Note: Quite a few people seem to have reached this page after looking up the word `chrysalids' using a search engine. This page, written in Japanese, is about John Wyndham's novel named The Chrysalids, mainly about my thoughts on the book after reading it.
原題は John Wyndham, The Chrysalids, (1955) で、ハヤカワ文庫の初版は1978年。 翻訳は峯岸久で、初版本であるせいか、誤字脱字、誤訳が散見される。 ちなみにこの本は、米国では"Rebirth(再生)"という名で出版されたようだ。 また、chrysalisには、「準備期、過渡期」という意味もある。
大いなる〈試練〉の後、世界は荒廃し、
かろうじて生き残った人々は、
わずかな土地にしがみつき、
中世さながらに細々と暮していた。
彼らが忌みきらうものは変異--
ミュータントは見つけしだい殺すべき呪われた存在だった。
デイヴィッド少年と妹のペトラは自分たちがテレパスであることを
ひた隠しにしていた。
だが、ついに秘密を感づかれ、
デイヴィッドは仲間と一緒に村を脱出しなければならなくなった。
目的地は海原のかなたのジーランド、
そこから誰かが仲間を求めて、呼びかけてくるのだ!
英国SF界の第一人者が、苦難に満ちた少年たちの旅を、
叙情豊かに謳いあげる。
(裏表紙からの引用)
(こだまの紹介)
今回の舞台は、核戦争後、数世紀経った世界で、
主人公は中世的キリスト教社会に住んでいる。
ここでは、思想上の異端ではなく、身体上の異端が迫害されている。 すなわち、放射能汚染の影響が今だ残っているため、 動物、植物のいずれも、奇形と見なされたものはすべて焼却され、 奇形の人間、正常の証明を持たない人間は、辺境へ追放されてしまう。 神の似姿、「真」の姿を持っている人間だけが通常の生活を送れるのだ。
主人公のデイヴィッドはテレパス。 といっても、誰の心でも読めるわけではなく、 テレパスの能力を持ったものと通信ができるだけである。 彼はこの能力が回りの人々や「検査官」に見つからないように努力するが、 結局ばれてしまい、同じテレパスの妹と恋人と一緒に辺境に逃げ出す。
強力なテレパスの能力を持ったデイヴィッドの妹ペトラは、 どこか世界の遠いところに、 すべての人々がテレパスの能力を持った「進化した世界」の存在を知り、 そこの住人と通信することによって、 彼らに助けに来てもらえることになる。
しかし、辺境の住人に捕えられ、 逃げだした村から追いかけてきた住人たちにも追い詰められた彼らはどうなるのか…?
これも、 ぼくの好きな『トリフィド時代』の作者の作品。 今回の作品も全体的に非常によく出来ている。話の展開がすばらしい。
この世界では、思想ではなく、身体の違いによって異端が決められるわけだが、 「なぜ(核戦争前の)「昔の姿」が人間の「真の姿」であると言えるのか?」とか、 「われわれが「真の姿」と思っているものは、本当に「昔の姿」と同じものなのか?」 とか、興味深い問いがなされる。 作中に現れるほとんどの人は保守的で、 「昔のものを守れ」という道徳律を無批判に受け入れているのだ。 (まあ、奇形がどんどん生まれてくる世界ではそう思うのも無理はないが) それに対して、ウインダムは、「生物の本質は変化である。 われわれは変化(進化)を止めることはできない」というテーゼをぶつけていく。 ここに自然法思想と功利主義の相克を見るのは深読みしすぎか。
「叙情豊か」かどうかわからないが、 とにかく読んでいて美しい風景が目に浮かぶような作品である。 『七瀬再び』や『スラン』などテレパス物が好きな人は、 きっと大いに楽しめると思うが、 特にSFが好きでない人も楽しめると思う。というわけで、万人にお勧め。
アクセル叔父さん
「わしのいってるのはな」「--あることがこれこれだと沢山の人間がいっていても、
それがその通りだという証拠にはならないってことだ。
真の姿がどれかということ本当に知っている者は、
誰も、全く誰一人もいないということをいってるんだ。
皆が皆、自分は知っていると思っている--ちょうどわしたちが、
自分は知っていると思っているようにな。
だが、わしたちにわかっている範囲でいえば、
〈昔の人間〉たちだって真の姿ではなかったかも知れないのさ」(97-98頁)
アクセル叔父さん
「わしの教えたことを思い出してごらん。
皆は自分たちが本当の姿だと思っている--だが連中にははっきりとわからないんだ。
そして、かりに〈昔の人間〉たちが、わしや皆と同じ種類の人間だったとしても、
それが一体どうだというんだ?
むろん、〈昔の人間〉たちがどんなにすばらしかったかとか、
その世界がどんなにすばらしかったかとか、
またいつかわれわれが連中の持っていたものをすべてまた取り戻すだろうとか
いうようなことを、
人がいろいろ話しているのは知っている。
皆が〈昔の人間〉について喋っていることの中には、
たあいもないことが一杯混じっているが、
しかしかりに本当のことが同じく一杯あったにしても、
連中の辿った道をそんなに一生懸命追いかけようとして、
一体何になるというんだろう?
連中やそのすばらしい世界はいま一体どこにあるというんだ?」
(119-120頁)
デイヴィッド
「何故だかはっきりしないがね」
「だが、とにかくこわがるんだよ。
これは"考えること"じゃなくて"感ずること"なんだね。
そして連中が馬鹿であればあるだけ、
人は誰でも他の人間とよく似ているはずだと思いこむのさ。
そして、いったんこわがるようになると、連中は残酷になり、
違った人間をいじめようとするようになる--」
(226頁)
ロザリンド
「あたし、彼がこわいわ。
彼は違う種類の人間だわ。
あたしたちとは違うわ。
まるで違った種類の生き物だわ。
乱暴に違いないわ--まるで獣みたいに……。
あたし、とても……もし彼があたしを手ごめにしようとしたら、
あたし、自殺するわ……」(272頁)
09/11/98-09/12/98
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