貧困

(ひんこん poverty)

もはや法の力によって奴隷化されたり、従属の地位に置かれたりすることはないが、 現在でも貧困のせいで大多数の者がそのような状態にある。 彼らは、ある場所、ある仕事、そして雇主の意思に同調するよういまだ縛られている。 努力も功績もないのに諸々の楽しみや精神的・道徳的利益を得る者がいる一方、 大多数の者は、生まれの偶然によって、それらの享受を妨げられている。 この状態は人類がこれまで闘ってきた多くの害悪に匹敵するものだ、 と貧しい者が信じるのは誤りではない。

---J.S.ミル

もしあなたがリベラリストならば、 貧者をみて次のようにいわれるであろう。 彼または彼女が貧しくなったのは、 生まれた環境が悪かった、 十分な教育を受けられなかった、 健康を害した、 人種差別を受けた、 性差別を受けたなど、 なんらかの理由があってのことである。 しかも、いま裕福な人でも、 もう一度生まれ変わるとすれば、不幸な境遇におちいる可能性は けっしてゼロではありえまい。その意味で、 失業保険、医療保険、その他の社会保障政策など、 めぐまれない人びとを救う社会的装置は、 民主主義社会においては必要にして不可欠であると同時に、 そうした装置をしつらえることについて、社会的な合意を形成しやすい、と。

---佐和隆光


ごく一部を除き、世界中に蔓延している病気。 軽度の貧困は働くインセンティブになると言われるが、 重度になると、飢え、栄養不足、病気などを併発し、 人間らしい生活ができなくなる。

国際的な基準として用いられている貧困ラインは、 所得が一日1ドル以下(購買力平価=為替相場よりも実質的な物価を反映した換算基準) であり、UNDP(国連開発計画)の2004年の報告によれば、 現在世界の11億の人口がこのライン以下にある。 また、このライン以下であると、 絶対的貧困(最低限の生活水準にすら到達できない状態) にあるとみなされる。

一般に保守派の貧者像は、 「アリとキリギリス」のキリギリスのように怠惰で遊んでばかりいるから 貧しくなった虫ケラどもで、 勤労者の血税によって成立している福祉国家に寄生虫のようにたかっている、 というものである。 それに対して、 リベラルの貧者像は、 身体的、社会的にハンディキャップを背負っているがゆえに貧しくなった 気の毒な人々であり、国家はこのような不公平を匡すために十分な補償を してやる必要がある。

貧困が自由主義にもたらす含意については、 自由主義自律自由などの項目を見よ。

23/Aug/2004


参考文献


上の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Fri Sep 3 15:13:59 JST 2004