原題は John Wyndham, The Kraken Wakes, (1953) で、ハヤカワ文庫の初版は1977年。翻訳は星新一で、非常に読みやすい訳。 さすが。 (ちなみに、クラーケンとは、ノルウェー沖に現れるという伝説的怪物のこと)
ある夜、大西洋上に火のように赤い光球が大挙して現われ、
つぎつぎに海面に落下すると、沸騰するような音をたてて海中に沈んでいった。
それからまもなくのこと、
世界各地で原因不明による船舶の遭難事故が相ついで起りはじめた。
しかも、異変はそればかりではなかった。
やがて北極、南極の氷が溶け、
水位がいちじるしく上昇しはじめたのだ。
このままの状態がつづけば、
世界が海底に沈むのはいまや時間の問題であった。
はたして一連の異変の真相は何?
人類滅亡の危機が迫りつつあった!
イギリスSF界の巨匠ウインダムが重厚な筆致で描く、
侵略テーマSFの古典的名作!
(裏表紙からの引用)
ぼくの好きな『トリフィド時代』の作者の作品。 今回も侵略テーマを扱っているが、 今回の異星人は深海に巣喰って、海から人間を攻撃する。 特に前半が非常に不気味なのは、 人間(少なくとも僕)が深海に対して本能的な恐怖を持っているからだろうか。 結局最後まで異星人の姿はわからず、 得体の知れないものに対する恐怖が残る。
今回の進行は非常に現実的で、 事件が起こり、パニックが生じ、それが収まるまでが克明に描かれている。 宇宙からの流星を、三流新聞は「宇宙人の襲来だ」と騒ぎたてるが、 人々は信用しない。ソ連は「西側の陰謀だ」との声明を出す。 実際に船舶が次々と沈み、 南の島にある村が次々と侵略されても、 「イギリスは大丈夫」とたかをくくって、 政府も人々も一部の科学者の言うことにまともに耳を貸さず、 一向に対策を立てない。 ようやく事の重大さに気づいたときにはすでに遅く、 海の水位が上がり、 ロンドンをはじめとして各地の街が沈みだし、 人々は正気を失なって暴徒と化す…。
少し短めで、一気に読める。良くできた小品という感じ。 パニック物、侵略物が好きな人にお勧め。結構不気味な恐さがあります。
ボッカー博士
「その、なぜという疑問。
これこそ、いつの世でも、侵入された者が発する叫びでした」(59頁)
フィリス
「……なぜ、みんながこうもひどい目にあわなければならないんでしょう。
こんなむくいを受けるような、悪いことはなにひとつやっていないのに。
もちろん、人間の全部が善良そのものとは言い切れないけど、
こんな刑罰を下されるような悪人ではないはずよ。
しかも、救われる希望も、対抗するチャンスも与えられないなんて、
あんまりだわ」(231頁)
09/06/98-09/07/98
B+