アダム・スミス問題

(あだむすみすもんだい das Adam Smith-Problem)


『道徳感情論』においては共感を社会行動の基礎においたはずの アダム・スミスが、 『国富論』においてはたとえば 「われわれの食事は肉屋や酒屋やパン屋の善意からもたらされるのではなく、彼らの自己利益に対する関心からもたらされる」 と述べ、 あたかも利他的な理論から利己的な理論に180度転回してしまったように思われるが、 これをどう説明すべきなのか、という問題。 19世紀中頃に主にドイツの経済学者によって指摘された。

当時の有力な解釈はUmschwungstheorieと呼ばれ、 要するに1766年にスミスがフランスに行ったときに フランスの「唯物論的(ここでは、利己主義的な人間本性観を持った、という意味)」 思想家たちに影響を受けて彼は「転向」したのだ、とする。

しかし、ラファエルらは 「いわゆる『アダム・スミス問題』 は無知と誤解に基づいた擬似問題である」と痛烈に批判している。 その根拠は、 (1)『道徳感情論』は1759年の第1版から1790年の第6版まで、 いくつかの重要な変更はあるものの、 人間本性観については基本的に一貫している (『国富論』は1776年出版)、 (2)共感は道徳判断において基礎的な役割を果たすのであり、 人間行動の動機の問題はまったく別の話である、などである。

さらに詳しくは、以下に挙げた参考文献を参照せよ。


参考文献


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Thu Feb 3 17:45:55 JST 2000