(たれす Thales)
かつて、星を観察するために老女に連れられて戸外に出ようとしたとき、 彼[タレス]は溝に落ち、助けを呼んだ。するとその老女はこう答えた。 「タレスさま、足元に何があるかも気付かないのに、 どうしてあなたが天上のことをすべて知っているなどということが ありえるのでしょうか?」
---Anthony Gottlieb
「あなたさまは熱心に天のことを知ろうとなさいますが、 ご自分の面前のことや足元のことにはお気づきにならないのですね」
---タレスについて(『テアイステトス』から)
西洋哲学の始祖と言われる人。 小アジアのミレトスで前6世紀ごろに活躍した自然哲学者の一人。 世界の出来事の原因を神々の仕業とするような神話的な説明を退け、 観察にもとづいた説明を行なおうとした。
当時の自然哲学者たちは、 アルケーは何か、 すなわち万物は何によってできているか、 もしくは万物はもともと何から生じたのかという問いに答えようとしたが、 タレスによれば、万物はすべて水からできており、 最終的に水へと帰っていく。 また、地球は島が海に浮んでいるように、 大きな水の上に浮んでいる。
このような説明は今から考えれば冗談のような話に思えるが、 常識にとらわれず観察に基づいて答えを出そうとしたその大胆な試みは 高く評価されてしかるべきである。
同時期にミレトスで活躍したアナクシマンドロスの 師匠と言われるが、 実際には関係ないようである。
[16/Jan/2002追記] タレスのようなギリシアの自然哲学者が斬新だったのは、 彼らが自然を支配する法則を見つけだそうとしたことである。 すなわち彼らは、 雷がなったらゼウスの仕業、地震が起きたらポセイドンが怒ったから、 というようなそのつどそのつど神を持ち出してきて場当たり的な説明をする のではなく、 じっくりと観察を行なうことによって一定の法則を見つけだそうとした。 この説明が優れているのは、 神のような経験によって確かめようのないものに訴える必要がないだけでなく、 未来に起こることの予想を行なうことができるという点である。 ゼウスやポセイドンがいつ怒るのかは予想がつかないが、 一定の自然法則を見つけだすことができるならば(たとえば月食の周期など)、 ある程度正確な予想を行なうことが可能になる。
13/Jan/2002; 16/Jan/2002追記
上の引用は以下の著作から。