(りえきそうはん conflict of interest)
医療従事者は患者の最善の利益を考慮して行為する義務があり、 同様に医学研究者は被験者の権利と利益および社会の福祉を 考慮して研究する義務があると言える。 しかし、保険者(保険会社)、病院、研究機関、製薬会社などに対して持つ 利害関係によって、その義務が十分に果たされないことがある。 この義務と利益が対立状態にあることを指して、利益相反と呼ぶ。 ごく単純化して言えば、医療の文脈においては、 患者の利益と医療従事者の利益の対立、 研究の文脈においては、 被験者の利益と研究者の利益の対立のことである。
(英語ではconflicts of interestのようにconflictを複数形にしたり、 financial conflict(s) of interest「金銭的な利益相反」と呼んだりもする。 またhave a/no conflicting interest 「相反する利益、業務に支障をきたすような利害関係がある/ない」 という表現もある)
Encyclopedia of Bioethics(第三版)によると、 利益相反とは、 「特定の個人や集団に対する自分の義務と、自分の自己利益とが相反する事態 (In a conflict of interest, one's obligations to a particular person or group conflict with one's self-interest)」のことを指す。 たとえば、医師が患者に必要な治療を施す義務と、 必要以上の治療を施すことによって得られる医師の金銭的利益との対立関係が そうである。
これは、特定の個人や集団に対する義務と、 それとは別の個人や集団に対する義務とのあいだで起こる、 義務同士の衝突とは区別される。 たとえば、AIDS患者に対する医師の守秘義務と、 必要な場合はそのパートナーを守るために患者の意向に反して情報を 開示する医師の義務との衝突がそれである。
ただし、たとえば看護師の場合において、 医師に命じられたか病院の規則に従った治療と、 自分が適切だと考える治療が一致しないとき、 医師あるいは病院に対する義務と患者に対する義務が衝突すると言えるが、 前者の義務に反して行動した場合に自分にふりかかる不利益を考慮するならば、 これは利益相反の一例と考えることができる。
(その意味では、この「義務と利益か、義務と義務か」 という区別はあまりうまく行っていないとも言える。 というのは、他にもたとえば、 医学研究者がなんらかの仕方で製薬会社から利益供与を受けている場合、 医学研究者は「恩を返す義務」があるとも言えるからである)
医療あるいは医学研究が高額化し大きなビジネスになるにつれ、 また彼らがますます大きな権力を行使できるようになるにつれ、 以前のように「医は仁術」と唱えるだけでは不十分であり、 「医は算術」でもあるという事実に直面せざるをなくなっている。 そこで、医療従事者あるいは医学研究者が自分の義務をおろそかにして 不当な利益を得ることを抑制するためにさまざまな制度的改革を 行なう必要が生じていると言える。
個人的には「利害の衝突」あるいは「利害の葛藤」という言葉を用いていたのだが、 最近は「利益相反」という言葉が定着しつつあるようだ。なお、 ステッドマン医学大辞典(第5版)では、「興味の葛藤」という訳がついている。
09/Apr/2004