同じ記事。
- Paralysed woman wins right to die
- ananovaの記事。3月22日に、
上記の人工呼吸装置の停止を求めていた女性に対し、
高等法院が同意能力を認め、停止を許可を下したという話。
どうも上訴はないようだ。
- Paralysed woman's delight at being allowed to die
- ananovaの記事。上の女性が判決に喜んでいるという話。
- Euthanasia opponents dismiss Miss B case implications
- ananovaの記事。上の判決の含意について、
安楽死反対の人々は「すでに認められていたことが認められていただけ」
と話し、
この判例によって「死ぬ権利」
が認められたわけではないと主張しているという話。
- Paralysed woman given right to die
- BBC NEWSから。上と同じ話。関連リンクがたくさんある。
- Paralysed woman wins right to die
- Guardianから。上と同じ話。
- Diane Pretty case ruling on Monday
- Ananovaの記事。月曜日に欧州人権裁判所の判決が出るとのこと。
2. 英国初のデザイナーベビーの承認
(from the Guardian http://www.guardian.co.uk/genes/article/0,2763,655805,00.html)
2月22日、英国で初めての「デザイナーベビー」の出産が認可された。
HFEA(Human Fertilisation and Embryology Authority ヒト受精・発生学委員会)
の承認により、
サラセミア(遺伝性貧血)に苦しむ息子を助けるためにIVFと遺伝子スクリーニング
を用いた出産がノッティンガムの診療所で行なわれることになった。
体外受精の技術を用いて出産される予定のこの赤子は、
通常の体外受精の過程において、
特別に二度のスクリーニングを受ける。
一つは生後サラセミアになる可能性を排除するためで、
もう一つは兄(Zain)のドナーになるための遺伝子適性を持つことを確認するためである。
(着床前遺伝子診断 PGD pre-implantation genetic diagnosis)
胚が八分割した段階でその一つを切り取り、
その細胞を米国の研究所に送ってスクリーニングし、
検査に合格するものがあれば胚が母体の子宮に戻される。
子供が無事に出産されると、臍の緒から取られた血液が冷凍され、
後に兄の骨髄の代わりに用いられる。
今回の事例に関しては、他の人間の利益のために子供を産むのは不正であるとする
人工妊娠中絶反対団体のライフやその他の人々からの批判や、
ドナー適性のために胚をスクリーニングするのは「美」や「知性」
のためにスクリーニングすることへと至るすべり坂だという批判がある。
他方、今回の家族(Shahana and Raj Hashmi)や、
先日米国で同様の治療を受けて英国で出産した家族は、
これは「デザイナーベビー」ではないと言っている。
母親は昨年ITVでのインタビューでこう語った。
「わたしたちが求めているのは科学者の助けだけです。
この子供は自然によってわたしたちに与えられるのであり、
科学者のすることといえば、
わたしたちが欲しい子供を確実に得られるようにするだけです。
科学者は何もデザインしません」。
関連ニュース
- Couple given permission to create baby to save life of critically-ill son
- Independentの同じニュース。HFEAのコメントや、
米国での最初の例についての説明もある。
- イギリスが受精卵のスクリーニングを承認
- hotwiredのニュース(日本語)。
- IVF designer baby dangerous, says ethics expert
- ananovaのニュース。
ある医者(アンソニー・コール)が、
HFEAの決定は世界的なデザイナーベビーの流行を生み出す危険な前例だという
批判をしている。
- Six couples seek 'ethical' designer babies
- 今回の決定を受けて、英国ですでに六組のカップルが同様の出産を
予定しているという話。
- 「着床前診断」の問題点――ヨーロッパにおける議論――
- Dietmar Miethの論文"Preimplantation diagnosis ― points to consider"
を紹介したもの
- 99/03/11 第4回生殖補助医療技術に関する専門委員会議事録
- 議事は「ヨーロッパの生殖補助医療の現状と法制度について」。
イギリスやドイツの話がなされている。
- Watchdog Group Calls for Ban on Sex Selection
- HFEAが二人以上の同じ性の子供を持っている家族に男女の生み分けを
許すべきかどうかを検討しているのに対し、Human Genetics Alertが
男女の生み分けを許すとすべり坂になると論じている。
- Donor baby 'a step closer'
- BBCの記事。4才の子供の病気を治すため、英国のカップルが米国のシカゴに
渡り、スクリーニングによる移植適合を確認して赤子を出産する、という話。
臍の緒のES細胞を使えば治るそうだ。
3. ケニヤの家族計画クリニック、
米国の方針転換により閉鎖へ
(from BBC NEWS: Kenya split over Bush abortion policy (http://news.bbc.co.uk/hi/english/world/africa/newsid_1837000/1837283.stm))
ケニヤの家族計画団体によって運営されている診療所は、
米国からの資金援助が打ち切られるために、閉鎖することになった。
この資金援助の中止は、ブッシュ大統領が当選したのちに、
人工妊娠中絶反対の団体の意見を入れて決定したものである。
しかし、こうした診療所が主に提供しているのは産児制限のための避妊注射や、
乳ガンや子宮ガンのスクリーニングであり、
これらの診療所が閉鎖すると、かえって人工妊娠中絶が増加することが予想さ
れている。
ケニヤでは中絶は違法だが、違法中絶クリニックにおける中絶が毎年後を立たない。
ケニヤの中絶反対派の人々は米国の決定を歓迎しているが、
今回の決定でもっとも影響を受けるのは、貧しくて多くの子供を育てられないために、
妊娠した場合には違法の中絶クリニックに頼らなくてはならなくなるような女性たち
である。
4. 英国、ES細胞研究を認可
(from BBC NEWS: Lords back cloning research (http://news.bbc.co.uk/hi/english/sci/tech/newsid_1843000/1843368.stm))
米国で禁止されているES細胞の研究が英国の貴族院委員会で認可された。
胚のクローニングも含め、
ES細胞を用いた研究は厳格な条件の下で行なわれることになる。
ES細胞研究の規制は、HFEAが行なうことになる。
かつてスーパーマンを演じ、
現在は1995年の乗馬事故のために
全身麻痺になったクリストファー・リーヴは、
この決定を歓迎し、治療のために英国にやってくる可能性を示唆している。
関連ニュース
- Stem cell research expected to get Lords backing
- ananovaの記事。決定が出る前。
- Go-ahead for strictly controlled stem cell research on embryos
- ananovaの記事。決定が出た後。
- Cloning embryos 'would create huge black market'
- ananovaの記事。国連のヒトクローニングに関する委員会で、
米国がヒト胚を含めた一切のクローニングの研究を国際的に禁止しようと
しているという話。
- Paralysed actor welcomes embryo research ruling
- ananovaの記事。クリストファー・リーヴが今回の決定を歓迎しているという話。
- Two clinics licensed for embryo research
- ananovaの記事。
すでに二つの研究所に対してHFEAからES細胞研究の許可が降りたという話。
- Canada set to allow use of 'leftover embryos'
- カナダでは、英国のように胚のクローニングは許されないが、
IVF治療などで余った胚を研究に使用することは許される予定という話。
- JAPAN PERSPECTIVE / ES cells debate reveals cultural gap
- 日本と欧米のES細胞研究に対する見解の比較。
日本人は文化的に脳死や臓器移植に抵抗感があるが、
中絶やES細胞研究にはあまり抵抗感がない、
つまり生の終わりは重視するが生の始まりについてはあまり尊重しない、
というような話が述べられている。
5. 英国、イースターごろに狐狩り全面禁止の法案採決か
(from BBC NEWS: Hunt ban timetable to be outlined http://news.bbc.co.uk/hi/english/uk_politics/newsid_1845000/1845591.stm)
スコットランド議会の決定に引き続き、
英国議会でも狐狩りを全面禁止する議案が、
早ければイースター前に採決される予定である。
ウェストミンスター議会では、
下院ですでに全面禁止の可決が二度行なわれたが、
上院が反対の姿勢を示している。
予想では、今回は下院が全面禁止、上院が規制を支持し、
最終的には両者の妥協策が提案されるだろうと考えられている。
関連ニュース
- Fox Hunting Debate
- BBCによる狐狩り廃止論争のまとめ。
- Special Report: Hunting
- Guardianによる狐狩り廃止論争のまとめ。
Guardianの論調は明らかに廃止を支持している。
- MPs vote on hunting's future
- BBCの記事。
3月18日に、英国下院で狐狩りを禁止するかどうかについて予備的な投票がある
という話。19日には貴族院でも行なわれる。党の方針に拘束されない投票で、
この投票次第では、イースターまでに法案が提出される可能性があるとのこと。
- MPs back hunting ban
- BBCの記事。上の話の続き。下院では、
386対175で全面禁止のオプションが選ばれたという話。
- Peers vote against hunting ban
- ananovaの記事。貴族院では全面禁止のオプションは否決され、
`Middle Way'と呼ばれる狐狩りの認可制への移行が支持されたという話。
「多数派が禁止を望んでいるから法的に禁止するというのでは、
同性愛や喫煙も法的に禁止すべきことになる」と述べる議員も。
- Lords compromise on hunting
- BBCの上と同内容の記事。
- NYPD Blue star goes naked for anti-fur campaign
- ananovaの記事。女優のシャーロット・ロスが、
PETA(動物愛護協会)のために一肌脱いだという話。
- Designer and MP deliver anti-hunting plea
- ananovaの記事。
ポール・マッカートニーの娘のステラ・マッカートニーが下院の議員と一緒に、
政府に狐狩り廃止の訴えを行なったという話。
- Defiant huntsmen plan legal challenge to ban
- ananovaの記事。
- Pro-hunting group promises 'summer of discontent'
- ananovaの記事。狐狩支持団体が大規模なキャンペーンをするという話。
- Foxes unaffected by hunt ban
- Guardian Weeklyの記事(September 12-18 2002)。去年の口蹄疫のあいだ、
狐狩りがほぼ1年間禁止されていたが、そのあいだに狐の数はほとんど増えな
かったという研究が出された。
これにより「狐狩りをやめると狐が増える」という狐狩り賛成派の議論は
根拠がなくなる、という話。
6. 米国の学校でダーウィン禁止
(from The Observer US schools ban Darwin from class http://www.observer.co.uk/international/story/0,6903,656228,00.html)
米国のますます多くの州で、
宗教的理由から進化論を学校で教えることが制限されつつある。
『サイエンティフィック・アメリカン』誌の調査によると、
45%の米国人が、
人間と地球は1万年前くらいに神によって作られたと信じている。
1996年に、ローマ法王のジョン・ポール二世によってカトリック教会が進化論を受けいれていることが再確認されたにもかかわらず、
米国の4割のカトリック教徒は神が数千年前に人間を創造したと信じている。
反創造説のダーウィン・デイ・グループのアマンダ・チェスワースによると、
ミシシッピ州の新聞ではローマ法王はもうボケているから無視してよい
という意見が主流であった。
創造説は、伝統的にキリスト教勢力の強い南部だけではなく、
北部のオハイオやイリノイやさらにはニューヨーク州などにも強い影響力を
及ぼし始めている。
創造説支持者の戦略は、小さな町の教育委員会を狙って支持者を増やし、
進化論と同じだけ創造説も教えられるべきだというキャンペーンを行なうことである。
彼らのもう一つの戦略は、デザイン論を効果的に使うことである。
それによれば、科学者は宇宙はランダムで予測不可能だと言うが、
バナナでさえ人間のために作られているのは明らかである。
バナナは持ち運びに便利だし、皮をむくのも簡単にできるように作られているし、
おいしいし、賞味期限を切れると皮が黒くなって知らせてくれる。
関連ニュース
- Top school's creationists preach value of biblical story over evolution
- 英国でも、創造説を教えようという運動が高まっているという話。
運動の先頭に立っている某校長は、
「子供たちに、『君たちは猿に似た生物から進化した突然変異体である』とか、
『死はすべての終わりである』とか教えても、
彼らに目的意識や自尊心を生みだすことはできないでしょう」と述べている。
Satoshi KODAMA <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Fri Nov 1 19:49:38 JST 2002